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巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
火の章
48/110

17




初めての神威化の感想を言おう。

パッと成し遂げパッパと解除してしまったせいで、感慨深さもへったくれもない!

残念!!

初体験なんだし、せめて余韻を噛みしめる余裕が欲しかった。

いや、初めてだからそんな余裕がなかったのか。


ヴォーロスのおっさんやエリアンニスが神威化した時、そのまとう雰囲気に圧倒され神々しいとさえ思ったものなのだけど…

自分でやっても、どれだけの外見的要素の変化があったのか把握できないのが残念だな。


せめて鏡があればよかったのに。


どうしても真面目になりきれないため、軽口こそ叩いてはいたが、イシャン達を守る事で頭は一杯一杯だったし。

その後は術の行使によって爆発的に消費した霊力の換算・把握をするので手いっぱいだったし。


そうだ、そうだ。

イシャンの方は大丈夫だろうけど、後続の馬車が大丈夫か確認しなくちゃ。



すっかり風もおさまり、砂の一粒も舞っていない所を見ると、さっきの狼のような獣がここら辺一帯の天候を操っていたのかな?

火の大精霊の力が強いだろう土地で、なんでこんな風が酷く吹いているのだろう?と不思議だったけど、呪い持ちの、多分魔族の手で作られた魔獣が関わっていたのなら合点がいく。

6つ首や9つ首の魔獣なんかも、魔族の手で作られた生物だったはず。

桁違いの能力を持っていても不思議ではないのだ。


それを一撃で倒しちゃうんだから、神威って本当に凄いわ。

9つ首と比べた時に、どれだけの強さ対比になるんだろうか。

6つ首なんかは、稜地と契約する前の状態のおれでも倒せたし、そこまで強くは無かったけど。

9つ首には殺されかけているからな~

いまの強さが、あの時と比べてどれだけ増したのか単純に気になる。



ガラルから首都であるバキまでの道のりで、ケイヴギアまで行けばバキに行く方法はいくつかある。

しかし、それまでの道。

水路は運航賃が高いから利用する人は非常に少ない。

そもそも平常時の冬ならば、増水していて水路は利用できない。


つまり、ガラルからケイヴギアまではココ、きのこ岩群生地帯は陸路なら絶対に通らなければならないのだ。


そうなると、あの獣をここに配置しておけば犠牲者は必ず増える。

その度にあの獣の力も増え、呪いの力が増せば魔力もその分増し、魔族たちには良いごはんになる。


死には負の感情がつきものだからね。

死に至らなくても、イシャンも“突風”を非常に警戒し恐れていた。

恐怖も、負の感情の一つだ。

それはそれはさぞかし、魔族連中の良い食事になったことだろう。



フートの野郎…


おれとの一件のせいでとん挫した計画がある。

強力な精霊術師を魔堕ちさせ、その上魔獣を無理矢理つくりだし、魔族の勢力を増やす計画だ。


その別の手段としてあの魔獣を作り出したのか。

それとも、それ以前から放っていたのか…


“突風”がいつごろから起こるようになったのか、後でイシャンに聞いてみよう。


突風の正体である狼との直撃は避けられたので、全ての馬車は無事だった。

馬にも砂埃予防をしてあったし、従者は言わずもがな。


イシャンの指示は聞こえなかったが、突風の予兆は聞こえたので自己判断で各自きのこ岩の下に避難しようとしたのだそうだ。

しかし、馬に鞭を打とうとした所で、突然上空がオレンジ色に光り輝き一切の風がやんだのだと。

避難するのも忘れ、光の先を見ると神々しく輝く人影とナニカがぶつかり合うのが見て取れた。

そこを中心に、霊力をほとんど持たない彼等でも視える程に莫大な霊力が爆発するかのようにはじけ飛ぶのを感じた。

衝撃が収まり薄目を開くと、遠くからでもその大きさが判る獣の骨と、そこに降り立つこの世の物とは思えない煌びやかな影。

気が付けば風はおさまり強大な霊力も感じられなくなった。

しかし、下手に動いて巻き込まれたらいけないし、夢心地な状態で変な判断を下してもいけないと様子を窺った方が良いと助言を受けて待機していたんだって。

そうしたら、おれが駆け寄ってきた、と。


おれ、そんなに綺麗だった?

えへへ~


…と調子づこうとしたが、残念ながら遠目だったので、その光り輝く人物がおれだったとは微塵も気付かず、今でもギャップが激しすぎて同一人物だとは思えないってさ。

ちぇっ。


いつの間にやら目を覚ましていたカガミは、奇襲をした事に対しての謝罪の意味も込めて、最後尾の馬車の護衛を買って出ていた。

待機の助言を出したのも彼だ。


厳重にミノムシのように簀巻きにしていたのに、全て解かれてしまっていたよ。

目を覚ました時にその間抜けな様を指さして笑ってやろうと思ったのに、残念。

誰だよ、解いたの。


しかし、おれの変身っぷりに素直に驚いて賛辞の言葉を浴びせてくれたので、不平不満は水に流してやるとしよう!

流石に、彼は神威化して神々しいまでに目映い輝きを放っていた、と言う存在と、おれが同一人物であることを認識できたようだ。


付き合いの長さの差ですかね。

いや、単純に霊力の差だろうな。

忘れがちだが、霊力が低いと稜地の姿は見えないのだ。

それと一体化するのだから、神威化したらおれの姿も認識しづらくなるのだろう。

多分。


そのカガミに、

『後で聞きたいことがあるから、次の休憩時に時間寄越せ』

とだけ一方的に言ってイシャン達の馬車へと足早に戻る準備をする。


突風による混乱と、砂埃による視界不良のせいで、それぞれの馬車の位置が本来の街道からズレてしまっている。

誘導してやらなきゃいけないからね。


飛鶸を各馬車につけているので、おれは何となくの位置が把握できる。

だけど、従者の誰一人として“ある特定の霊力塊”の気配を辿る事が出来ないんだもの。


面倒臭いけど、イシャン達の馬車と合流するには、おれが案内してやらなくてはならない。


カガミは、飛鶸程度だと無理だが、おれ、と言うか、稜地かな?の気配なら辿れるそうだ。

一般的な霊力値ってそんなに低いのかねぇ。

イシャンも無理だって言ってた。

ラシャナは…子供次第だとさ。


裂界轟翔塵のお蔭で、ここら辺一帯は綺麗に浄化され魔の眷属は一匹たりともいなくなった。

それに加え、おれに危害を加える危険性がある野獣の類の一切を遠ざける効果もある術技だそうだ。

汎用性が高い術だね。

霊力の消費量さえ多くなければ。


その為、野生生物の奇襲の心配もいらない。

それならばと、イシャンの馬車から狼煙を上げて誘導するし、その煙を頼りに合流するように各々に伝えた。

人間の奇襲の心配もいらないってイシャンは言っていたしな。


おれは手が抜ける所ではとことん手抜きするよ!


まぁ、もしここら一帯を覆っている砂塵による視界不良の中でも奇襲を仕掛けてこようとしていた野盗、及び雇われた冒険者達が居たのだとしても、おれに敵意を向けた時点で野獣たちと同様、この場からは強制退場させられている。


どこに飛ばされたかはおれの知った事ではない。

まぁ、運が良ければその場に気絶するだけで済んでいるだろう。

早く目覚めると良いね。


場、と言うのはつまり術によって出来た“領域“のことだね。

自然生物で言う所の、縄張りに近いかな。

ここはおれの場所だから、害をなす者は出て行けー!

って出来る。

逆に、敵意を向けている者のみを招待できるようにする事も出来るそうだよ。

領域の効果を意識して変えるとなると、随分と力が強くないと無理だそうだけど。


今回は、通常の領域効果でしかないから…半径、何kmくらいかな?

認識できるだけで10km以上はあると思うんだけど…


火の精霊と土の精霊は相性が悪くはないので、このままもしかしたらこの辺り一帯は火精霊だけではなく、地精霊も棲む土地になるかもしれないな。

おれと稜地の力を合わせた強さの全容が把握できていないので何とも言えないが、属性が変わって地精霊のみが棲む可能性もある。

そうなると、多少なりとも気候の変化が出てきてしまうだろう。


大丈夫かな?

そうならないためにも、火の大晶霊と契約できた暁には、再びこの地を訪れた方が良いかもしれない。


これだけの広範囲が浄化された、となると、あの魔獣が出現したのは最近な気がする。

何十年も経ってはいないだろう。

この地に棲みつき、場が魔の領域に完全に支配されていたら、もしくはある一定以上傾いていたのだとしたら、強大な力を持つとはいえ、初神威化して使った術がこれほど広範囲の場を浄化することは出来なかっただろう。


なにより、もっと人的被害が大きくなっていたと思う。

毎年死者が出ている、と言う割には国からの対策はなされていなかったようだし。

自然現象だった場合でも、何かしらおこる理由が当然ある。

国単位になればそれをどうにかできる術者の一人や二人、派遣できただろうし。

まだ、様子見中だったのではないだろうか。

長くても、5年程度だろう。


毎年被害、と言う事から、あの名もなき村でおれがフートを退ける前から狼は居たことになる。

つまり、フートと今回の件は無関係なのか…?

いや。

そうだとするのなら、あの紋様を最近見過ぎている。

偶然ではあるまい。


そう……カガミに聞きたいこと。


『フートと言う名に聞き覚えがあるか?』


これに尽きる。


彼が目覚めた直後の事は元・五号車の従者たちの話でしかないが、襲撃時とは別人のようになっていた、と言う。

先程会話をした彼は、むしろおれからしてみれば、在りし日の彼の姿を容易に思い出させる雰囲気をまとっていた。

柔和な笑みを浮かべる温厚な兄ちゃん然としていて、言い訳もせず自分の罪を悔い謝罪し、命を救って貰った恩返しにおれの助力をしたいと、この先の道中の護衛を申し出て来た程だ。

その言葉に嘘偽りは感じさせない。

打算的な物もない。


流石、父さんにしごかれた仲である。

正義感に溢れる、優しい心の持ち主に戻っていた。


自分には安心材料がないだろうから、と言っておれに霊力を込めれば遠隔操作で爆発させられると言う首輪の起爆装置を渡しまでした。

勿論使うつもりはないが、従者を納得させるために、その首輪は今彼の首にはまっている。


そこまでやる必要があるのか疑問だったが、暗殺者として有名で、実際イシャン達を襲っており、けが人が出ていて、荷物も一部破壊されているのだ。

おれ以外の人間が、彼に信用なんてある訳ないもんね。


むしろ、

『なんでそこまでしてなんで付いてくるの?』

って話なのだが。

行き先が同じだろうから、と言うのと誰も居ない所で、後でおれに事情を話しておきたいからだそうだ。


行き先が同じ。

何で断言できんの?

と思ったが、イシャンが向かっている先はバキを経由し、最終目的地はアハマドの拠点があるバルナである。

元々アハマドの子飼だったと噂される彼だ。

洗脳めいた症状が解けたとはいえ、主人の元へ戻るのは当然と言えば当然、なのか?


俺が思うに、多分、アハマドへ報復をしに行くのかな、と。

状況からして、カガミの後ろに付いていた連中は、カガミが死んだと思っている。

そう判断させるだけの傷を負ったのだ。

当然だ。


それならこれ以上は自分に無関係だからと、村に帰る事も出来るだろ。

それをしないのは、バルナに外せない用事があるから。

彼にとって村の掟は絶対だ。

彼の意識をしない所で、どれだけ外部に自分や村の情報が漏れてしまったのか判断がつかないのなら、自分の手で落とし前と言うのを付けなければならない。


アハマドだけに留めるのか、その後ろに控えているかもしれないフートにも、なのかは判らない。

現時点では、カガミもどれだけの人間を始末しなければならないのか判断付かないだろう。

彼の不始末とは言え、アハマド側の支配下から抜けた途端昔の甘ちゃんに戻ってしまっていたら彼一人では無理な気がするのだけれど…

だって、素面で人、殺せるの??

と言うお話でね。


彼の目からこぼれた義眼。

これもよくよく見ると、中心部のみ魔石で作られていた訳だが、あの狼のような獣の額に付いていた魔石と同じ紋様が刻まれていた。

魔力を込めた片眼鏡越しでなければ気付かない程に、義眼の中央に小さく、小さく施されていた、一種の呪いの類の紋様。


おれが説得を試みたり、おれに逃亡を促す動きをした時、また、彼が手を抜いておれに向かって来たであろう時に、この義眼が赤黒い光を帯びていたのを目撃している。

その度に変に全身の筋肉が強張っていた。

この義眼、および義眼を通して誰かにカガミは操られていた。

どの程度なのかは分からない。

まぁ、肉体の行動制限はかけられていたのは間違いないな。


監視されているみたいだったし、監視者の意にそぐわない事をすると直接脳に作用する魔術が発動していたのかな。

完全な遠隔操作が出来るとなると、随分大きな力を必要とする。

飛鶸がそうだからね。

この義眼はそれほど多くの魔力を内包していなかったし、そこまで大きな仕事は出来ない。


想像の域を超えない。

しかし、間違いではないだろう。


どうあがいても勝てないおれに、なんでカガミが襲い掛かって来たって、操られていたからなのかな~と。

父さんから戦闘のイロハを同じように教わった彼が、格上・戦闘困難な相手を前に逃げないと言うのはどう考えてもおかしいからな。


『戦闘において、自身の生存率を上げる方法は相手の力量を見極め、同等以上の場合は、即、退散!』

と言うのが絶対の掟だと、さんざん父さんから言われた。

逃げられない場面では腹括って、なるべく冷静に、頭に血を上らせないように、相手を観察するように言いつけられている。

父さんの言いつけを破った場合の鉄拳制裁の恐ろしさは、彼も骨身に沁みているはずなので、確実に格上の相手であるおれが相手だと認識した時点で逃げないのは、この場限りではどうにかなったとしても、後々どこかしらから露呈した際に、父さんに殺された方がマシ級の折檻をされる。

お、恐ろしや…



飛鶸を通して視た、先頭の馬車を破壊した時のあの苦しみ様からして、馬車の破壊はカガミの意思。

そしてそれはアハマドの命令範疇外。

もしくは命令違反だったのだろう。

アハマドはあの積荷の中身を売りさばいて利益を得るなり、イシャンを嵌めて殺害するなり、なにかしら自分に有益になるよう動いている訳だ。

しかし、カガミがあそこで積荷を破壊したのが痛手になってしまった。

なので義眼を通してカガミに御仕置をしていたのだろう。

その苦しみから逃れるべく、大人しく任務を続行。


イシャンとラシャナを予定通り殺害するべく探し、おれと対峙する事になった。


表面上でも戦闘していればその呪縛から逃れられるようになっていたのか、呪縛により肉体は操られていたけど、おれは殺せないからとなるべく抗って、結果手加減に至ったのかは判らない。

けど、まぁ、いつも以上に弱かったのでなんの問題もなかった訳だ。

いや、格下の相手だからって、油断して背後から一撃喰らいそうになったダメ人間ですけれども。

どうも、何事も油断しまくりでいかんね、おれは。

反省してもなかなか改善しないからたちが悪いね。



カガミが積荷を破壊した理由を考えてみる。


多分、操られるに至った経緯として、あのポーションとやらが関わって来ているんじゃないかと。

定期的に摂取しないと禁断症状が出る、と言う話だった。

何らかの経緯であれを口にしなければならなくなったカガミが、禁断症状を抑えるためにアハマドにいいようにこき使われるようになってしまったんじゃないのかな。


彼は正義感は強いが正義漢、と言う訳ではない。

しかし、筋が通らない事はしない人物だ。

その上おれ以上に慎重かつ臆病者。

自分の力の程度は自覚している。


どんな理由で近づいたのかは予想する事すらできないが、アハマドに接近した時点で奴の裏の商売の事は把握していただろう。

どんな危険が孕んでいるかも解っていただろうに。


離れていた期間が長いとはいえ、さすがに根本の性格から逸脱した行動をとるなんて、早々ある事ではないと思うんだけど…

余程の理由があった、と言う事なんだろうな。


何だろう?

父さん経由で直接命令が下った依頼だったとか。

国とか規模の単位が大きい所からの依頼だったとか。


それなら断る事は出来ないだろう。




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