若さゆえの過ちというものを 後編
6話です。
あくまでも貴族様のお屋敷のすぐそばにある森だからか鬱蒼とはしていない森を疾走する。整えられてるとはいっても別に道があったりするわけではない為走る速度は大したものではない。ありがたいのは足場が不安定であるということにより走りに悪影響を受けているのはミリアであるという点だろうか。
あくまでも都会育ちであるミリアと体としては同じような条件であるものの、前世に培った知識とこの森に対する浅い知識がわずかにだが私の走りを後押ししている。
何度戻れといっても今のミリアには届いていないようだった。ふざけんな!どんだけテンション上がってるんだ。私もこれ以上は声を出すことをせずに一瞬でも早くミリアを捕まえることだけに集中する。
爆発しそうなほど鼓動を速めている心臓のことを無理やりに動かして全力で追いかけ続けた。曲がりくねった道にちょっとした裂け目やら色々飛び越えまくって先に進んでいく。
ってかこの動き、あいつもう気が付いてるでしょ!?もしかして鬼ごっこ的なものだと勘違いしてやがるんですか?イライラする!
突然、ミリアの姿が消える。その直後、きゃーーーーーー!!という悲鳴があたり一面に広がる。まず間違いなくミリアのものだろう。単なる虫とかであってくれればまだいいんだけど。
ミリアがいなくなった所の先には藪のようなものに強引に入っていったような隙間があいておりここから入っていったということが容易に想像できる。ここから先に進めば何かがいる。でも、進むしかない。イライラと不安に包まれながら藪の先へと進む。
そこに見えたのは、腰を抜かして倒れこんでいるミリアと私の前世には見たことがないようなおぞましいサイズの蜂の巣をその手に掴みミリアの方を向いている禍々しい色合いをした同じく巨大な熊であった。
その冒涜的な姿を見てしまった私は、とつい現実逃避しそうになるほどに絶望的な状況。よく見るとあたりにはこれまた明らかに巨大すぎる蜂たちが何らかの鋭利なもの、まず間違いなく熊の爪だろうがそれにひきさかれたような無残な状態で無数に転がっていた。
あの熊がこっちを見ていないからこそまだ考える余裕があるけれど熊がこっちに気が付いた瞬間今のミリアみたいになる自信がある。
どう、する?なにかこの状況を打開できるものはないの?熊は少しずつだけどこっちのほうに興味を向けて来てるのがなんとなく伝わってくる。
「ミリア!はやく逃げて!」
熊を刺激しないように小声で叫ぶけど、ミリアは足に力が入らなくなってしまっているのか動けない。
私がミリアに駆け寄る。熊がゆっくりとミリアの方に近づいてくる。
嗜虐的な笑みを浮かべてのそのそと。食事のためではなく娯楽のために動いてくる。出来るだけ恐怖を与えるように。逃げられない。蛇に睨まれた蛙のように。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
・・・・・・唐突に、右手に感触があった。ふと、視線を移すと私の手はいつの間にか母上にもらったロケットペンダントを握っていた。ロケットペンダント。中。石。石?
熊があと一歩のところまで近づいてきたとき私は、無意識にペンダントを開けて、魔力の石を、いくつもかみ砕いた。
途端、私の意識は不思議な万能感に飲み込まれた。
熊が腕を振りおろしてくる。その勢いに吹き飛ばされて私の体は冗談みたいに吹き飛んで木にぶち当たる。
「フレイア!!」
でも、私の体に痛みはなかった。ボールみたいに木に当てられたのに全く。すっと立ち上がって熊のところへと翔ける。風になったんじゃないかと思う程のスピードで熊へ接近する。
森がざわめく。突風が私を中心に巻き起こる。はち切れそうな程体の奥底から力が湧いてくる。
熊が戦闘態勢をとる。私を脅威であると判断したらしい。
だからなんだよ。
勢いに任せて殴り込むとそのこぶしを熊に合わせられる。お互いに吹き飛んでまた瞬時に接近する。
熊が先ほどと同じように右腕を振り下ろしてくるのを半身になってよけ左腕の肘を顔面に叩き込む。しかし熊は首を横に傾けてそれを躱して無防備になった左腕にかみついてくる。その鋭利な牙が腕に触れようとした瞬間口の中に私の腕を包み込むように氷が出現し噛みつきから身を守る。力任せに腕を振って熊を振り払うと体勢を崩したところにすかさず蹴る。熊は腕をクロスさせてガードするけど腕ごと蹴飛ばして距離を離す。
一拍。
熊は前足を地面につき加速の構え。私も全力で足に力を込める。
刹那、3度目の接近。
私の細い首を、頭をつぶすために獣としての最大の武器でかみ砕きに来る。それを体を屈めて躱すと熊の体の下からその無防備な腹に先ほどよりも強く、全身全霊の力を込めて打ち抜く!
こぶしに風が纏わりつきその肉を容赦なく抉る。風に吹き飛ばされそうになる熊の体を氷が四肢をまたその周囲を凍り付かせ逃がさない。風が全身をバラバラに切り裂く。熊の最後の咆哮を他人に届かせることすら許さない。
どれだけの時間がたっただろうか。風が勢いを無くして氷の束縛が解けたころには既に熊の命は潰えていた。
痛む頭を抑えて震える腕を押さえつけて力の入らない足にで一歩を踏み出した途端、
「あ、あれ?」
私の意識は途切れた。
・・・・・・
その後上空へと巻き上がる風を屋敷から観測した父上達の調査隊によって私達は無事保護された、らしい。
「痛っ!体起こすだけで全身に痛みが走るって私は老人か!」
意識を取り戻した後私が感じたのは激痛。そう、筋肉痛であった!
起きてから色んな人に怒られまくって大変なことになりました。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
なんかミリアはベッドの横でごめんなさいBotみたいになってるし。体起こすことも出来ずにひたすら懺悔の言葉を聞くとかノイローゼになるぞ私は。教会に就職する気はないんだけどなぁ。
・・・あの時感じた全能感は、危険だ。もちろん、今までの人生の中で感じたことのない本物の殺意にパニックになってたことは否定できないけど間違いなく正気を失っていた。
冷静になって考えれば熊に吹き飛ばされたことも危険だしその後に魔法が使えると気が付いてからは熊が本気になる前に遠距離ではめ殺せば良かった。途中までパンチだって気合いを入れてやってなかったし。
そもそも私殴り合いなんて小学生の時の喧嘩以来だからね。格闘技とか一切やってなかったし。本当にファンタジーな身のこなしが出来たからどうにかなったんだろうけど、あれは夢見すぎな動きだった。
結論だけど、多分私は小説とかの覚醒シーンみたいなものを頭に思い浮かべてたんだと思う。絶望からの逆転って感じで。
これまたテンプレートな話だよね。ついこの前テンプレのせいで痛い目あったってのに懲りずにこんなことまでやってしまった。
あっ。これもしかしなくても物凄い体に負荷かかってるよね。更に悪化するんじゃ・・・。
萎れるように私はもう一度眠りについた。
R.I.P.熊。君はプロットよりも大分強くなったよ。
次はちょっと遅れます。
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では、またお会いしましょう。骨董品でした。