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そりゃ本当は一人称が”俺”だった旧友が
久しぶりに再会したら”私”なんて言うようになっていたらからかいたくもなるよね~
まぁまぁ、冗談はさておいて。
事情を詳しく知らないおれが置いてけぼりなのはいつもの事だしこの際良いよ。
寂しいけど良いですよ。
けっ。
「おれが見た魔族の話をしているのだとしたら
父さんの言う通りここには既に居ないものと考えられます。
気配が微塵も感じられませんから」
アハマドの屋敷にイシャンのへそくりを回収しに転移した時は
転移の直後から身体が妙な重圧を感じていた。
それはてっきりメネスが魔族に支配されているからなのだと思っていたのだが
今再びこの地を訪れて拍子抜けをしたのだ。
あの時のように身体が重くない。
確かに多少の息苦しさは感じるし、微妙に動きにくいとは思うが
呼吸をしたくないと感じたり押しつぶされるような感覚があったりしない。
今、葵帷さんが魔の属性を持つものの全ての出入りを禁止している。
もし対処できないような奴が居たら知らせてくれる手はずになっている。
どうしても自分よりも何倍も強い力を持つものを止める事は出来ないからだ。
その知らせは入っていない。
申し訳ないが葵帷さんよりもあの魔王(?)の方が強い。
何十倍も、とは言わないが感覚として捉えた強さは大晶霊何人分か。
あれで目覚めたばかりで最も弱体化している状態だ
という事なら完全復活してしまったら
大晶霊全員でかかっても倒せるかどうか微妙な所だ。
後の事は考えずに今のうちに全力で倒しておいた方が良い。
そう思っていた。
しかし、父さん、と言うかカガミ達の捜査結果によると奴はいなかった。
拍子抜けも良い所だ。
おれの覚悟を返せ。
既に撤退している、となるとどこに…?
ここを魔族の拠点をするつもりなら親玉はここに居た方が勝手が良いだろうに。
……ゴンドワナの支配はほぼ終わっているから
という事で次に向かった、とか?
二人も同じ結論に至っているのか、険しい顔をしている。
いや、ジューダスは外套で顔は見えないけど。
そういう雰囲気だ。
「そうは言ってもここをそのまま放置するわけにはいかないしな~
フートはいそうなの?」
「イヤ、居ないだろう。
しかし奴に連なる者の気配はする。
情報が得られるなら得たい所だな」
完全復活しているフートの強さが分からないので何とも言えないが
似たような、近い気配は確かに感じられる。
コレがフートに連なる者、という事か。
多分、コイツがメネスにいる魔族の中で一番強い。
そうなると、イシャン達に呪いをかけたのもコイツという事なのかな。
「あ、そうだ。
父さん。
イシャンとラシャナは魔族に呪いをかけられています。
解くことは可能でしょうか?」
「ん~?
僕はそういうの専門外よ」
言いながらも二人の元へ行き呪いの文様をふむふむ言いながら見る。
母さんが専門なんだし多少はその知識の一端でも持っていないだろうか。
戻ってきた父さんは頭を掻きながら難しそうな顔をしている。
「どうでした?」
「ありゃ、ダメだな」
きっぱりと言われた。
え、駄目って、何が?
不安そうに父さんを見上げると非常に困った顔をしている。
魔族を倒しても、呪いを打ち消すほどの霊力を注いでも
どうやっても、解呪出来ないのだろうか。
「あ~
アレは魔族に一方的に押し付けられたものじゃなく
交換条件を提示され了承した場合の呪紋だ。
いくら外部から働きかけようと
契約者同士が破棄をしない限りは解けない」
例え原因の魔族を倒しても、な。
そう付け加えられた。
魔族からかけられる呪いにもいくつか種類があるのか。
交換条件、と言うのはアハマドとアハマドによって解放された魔族の間で交わされたものだな。
そうなるとアハマドか魔族に契約破棄をして貰うしかないのか。
それをする前に倒してしまうとイシャン達は死んでしまう。
呪いの進行を遅らせる事は可能だそうだが期日が近い呪いはより強い力を持っている。
今手持ちの道具ではとてもじゃないが遅らせられても微々たる時間。
焼け石に水状態だ。
どいつが契約をした魔族なのか把握できていない現状で
メネスに巣食っている魔族全員倒して回るのは得策ではないか。
どうするべきか…
「ジューダスはそれ知らなかったの?」
こいつも二人に魔族の呪いがかけられていることを知っているはずなのに
そんな言葉一度も聞いていないぞ。
「知っている。
が、必要ないので言わなかった」
なんだよ、それ。
「こいつが必要ないって言う時は君は関わるなって意味だよ。
自分に出来る事だけ考えなさい。
……強さは?」
「ランクとしてはAが一Bが二、Cが六と言う所だな。
あとは一体は不明。
他はE未満の雑魚だ」
「あぁ、ならレイシスの経験を積むのに最適だな」
えーだのびぃだのよく解らんけれども
二人が歯牙にもかけない程の雑魚ばかりだという事はよく解った。
んでもっておれの鍛練に丁度良い強さだという事もよ~く解った。
弱くなく油断すると危ないが強過ぎることもなく、と言う程度なんだね。
メネスにいる魔族の数は父さん側が調べたのにその強さの把握はジューダスがするんだな。
まぁ、自分よりも弱い相手の実力は把握しやすいけど
相手の方が強いと測る事は出来ないもんな。
カガミ達が調査した、となると敵の戦力把握なんてとてもじゃないが出来ない。
だって奴はおれにも負ける程度の実力だし。
「不明って言うのは居るかどうか分からないって事?
それともジューダスでも把握できないような強さって事?」
「推し測れない、と言うのが正しいな」
ほほぅ。
こいつでも把握できないってなるとかなり強いんじゃないか?ソイツ。
って言っても、メネス全体が瘴気でおおわれているせいで嫌な雰囲気があちこちから感じる。
気配が読みにくいのは事実だ。
おれには微塵も解らないし。
父さんとジューダスが目の前に居ても周囲の気配と溶け込んでしまって
存在を目視でしか捉える事が出来ないのはいつもの事として。
イシャンとラシャナの気配もこれだけ近くに居るのに薄いし
ゴンドワナ最大都市と言われているメネスなら人口も多いだろうにあまり人の気配が感じられない。
不意打ちを喰らいそうで怖いな。
それにしても、その大都市を恐怖に陥れている魔族達を
おれの特訓相手にしようとする父さんってやはり感覚がずれている。
そいつらが単体で出てくる親切なヤツらなら確かにうってつけなのだろうが
魔物も沢山いるって事だし下手したら死んでしまうんじゃないか?
と思うんだけれど…
「ま、うだついてる時間がもったいないしパッパと行くか」
おもむろに立ち上がった父さんが意気揚揚と準備運動をし出す。
無計画で突っ込んでしまったらせっかく命がけて諜報活動をしてくれた
カガミ達に申し訳ない結果になりそうだ。
慌てて静止をかけようとしたら再びスパンッと小気味の良い音が響く。
いつのまにか消えて居た張扇がジューダスの手の中に戻っていた。
ほんと、どこから出しているんだろう。
「先走るな、この脳筋」
張扇を肩でとんとんともてあましながらはり倒した父さんを見下ろし
深いため息を吐くジューダス。
突っ込みを入れるのを手馴れているあたり
一緒に旅をしていた時もこんな調子だったんだろうな。
「なんだよ~
我が子に活躍の場を見せたいって親心、お前にも解るだろ~」
「……解らん!」
言って再び父さんの頭を張扇で叩く。
緊張すべき状況だろうにじゃれ合っているようにしか見えない。
しかし……えへへ。
継子にも関わらず”我が子”だと思って貰えているのだという事実が単純に嬉しい。
それにしても人でなし、と罵りたくなるような言動が見受けられるジューダスに
そんなたいそうなもんが分かる訳がないよね。
結婚もしていなさそうだし子供も当然居ないだろ。
そんな殊勝な考え想像すら出来る訳ない。
……ん?
そう言えばこいつって男?女??どっちも???どっちでもない?????
今更だけど。
作戦会議、と言う程のものではないが
雑魚以外のおれ基準でいう脅威となり得る敵は十。
その内今のおれでは相手に出来ないだろうと判断された三体と
強さが不明の一体は父さんとジューダスが担当する。
経験を積むためにもおれは残りの六体と雑魚を相手にするそうだ。
一人で。
おれの負担が滅茶苦茶多いことに異議を申し立てたい。
しかしおれの身に危険が迫った時のさぽーと?はしてくれるそうなので
死ぬことはないから安心しろと言われた。
霊力の配分や多数の敵を相手にする場合の気の配り方
突入前に得ている情報からどのように動くか
想定外の出来事が起きた場合その場でどのような気転が効くのか
屋内と言う限られた術しか使えない状況でどう戦うのか。
英雄二人の補助がついた状態で実戦訓練できるのだ
と思えばとても有難い状況なのだろう。
しかし、やはり相手にする量が多すぎないか??
きっついわぁ…
倉庫に出るような鼠型の魔獣を駆除するのとは訳が違う。
あれも量は阿呆みたいに多かったが今回相手にする魔物や魔族と違い弱かった。
多少攻撃を受けても致命傷には至らないからと
倉庫内の荷物に気を遣いながらではあるが数を減らすことを考えれば良いだけだった。
傷を負った所で精霊術の制御や実験に失敗した時の方が負傷の度合いは酷い。
噛まれてもおかまいなしに切っては投げ切っては掃いとただひたすらすれば良かった。
鼠型魔獣はすばしっこく的が小さい上に集団で行動するから翻弄されやすいが
かなり手加減した術でも十分殺傷できるからな。
加減を間違えても荷物や建物を壊しても被害が少なければ文句も言われなかったし
楽なもんだったよ。
だが、今回は手加減をしたらこちらの致命傷になり得る攻撃をしてくる魔族が居る。
二人は雑魚だと簡単に言うが
魔物だって種類によってはおれでは雑魚と思えないヤツだっている。
それを全部一人で相手にしなければならないのか…
本気できつい。
行動に移す前から気が滅入る。
これが外ならば火の精霊術で雑魚を燃やして一掃したり
土の精霊術で泥沼に沈めて駆逐したり
いくらでもやりようがあるのだけれど屋内だし
破壊したら弁済額が見た事ない数字になりそうな王宮だし。
瘴気が充満しているために精霊術の効果が半減する。
だからと言って強くし過ぎては制御が出来なくなって意図せぬ所に被害が出る。
もともと火の精霊が多く棲む上に暑い土地だから水と氷の精霊は呼びにくい。
屋内だと地面が露出していないため土の精霊術が扱いにくい。
手数が減り使い慣れている術が思うように使えないのが辛いところだ。
強い敵を担当してくれるのは非常にありがたいが少しは手伝って貰いたい。
「葵帷さんと契約を結んだばかりで自分の霊力の変化もつかめていない現状
おれ一人ではこの量を相手にするのは厳しいです。
二人にも手伝っていただけると助かります。
あと、敵のいる空間から酸素を奪うような戦略は有効か聞きたいです」
考えがまとまった所で挙手をし意見を求める。
しかし、父さんが呆れたように顔を歪める。
やる前から無理だと決めつけるのは良くなかっただろうか。
「助力要請は問題ない。
自分の力量を把握せず周りに迷惑をかけるのが一番の愚策だ。
何でも一人で解決しようとしていたレイシスが
そうやってお願いが出来るようになったことは嬉しく思うよ。
ただ……その作戦はえげつないな」
効率的だし効果的だと思ったんだけど。
敵の位置をある程度でも把握できるようになったのだし
その空間を切り取って無酸素状態にするのは比較的簡単だ。
「残念だが、魔物の一部にしか効かないな。
魔族は半精神体だから微塵も効かない。
別の手を考えろ」
呼吸を必要としない魔物の方が多い、という事なのかな。
魔獣はもとが野獣だから効果抜群なんだけどな。
残念。
「アポッジ系の術が使えるならソリテューディ使って
その中でエクスプロジオーネでも使えば良いんじゃないのか?」
父さんがひらめいた!と言わんばかりに意気揚揚と助言のようなことをしてくるが意味が分からん。
専門ではないだろう父さんから言われた
聞いたことがない精霊術(?)の名称の数々に混乱する。
村では全然使っていなかったのにカタカナ言葉使えるのかよ。
だったらおれにも教えてくれれば齟齬が生じることなく
もっと円滑に旅をすることが出来ただろうに。
「空間断絶の補助術を使ってその中で爆発を起こせば良いのではないか
とこの馬鹿は言っている」
ジューダスさん、解説ありがとうございます。
空間を切り取ってその中の酸素を抜くことが出来るのなら
その切り取った空間の範囲内で別の術を使えば良いじゃないか、ってことか。
確かに。
そういう使い方をしたことが無かったから思い至らなかったが
確かに空間断絶は他の術を使うための補助の役割になるな。
こちらに被害が及ぶことなく
確実にその空間内に捕えた標的に様々な攻撃が出来るというのは使い勝手が良い。
村でかなりの人数がこの術を使えたが、なるほどと頷かずにはいられない。
「魔物や魔族にもれなく効きますって術があるなら
それを使いたいんだけど」
「標的の内包している魔力よりも大きい力をぶつければ基本なんでも効く。
霊力でも魔力でも、関係なく。
特筆するなら、純粋な物理的な力は効きにくく
光属性は効果的だ」
あ、浄化に特化しているだけあって光属性はやっぱり魔属性にはよく効くのね。
でも、より効果的、と言うのは勿論あるようだけれど
属性関係なくより大きい力をぶつけたら良いって言うのは驚きだ。
力任せに押せばどうにかなる、と言う理屈は父さんには単純で良いのかもしれない。
しかし、光属性の攻撃術なんて知らないぞ。
火や水と違って明確に形として想像できるものではないし
今まで作ってきた自作の術のようにはいかなさそうだ。
詠唱をしっかり覚えるか
誰かが使う所を見てそれを想像して自分でも扱えるようにするかだな。
あ、そう考えるならジューダスが神威をした時に使ったのなら想像しやすいな。
ジューダスは背中の翼を武器にしていたけど
光の属性を持つ羽を作り出す術なら既に使えるしそれを応用しよう。
あの術は癒しと索敵の効果を中心に考えられたものだが
それに浄化の力を上乗せしたり物理的な攻撃力を付与したり色々応用出来るだろう。
カガミからの報告によるとアハマド商会の本部はすでにもぬけの殻で
屋敷のあちこちに不自然に脱ぎ捨てられたように衣服が散乱していたことから
強すぎる瘴気に蒸発したか魔族に喰われたかしてしまったのだろう
という事だった。
え、なにそれこあい。
魔族に喰われる、は、まぁ解らなくもない。
イシャン達の母親がそうだと聞いていたし
基本的に魔属性の生き物の餌になる部分は人間の魂の部分だが肉体も喰われることがある。
野獣や魔獣に喰い散らかされるのとは違い
魔物に喰い散らかされた遺体と言うのは独特だ。
それが発見されると討伐隊を組んでほしいと冒険者ギルドに依頼が届く。
魔族出没の場合その被害の規模が大きくなるので
冒険者の色が指定された討伐隊が組まれる。
弱った魔族が少しでも早く回復するために肉も喰うのだと言われている。
実際はそうではないのだろうか。
ここの魔族は皆封印から解かれたばかりと言う訳ではない。
憑代となる肉体が用意されていたようだし
これだけ瘴気が充満していれば回復も容易だろう。
討伐隊によって弱体化させられたと言う訳でもないだろうに。
それよりも、瘴気によって蒸発?
なんだ、それ??
霊力の溢れている場所に魔族性の者が入り込むと瞬時に消え失せる現場を村で目撃したことがある。
それの逆属性版、という事か?
あの時は、なんと説明されたっけな。
各街とは違うが故郷の村にも魔を退ける結界がある。
宝珠によって作られるのと同じ作用のあるものが一番外側。
次に敵意あるものを退ける結界。。
それを無理矢理超えた時に発動する結界。
説明されるときは判りやすいように結界、と言う言葉で統一したのだろうが
実際あれはどちらかと言うと方陣だろうな。
特定の条件下でのみ発動する方陣。
その場の霊力が瞬時に爆発的に上がり目映さに眩み目を細めると
侵入者はまさしく蒸発、としか表現できないような消え方をしていった。
そいつが居た場所は何事もなかったように侵入した時の足跡すら残されていなかった。
唯一残っていたのはそいつが持っていた遠目に見ても禍々しい魔剣の
魔属性が抜けてしまいぼんくらになったただの鉄の棒だけだった。
実際に人が蒸発するほどの高熱を出す廻炎陣は
術が発動した場所は黒く焼け焦げるし場合によっては有機物の燃えかす位は残る。
衣服だけ残るという事はない。
つまり、屋敷に残された人達の身に降りかかったのは術によるものではない。
村での出来事を基準に考えると爆発的に増えた魔力だ。
可視化される程の瘴気には多分に魔力が含まれている。
強大な魔力を持つ者が放つのが瘴気とも言われているので
卵が先か鶏が先かって話だがこの循環的関係から言える事は
あの魔王(?)が出現したことにより商会本部の人たちは皆
蒸発したかのように消えてしまったのだろう。
他の魔族が用意した憑代だけでは足りなかったから喰ったのだとしたら
衣服以外の痕跡が必ず残る。
それすらないのだ。
ただ出現しただけで周囲の人間を蒸発させるだけの魔力を秘めているって
どんだけ強いんだよ。
頭を抱えたくなる。
よく対峙したにも関わらず生きて戻ってこられたものだ。
イシャンは他の商会の人たちと同様訓練を受けて居る訳ではないので
下手をしたら同じように蒸発していたかもしれない。
しかし、魔力を扱える上に呪いのせいで肉体も内包している力もかなり魔属性寄りだ。
そのおかげで蒸発せずに済んだのだろう。
もし魔力を扱えず抵抗するだけの霊力がなかったら
おれも他の人たちと同様
跡形もなく消えてしまっていたのかと思うと更に恐ろしい。
アイツがまとった瘴気の異様さを思い出し
ぞくりと悪寒が走ったせいで無意識に自分を抱きしめていた。
しかしそれだけの瘴気が発生する出来事が起きたにも関わらず
カガミ達が潜入した時には何もなかったし誰も居なかった。
王宮にもそれだけ強大な気配は感じられないし
結局魔王(?)は立ち去ったのだ、と結論付けた。
そして魔族の操り人形状態になっている富豪たちの元にも
魔族の気配は感じられないし
戦力は王宮に集中していると資料にはまとめてある。
富豪たちに憑りついているのは低級以下の雑魚魔族
もしくは本人が洗脳されているかのどちらか。
運が良ければ元に戻るし
運が悪ければ廃人になって解放された暫く後死に至る。
ヴェルーキエの副王のように
家臣に恵まれ延命できるだけの設備と金があるならまた違うが
まぁ、厳しいな。
つけ入る心の隙を持っているのが悪いと言う考え方もあるが
誰でも欲を持っているので隙のない人間なんて居ないだろう。
しかもこう言う土地で私腹を肥やしているとなれば
その欲は人一倍大きいに違いない。
「紅耀を瘴気で狂わせるような奴がいるって思っていたけど
長い年月をかけてじわじわと侵食していったのだと考えれば良いのか?」
「長いと言っても、数百年の中のほんの十数年だ。
報告書に上がっている奴だけでそれが可能かと考えた時に違和感はある。
かといって魔王復活が原因だと考えるには時系列が狂う。
魔力を増幅させるような道具をアハマドが作った可能性は否めない」
「霊力をあげる道具は結構簡単に用意できるもんね」
二人の会話にちょろっと混ざるとばっとこちらに視線が集まる。
説明を促されたが、あれ?父さんが教えてくれたんじゃなかったっけ??
「方陣を描いて、決められた所に薬草や輝石を置くことで
方陣の中心にいる人物の霊力を上げるってやつ。
結構簡易化出来るようになったし
お金かけて研究すれば短期間でも携帯できるような道具を作れると思うよ。
魔力も霊力も、性質は似ているんだし
商人であるアハマドなら必要な道具も集めやすいだろうから簡単なんじゃない?」
指折りながら必要な道具を上げていき説明をすると
剣呑な雰囲気を出しながら難しそうな顔をする父さん。
ジューダスも同様に考え込んでいるようだ。
父さんに教えて貰ったのはおれの覚え違いだったか。
じゃあ、誰に教えて貰ったんだ?おれは??
アハマドが魔力を増幅させる装置なり道具なりを作っている可能性が高い
という事を念頭に置くと
ジューダスがいまいち強さを把握できないと言っていた魔族の絡繰りが判るそうだ。
純粋な破壊の力を求める魔族が
無理矢理道具と言う自分以外のモノに頼ることで強さが歪んでしまうんだって。
強くはなれるだろうがその分反動も大きいし
ゴンドワナの、火の大晶霊の汚染が急務だったことが伺える。
そして気配こそ掴めないがこの状況下で魔王らしき魔族が復活している。
ゴンドワナに封印されていたのかどうかは憶測しか立てられないが
たいみんぐ?として魔族の狙いは魔王復活だったと考えるのが自然だ。
火の大晶霊はそれに巻き込まれてしまったのか。
お疲れ様です。
アハマド商会本部の人間が一度に消えたのも
復活したばかりでえねるぎー?の補給を少しでもしたかった魔王が
霊力もろくにない喰った所でさして変わらないような人たちの魂ですら
全員余すことなく喰い尽くしたことから
随分弱体化しているということ復活して間もない事が判る。
蒸発しただけじゃないの?
と言ったら輪廻へ戻るべき魂の動きが感じられないから
喰われて消滅したのだろうと言われた。
そんなもん分かるのか。
すげぇな。
一刻も早く討伐するのが最善だが対面した事がないジューダスでは
どの気配が魔王なのか解らないし探すことが出来ないそうだ。
魑干戈に倒した魔王と今復活した魔王が別って事なのか
一度封印されると気配が変わるとかそういう事で探せないのかな?
ってなると、白羽の矢が立つのはおれだという事か。
そうは言ってもおれは索敵がようやく使えるようになったばかりだ。
基準を置いてあれは強いかな?あっちは弱いかな?
となんとなくわかる程度のもんだ。
特定の気配を探るなんて芸当出来る訳がない。
急務ではあるが出来ないものは出来ないし
内包する力が大きくなればなるほど探知はしやすくなる。
早く索敵の精度を上げてさっさと探し出せればその分楽に倒すことができるぞ
とジューダスに急かされた。
決して、くれぐれも、一人で対峙するな、と釘も刺されたが。
そして目深にかぶっている外套の帽子部分を抑えている装飾品を一つ、手渡された。
細かい細工の施された金貨のように丸く平べったいそれに
霊力と魔力を同時に込めればおれの位置をジューダスに知らせる事が出来るんだって。
おぉ、便利!と思ったが急用じゃない限りは使うな、と更に釘を刺された。
研究して複数個作れるようになれば
父さんとか、エリアンニスとか
親しい人の窮地をすぐに知ることが出来るよな。
一定の量おれの霊力を込めて置けば転移の目印になるから駆けつけやすいし。
落ち着いたら壊さない程度に解析してみよう。