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巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
火の章
59/110

28




アイツが三英雄の一人ではない、と言う線は無いだろう。

光の大晶霊を従えているのは事実だ。

その時点で『通りすがりの一般人です』なんて事あるわけがない。


地の大晶霊と契約した、おれだから分かる。


低級精霊と契約する事すら並みの術師ですら不可能だと言われている世の中だ。

そんな中で大晶霊と契約が出来る存在なんて稀有以外の何者でもない。


正直、今この世界の中で、大晶霊と契約できるような霊力の持ち主なんて片手で足りるだろう。



おれの故郷の村の住人達は、父さんが選りすぐって集めた、戦闘や諜報に秀でた、世界的に見ても精鋭と評価されている人たちで構成されている、らしい。

そう自称しているのを聞いたことがあるだけで、世界中の国を巡って

『○○さんは世界で10指に入る実力の持ち主だよ!』

って聞いて回った訳じゃないから本当かどうかはしらない。

でも、今まで旅をしてきた中で、確かに皆の実力を振り返ってみると、確かに、農民たちよりも随分と強いとされる冒険者と比較しても、洩れなく強かった。

おれがようやく“金”になった訳だけど、おれよりも強い連中なんてゴロゴロいた。

村人全員に冒険者証が発行されれば、おれも

『久方ぶりに現れた“金”だ!』

なんて騒がれずにすんだだろう。


世間では珍しいと言われる霊応力を村人全員もれなく持っていたし、精霊と契約を結んでいる人だっていた。

火の上精霊を自在に操る事が出来るカガミは、どちらかと言えば、村の中では弱い分類に入る

そんな彼でも、一般的にみたら凶悪なまでに強いと評される。

まぁ、彼の弱さは精神的な問題があったせいもあるけどね。

世間で強者と恐れられていたのは、魔薬によってその精神的な問題が取っ払われ、彼が本来持っている能力を全力で出せたからだ。

その状態なら、もしかしたら村の中での順位ももっと上に位置する事になるだろう。

って言ったって、それでもおれよりは弱かったけどね~


あぁ、そうか。

それこそ、カガミが神威の事を知っていたのは、仕事で組んだ他の村人たち、とくに精霊と契約を直接しているような人が神威化しているのを見たことがあるとか、そう言う理由だったのかも。

カガミは、なんだかんだ言って仕事熱心だったから村を空ける事が多かった。

色んな人と組んで色んな国を訪ね歩いて、その経験の中で神威も含め、おれの知らない知識や体験を重ねて来ただろう。


その中で稜地の事も知ったのかな。

そう言えば、彼はヴォーロスのオッサンのように稜地の事を地神と言っていた。

地の大晶霊じゃなく、地神。

言いやすいから、○○の大晶霊、とか言うよりも○神って呼び名の方が定着していたら楽なのに。



おれは父さんから仕事を振られた事がないので、村に居る間はそんな機会、一度たりとも訪れなかった。

当然だろう。

仕事で空けている人たちの代わりに村を守る人間だって必要だし、なにより村の中では年少組だった。

『たまにはおれも仕事をしてみたい』

と進言した事は何度かあるが、その度に

『村の外に出るのにはまだ早い』

と制止を喰らった。


冒険者として知識と経験を積んで、世界を知って、その上で村に戻って来た時には仕事に出る。

大抵の村人はそうしてきている。

……らしい。


おれの知っている人たちは、皆、既に冒険者生活を終えて何年も経過している人たちばかりだったから、村の慣習としてはそうだよって事しか知らないのだ。



霊応力で言うなら、おれは村の中でどれくらいの位置にいるんだろう…

稜地と契約する前なら、真ん中か、それよりちょっと上程度だっただろうか。

それ位の霊力を持っていても、稜地との契約を正式に交わそうとしていたら、無理だっただろう。


総量が増えた現在でも……難しいだろうな。

今なら、村の人間の中でも霊力だけで言うなら10位以内に入れる自信がある。

しかし、正式な契約となったら、契約を結びたい相手に自分の力を認めさせなければいけない。


簡単に言えば力試し。

術者が契約を望んでも、精霊側がその術者と契約を結びたくないと思ったら全力で襲いかかってくる。

その精霊を、消滅させない程度の力加減をして叩きのめさなきゃいけない。

双方契約締結を好としても、自分を使役するに値するか否か、精霊側から提案された腕試しをさせられる。

直接的な戦闘だったり、精霊の眷属との戦闘だったり。

指定された物を取って来たり、指定された難題の解決だったり。

さまざまだ。

とは言っても、大抵は希望した精霊との戦闘ばかり。

8,9割はそうなんじゃないかな?

残っている文献や人づてに聞いた話の大半は、精霊と戦闘になり、無事契約したとか、願い叶わず亡くなったとか。

そんなものばかりだ。



稜地が後者だったとしても、おれはどれだけ彼に手加減して貰えれば勝てるのだろう、と想像する。

当時の霊力や精霊術を駆使して本気で戦ったとしてやっと、稜地が本来持っている力の一割程度の加減で戦ってくれれば、なんとか勝てるかも?しれないかなぁ??って程度だ。

そんな簡単な試験ある訳がない。


聞いたことがあるのが

『精霊は自身が持つ半分程度の力で術者を試す』

と言う。


神威によって稜地の力に直接触れた今、半分程度の力加減をしてくれた彼を倒すことによって、自分の力を誇示する事が出来るか。

それを問われても即答で

『無理!』

と言うしかない。

昔の霊力と比べた時に何倍にも成長を遂げている今の霊力で考えても、だ。


世界中から集めた強者の集団で上位に入れる自信があっても、大晶霊と契約できる自信は微塵も沸いてこない。

それこそ、村一番の術者は確定しているが、彼女でも契約できるかどうか…


それ位、強大な霊力を持っている人間と言うのは誕生しないのだ。



そうだな。

それこそ、生まれて来る前からこれだけ周囲に影響を与える事が出来る、イシャンとラシャナの子供なら、そうなれる可能性がありうるだろう。

良い師に恵まれて、生まれながらにして持っている霊応力を更に磨き、総量を少しずつでも増やしていけば、あるいは、と言う程度だが。


しかし、この胎児は本来禁忌とされる近親相姦により出来た子供だ。

血が濃い分、霊力が強い。

そうじゃない場合、ここまで高い霊力を持った赤ん坊がどれだけの確率で生まれて来るのか…

何万人に一人、と言う低い割合になる事は間違いない。



その何万人に一人の割合の人間だぜ!

って自画自賛している訳ではない。


おれの場合は、稜地と契約したのは単なる偶然だからな。

先程も言った通り、おれは今の霊力が馬鹿みたいに増えた状態ですら、正攻法で稜地と契約に至れる自信はない。


おれは一般的に見て霊力が高い方で素質はあったようだけど、稜地の勘違いから契約に至っただけだ。

契約した直後は霊力が全く足りなくて失神しているし、今も、稜地が保護者然としていてサポートして貰っているような状態。


稜地がお間抜けだっただけ。

運が良かっただけ。



神威をして、稜地の力を身にまとい分かった。

おれは、彼の力の一割も引き出せていない。

慣れも勿論必要だろうけどさ。


ヤツが言っていたけど、確かにヴォーロスのオッサンは上手に神威をしてのけていた。


あいつが上位精霊との神威、おれは稜地との神威をした状態で戦っても、あいつが上位精霊の力のすべてを引出し効率よく精霊術を行使し戦えるのに対し、おれは稜地の力を出し切れず、あっさり敗北してしまうだろう。


ヤツはどうだったか。


ヴォーロス以上に大晶霊の力、と言うよりはその存在そのものと一体化し、その力の片鱗も逃さず行使する事が出来ていた。

…ような気がする。


稜地と神威化した時、稜地の存在と一体化したような心地になった。

彼の力を身にまとい、その力を我がもののように振るえたことで、自分が強くなったかのように錯覚した。


しかし、違う。

一体化、と言うのはヤツが白亜とした神威こそを指す。

おれのは稜地を、じゃないな。

稜地におんぶや抱っこをして貰ってそれに甘えて力を振るった気になっていただけだ。


地に平伏したくなるほどの絶対強者。

本能が反抗することを許さない英俊豪傑。


普段は存在感ゼロの空気の癖して、ヤツが神威化した時、それ程までの力の差を感じた。

差?

違うな。

埋められない、縮まらない類のものは差とは言わない。


父さんを目の前にした時も、背筋がピンと伸ばさずにはいられない緊張感が伴うけど、ヤツはその比じゃない。

父さんとの力の開きは、血反吐吐きながら死ぬほど努力して、何とか一太刀入れられるようになるかも!?と言う僅かながらも望みがある。


ヤツには、その展望が抱けない。



父さんの上に位置する事が出来る存在なんて、想像上の存在と言われている古代三英雄か、父さんを除く近代英雄の残り二人くらいなものだ。


オラクルが使役していると伝えられているのは、時を司る大晶霊。

口伝されている風体も全然違う。

オラクルは背がひょろ長く学者然としている、完全なる精霊術師。

武術も剣術もてんで駄目。

しかし、それを補い英雄王と共に旅が出来る程の霊力の持ち主だと言われている。

樹齢一万年を超える世界樹から造りだした、大きな輝石がはめ込まれた杖を携え、石墨のように鈍く光る黒瞳と、天眼石のように白髪の混ざった黒くなびく長い髪が特徴だそうだ。


ヤツが使役しているのは光を司る大晶霊。

外套や被り物で隠されているので髪の色は不明だが、神威の時に見た瞳の色は金色。

身長は、おれよりは高いけどイシャンと同じか、少し低い位。

精霊術師ではあるようだけど、腰に剣を下げている。


オラクルの情報とは全然合致しない。

父さんとも、当然、別人物。

そうなると、必然とヤツがアークだと言う事になるのだ。



目を閉じ集中し、回復薬の効果が全身に行き渡ったことを確認する。

これなら、問題ないだろう。


ヤツに言われた通り、稜地の言葉をしゃべる宝石に霊力を注ぐ。

それに呼応するように宝石はふわりと宙に浮かび、蕾が花開くように、意思全体を薄く覆っていた膜のようなものが解け、そこを中心にヴォルくんが顕現する。

そしてそれを、いつのまにか出現した稜地が掴みあげ瞬時に解消し、ヴォルくんはいずこへと消え去った。


ヴォルくんを形作るのに使用する霊力が勿体ないから消したのかな?


ん?と言うか、最初にヴォルくんが顕現したと言う事は、稜地の本体はヴォルくんなのか??

どうなんだ???



「稜地、おかえり」


≪ただいま~、あ~るじ~

 …って言いたいんだけど、あ~のおバカさんに契約強制解除されちゃったから、“主”って呼ぶにはもっかい契約し直さなきゃなんだ。

 ……また、してくれる?≫


目の前に浮かぶ、橙を基調としたひらひらとした衣装に身を包んだ美丈夫に声をかける。

目を閉じ、キリッとした顔立ちは、ゆっくりと開かれた瞳に、途端に滲んだ涙と情けない声とであっさり崩れ、全て台無しになる。


うん、ある意味稜地が返ってきた~って気がするな。


抱きつく恰好のまま固まったと思ったらもじもじと自分の左右の人差し指同士をつつき合い、上目使いで問うてくる、見た目だけは格好良い大晶霊様。

大の成人男性の姿でそういうことしないの。

ちょっとキモイ。


「もちろん!

 ってか、強制解除とか、そんなの出来るんだ…」


≪うん…そうそう出来る事じゃないんだけど、あのおバカさんは特別だから…≫


「馬鹿馬鹿人を卑下した言葉ばかり吐いていると、またコア化するぞ」


≪はい!ごめんなさいであります!!≫


ずびしっ!とヤツに向かって敬礼をして、無い襟元を正す動作をする稜地。


結構な距離が開いてると言うのに、地獄耳ですこと。

あ、稜地の声って大気を振るわせて発せられるものじゃなく、直接脳に響くものだし、距離が開いているか否かは関係ないのか。


コア…さっきの宝石の状態の事、かな。


あの底が知れない程に膨大な霊力を持っていると、術者が死んだ時しか解消できないと言われている精霊との契約を解いたり、大晶霊すら無効化出来るような技を扱えるようになったりするのか。

それとも、あいつが特別霊力が多い上に、更に特別そうさせるナニカを持っている、と言う事なのだろうか。


少なくとも、稜地はアイツに対して逆らう事が出来ない要素があるように思える。

それが、精神的な繋がりによるものなのか、力による屈服なのか……


いや、表面上の言葉こそ、力任せにアイツが稜地を押さえつけているように聞こえるが、稜地はアイツとのやり取りを楽しんでいるように見える。

実際は、信頼関係が築かれているからこそ、他愛のない、はたから見たら危険にも思える言葉のやり取りが交わせているんだろう。

あるようには見えないが、アイツの人徳がなせることなんだろうな。


…そんな奴がいるのに、なんで勘違いで交わしたおれとの契約を、稜地はまた結ぼうとなんてするんだろう?


≪それじゃ、サクッとしちゃおうか~≫


少々塞ぎ気味にぼーっと考え事をしたのもつかの間。

言って、ちぅ~~~~っと良い勢いで突然口付けをしてくる稜地。

それと同時に一瞬消え失せ、自分の中で稜地との繋がりが再び構成されたことを感じた途端、再び目の前に姿を現す。


真面目な疑問からの不意打ちに、思わず頭が真っ白になる。


≪確かに、力の譲渡や交換にはキスが一番手っ取り早いね!≫


ぺろりと自身の唇を舐めてズビシッと親指を突出し訳のわからない事を言い出すお馬鹿さん。


「ひ!と!!の!!!

 初めて奪っといて何言ってるんじゃーっ!!!!!」


ハリセンを取り出し思いっきり横薙ぎに振り切り、お空の遠くへ吹っ飛ばしたい気分である。

『星になりやがれ、この淫乱野郎!』

そう言ってやりたい。


≪え~!?初めてじゃないよ!!

 ドハラでしたの覚えてないの!!?≫


「覚えてるか!ぼけぇ!!

 あの時死にかけてたってぇの!!!」


興奮した状態でも解るくらいに顔を火照らせながら稜地と言い合いをしていると、ちょいちょい頭頂部をつつかれた感覚がしたので上を見上げる。

すると、今度は白亜に稜地以上に長い間口付けをされる。


もうね、完全に思考は停止状態ですよ。


舌を入れられないだけ良かったのか?

いや、違う。

そう言う問題じゃない。


思考が全くついていかない。

何か考えようとすると変な方向に考えが行ってしまう。


固まっていると、稜地によって引きはがされた白亜と二人により、やれ『ずるい』だの『泥棒猫』だの言い合って取っ組み合いが始まった。

取っ組み合いと言うか、それこそ猫がじゃれ合っているような感じに思えるけれど。


考えてみれば、稜地からしてみればドハラ神殿から解放されて、初めて会う大晶霊の仲間と言う事になるのか。


おれも、数年ぶりにカガミに再会した時は、思わず気分が高揚した。

稜地達の場合は、いくら長生きしていてその中の割合としては少ない年数になるかも知れなくても、何百年と言う永い間離れていた旧友との再会なのだ。

いつもより気分が爆上げ状態なのも、致し方ない、のか…な……?


とりあえず、大晶霊と言う存在は、のんびり屋で接吻魔だと言う事を心に刻んでおこう。

ずるいだとか、抜け駆けだとか、そういう感覚で相手の許可も取らずにするなと言うね。


あぁ、でも。

気持ちを切り替えるなら。

白亜からの口付けにより霊力が譲渡されたのか、稜地に渡して再び枯渇しかけていた霊力が一気に回復したわ。

勿論、完全回復とは言えない。

それでも、そうだな。

回復薬を二本飲んだ位の霊力が回復したように思える。

うん、口付け一つで回復に数日はかかるであろう霊力の補給を瞬時にさせて貰えたのだ。

好しと………うん、しておこう。


『前途洋洋な思春期になんて事をするんだ!』

とか思ってこっそり泣いてなんかいないやい。




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