表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
プロローグ
3/110

3

エリーヤといったん別れ、元居た場所へと走って戻る。


先ほどみたいに必死に走らなくても良いんだろうけれど、待たせるのも悪いし。


それ以上に、強さに関して騎士を引き合いに出してきたってことは、あいつの周りに居る強い人間=御国務めの連中と言う事!

つまり!!

おれ以上に旅慣れしていない人間!!!


そんな奴が冒険者の貴重な収入源である素材を収集が上手に出来るとも思えない…

下手な奴に任せたら、市場価値皆無の魔物の成れの果てが出来る可能性が大だ。

もしかしたら

『処理』の意味も

『素材を採集しておく』

と言う意味ではなく

『亡霊系の魔物にならない為の処理をしておく』と言う可能性がある。


まずい…

それは非常にまずいぞ……


未だ細く煙が立ち昇る方へとなるべく急いだ。


それほどこの場を立ち去ってから時間が経ったとも思えないのだが、到着した大きな穴の中身は、すでに充分炭化していた。

首をひねりながらも前回同様聖水をかけ、土精霊にお願いして土をかぶせる。

とんぼ返りになるが、合掌してすぐに踵を返し再び走る。


さすがに、小半時もほぼ休まず全力疾走するのは疲れる…


体力落ちたかな~なんて一瞬考えたけれども、そういえば魔物との戦闘もしたし、その前に本気の全力疾走してたんだった。

しかも障害物を取り除きながら。


疲れて当然と言えば当然か。


息を切らせながら到着すると、未だに魔物の手足を切り落せず四苦八苦しているエリーヤに安心半分、呆れ半分ながらも、声をかける。


「戻ったぞ」


気配を察知できなかったのか、驚きのあまり地べたに座って作業をしていた彼はその恰好のまま地面から数寸跳ね上がる。


精霊術も何も使っていないのに宙に浮くとは…どれだけ大臀筋鍛えているんだ、こいつ?


「は…早かったな、レイシス君。」


「レイシスで良いよ。

 こっちも呼び捨てにしてるし」


息を整え、整理運動として手足の筋肉を伸ばしながら返答する。


いちいち敬称つけて呼ばれると、畏まられている気がして背中がむず痒くなるから嫌いなんだよね。


世界の一番隅、とでも言えそうな田舎の村出身だからか、大人も子供も分け隔てなく基本呼び捨てと言う社会で育ってきたからか、自分の名前に“くん”や“さん”がつけられるのは苦手だ。

“様”なんて、もってのほかだね。


「煙の昇っていた方向に走って行ったし、かなり距離が離れているように推測したのだが……思ったよりも早く戻ってきたものだから、驚いたよ。」


「たかだか往復15里程度だ。

 小半時もあれば充分だろ?」


心臓のあたりを押さえ、目を見開いたままのエリーヤの目が、それこそ目玉が零れ落ちるんじゃないかと心配になるほど、更に見開かれる。


「随分と古い言い方をするな…

 一里が……何メートルだったか……

 4キロメートルない位?だった気がするが。」


首を捻りながらぶつぶつと何やら数字を呟き始める。


え、数の計算も出来ないの?

どんだけ脳筋なの??

馬鹿なの???

馬鹿なのか?????


「出身がど田舎なものでね。

 物の単位がちょっと前時代的化も知れないね。

 4きろめーとるが1里なら、60きろめーとるって所だね。

 小半時は…たしか、30分…?」


時間の単位は、色々現行のものと違うと色々大変だろうと冒険者証を発行してくれた親切な斡旋所のお姉さんが教えてくれた。

知ってはいるけれど、無意識に出てくるのは使い慣れた単位になってしまう。

大体、暫く、とか、ちょっと、とか。

ふわっとした適当な時間の概念で生きてきたのに、急に秒とか分とか言われても感覚的に慣れないんだよね。


何か、そんな時間に細かい区切りつけて縛られていたら胃に穴が開きそう。


服をはためかせて上着の中の蒸れを逃がしながら、エリーヤを見ると……目玉が零れ落ちる代わりに、口から何やら魂を出していた。


おれ、さすがに復活の呪文は知らないんだけれど…


相手をするのも面倒なので、魂を漂わせているエリーヤは放っておいて。

6つ首の魔物を見下ろす。


中世に退治されたラドゥーンと言う数多の首を持つ竜と、特徴は似ているな。


通常、竜の首は一つであり、体躯は大きく超大きくした蛇みたいな外見をしていたり、超絶大きくした蜥蜴みたいな姿をしている

こいつは、体はずんぐりむっくりした蜥蜴で、そこから蛇みたいな首が6つ生えている、何とも珍妙な生き物だった。


まぁ、6本も首があったら重いだろうし、それを支える体はそれ相応の大きさじゃないといけないのだから、このだるま体型は理に適っているのだろう。


その体型のお蔭で、首以外の動きは鈍く、爪の斬撃と噛みつき攻撃さえ気を付ければどうってことなかった。


竜だったら、その個体の属性によるけど炎を吐いたり凍てつく息を吹きかけてきたりしてくるものが多いしもっと手こずっただろうし、表皮も年齢に応じて強固になるから、場合によっては刃が通らないこともあるし、爪から衝撃波を出すやつもいる。

そして身体の多い差に似合わず素早いものの方が多いそうだ。


なのでこいつは竜じゃない、と断定できる。


エリーヤを発見した時の状態がやばかったので、つい、考えなしに飛び込んでしまったけど、雑魚で良かった。


切り飛ばした頭部があちこちに散乱していたのでそれを集める。


頭は蛇に近いようだ。

その場合、眼に石化魔法をはらんでいる場合がある。

戦闘の際に発動しなかったからと言って固有技能が備わっていないと限らない。

うっかりものの魔物だって居るだろう。

気を付けなければ。


父さんの旅道具からこっそり貰ってきた片眼鏡を装着し、魔力を込める。


すると、うっすら硝子面に薄く魔法の膜が張り、目の前のものが何なのかを一定時間表示してくれる便利道具へと変わる。

魔力を込めた量により、その時間はより長い物へと変わる。

そのうえで、一度魔力を込めた片眼鏡は、術が発動している間は誰が装着してもそれを通して見識眼が手に入るという超優れもの。


魔族に伝わる禁忌術・魔眼、と呼ばれるものを手に入れないと見識眼なんて手に入らないと言われているんだけれど、親父殿はどこでこんな便利なものを手に入れたというのだろうか…?


用心深く見識眼を展開しながら手身近な首を慎重に拾い上げる。


どうやら、石化魔法をはらんでいるわけでも、頭部分離型の魔物で絶命したと見せかけて油断したところを

『隙ありぃ!!』

とか言って攻撃してくることもないようだ。


まぁ、撥ね飛ばした時に血が噴き出していたし、きちんと胴体から生えていたのは明白か。


頭部で素材になりそうなものは、目玉と牙だけだな。


ただ、目玉は保存容器を持っていない今採取しても腐ってしまう可能性が高いし、諦めよう。

牙は毒が仕込んであるようなので、牙に触れないよう用心深く解体する。

毒持ちの蛇牙は、薬になるんだったかな?砕いて使うくせに、折れると値段はぐんと下がる。

細く折れやすいし皮膚に触れただけで毒に侵されるかもしれない、と言う面倒臭い事この上ない素材なので、素材指定された依頼以外で集めようとする冒険者の数が少ないんだよね。

あらかじめ用意しておいても、依頼が張り出された時には折れてて使い物になりませんでした、なんてことが往々にあるから、どうしても依頼が張り出されてからの収集になりがちだし。

それでもって、指定依頼が出たとしても、毒の危険性があるから冒険者からは倦厭されがちなのだ。

だからお値段が結構良かったりするんだよね。おれは海綿を持ち歩いているから折れる心配がほとんどいらないし、採取、採取~


腕からは爪と骨、あとは鱗だね。

爪は武器にも防具にも装飾品にもなるから外せない。

が。

骨はどうするかな。体が大きい分骨も長く太いからかさばる。

利便性が高い物だけ採るかな。

叩いてみると、随分強度が高いようだ。

防具に加工しやすいし尺骨と肩甲骨が良いかな。

鱗は一枚一枚剥がすのは面倒臭いので薄く肉を残して削いで巻物みたいにして持ち歩こう。


胴体は皮と鱗甲。これはなるべく大きく採りたいから丁寧に剥ぎ取る。


首を刎ねてあったから血抜きは完璧だし、肉も貰って行こう。


村にいた頃の習慣と、売っている肉の金額の高さからなるべく携帯食の干し肉は魔物の肉で作っていた。

確かにべらぼうおいしい物ではないだろうけれど、癖になる味と言うか。

なるべく赤身の所を選んで切り分けて~薄く切って~塩と適当な香辛料と薬草が入った袋にぶち込んで~放置!

街に着くか、エリーヤの説得が無事済んで遺跡に着くかしたら干そう。

それまでは道具袋の中に眠っておけ。


そうそう、エリーヤだ。

採集に集中しすぎて存在を忘れていた。


解体も処理も全部終わり、血も水精霊の力を借りて洗い流し、思い出してエリーヤの方を振り返るが…まだ、放心している。

おれがいなかったら、こいつ何度死んでることになるんだろうな。


国王から直々に依頼を承るくらいだし、遺跡の立ち入り許可もぎとってやるぜ!って息巻いてた位だから、身分が高いか、実力があるか、あるいはその両方か。


大人物だと思ったんだけれど、そうじゃないのかなぁ…

単なる自己過大評価の放蕩野郎なのかなぁ……


担いで歩くのは遠慮したいが、こんな日陰もない見通しが良い所でこいつが正気に戻るまで待つなんてまっぴらごめんだ。


この6つ首がおれが埋めた仏様を量産した犯人じゃないと判った今、真の犯人たる魔獣が近くに潜んでいる可能性だってあるわけだし。


連戦なんて面倒臭い事はもっとごめんだ。


「ピョエスァ ヤムドゥ ワー スィア ピュンワール クィルンワンス」


一つため息をついて、エリーヤが本当にきっちりしっかり意識を失っていることを確認してから、父さんから

『あまり人前では使わないように』

とくぎを刺されている術を展開する。


ここ最近、ため息をついてばかりだな…

幸せが逃げるって言うから嫌なんだけどなぁ。


神々しいとも言える雰囲気をまとい、おれの言葉に呼応して顕れたソレらに、おれとエリーヤを6つ首の魔物の棲みかだった所への移動することの依頼をし、大小さまざまな石を取り出しソレに差し出す。


希望が通り、琥珀色の石だけが10個ほど宙に浮き、霧散。

煌々と宙を漂うそれに、目を閉じエリーヤの記憶を通し頭の中に流れてくる情景と、そこに行くことを思い描く願いとを重ね、おれの霊力と石を喰らい、術が発動する。


まばゆい光がおれたち二人を包み込み──その光が集束し一筋の光となって、消えた。

消えたその場には、誰も、いなかった。

あるのはすっかり解体され、自然に還るのを待つ六つ首の魔物の死体、それだけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ