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巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
火の章
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散々けったいな色だと貶した外套だが、一応、昔はお祝い事の時に着られることもあった程にめでたいとされる色だそうだ。

こんなくすんだ色が?

と腑に落ちないが、黒みがかった黄緑で”みるいろ”と言うんだって。


ジューダスのは深い海松藍。

おれのは海松色が薄くのばされた上で茶色がやや濃く出ているので海松茶。

…と言いたい所だけど、あまりに色が薄いのでどちらかと言うと根岸色だな、と笑われた。

随分大昔に流行った色だそうだよ。

ジューダスが大昔って言うんだから、相当昔なのだろうな、うん。


稜地と契約をしている分、地属性の色が濃く出たのだろうと言われた。

今後、契約する大晶霊とその相性によって、付加される加護も変わるし色味も変わっていくから変化を楽しむのもまた一興だそうだ。


父さんとお揃いが良かった…

と思いはしたが、父さんは精霊との相性が絶望的に悪くどの精霊からも祝福を受けることが出来なかったためにジューダスとオラクル二人が当時贔屓にしていた防具職人と一緒に作った外套を使っていたんだって。

種類としては似たようなものだからある意味お揃いだ、と腑に落ちにくい事を言われた。

そんな広域でのお揃いって、果たしてそれはお揃いと言えるのだろうか。


おれが旅立つときに譲り受けたのが、オラクルが作った物理攻撃耐性に特化した外套。

古龍にも色々種類がいるらしく、その中の空を飛ぶ種類の翼の部分を使用しているそうだ。

こうもりの飛膜のような部分があり、柔軟性に富んだそこを加工している。

翼竜はその巨体を自在に操る為、風の精霊術の扱いに特化しており、重力も意のままに扱う。


わざわざ徒歩で旅をしなくても、この外套の特性を生かすなら道中精霊術で飛ぶのもありだと言われた。

風の精霊術を扱う際の霊力消費量が抑えられ、制御もしやすいのだとか。


……はて?

村から旅立った前後、つまりはこの外套を譲り受けた前後で風の精霊術を扱う精度が良くなったとも悪くなったとも思わなかったんだけど。

どうしても暴走しちゃうからさ。

風と反対属性である地の大晶霊:稜地と契約して、ようやく暴走しがちな力を抑えられるようになったって程度なのに。

おかしいな。

もともと暴走しがちだったから、多少改善された程度の暴走の仕方をされても気付かなかっただけかもしれないけどね!


その翼竜の飛膜を基本にして、出来るだけ戦士としての父さんの負担になりにくい軽い素材を使い編まれた外套に、オラクルが契約をしている時を統べる大晶霊の加護が付加されている。

外套と物理的な攻撃をしてきた対象の間に時間のゆがみを作り、肉体にその攻撃が届くのを一瞬だけだが遅らせる効力がある。

父さんは大抵をその一瞬の間と身体能力でかわし、あらゆる戦いに無傷で生還したからこそ英雄と後世に語り継がれる存在になったんだって!

思いがけない所で父さんの武勇伝を聞けてしまった。


もっと聞きたい欲求はあるけれど、今は装備品の説明をしっかり受けなければ。

自分の身を守る大切なものだ。

特性や効果を把握しているかいないかで随分と変わる事もあるだろう。

時晶霊の祝福の話なんてかなり重要な事だろうに、父さんから聞かされていなかったからな。

余計に真面目に聞いておかないと。



ドハラ神殿で9つ首の、明らかに致命傷となりうる攻撃を受けたにも関わらずおれが死なずに済んだのは、きっとこの外套のおかげだ。

この外套が9つ首の攻撃を一瞬防ぎ、その刹那におれが防衛本能全開で防御の姿勢を取れたからこそ、瀕死の重傷こそ負ったものの死に至る事無く、結果、稜地と契約出来た。

確かに、紙一重でかわせた、と思った攻撃が意外と余裕を持って避ける事が出来た事があったり、間合いを見誤ったか?と思ったりしたことが幾度とあった。

村にいた頃の方が余程外敵の多い厳しい生活をしていたから、気が抜けてそぞろになってしまっているのか?と思ったものだけれど、なるほど、そんな仕掛けがあったんだ。

その特性を生かした戦闘に慣れる事が出来れば、出来る事の幅も広がるし心に余裕も生まれる。

素晴らしい防具じゃないか。

父さんが教えてくれなかったのは……性能を忘れていたのか、それを把握するのも修行の一環だと思ったのか。


う~ん。

どっちもありそう。


精霊術を微塵も扱えなかった父さんでも一瞬の間を作る事が出来た、と言う事は、霊応力のあるおれなら、もう少し長い間を作る事も出来るようになるかもしれないって。

意識して、外套に自分の霊力を馴染ませる。

自分専用の防具として成長させるのにはそれが一番良い。



歴戦の勇士は、どれだけ防御力が優れているとされる防具よりも、使い、馴染んだものを何より好む。


その理由は、愛着云々も勿論あるだろうけれど、なにより、自分の霊力が馴染んだ防具はよりその使用者の特性を伸ばしてくれるから、なんだって。

そして、今では精霊の絶対数が減ったために例は少なくなっているけれど、呼応してくれた精霊が宿り祝福してくれることにより更なる付加価値を付けてくれる。

そうすると更に使用者の霊力が馴染みやすくなり、より能力が上がる。

使い込み、古ぼけてしまったとしても、大事に扱い手入れを怠らなければ何十年、何百年と使い続ける事が出来、そしてそのかけた手間の分だけ道具は使い手のために進化する。

何代にも渡り伝わる道具はやがて神器となり、そこに在るだけで魔除となり、人々を守護する。


吟遊詩人が詠む伝説の武器・防具として伝わっているものの大半は、精霊が多く居た時代に活躍し、大切に使い続けられてきたものだそうだよ。

それを言うと、父さんから譲り受けたこの外套もそうなるんだな。

特に意識を向けても、特別精霊の加護があるようには視えないんだけど…

精霊に祝福されている物って、その精霊の力が膜のように張って見えるものなんだけどね。

外套に力が馴染み過ぎて、浮き出て見えないだけなのだろうか。


守護宝珠も、霊力の伝導率が高い為に神器になりやすいだけで、もとは単なる輝石だそうだ。

大きめの輝石が、武具と同じく使い込まれることにより宝珠となる。

武具の神器化が何十年、下手をすれば何百年とかかるのに対し、輝石は数年あれば神器化する。

ただ今はそれを知らない者が多く、そもそも輝石自体大きいものがあまり採れない。

宝珠に霊力を込める事が出来る術者も減ってしまい、結果襲われ廃村が出来、そこに在った宝珠は回収されることなく魔獣が喰ったり、魔族が回収してしまったりする。

そのせいで新たに造られることがないのに数が徐々に減っていき、結果、世界の人口減少に繋がっている。


宝珠により守られる安全な土地が減ること。

それはつまり人間の領土が減ると言うこと。

土地が減れば農耕が出来ず食料不足に陥る。

慢性的な栄養失調に陥れば病気になり、満足に働く事も出来なくなる。

そして最悪、死に至る。

一人の負担が増えれば生産性も下がる。

不平不満が募れば市民は一揆を起こす。

治安が悪くなれば犯罪が横行する。

それが更なる人口減少を招く。

ただでさえ悪循環に陥っている。

そんな中、魔族が各地で復活し魔獣があちこちにはびこるようになり、更に事態を悪化させている。


それを絶つために動いているのが父さんを筆頭とした、カガミ含むおれの故郷の人たち。



世のため人のため、と言うふわっとした抽象的なことは把握していた。

だけど存外、世の中の人々と言うのは窮地に陥っているらしい。


ゴンドワナの人たちが特別困窮している訳でも、魔族の脅威にさらされていると言う訳ではない。


その事実を突き付けられ、世間知らずを恥じ入ったのは、正直、初めてかもしれない。


無知だけど、仕方ないじゃん。

だって子供だし。

だってずっと村に籠っていた世間知らずだし。

言い訳ばかりしていたけれど、無知と言うのが罪だと、改めて思った。


もっと、道中の村や町で出来た事ってあったんじゃないだろうか?


霊力の残量が少なくなっている宝珠を掲げている町は結構あった。

でも、宝珠は基本国が管理しているものだ。

年貢さえきちんと納めて義務を全うしていれば大丈夫だろう。

近いうちに、国から派遣された術者が霊力を供給してくれるさ。


下手に手を出すと監禁の恐れがあるとか、ただ働きは争いの元になるから嫌だとか、理由を付けて助力をするのを避けてきた。


でも、国自体が慢性的な人手不足で、中枢部しかろくに管理できていなかったのなら?

いや、下手をしたら中枢部ですら管理できていないような国もあるかもしれない。

貴重な術師が道中、本来そこに生息していないような魔獣や、魔族に襲われてしまっていたら?

見てきた村や町、下手をすればその術者が国が派遣できる唯一の術者だったら、その先一生宝珠に霊力が供給されることが無くなり、効力は切れ、人々は魔獣に蹂躙される。


おれが見過ごしてきた助けられた人たちは、そのおれが見逃してしまった一回の怠慢が死に直結してしまったのかもしれない。


それに気づいた時に、怖くなった。

おれに、直接関係はない人たちだ。

それでも。

死んでほしいと思った訳ではない。

おれの軽率な行動でそれを招いてしまったのだとしたら……

おれは、どうやって償えば……


「目に見える全てのモノを救える程、人の力は万能ではない。

 また、目に見える全てのモノの責任を一人が負う必要もない」


悟られたのか、心を読まれたのか。


「手の届く範囲のモノを守る事ですら、自分の身一つ守る事ですら困難なことも多い。

 後悔をし立ち止まるくらいなら、省み、次に生かせ。

 そして、為せるを成し、為すべきを成せ」


「……うん」


為すべきことを成す。

父さんから言われ続けた言葉だ。

しなければならない事を確実に遂行する。

それが重要だと。


為せるを成す。

つまり、出来る事をしなさいね、って事だよな。

うん。

しなければいけない事だけをしていたら、それこそ今まで無視してきた村の宝珠問題とか、今後も目を逸らしてしまうもんね。

自分に出来る事をしよう。


≪そ~よ~

 神様ですら、万能じゃない世の中なんだから。

 目下の出来る事から一個ずつ片付けて行けば良いのよ≫


≪そうそう。

 主は変な所ですぐ気負い過ぎ。

 あとはもっとヒトに頼りなね!

 分からない事があったら聞けば良いし、助けて欲しい事があったらお願いすれば良いんだよ!!≫


「優先順位としては、時間制限がある重要なモノ。

 時間制限があるがさほど重要でないモノ。

 時間制限はないが重要なモノ。

 時間制限がなくさほど重要でないモノ。

 ここに所要時間を計算に入れ、行うべき順序を決めれば良い」


大晶霊様たちが慰めの言葉をかけて来る中、追従して指折り数えてなんだか難しい事を言ってくるジューダス。

優先順位なんて、考えた事無かったな。

あれもこれもしなきゃ~

あれもこれもしたい~

ってばかりだったから。


目下のすべきことに順位を付けるなら……どうなるんだろ?


時間制限はあるにしても重要度が低いのが、イシャンのへそくり回収か。

所要時間が断トツで短いので順位としては高く持ってきても良いように思える。

早ければ早いほど良く、重要度の高い項目は、大晶霊の解放と大地の浄化。

ただ、これは方法が不透明なうえ難易度も高く、時間がかなりかかるだろう。

時間制限が短いけど世界規模で言うなら重要度が低いように思えるのが、イシャンとラシャナに呪いをかけた魔族の討伐。

いや、世界規模で考えたとしても魔族討伐はするべきことだ。

高くはないが、低くもない。

制限時間は長いけれど重要なのは大魔事件の解決。

目先の問題で言うならこんな感じか。



だけど、おれの、おれにしか出来ないとされる事で最重要項目がある。

優先させるべきなのは、何に於いてもそれじゃないのだろうか。


大晶霊との契約。


するべきことに優先順位を付けるとしたら、それが一番に来ないか?

全ての大晶霊と契約をして、楔と言う物を打ち直せば世界から魔獣や魔族が消え安寧が訪れる。

……らしい。


過去にも、同じような時代があった。

修羅闘神時代。

名前こそ物騒な時代だが、父さん達三英雄の活躍により大晶霊総出で世界の脅威である魔族達が封じ込められ、今と違い、魔獣や魔族の危険にさらされることのない、とても平和ボケした世の中だったそうだ。


どれくらい平和って、王様とか御貴族様とかが物見遊山で野宿とかしちゃうくらい。


精霊術が突如使えなくなったため、魔獣たちからの被害が再発した時にそなえた護身術として、父さんが扱ったとされる武身術を形態化し伝え広まった時代だから英雄王であり格闘術の神様とも言えるアスラ(阿修羅)を称える時代、と言う意味で修羅闘神と言う時代の名前がついた。


精霊術が使えなくなったって、それってつまり、精霊の一番上の存在である大晶霊が楔として各地に魔族を封じ込めるための人柱的存在となったからでしょ。

各大晶霊の力は、微精霊含めた精霊の総力のおおよそ8~9割を占めると言う。

全微精霊から上位精霊総出でかかっても、大晶霊の力の足元にも及ばない。

そもそも、大晶霊がそれぞれの精霊の力の流れを管理しているとも言われているので、全ての力を所有しようと思えば出来るのだろう。

瘴気が発生しやすい場所、魔獣がはびこっている場所。

そう言う霊力が低くなり、魔力が増大している場所に、大晶霊が霊力を多く渡した精霊を派遣し浄化しているんだって、絵本で読んだんだったかな?

なので、本当の事かは分からない。

だけど、瘴気も魔獣も、その発生の根本原因である魔族を封じるために大半の力を封印に回した為に世界中の精霊が人間の呼び出しに呼応しなくなった、と言うか、出来なくなったのも頷けると言うものだ。


おれも同じことをするのなら、今、魔族による災害で苦しんでいる人たちを救うことが出来る。


術師が減ったままなのは、修羅闘神時代に精霊術が廃れてしまったためだ。

精霊自体は、目に視える分には随分多いように思える。

楔と言う名の封印が解かれてしまい、大晶霊の力の干渉が世界に行き届くようになったからだろう。


大晶霊は、自分の力だけでは楔になる事は出来ないのだろうか。

外部からの何かしらの要因が必要と言う事なのかな。


そもそも、なんで楔が解けてしまったんだ?

何百年も世界を守ってきた大晶霊の楔。

父さん達、と言うか、ジューダスとオラクルか。

おれの目から見ても半端じゃない術師であるジューダスと、共に旅をしてきたオラクル。

二人が掛けた術なら、一生ものとして作用してもおかしくないだろうに。


大晶霊が楔になる条件として外的要因が必須だと考えるのなら、それを解くのにも同様に外部からの干渉が必要だろう。

誰かが、故意で解いたという事か。

誰が?

一番可能性が高いのは魔族だが、魔族は大晶霊が封印していたのだ。

フートの様に弱体化され地上に残っていた魔族もいるようだが、そんな程度の奴に二人が施した術を解除できるとは考えにくい。

だからって、その他の要因として思い浮かぶのは人間だが、解いたら自分たちが危険に晒されるのだし、それをすと思えない。

偶発的に、不幸な事故が重なって解けた、なんて一番考えづらいけれど……


楔が解かれた原因、と言うのを解明しないと

もしおれが全ての大晶霊と契約で来て、また楔を打ち込めたとしても、また同じように解かれてしまっては何度やったって意味がない。

それも、しなければならないこととして覚えておかなければいけないな。


うん。

優先順位を考えているのに何でしなきゃいけない事増やしちゃうかな?

おれの脳みそは!

もっと器用に物事をこなせるようになりたいものである。





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