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巡り巡りて巡る刻  作者: あすごん
風の章
101/110




「着・い・た・ぞー!!!」


両手を大きく上げて歓喜を表す。

万歳ではなく大晶霊二人に教えて貰った

拳を空に掲げるガッツポーズと言う奴だ。

こっちの方が達成感を表現するのには向いている気がするので気に入っている。


門番の体格が良いおっさんが滅茶苦茶訝しげな顔でこちらを見る。

しかし無視だ!

一か月以上ひたすら靴の中に入る砂と格闘し

幻覚の見える砂漠を延々歩いてきたのだ。

少しくらい浮かれたって良いじゃないか。


大小二つある門の丁度真ん中に立っていた門番がこちらに小走りで寄ってくる。

兜を取るそぶりも見せずいつでも右手に持っている大斧を振るえる

そんな態勢のまま声をかけて来た。


「君、遭難者か?」


第一声がそれかよ!?

普通『旅のお方、〇〇街へようこそ』だろうが!!

来た事ない国を訪れる時のあの胸の高まりが一気に下がったよ!!!


まだやっと到着出来たという喜びに高揚しているので

そんな不躾かつ失礼な物言いはスルーしてやろう、そうしよう。


「いや、リヤドから徒歩で来た冒険者だよ」


言って胸元から冒険者証を取り出し提示する。

身元保証の確認が取れたなら早く検問所に連れて行って欲しい。

入国の手続きなんてこんな雲一つない日差しが痛い中するもんじゃないだろ。


しかし不遜な態度を改めることなく無遠慮に頭の先からつま先まで

じろじろと鋭い目つきで睨まれながら門番の質問は続く。


「金……バルナを救った英雄とはお前のことか?」


ぶーっ!

思いもよらない言葉が門番の口から飛び出し噴き出す。


「は……はぁ!?」


素っ頓狂な声を上げてるおれを余所に尋問が続けられる。

名前や出身地、この国へ来た目的なんかの通過儀礼的な質問は勿論なのだが

違和感があったのは「性別は」と言う質問。

どっちも違う、とそのままの事実を言おうとした時稜地から静止がかかり

男と答えるように頑なに言われたので答えるとその直後。


胸部を揉み、撫でられた。

反射的に使い慣れて来た、その上で予備動作なしで出現させられる得物

ヴォルトゥムナ・バルディッシュを顕現し門番の横っ面を殴り飛ばしていた。


おぉっと。

見知らぬおっさんに身体をまさぐられるという

不快以外の何物でもないセクハラをされてつい思わず手が出てしまったぜぃ。

てへぺろ~


でもでも!

炎をまとっているレーヴァテイン出すよりましだと思うんだ!!

刃の部分じゃなく側面で叩いたし兜があるから死ぬような事はないんだし。


「なにをする!?」

「何って失礼な事したのはそっちだろ。

 おれが女だったら裁判物だぞ。

 最悪私刑だぞ。」

「女にそんな権利がある訳ないだろう!

 逆上したという事はお前、女だな!!」

「初対面のおっさんに身体まさぐられるのなんて誰でも不快になるだろ。

 ってかおっさんに触られて喜ぶような特殊で奇特な性癖持ってる奴なんて

 早々いねぇよ。

 身体検査するならそう一言言えば良いだけだろ」

「じゃあこの場で裸に「折るぞ」


ひっと情けない声を上げて後ずさる門番。


ったく。

やっと着けた喜びを怒りがこの瞬間上回った。

今のおれは非常に不機嫌だ。

砂埃で汚れた服も身体も早く清めたいのにこんな所で

益の無いやり取りに時間を取られるなんて馬鹿馬鹿しい。


突如出現した大斧とおれの雰囲気から揉め事が発生した事をやっと察知した

門に控えていた残りの二人もこちらへ駆け寄る。


うん。

冷静に考えてみれば流石に大晶霊の武器で殴るのはやり過ぎたかも?

兜の形変わっちゃって、あれ、脱げるかね??

金属だから地属性のヴォルくんの作用が強く出ちゃったんだろうね。

あちゃ~。

やれやれだ。


「何事だ!?」

「隊長。

 このガキ金の英雄だと嘯き男と偽り私に暴行を加えてきました。

 死刑に処しましょう!」

「おれは英雄だなんて名乗ってないし偽っても居ないし

 人権侵害してきた不届き者を軽く注意しただけですけどね」


突然出てきた死刑の言葉に内心冷やっとしたが

こう言う小者はすぐに大仰しい事を言って相手を脅そうとする。

それこそ体調隊長の地位を持っている奴なら

その権限の一部位有してるかもしれないがこいつにはない。

おれは自分に非が無い態度を崩さなければ良い。


小者を殴った時に一緒にふっ飛ばされたおれの冒険者証を

隊長さんが拾い上げ検める。

本物だし、そんな穴が開くほど見ても怪しい所なんて見つからないよ。


「……君、どこの出身だ。」

「ジャーティの……東にあるド田舎の村だよ」

「この冒険者証はジャーティで発行された物か。」


ジャーティの更に東、とは言わなかった。

ヴェルーキエでは”ジャーティの更に東”と言う立地条件から

幻の国がおれの出身の村ではないかと憶測を建てられた。

詳細を述べる必要はないだろう。


オルサと言う村の名前がどこまで浸透しているのか分からない。

英雄王が統治する集落=オルサだと知っている人間がいたらまずい。

父さん達は世界の平和を秘密裏に守り続けている。

その活動の邪魔になる可能性は作りたくないからな。


ジャーティは特に政権交代が激しく

国の中で幾つも敵対勢力同士が自身の領土だと主張している州がある。

西と東でそれぞれ三つずつ。

その境界線は曖昧でよく変わっている。

村の名前も町の名前もころころ変わるし。

田舎の小さな村なら名前が付いていないことも多い。

ジャーティ出身の者が西の、東の、と曖昧な表現をするのは普通の事だ。

怪しまれることはない。


「……性別は?」

「そこ、そんなに重要なの?」

「私の部下が言うには君は女だそうだが。」

「違うよ」

「嘘ではないな。」

「大晶霊に誓って」

「身体検査を要求したら。」

「当然従うよ。

 門を守る人間の正当な請求だ」

「…………よろしい。

 左の大門を通りなさい。」

「た、隊長!?」


歪ませた兜と格闘していた門番その一、二が隊長さんの言葉を聞いて狼狽える。

隊長さんはそれを手で制し黙らせた。

『上の決定は絶対です』と言うのはどの国でも同じだね。


暴れる必要はもう無いようなのでヴォルくんをしまい

この先一生脱げなかったら大変だろうと

セクハラしてきた門番その一の兜に手を触れ歪みを失くす。

元通りには出来ないけど、まぁ、これなら脱げるでしょ。


触れようとした瞬間小さく悲鳴を上げるあたりやはりこいつは小者だな。

いらっとさせられてしまったおれまで小者のように思えてしまうじゃないか。

平常心を心がけねばね。

まだまだ修行が足りないなぁ。



隊長さんの案内により門をくぐり内壁に入る。

言われた通り、大きい方の門だ。

出入り口は違うけど中で実は繋がってるんだよ!

と言う意外性も何もなく右には煉瓦で作られた壁がある。

小さい門は何のためにあるんだろうね。


入ってすぐの所にある方陣でに立つと風精霊術が起こり砂を落としてくれた。

当然床を汚してしまったのだが

それを片づけるのも門番の仕事だから気にするなと言われた。


案内されるままにいくつかの扉を通り過ぎ一つの部屋に通される。

必要事項を記入する紙を渡されそれを記入している間に写すからと

冒険者証の提示を要求される。

記載されている名前や階級の他通し番号やそれを所持している冒険者の

身体的特徴を一緒に書きあげていく隊長──ミハエルさん。


覗き見ると

年齢十五歳前後

肌色:白く女性のような顔立ち

目:大きく青

毛色:睫毛の色は薄い(髪色と相違がある為髪を染色している?)

耳:逆三角型で大きく厚い

鼻:筋が通っているが低い

唇:上下共に厚く色が濃い

顎:小さく尖っている

手:指開きのグローブを細い複数の紐で留めている。小さい

足:ジャーティ周辺で履かれる布製。24cm

肉体:157cm細身、体幹鍛えられている

ジャーティの民族衣装に類似した白い衣服、茶に近い緑のマント。

大粒の輝石がはめ込まれた指輪(青:左親指・赤:左人差指・茶:左中指)

登録以外の武器を所持(ハルバード・精霊術の一種か?)

好奇心旺盛

喧嘩早い

隙が少なく手練れ

等々すらすらと余白を埋めていっている。

よく見ていらっしゃること。

身長とか足の大きさなんて測っても居ないのによく解るな。

ってか鼻が低くて悪かったな。

身体的特徴いじるの禁止!


≪レンガの大きさが大体一緒だし、それで判るんだろうね~≫

≪門の所に印ついていたしそれで大体のサイズがすぐに把握できるんだろ≫


疑問に答えてくれる大晶霊二人の言葉に頷きながら入国手続きを進める。

立地的に三つの大陸の真ん中にあるからか

結構確認される項目が多く面倒臭い。

簡単な所だと冒険者証の提示だけで終わるからな。


武器の登録も初めてだ。

外部の者による犯罪が起きた時の保険との事だが。

暗器の類も出さなければいけないのだろうか。

もし全部把握されちゃったら暗器の意味なくなると思うんだけど。


どきどきしながら腰に差している刀と杖だけを差し出す。

盗まれたりちょろまかされたりしたら嫌だな、と言うどきどきと

隠している物も出しなさい、と言われやしないかと言うどきどきとが混ざる。


「……これだけか?」


やっぱり暗器も出さなきゃ駄目ですか。

そう思ったが続けて「あの斧は?」と言う質問が来たので慌てて

投手剣を出そうと懐へ伸ばした手を引っ込める。


「あれは精霊術の一種なので……」

「召喚か」

「……たぶん??」


自分で使っている術の把握をしていないのか

と言いたげな胡乱な眼差しを向けられる。


だって知らないんだもん!

稜地の専用武器を貸して貰っているって感覚だけど

顕現させるのはおれの霊力だし、一応召喚になるんだろうか。

因みにヴォルくんを想像だけで作り出せやしないかと頑張ってみた事はあるが

形が固定しにくい上に維持し続けるのに霊力を阿呆みたいに使うので

実戦には使えないし模造品の作成は断念した。

霊力による武器の顕現って難しいんだね。

大晶霊の武器は元ある物を霊力で物質として固定するだけだし

慣れてきたら結構楽なんだけど。

おれの手から離れたら消えるようにしてから霊力消費量も抑えられるように

なったので結構使い勝手が良い。

長期戦になる事を予想される時はむしろ顕現する時に一気に霊力使って

存在を固定させてしまった方が消費霊力量は抑えられるようだが。

二人に手合せして貰った時に得た知識さ。

おれも成長しているのさ!


ヴォルくんを出すように促されたのでおれの手を離れたら無くなるよ

とだけ前置きして顕現させる。

触っても良いか聞かれたので稜地に確認を取る。

おれが顕現させたとしても稜地の持ち物だもん。

又貸しは良くないもんな。


≪持てるもんなら持ってみな~≫

と意地の悪い笑みを浮かべながら許可を出してくる。

紅耀と契約してから稜地は少し悪戯っ子になったように思える。

兄弟と再会して嬉しいが故なのか地が出て来たのか。


ヴォルくんを横にして手渡す。

柄の部分を両手で受け取った事を確認し手を離すと

ミハエルさんのその手が地面にめり込む。

全身で転倒したのでなんともまぁ間抜けな姿だ。


予期していなかったためおれの手から離れたヴォルくんは

すぐに霊力へと還りその姿を消した。


「君は……あんなに重い物を片手で扱えるのか?」


潰れた指と亀裂の入った床を見る限り

確かに相当な重量の物がそこに負荷をかけたのだろうと予想される。

だが、おれにはヴォルくんは羽のように軽く感じられる。

使用者以外には扱えないようになっているのだろう。

稜地が何か企んでいるような物言いをしたのはそのせいか。


「喚び出した術者以外には使えないんでしょうね」


言いながら再びヴォルくんを呼び出し片手で回転させた後

ミハエルさんの指を治癒するのに邪魔なのですぐに消す。

何処からともなく現れた武器が瞬時に空気に溶けて行った上に

無意識で詠唱を唱えず瞬時に治してしまったものだからそれにも驚かれた。

それと同時にこれが金か、と神妙な面持ちで納得される。

『登録以外の武器を所持(ハルバード・精霊術の一種か?)』

の一部に横線を引きながらミハエルさんは苦笑する。


「君が参加するなら今年の参加者は絶望的だな。」


何のことかわからず首を傾げていると目を見開き驚く。

ころころ表情の変わる人だ。

余り強そうにも見えないしこんなんで隊長が務まるのか。

まさかよもや仕事が門番だけという事もあるまい。


木簡を取り出し始和生(しわむ)月三巡目

三年に一度行われる武闘会が今年開催される旨を教えてくれた。


新作の武器や地元の貴族の権力をお披露目する場でもある為

世界中から沢山の金と人が集まり動く催し物だそうだ。

四極終(しはつる)月あたりから今月初旬にかけて

この国を訪れる者はその武闘会目当ての者しかいないので

おれが知らないのに酷く驚いたという事だ。


それこそ、武闘会に参加するにしては遅い時期に訪れたため

このお祭り騒ぎに乗じて何かしでかそうと考えている不逞な輩かもしれない。

そう嫌疑をかけられ門では物騒なやり取りが行われたという事か。



武器を登録する時に改められた脇差を指さしながら

ここなら折れた刀を修復できる職人が居るかもと言われて来たのだ

とこの国を訪れた理由を述べる。

嘘はついていない。

他にも大晶霊が居るかも、と言う理由があるしそっちが主な理由だとしても

それを吹聴して回る訳にはいかないからな。


おれの言葉を聞いたミハエルさんは渋い顔をする。


武闘会で優勝者が使っていた武器を作った鍛冶師と

優勝者の後援をしていた貴族はその後暫くの安泰が約束される。

箔がつくからな。

なので今はどこの鍛冶工房も忙しくその上外部の者の依頼となると良くて後回し

最悪門前払いになると言われた。

おれの見た目だと余計に、と言う言葉も付け加えられる。


大抵の国ではギルドが鍛冶師の後援をしているのだが

この国では違うのか。

ギルドに欲しい武具を言えばどこの武器屋にこんな鍛冶師が打った

良い品が置いてあるよと教えてくれるんだけど。

防具の修理依頼もギルドを通して行うことが多い。

もしくは紹介して貰う。

勝手が全然違う国、と言うのは初めてだ。



もし急ぐ旅ではないのなら武闘会に参加してみてはどうかと勧められた。


優勝する見込みのある者を貴族たちが外部の者でも

一時的に私兵として雇い入れをしている。

その貴族は高い金を出して雇った者が少しでも優勝する可能性を上げるために

腕の良い鍛冶師をお抱えで持っている。

もしくは口利きできる者が多い。

優勝が出来なくても”金”ならば良い成績を残せるだろうし

その伝手で鍛冶師を紹介して貰えば良い、という事だ。


因みに前回の優勝者も”金”の元冒険者で

今は後援してくれた貴族と本契約を結び護衛業に転職したそうだ。

今年も参加予定ではあるが戦い方が周囲に把握されている分

勝率は低いとみられている。


武闘会は個人で参加する事も出来るが一般参加の締め切りは過ぎてしまっている。

貴族が後援で着く場合はその貴族の名前で参加登録がされており

今でも参加者を募集している貴族はいるからギルドに窓口になって貰え

と入国許可の印と滞在許可期間が書かれた木簡を渡しながら言われた。


ミハエルさんは元々外部の者で

この国で外部の者が過ごす風当たりの悪い思いも

武闘会で好成績を出した者の待遇の良さも知っている。

おせっかいだとは思うが口出しをさせて貰った。

そう言って微笑んだ。


他国より高い入国料金に情報料として上乗せした金貨を渡すと

それじゃあついでに、と更に付け加える。


「くれぐれも、小門のことには触れないように。

 それと、5つ鐘が鳴ったら外出しないことを薦めるよ。」


近くに控えている街中へと至る扉の前に立っている兵士には聞こえない

囁くような声で忠告をしてくる。

何故?

と聞くのは第三者が居る事で憚られた。

そして扉の向こうへと背中を軽く押された。


手を振り、閉まる扉の奥へと消えたミハエルさんの顔は

酷く複雑そうな顔をしていた。




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