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巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
火の章
73/110

41.5

レイシス達がひたすらカレーをもぐもぐするだけの話なので読まなくても問題ありません。


他の作品(https://ncode.syosetu.com/n2596ft/ )の執筆に集中し完結させた後に書いているので現代ラブコメからファンタジーに脳みそモードチェンジするためのリハビリとして書きました。

この前まで書いていた文章と雰囲気がここでガラッと変わっている可能性がありますが、ご了承ください。




目の前で食事を摂っている人を見てほれぼれする、と言う機会はなかなかないものだと思う。

こんな世の中だし、机に向かい椅子に座ってゆっくり食事を摂る機会がまず少ないし、携帯食や軽食のように立って片手間に食べられるものが好まれる傾向にある。

食事を味わってお行儀良く、なんて出来るのはごくごく限られた富裕層や国のお偉いさん位なものだ。

庶民でも5・10・15歳の誕生年を祝うような特別な日限定で、豪勢な食事の乗った机を家族や村人で囲んで舌鼓を打つようなこともあるだろうが、普段作法を学んでいない人たちだ。

お行儀よく食べる、と言う行動の意味すら解らずひたすら貪り食うだけ。

食器同士がぶつかる音や咀嚼音を立てず、がっつく事なく大口を開けずに食事を摂る。

これが出来る人が、世界でどれだけの人数いるのだろうか。


少なくとも、冒険者ではそうそう居ない。


しかも、食事の献立はカレーだし。


稜地をこき使って、少しでも彩りよくしようと野菜の盛り合わせも付けてはいるが、魔獣や人間を捌いたことのある短刀で切る訳にもいかないので、一口大に千切って調味料をかけただけだし。

見栄えはお世辞にも良いとは言えない。

きちんと規則正しく形を揃えて切れば、この雰囲気に見合ったかもしれないが、生で食べる訳だし気分的な物を優先させて貰った。

おれは手入れもしているし別に問題ないと思っているけれど、人に振る舞うとなると、いつもなら気にしない事を気にしなければならないからね。

塩漬けにした訳でもないのに生の野菜が食べられる機会なんて滅多にないし、せっかくだからさ。



パンを片手に意気揚揚と戻ってきたイシャンと、何故か食事を摂ると言ったら大晶霊二人に散々止められたしなめされたジューダスと、三人で早めの朝食に合掌をした、その直後の事だ。


イシャンもおれも、旅をする人間の悪癖として早食いで、お世辞にも綺麗な食べ方だとは言えない。

さすがに皿をなめたり意地汚く他者の皿からおかずを奪おうとすることはないが、かき込むし音を立てる傾向にある。

口の周りを汚しても気にしないし、口一杯に頬張り過ぎてむせる事もある。


しかし、ジューダスは違う。


こいつこそ一番旅慣れをしているから、早食いや雑多な食べ方が堂に入っているだろうに……

むしろ、その逆。

背後に宮廷で開かれた晩餐会の会場でも見えそうな程に丁寧、かつ綺麗な所作で匙を扱いカレーを口元へ運び音を立てることなく確実に咀嚼を繰り返す。

千切っただけのサラダがアントレに、適当に煮込んだだけのカレーがヴィアンドに見えてくる、この不思議。


え、この人実は育ちが宜しい人だったりします??


「人の顔を無遠慮に見るのは失礼だと思わないのか?」


おぉっと。

いつもの毒舌頂きました。


当然の如く、口の中のものは全て咀嚼し嚥下までこなし、匙は器に置いてある。

おれ達みたいに口をもぐもぐ動かしたり、匙で人を指したり咥えたまましゃべるという事はしない。


「いや~。

 あまりにも綺麗に食べるもんだからさ。

 見惚れちゃった」


つい本音がポロリとしてしまったせいで、先ほどまでの流麗な洗礼された動作とは裏腹に

『何言ってんだ、こいつ』

と言わんばかりに思いっきり顔を歪めてくるジューダス。

それでも元が整ったお顔していると、見ても不快感を与えないから不思議だね。


当然と言うか、普段付けている口元を隠している布も外している為、顔の下半分が現在露出している。

鉄壁に見えたその布の下は、存外あっさりと日の目を見る事となった。

いや、まだ太陽は昇りきっていないけど。


やはり、鼻筋から輪郭から非常に整っており、一種の芸術品と言っても過言ではない程に見目が良い。

いつぞや見た、父さんを美化しまくった英雄王の彫刻並、もしくはそれ以上に端正な造形をしている。

長旅をしているのだから日焼けの一つでもしていて良いだろうに、少なくとも露出している顔の部分は白磁のように透き通っており、一種不健康そうに見えてしまう程に白い。

貴族たちの社会的地位を表す外見的要素に

小太り・色白・小足

の三つが上げられるが、今まで見た事のあるどこの国のお偉いさんよりも、ジューダスの肌の色は白い。


え、生きていらっしゃる??

と確認したくなるほどだ。

いや、死体はカレー食べないし、勿論そんなことしないけど。


目元は、被り物をしたままなので薄明るい程度の今の時間帯だと、目を凝らさないとよくは見えない。

影になっているせいで目の色は解らないし、何となくおぼろげに解る事なんて、瞬きしたらパサパサ音がなりそうな程に睫毛がびっしり長く生えてるってことくらいかな!


いや、お前本気で人間?

人形だったりしない??


てっきり、外套についている帽子をかぶっているだけだと思っていたんだけど、さらにその下に頭部全体を布で覆っているんだもん。

びっくりですよ。

断固として頭部は見せません!

と言う姿勢から若はげを疑いたくなるが、神威の姿からしてはげではないし、そもそも若くもなかったというね。

父さんと同等、もしくはそれ以上に長生きしているのなら御年何百歳だという話だからな。


それこそ、外套を脱いでいるせいで露わになった身体の線は、予想以上に華奢なものだった。

おれも、力の割には線が細いと言われるが、ジューダスの強さから考えるとムキムキの筋肉の塊のような体型でもおかしくないのに、かなりの細身だ。

見た事のない服装だが、どこの国の衣装なのだろう。


またじろじろ見ているとお小言を言われてしまいそうなので、いつの間にか止まっていたカレーをすくう手を再び動かす。

うん、うまい。


「おかわり貰ってもいい?」


イシャンが言葉と同時にすでに自分の器に二杯目を盛り付けにかかっている。


いや、良いんだけどさ。

それは言葉にする意味があるのか、果たして?


「この後完全に夜が明ける前に行動開始するんだぞ。

 腹いっぱいで動けないとか言うなよ」


「酒嚢飯袋とはならないようにな」


器用にもぐもぐ口を動かしながらジューダスが言った言葉と重なる。

しゅのーはんたい?

むつかしい言葉をご存じなのね。


「似たような顔して似たようなこと言うなよな~」


言ってすくっていたカレーを鍋に戻し、気持ち少なめによそったそれを二度目の合掌をして貪り食うイシャン。

うん、注意されても食うのね。

作った身としては美味い美味い言いながら良い笑顔で食べて貰えるのは嬉しいけどさ。

本気で行動に支障が出るほど食べるのは辞めてよね。


それにしても、似たようなこと、と言うのは解る。

いや、しゅのーはんたいという意味は解らないけど、まぁ、足手まといになるな、と言う意味なのだろう、きっと。

ただ、似たような顔、と言うのは聞き捨てならん。

おれがこんな顔立ちが好かったら、それを武器にしてもっと世の中上手に渡っているわ!と言うね。


「稜地も白亜も必死になって止めるから、てっきり辛い物苦手なのかと思ったけど、そうじゃないんだね」


頬袋に餌を詰め込むリスの如くほっぺたを膨らませ、もぐもぐしながら久しぶりのカレーを満喫しながら雑談を続ける。

カレーは国ごとによって味も見た目も違ってくるから、このとろみがついた具だくさんのカレーは村を出て以来になる。

しかも稜地は料理が上手なので、ぶっちゃけ言うと母さんが作った物よりも美味しく出来たので堪能しなきゃ損だ。

こちらの地方のカレーは具が豆を主としている上全部煮溶かしてしまっているので、どろっとした見た目こそ似ているが、やはり味も風味も全然違う。

イシャンも最初はおれの作ったカレーを見て

『なんだ、これ?』

って文句に近い言葉を言っていたけれど、食べ出したら止まらなくなってしまったらしく……今、三杯目を食そうと再びお玉に手を伸ばしている。

早食いにも程がある。

そうじゃない。

いくらなんでも食べ過ぎだ。

先ほど加減して盛り付けた意味が全くないじゃないか。


注意しても意味をなさないから放って置くけどさ。

この後の行動、失敗してお金を回収できなくて損をするのはイシャンなんだから。

まさに自業自得と言うものである。

それにおれを巻き込まないでね。


「あぁ…久方ぶりの食事だからな。

 誓約の効果が切れると思われたのだろう」


誓約。

自身に身体的制限をかける事により扱える霊力を増すことが出来ると言われている、やつだね。

でもあれって、自分に苦行を課すことによって、精神を研ぎ澄ませることが出来るようになって霊力の扱いの緻密さをより高度に出来るってだけじゃなかったっけ。

精霊に渡す霊力量の調整を感覚的に掴めるようになるって言う。


「ふ~ん。

 どんだけぶりなの?」


「…………五千年以前は覚えていない」


ごっ!?

五年、ではなく??

五千年!!?

いや、五年でも驚きだけどさ。


おれは五日ですら食事抜きだなんて考えられない。

五回抜くことですら嫌だ。


素直に答えてくれると思っていなかったので必要以上に驚いてしまった…

え、父さんが活躍した修羅剣闘(しゅらけんとう)時代が千年くらい前。

その前の魔族に人類が蹂躙されていたと言われている魑干戈(すだまかんか)時代が……三千年くらい前?だっけ??

うん???二千年だっけ……?????

定説は三千年前と言われているけれど、新説でそこまで前じゃなかったって言われるようになったんだっけ。


勉強をした所で実際の所は解らないし、おれには関係ないや~とか思っていたけど、こういう雑談の中でも学と言うのが必要になる事もあるんだな。

つくづく、お勉強をもっとしっかりしておくんだった、と思う。


さらにその前の宣託示現(せんたくじげん)時代と呼ばれる時代の途中でオラクルが現れたと言われている。

オラクルの干渉が世にもたらされただろう、と言われている時代を指して宣託示現時代、と呼ぶのだがそれが長い。

非常に長い。

オラクルが直接世に奇跡を与えたと言われている年よりも随分前からその兆候が見られるという事で、3千年以上もの間、宣託示現と呼ばれる時代が続いている。


奇跡と言うのは精霊術のことね。

それまで神子と呼ばれる限られた人間かエルフしか使えなかった精霊術をオラクルが形態化したおかげで一般人も扱えるようになったから。


まぁ、精霊術って使えない人からしてみたら、確かに奇跡の様に見えるかもな。

自然の超現象を人の意志で操ることが出来るんだから。


それが約一万年~五千年くらい前、らしい。


さらにそれより前になると神代(かみよ)の時代になってしまう。

魔王と古代三英雄が戦ったとされる、本当、物語の世界の話だ。


もしその頃から生きているんだとしたら、考古学の研究者たちはのどから手が出るほどジューダスを欲しがるだろうなぁ…

何せ、生き証人になる訳だし。

オラクルがジャーティにいながら治外法権とされる自分で作った学校に閉じこもって出てこないのも、外部から干渉されないためらしいしなぁ。


表向きは、

『神より賜うた知識の集大成がこの学園である。

 それを悪用される可能性のある外部に漏らさないため、生徒含む関係者以外の一切の出入りを禁ずる』

って道理の通った事を言っているために下心のある研究者たちはオラクルのご尊顔すらお目にかかることが出来ないとか。

そうは言っても、生徒や教師も在学中に会えることは殆どないそうだけど。


少なくともおれは在学中に会ったことはない。

数か月しかいなかったから当然か。


「そんだけ久しぶりのご飯なのにこんな食事で済まないねぇ」


胃に易しくも豪華でもない、庶民の味方、カレーライス。

おれは好きだけどさ。

そんな何千年ぶりに食べるものがこれってどうなのよ。

久しぶりに食べるなら余程の好物か、胃に易しいお茶漬けとかが好ましい気がするのだけれど。


「イヤ……これが良い」


カレーが余程の好物という事でよろしいの??

薄く口元に笑みを浮かべる様を見ていると、これ以上否定も追及もしにくいな。

なにせ口を開けば小言が始まり、黙ったかと思えば怪訝そうな表情を浮かべるジューダス様だ。

微妙にだろうが笑っているのなんて珍しすぎて邪魔も出来ない。


「あ~、食べたっ!

 ごちそーさまー!」


膨らんだ胃袋の辺りをさすりながらイシャンが満足げに食事を終える。

ちゃんと食べ終えた後も合掌するのは良い事だけど、その直後に寝転ぶなよ。

牛になるぞ。


「私もだ。

 ごちそうさまでした」


いつの間にやらジューダスも盛り付けた分全てを綺麗に平らげていた。

え、おれそんな長い間ボーっと考え事してた!?

慌てて残りのカレーを一気に口の中へと流し込む。

うむ!!カレーは飲み物!!!


「おれも!

 ごちそうさまでした!!」


ぱんっ!と勢いよく合わせた両手から弾けるような良い音が辺りに響いた。

周りが静かな所為で、必要以上に鳴り渡る。

その音を聞いて驚いたのか、ラシャナやイシャンの部下たちもぞろぞろと起き始めた。


皆が起きるには、まだ早い時間だ。

従者への説明も今後の行動をどうするか作戦を立てるのも、イシャンのへそくり回収と言う、ちょっとした寄り道を終えてからするつもりだったし。

だからと言って、

『今から席外すから、帰ってくるまでの間もう一回寝て置け。

 そうだな。

 時間にして5~10分程度』

何て言えないし。


おれが起こしてしまったとなると、なんだか申し訳ない気になるな。

……カレーの匂いに誘われて、という事にしておこう。



束の間の穏やかな時間を過ごさせて貰った。


ジューダスの誓約がちょっと気になるけれど……

ま、特別何も言ってこないし大丈夫だろう。


さぁ、作戦開始だ!



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