第八話 二人の王子
帰ってきたお父様からお手紙を渡されました。
「リリー、これを。第二王子殿下から預かった。外国語の勉強に付き合ってほしいと。」
「外国語でお手紙を書く時の礼儀のお勉強ですか?」
「そうだよ。嫌ならお断りするよ」
「いえ、将来外交官になるためですもの」
「そうか。第二王子殿下は内密にするから、リリーが令嬢達に目をつけられないように配慮してくださると」
さすが第二王子殿下。
私と噂がたつのは避けたいですものね。
オリビアに誤解されるわけにはいきませんから。やっぱり優秀な方ですわ。
第二王子殿下からのお手紙はオリビアと出かけたいから協力しろという用件ですか…。
観劇のチケットが入ってますが、三枚?
私とオリビアとあと一枚は?途中で二人っきりにさせろってことですよね。
了承もなく送りつけるのは強引すぎませんか。
私、観劇なんて興味ないんですが・・。
「リリア」
ニコラスの声に顔をあげます。
「なんですか?」
「何を物思いにふけってるんだ?」
「私も色々ありますの」
「それは?」
観劇のチケットを睨んでいたんでした・・。
「観劇のチケットをいただきまして。オリビアを誘いたいんですが、あと一枚は」
「俺が行く」
「はい?」
「それ、終わるの遅いだろ?」
「時間は見てませんでした。オリビアはニコラスには渡しませんよ」
「違うから。いいや。一枚くれる?」
「どうぞ」
ニコラスにチケットを一枚渡しました。
確かにニコラスがいればオリビアは安全です。
来週か…。
オリビアを誘ったら了承のお手紙を貰いました。
オリビアもこの観劇に興味があったみたいです。さすが第二王子殿下です。
準備も整えましたしまだ来週のことなので、もう考えるのはやめましょう。
今日は授業はもうありません。
ローブを被り市に行きます。お父様に頼めば幾らでも材料は手に入りますが、自分で見つけて交渉して購入するのも大事なお勉強です。
いつもの時間より、少し遅いですがまだいるんでしょうか。
オリビアを悪くいう方とは関わりたくないんですが・・。
木陰で本を読んでます。このままずっと待たれても困ります。
「こんにちは」
「レア!!来てくれて良かったよ」
「来なかったらどうしたんですか?」
「ずっと待ってた。時間が許すかぎり」
「お暇なんですね」
「まぁな。行こうか」
差し出される手に首を横に振ります。
「もう慣れたから必要ないかと。さすがにもう人にぶつかりませんよね?」
「はぐれるかもしれない」
「それはそれで、神のお導きです」
王太子殿下に強引に手を取られ歩きだします。
どこか行きたい場所があるんでしょうか・・。
「レア、私には苦手な人がいるんだ。いつも私には傲慢で高飛車で見下して」
それは被害妄想ではありませんか。さすがに王族相手にそんな態度はとれませんよ。
「だが、周りの彼女の評価は高い」
彼女?
もしかしてオリビアのことではありませんよね…?
「言いたいことがわかりません」
「悪い。そんな性悪なのに礼儀に厳しい彼女がマナー違反をしたんだよ。具合の悪い相手に自己管理不足と冷たく言うような性格なのに」
王太子殿下、その話は当事者じゃないとわかりませんよ。
説明するの苦手なんですか?
性悪ですって?
これもしかしてオリビアに、冷たくされて拗ねてるんですか?。好きな子のことを悪く言ってしまうお年頃でしょうか。
「その苦手な方がお好きなんですね」
「違う。ありえない。」
うっかり本音を言ってしまいました。自覚させてはいけません。
でも、オリビアの名誉のために
「きっと、その方は貴方を気遣ったんでしょう」
「は?」
「指摘するのは、成長を期待しているからですよ。きっと理由があったんですよ」
「彼女が?」
「わかりません。ただ、貴方のためになるなら嫌われても構わないと苦言を言ったのかもしれません。」
「嘘だろ?なんでそんな考えができるんだ。」
「なんとなくです。ただ私はその方を好ましく思います」
「レアの側にいると世界が優しい気がするな」
おめでたいのはあなたの頭だけです。
世界は優しくありません。今日も王太子殿下と街を見て回りましたが、収穫はありません。
この人は何をしたくて、ここに来てるんでしょう。
オリビアを悪く言うし、愛しい少女を探す様子もありません。それなら、もう会わなくてもいいかな。
「また会えるか?」
「すみません。忙しくなるので、もう来れません。」
「そうか」
「では失礼します」
「いずれ、また会えると信じている」
王太子殿下の声は聞こえてますが、振り返らずに進みます。もう用はありません。照れ隠しでもオリビアを悪くいうなら同情は不要です。
それにオリビアを好いていると気づかないなら婚約者に選ぶことはないでしょう。
そう思った私が甘かったことはその時は気づきませんでした。
外交官のお勉強は大変です。
隣で涼し気な顔で授業を受けるニコラスの優秀さに悲しくなります。
「リリア、そこ、違ってる」
本当ですわ。書き直しましょう。
武門の出身なのに頭がいいとはずるいです。お父様もニコラスの優秀さに驚いていました。
距離をおくって決めたのに中々うまくいきません。
慌ただしい日々を過ごしていたら気づくと観劇の日がきました。
「リリア!!誘ってくれてありがとう。貴方が観劇に興味があるとは思わなかったわ」
「チケットをいただきまして。オリビアが好きそうだと」
「嬉しい。楽しみね」
オリビアのテンションが高いです。
どうしよう。私、起きてられるかな。
席に座っていると、第二王子殿下の視線を感じて自分の失態に気づきました。
オリビア、私、ニコラス、その隣に第二王子殿下ですか…。
第二王子殿下の席なんて知りませんよ。
「私、席を間違えました。すみません」
私の芝居に気づいたら第二王子殿下が笑顔をつくりました。
「構わないよ。間違いはあることだから」
「失礼しました。」
第二王子殿下と席を交換しました。
オリビアが不思議そうな顔で見てます。
「オリビア、奇遇だな。君も来てたんだ」
「リリアに誘われまして、私、リリアのお隣が…」
「オリビア嬢すみません。リリアの隣は俺専用なんで。譲ってください。なぁ?」
意味がわかりませんが第二王子殿下とニコラスの視線に頷きます。不満そうな顔のオリビアに睨まれます。
「リリア、聞いてないわ。後でゆっくり聞かせてね」
「オリビア嬢、俺のリリアは恥ずかしがりやなんでご勘弁を」
訳のわからないことをいうニコラスを睨みます。
「ただ話してただけだって。妬くなよ」
「オリビア、二人の邪魔はしては無粋だよ。私もこの観劇を楽しみにしていたんだ」
第二王子殿下の話にオリビアが夢中になりました。
オリビアは観劇や小説が好きなので、その話になると止まりません。
私が目を覚ますと隣のニコラスしかいませんでした。
「起きた?」
「すみません。オリビアは?」
「俺達の邪魔はしたくないって、第二王子殿下と帰られたよ」
「気づいてたんですか?」
「話の流れでな。帰るよ。ほら」
ニコラスの手を取り立ち上がります。
なぜか同じ馬車で家に送られてます。
「リリア、仕組んだだろ?」
「なんのこと」
「チケットは誰からもらった?」
「詳しい事情は話せません。」
「危険なことをしてないならいいけど」
外を見て、ニコラスのことは無視しました。
感がいいニコラスに知られるわけにはいけません。私には静かにして早く家に着くことを祈るしかありません。




