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巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
火の章
66/110

35




ジューダスは早急に事の解決に当たりたいようだし、何よりもイシャンとラシャナは刻限が来たら魔族に魂を喰われてしまう。


その時を狙って返り討ちにしてくれる!


って受け身の作戦を選ぶ方法もなくはないが、その時はいつものように

『失敗しました☆てへぺろ!』

じゃ済まされない。


失敗の意味は二人の死を意味する。

巻き返しができないからな。


いや、この際はお腹の中の子を含めて三人か。

霊力の強い者は魂が持つ力も強いのだろうし、魔族の手に渡ってしまったら向こうの勢力が増大してしまう。

それつまり、父さんの敵を強化してしまうと言う事。


そういう意味でもしてはいけない。


確実に三人を守りつつ、事の解決に当たらねばならないのだ。

その為には、情報も人員も少なくていかんな~



せめて、バルナの首都:メネスに向こうの戦力が集中しているとか、各国それぞれ魔族の巣になっているから全て消滅して回らなきゃいけないとか、確実な情報があれば行動もしやすいし、作戦も立てやすいのに。

あくまで、さっきのは状況から分析したり、イシャン達の話を聞いたりした上でおれが立てた仮説だからな。


実情が違う可能性は大いにありうる。


何かしら行動を起こす時、情報はとても重要だ。

戦争だって、敵国の内情をどちらが早くつかめるかで戦況が変わって来るって言うもんな。


父さんともう一度通信して、増員を要請してみようか。

いやいや、それはつまり父さんの采配に異を唱えると言う事になる。


それは……避けたいなぁ。


おれが助けて、と言って手を貸して貰った形ではあるけど、カガミが処理できなかった仕事を引き継いだ形と考えると、それつまり初めて父さんから任せられた、オルサ村の人員としてのお仕事って事じゃん!?

これで足手まとい・役立たずの烙印を押されてしまったら、旅を無事に終えて帰った後に何もさせて貰えない昼行燈になりかねない。

食っちゃ寝だらだらゴロゴロするのは最高だけれども、それは何か達成した後の休息だったり、後でするべきことが待っていたりするからこそ最高なのであって!!

毎日自堕落に過ごして後ろさされるような状況は嫌だ……

それこそ、まじでその時は家出名目で村を飛び出すことになってしまう。



飛鶸の遠隔操作の範囲がどれほどのものか試してみるのは良いかもしれない。

長距離でも扱えるようなら、メネスに一足先に向かわせて内部調査をさせると言う方法がとれる。

フートの部下とやらは、それが自分だけの純粋な力では出来なかったからこそ、馬車に細工していたのだろう。

もしおれが楽々それを出来れば、フートの部下の実力がある程度把握できる、という情報がおまけでついてくる。


思い至ったのがカガミの奇襲時だったせいでまだ試せていないから、音まで拾えるようには出来ないだろうけど、何も情報がない状態でメネスにいくよりは幾分かマシになる。

メネスまで飛鶸を飛ばすことが出来なかったとしても、この先の国の偵察に複数体飛ばすのは良いかもしれない。

頭がその情報処理に追いついてくれれば良いんだけど。



移動手段は、この先にあるケイヴギアには飛空艇があると言う。

イシャン達は自分たちの上司に反旗を翻す事に対して腹をくくっている。

馬車はここに捨て置く。

長期戦になってはいけないし、体力も霊力も出来るだけ消費せずにいた方が良い。

飛空艇に乗り出来るだけバルナの近くまで行きたいところだな。


そこで従者の人たちとは別れる。

従者からしてみれば、自分たちのこれまで働いた分の給料や今後の仕事の問題が出てきてしまうが、わざわざ命の危険にさらされる激戦区となりうる場所に連れて行くわけにはいかない。

全部解決した後どうするのか、それはケイヴギアまでの道中でイシャンと話し合って貰い納得して貰う他ない。

イシャンとラシャナの二人で十二分以上のお荷物なのだ。

さすがに、そこに更に戦闘経験もない、魔力に対する抵抗も何もできない大人数を伴って移動する事は出来ない。


飛空艇とやらは、アゼルバイカンやバキに行ける事は明言されているが、バルナへは飛んでくれるのだろうか?

元々が貴族のための乗り物だったそうだし、お金さえ払えばこの大陸一番の都であるメネスにも飛んでくれるだろう。

たぶん。


風の精霊の力を借りて飛ぶ、となると瘴気でおおわれているらしいバルナまで安全に飛んでくれるのか不安ではあるが…


飛空艇の大きさによっては、メネスの手前までしか移動できないか?

今もメネスまで頻繁に飛んでいるのなら、怪しまれることもないだろうけど、そうじゃないなら難しい。

それでも、いくつもの国を徒歩で移動するより、空を移動した方が随分時間短縮になる。


飛んで貰える所まで飛んで貰おう。



バルナに着いたら、到着前に飛鶸でどれだけ探れるかによって勿論、行動は変わってくるが敵情の把握が一番の優先事項。

内部の人間であるイシャンとラシャナからは見えない位置からのアハマドと言う人間がどれだけメネスの、バルナ国の、はてはゴンドワナ大陸をどれだけ掌握しているのか。

その人物が居なくなった時の社会的損失も把握しなければ。


これからおれ達がしようとしている事は、言ってしまえばゴンドワナ大陸を牛耳る首領への殴り込みのようなもの。

いや、殴り込みと言うと物騒か?


しかし、実際。

相手が魔族だったとしても、その傀儡の人間だったとしても。

大陸全土に渡る資金源破壊と、流通を仕切っている者へ制裁を加える事。


大義名分があったとしても、ぶっ飛ばすことには違いない。



カガミが魔薬の流通を調べた時に、どこまで把握出来て、どこまで父さんに報告しているかにもよるけど、彼が最初に調査に入ったのは、あくまで隣のヴェーダ大陸だ。

こちらの方まで隅々調査は行き届いていないだろう。

その前に囚われちゃったんだし。



イシャンの話しだけ聞くと、アハマド、及びアハマド商会が無くなったらゴンドワナ全土が機能しなくなるようだったけど…


もし誇張が一切入っておらず、正しくそうなら、おれ達の行動と同時進行で、物流の委託先や財政管理者を用意して機能させなければ、まじで一般市民が痛い目を見る事になる。

ただでさえ貧困層の、特に子供は盗みを働き、それすら出来ない子たちが裏路地の片隅でひっそりとその生を終わらせているのだ。

その規模が拡大すれば、市民の大半が餓死行きだ。


何事も順調に運び、イシャンが無事に生き残る事が出来てアハマドの跡を継いで商会の切り盛りをしてくれれば、その心配もいらないかもしれないけど…

独裁的な商売をする組織の上がすげ変わっただけになるし、イシャンに万が一が起こった時に同じような問題に直面する事になる。

その時はおれには関係ない話になるが、問題を先延ばしにするだけにするよりは、これを期に良い方に進むよう根回しはしておいた方が良いだろう。


父さんは、それを把握して動いてくれているのかな?



悶々と、一人で考えても仕方が無い。

今回はおれ一人で行動する訳じゃないんだし。

ちーむわーくと言うのが大事になるのだろう。

うん。


まず、何よりも先に確認しなければいけないことがある。


「一応確認するけど、イシャンはタンス預金とやらの回収はまじでしたいの?」


「あ、この状況でそれ聞いてくる…?

 ……叶うならって程度だよ。

 英金貨10枚ほどだから、失ったら確かに痛いけど。」


え、英金貨10枚……

そりゃ、思わず口から『オカネカイシュウシタイ』と零れるか。


英金貨って言うのは、ゴンドワナ独特の通貨である”金貨“ではなく、世界中で取引できるお金だ。

英雄王・アスラの名の元に作られている物だから“英”金貨ね。

金銀銅の貨幣価値を知らないおれでも、英金貨の価値なら知っているぞ!

細工に拘り精霊による恩恵を受けた、複製出来ないようになっている金貨で、現在の相場で言うと1枚100万ヤーンと同等の価値がある。

“英”の更に上に“聖”“があって10億ヤーン。

その更に上が最高値の“神”で一兆ヤーン。


どれも通常、国同士のやり取りでしか使われないものだ。

なんでお前が持っている。


あぁ、アハマドがバルナやゴンドワナの物流取り仕切っていて牛耳ってってしているんだから、そこの組織の3番目に高い地位の人間ならそれくらい持っていてもおかしくない、の、か…?


『叶うなら』と口では言っても、本音がだだ漏れしていたように、回収できることならしたいだろう。

簡単に諦められるような金額じゃない。


「……ジューダスは、おれとイシャンが離れている間、ラシャナの護衛頼んだら引き受けてくれる?」


「却下だな」


デスヨネー。

集団協力行動って難しい。


イシャンがおれに報いたい、と言ってくれた言葉に、おれとしては報いたい。

彼女の護衛をジューダスがしてくれれば、アハマド商会にサクッとイシャンを伴って侵入して英金貨の回収が出来ると思ったんだけどな。


まぁ、ジューダスはあくまで、おれのお守りを理由についてくるんだもの。

おれと離れることは好しとしないわな。

もし離れるとしたら、お守りよりも優先すべき行動が出て来た時くらいか。


高額とは言え、お金の回収程度の理由じゃ無理だよね。


父さんがジューダスに信頼を置いているのはわかった。

ジューダスも、冷酷非道に最初は思えたけど、問答無用で理由なく言いつけを守るような血が通っていない人物ではない。

なんだかんだ言って、ちゃんと話を聞いてくれるし、目元しか見えないが感情だってある。


何より父さんの言いつけを守ろうとする姿勢を崩そうとしない。

お互い、やっぱり仲間だった時間が長いからこういうお互いを尊重し合う行動に出ると言う事なのかな。


「自分の命がかかっているから言う訳ではないのだけれど、今は安定期に入っているし、まとまって行動する方がベターな気がする。

 イシャンも私の事を気にし過ぎてミスを犯してもいけないし、戦力を分散させても良いことはないでしょう。

 私やイシャンはメネスにある商会本部に部屋を宛がわれている。

内部構造は私も理解しているし、潜入するなら協力できることは多いと思うわ」


「って言ったって、そのお腹で走ったりしたらマズイでしょ」


「ああいう金持ちの家って言うのはね、廊下以外の秘密の抜け道がごまんとあるのよ。

 正面からではなくそちらから潜入・即用事を済ませて撤収。

 見つからない限り走る必要は無いわ。

 時間で言うなら…そうね。

30分もかからず終えられるでしょうね」


「5分で済ませろ」


「「「は?」」」


「侵入から撤退まで、5分で済ませられるようにしろ。

 成功率はそれ以上の経過になると格段に下がる」


「そんなの無理……」


「行動を起こす前から出来ないと判断するな。

 殲滅作戦ならば30分かけても問題ないが、侵入を悟られぬよう金品の回収を済ませたいだけのだろう?

 ならば、5分は厳守だ。

 知恵を絞れ」


三人寄れば文殊の知恵ってか。


建物に侵入してから、回収、撤退するまでをその短時間で済ませろって事だよな。

そして、その時間で済ませられるならお金の回収をしても良いよ、と言う許可をくれたも同然の言葉だ。


意外と優しい。

いや、無理難題を突き付けて来るのだから優しいと言うよりは、やはり厳しいか。


確かに、5分で事を済ませる事を前提に事が運べるのなら、成功率は物凄く高い。

そのつもりで行動していれば、万が一侵入した事がバレたとしても増援が来る前に撤収できるし、多少まごついたとしても“まだ5分しか経ってないから大丈夫”と言う心理が働いて落ち着いて行動しやすいだろう。


しかしそうなると、おれが付いていく方が5分厳守の妨げになりそうな気がする。

なにせ、おれは商会内部を歩いたことがない。

どこに段差があるからつまずいたり物音を立てないように気を付けなければいけないか、どこに人が集まりやすく慎重に行動をしなければいけないか。

そしてどこが目的地なのかも分からない。


複数で行動すればする程、目撃される危険度が上がる。

イシャンに誰かと遭遇した時に対処できる位の強さがあれば、彼一人が商会内部に行くのが一番成功率は高いのだろうが…


流石に、アハマドが子飼にしているであろう暗殺部の人間たちは一般人の目に触れる所にはいないだろう。

なのでフートの館の方にいると想定できる。

だが、当然、商会本部ともなれば高額な金品管理をしている。

警備はいるだろうし、居るはずのないイシャンがその場に居たら、いくら身内とは言え怪しまれてしまう。

アハマドが先手を打ってイシャンを見かけたら捕縛するように警備に言いつけている可能性だってある。

抜け道を知っていたとしても、彼一人じゃ無理だ。


彼が行くならラシャナもついていく。

彼らが行くならおれは護衛として付いていく事になり、そうなったらお守りであるジューダスもついてくる。

4人で行動する事は避けられない。


ならば、目撃される危険を織り込んだうえで、5分で全て終えられるようにしなければならない。


うん、難しい!

寺子屋のような単純な構造の建物ですら、そんなの難しいでしょうよ…



イシャンが商会の見取り図を砂に書いてくれたのだが、まぁ~広い。

しかも、タンス預金をしていると言う彼の私室は結構奥まった所にある。

さすが商会の三番目の地位の人物である。

侵入者が来た時の対策がバッチリ取られている良い建物ですね!


こんちくしょう。


各部屋に設置されている窓は、どれも細長い明り取り用のもので、おれがカニ歩きをしてぎりぎり通れるか否か程度の幅しかなく、そこからの侵入はお腹が出ているラシャナじゃなくても無理だとの事。

硝子もはめ込まれているし、当然、侵入のためにそれをどうこうしようとしたら派手な音がして即、バレる。

ラシャナが把握している隠し通路は、イシャンの部屋からは遠い厨房へ出るものと、本部の裏手に出るものの二つ。

どちらも、地下を通るものだ。

他にもあるようなのだが、調べがつかなかったそうだ。


5分で全て終わらせる…出来ない事は、無い。

他の隠し通路も地下なら、現地に行けば稜地に頼んで把握することが出来る。

おれも、稜地ほど詳細にではないが、ある程度脳内地図の作成が出来るようにはなっている。

地下通路・地上の隠し通路、地続きにさえなっていれば、どちらも認識することができる。


「どうだろうな。

 見取り図を見る限りでは、他に隠し通路を設けるような場所はなさそうだけど…」


認識できたとしても、それが侵入に使える物なのかどうか、不透明のものに頼るのもいけない。

侵入前の不確定な要素が増えれば増える程、実際に行動に起こした時、短時間で行動を起こすことが難しくなる。


ならばと外から見つかりにくい場所から二階へ侵入する案も提言されたが、即却下した。

階段の使用は避けたい。

足場が悪いしラシャナが転倒する危険が多分に含まれる。

死角も多くなるし音を立てずに行動するのがどうしても難しくなる。


どうしたものか……

命を落とす危険性があるのだし、イシャンの言葉に甘えて諦めて貰うか?

でも、なぁ…


良い案が浮かばないかと、砂に描かれた見取り図から視線を外しぼんやり遠くを見ると、視界の隅に入ってくる、フートの紋様。

ジューダスがガサゴソやっていたけど、結局敵さんに盗聴されていたり、思考誘導されていたりしたのかな?

あの紋様を目印に飛んできて、突然襲い掛かって来るってことは、今さらないと思うけど…

……飛んできて?ん??


「イシャンさんさぁ……英金貨の回収、2分で出来ない?」


ぽんと、一つの案が頭に浮かんだと同時に言葉が出ていた。




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