第98話 『利用』
連続投稿になります。
前話が短かったので今回は少し長めになってます。
第98話
『利用』
「「もう終わったんですか⁉」」
ゲツとツーに声を掛けられる。
「いや、継続中だ。今エンリが聞いている。俺も少ししたら戻るからよろしくな。」
俺は部屋を出て、ゲツとツーにそう告げてから再び元の部屋へと戻った。
俺とエンリが事前に軽く打ち合わせていたのは、
『俺がまず聞いてみるから話を合わせてくれ』というざっくりとした事と、エンリから『この子達を連れて来る時にこう言ってから迎えに行って欲しいの』という事だった。
エンリは察しが良くて非常に助かる。
俺がさっき何故そうしたのか直ぐに分かってくれていたみたいだ。
それとこうも言われた。
『ちょっと確認したい事があるから戻って来た時に…』
俺が部屋の前について扉を開けると…
『ごしゅじーーーーーーーーーーん‼』
ギュイーーーーーンとそらぁもう凄い勢いで俺の顔面目掛けて飛来して迫る赤い物体。
俺は半ば予想していたとはいえ、それはかなりのスピードだった。
『だがまだ甘いわ!』
グワシと両手でそれをキャッチした。
キュワ‼
と逆に驚いた様な声を上げてから、俺の手の中で逃れようとしているのかモジモジとしだす赤い物体。
なんかちょっと必死さが足らんなと思ったら、その物体は急に大人しくなってから、顔を背ける様にして一言、
『優しくして欲しいだわさ』
と元々赤くて良くは分からないが、ポッと頬を染めている様だった。
ピキ!
何か無性にそれを見てイラッとした俺は問答無用でポイとそれを放り投げた。
そうまるで空き缶をゴミ箱を見ずに投げ捨てるかのようにして…
しかしそれを見事にエルザがキャッチした。
ミスティとリルルはいつもの事だなと苦笑いを浮かべつつ、それを見ていた。
『ご主人あちしを捨てるだなんて酷いだわさ』
エルザの腕の中でおよよよみたいな感じで鳴き真似をしている鳥。
「地面に叩きつけなかっただけでも俺の優しさに感謝しろ。それとも三下り半を叩きつけた方が良かったか?」
「ガビーン!しょ、しょんな…あちしだって頑張ったのにぃいいい‼」
どうやら今度はガチ泣きっぽかったので部屋のジト目視線が一斉に俺へと突き刺さる。
「だあああ!分かった分かった、俺が悪かったよ、お前もほんのちょっとは頑張ったみたいだからな。今回は褒めてやるよ。」
「キュイ!!」
『ご主人!!』
スーは『ぱあああ』と効果音が付きそうな感じで俺を見てきた。
「とりあえず、これが済んだらまた魔力をやるからついて来い。」
一応エンリにも『スーちゃんも凄く頑張ってくれたから褒めてあげてね』と言われているしな。
しかし後で話があるみたいに言ってた事がスーの事だったとはな。
「キュイキュイキュー!!」
なんかアイアイサーみたいに了解の意を示した。
『こいつ前の敬礼の時も驚いたがどこで覚えてきてるんだソレ…』
スーは俺の肩へと飛んできてスリスリと顔を擦りつけてきたが、仕方があるまいと少しだけ我慢してやったら…
『ごしゅじ~ん』
と嘴を俺の顔の横に突き出してきやがったので、
『調子に乗るな!!』
と一蹴してやった。
その時、エルザが少し口を尖らせてそれを見ていたのを俺は気付かなかった。
グレンが部屋を出て行った直後、エンリはある事を確かめる為、その男に続けて質問していた。
「どうしてあなたがここにいるのかしら?」
「はは、な、あ、あなたは何を勘違いしてるんだい?僕の名前はロンドだよ。ああ、そうか誰かから間違った話を聞いたんだね。」
エンリから視線をそらしつつそう返した。
「へえ、ロンドって言うの?」
「…ああ、自己紹介していなかったんだから君が間違えてしまっていても仕方が無いよね。」
あははみたいに苦笑いを浮かべた。
エンリは自分から視線を逸らした男の顔を見ながら、
「そう、ごめんなさいね、それじゃ改めて聞くわ。」
エンリは眼鏡をクイっと掛け直して、
「何故エラル山の洞窟調査依頼に向かったはずのあたがここにいるのかしら?ねえ、Bランクパーティー『絆の炎』の登録名、ロッド・スペンサー君。」
『なっ!?』
エンリの言葉を聞いて男の顔は更に青ざめる。
さっきまでは人違いで通せるはずだと自分で無理矢理に心を落ち着かせていたが、今はそうもいかない。
『この女、完全に俺の事を知っている!?しかも依頼のことまで…』
余談だがエンリは記憶力がいい。
頭の回転が早いのは勿論だが、顔を覚えるのも得意で一度見ただけでも相当に覚える事が出来る。
それはある種、才能とも言える程で若干月日が経って顔つきが変わっていても言い当ててしまう程だ。
事実一度会っただけのショートの父親のイーの事もハッキリと覚えていた。
無論印象深かった事もあるが、あの場合はあまりにも突飛であり、緑の肌と魔物として見ていた点もあって若干気付くのには遅れたが、少々ボコられた程度の男ならばすぐに分かるのだ。
そしてエンリはこの男の顔に見覚えがあった。
しかもそれほど前にではなく、エンリがギルド職員としてエステルの町にいる時に見て知っていた。
話したことも一度だけあったのだが、どうやら向こうは覚えていなかった様だ。
「はは…君が何を言ってるのかよく分からないな…」
『嘘だろ!!ギルドにいた時にこんな女…』
ロッドは焦っていた。
目の前の女に心当たりが無かった。初めエンリの服装を見た時に、もしかして知っているヤツかとも思って顔を見たが、その時には綺麗な女だとは思ったが、そのせいで余計に見覚えは無いはずだと改めて実感していたのだが、自分が知らなくとも向こうはひょっとしたら知っているかもしれないと思って、なるべく見ない様にしていたのだが、流石にそこまで知っているとは思っていなかったのだ。
「あら、そう言えば自己紹介がまだだったわね、私の名前はエンリよ。エステルのギルドで一度だけ会ったはずなのだけれど…」
エンリはそう言ってから眼鏡を外した。
「あっ!!」
ロッドが思わず驚きの声を上げてしまう。
それに気付いてしまった。
「久しぶりねロッド君。」
ニコッとエンリは笑った。
眼鏡を外したエンリの瞳は青く輝いていた。
エンリは少し前までは眼鏡をしていなかった。
では目が悪くなったのか?
いやそれは違う、エンリは目が悪くて眼鏡を掛けているわけではなかった。
この眼鏡はいわゆる伊達眼鏡だ。ある特殊な。
最早彼女のトレードマークともなりつつあるその眼鏡は言うまでもなくエンリにとてもよく似合っている。
理知的な顔をより際立たせ、今や欠かせないチャームポイントの一つになっている様にすら思える。
しかしエンリが眼鏡を掛けている一番の理由は、瞳の色を変えて見せている事だ。
その美しいブルーの瞳の色を変えて見せる理由についてはここではひとまず割愛するが、眼鏡には度の調整の変わりに色を変えて見せる魔法が付与されていた。
無色透明なそのレンズを通して見える眼の色は黒に変わっているのだ。
そしてロッドに会った時は彼女は眼鏡をしていなかった…
「え、エンリ…さん…」
男の口からは知らずと言葉が漏れていた。
『何であんたがここにいるんだ!?』
ロッドはようやく目の前の女が誰であるか思い出していた。
が…
「や、やだなあ、僕はあなたの事なんて知りませんよ、そ、それにさっきから言ってるじゃないですか、僕はロンドで、その、ロ、ロッドでしたっけ?そんな人は知りませんよ、そうだ!ひょっとしてその方と勘違いされて僕をこうして捕らえてしまったんじゃないですか!!だったら…」
尚も言い訳を続けようとするロッドを見て、エンリは眼鏡を掛け直してから一度ため息をついて、
「仕方が無いわね…グレンお願い!」
その言葉の後部屋の扉が開かれた。
「お前ロッドって言うのか?」
タイミングを見計らったかの様にして現れた俺。
まあ実際扉の前で声がかかるのを待っていたのだが…
「さっさと話した方がいいと思うけどな。」
「はは、君まで一体何を言っているんだい、あいつらに何を聞いたのか知らないけど、僕はロンドであいつらのことなんて知らないし、僕はあいつらに嵌められてしまっただけで…」
『だ、大丈夫だ、あいつらには俺の素性は知られていないし、こいつらにだって別人だと思わせれば…』
「嘘」
そう言ってグレンの後ろからエルザが現れた。
「なっ!?」
ロッドは驚いた。
その言葉に直接驚いた訳ではなく、少女の姿を見て驚いたのだ。
『こいつあの時の!!』
「はは…君はまた何を根拠に…」
『こいつもこいつらの仲間なのか!?だがこんな獣人よりも俺の方が…』
「そうか…まだしらを切るつもりか…この手はあまり使いたくなかったんだが仕方が無いな。」
俺はやれやれと両手を困ったもんだぜとわざとらしく上げるジェスチャーを入れてから、
「お前、この羽に見覚えがあるか?」
俺が取り出したのは一枚の赤い羽根…
それを目にした瞬間ロッドの表情が一瞬にして引き吊った。
「そ、そ、それは、一体!?」
ロッドをえも言われぬ恐怖が襲う。
本人は思い出せないがその羽根を見せられた瞬間、体が硬直してうまく言葉が出せない。
エルザにも驚かされたがそれ以上の何かに脅かされ、体が何かを拒絶している様だった。
人はあまりのショックを受けると自己防衛本能として、自己の記憶を改竄したりする場合がある。
ロッドにとってその羽根は何か嫌な事を思い出させる、まるで嫌なモノを閉じ込めた記憶の箱を開けてしまう為の鍵の様なものだった。
俺はヤツの反応を見て、
「エルザ!」
俺の呼び掛けにコクンと一度頷いた後、エルザは自らが胸に抱くものに掛けられた布の端を片手で引っ張った。
ハラリとトリはらわれたその布の下から現れたのは一匹の赤い生物、ロッドにとってはそれはエンリの事やエルザの事よりも更に思い出したくない、そして見たくもないはずだったあの赤い鳥…スーだった。
ピキ!!
ロッドの中で今あの時の恐怖が甦った。
「う、うわああああ!!」
それからは話は簡単だった。
スーが『キュイー』とエルザの胸元から空中へと舞い上がった瞬間、
「しゃ、しゃべります!!なんでもしゃべります!!だからそのとりをぼくにちかづけないで!!おねがいします!!なんでもしますからあ!!」
と、見たくないものを遠ざける様に身を捩らせ体を震わせながら泣き喚いた。
『こいつ何したんだ?』
実際スーがした事はそこまでトラウマになるほどの出来事では無い様に思われるかもしれないが、スーには普通の人間からすれば異様なまでの力がある。
特に変化した状態での姿には畏怖や驚きを感じさせるのには充分な効果があり、何故だかグレンにだけは通用しないが、普通はあの状態で攻撃されただけでも充分な程にその効果があるのだ。
説明は省くがあの羽根を受けた普通の人間ならば、それは至極真っ当な反応だった。
そしてロッドの口から語られたのは…
『ロッド・スペンサー』
彼はかつて『絆の炎』と名付けられた3人組の冒険者パーティーの内の一人だった。
絆の炎は最初は、ロッドとソートと言う幼馴染の二人で結成されていた。
二人は共にかなりの実力があり、ロッドは魔法使い、ソートは戦士のBランクコンビだった。
二人はお互いに切磋琢磨し、信頼もしていた。
そのパーティー名も、二人の友情は永遠だという様な意味合いから付けられたものだ。
しかしそこへ冒険者の一人、ランティスと呼ばれるCランク冒険者の女性が加わってからロッドの絆に亀裂が生じ始めた。
男二人に女一人、得てしてパーティーが解散する要因の一つとしても挙げられている男女間の関係。
かつてボナーロがそうだった様に、男女の関係はそれほど大きな軋轢を生み出す事も珍しくない。
ただしランティスは、別に裏切ったりも二股を掛けていた訳でも無い。
単純にソートと二人徐々に仲良くなり、普通に惹かれあっていっただけだ。
ソートも別にロッドを裏切った訳でも無く、しっかりとロッドにもその事を伝えていた。
そしてロッドは表面上ではそれを祝福している様に見せていたが、その内心ではそれを決して快くは思っていなかった。
ロッドもランティスが好きで、初めて見た時から惚れていた。
しかしそれを伝える事が出来ずにいたのだ。
更には親友のソートが自分の愛する女性に告白する前に、それを頑張れよと声を掛けたにも関わらず、認めてはいなかったのだ。
ここでロッドが親友の事を祝福する様な男では無かったのは、友情よりもより強い感情が生まれたからなのかもしれない。
それから二人が楽しそうにしているのを見せつけられたロッドは、次第にその想いを強くしていった。
そしてある依頼を受けた際、その感情は芽吹いた。
それはエラル山と呼ばれる山にある洞窟に向かい、消息を絶った者たちを探しに行く為の依頼だった。
「ここか…」
ロッドは洞窟を見てそう呟く。
「慎重に行こうぜ!」
ソートは二人にそう声を掛ける。
「ええ、ライティング!」
ランティスは自分が持つ杖の頭に光を灯した。
外はまだ明るいが、その洞窟の中は薄暗く、明かりが無いと足元も覚束ない雰囲気だった。
念の為にと、ソートも松明を持ち、その先にロッドの呪文で火を灯した。
当たり前だが洞窟の中ではあまり火の魔法は使えない。
小さなものであれば可能だが、ロッドの持つ魔法で焼き尽くす方法は使えない。
それは最終手段であり今は色々な制限があってそれは使えない。
ただでさえ閉鎖された空間の中でそれを使うのが躊躇われる上に、中に人間がいるかもしれない状況を考えればそれは当然だろう。
隊列はソートを先頭に横並びでロッドとランティスが歩く形だ。
3人はそのまま洞窟の中へと入って行く。
暫く進んだ所でゴブリンに遭遇するもこれを難なくソートが撃退し、続いて現れたホブゴブリンもロッドの風の魔法で足止めし、蹴散らした。
『絆の炎』はBランクパーティーでランティスは支援魔法こそ使えるが、実力的に言えばCランク。
しかしゴブリンやホブゴブリン程度であれば、ロッドやソートの2人にとっては問題無かった。
数は多いものの一斉に襲い掛かってこなかったのが余計に油断を招いたのかもしれない。
「このまま進むか?」
ソートは分かれ道や横穴を見てその数の多さから、一旦戻る事を示唆している。
「そうね、この規模の洞窟だとまだ魔物たちがいるでしょうから一日では難しいかもしれないわ。一旦戻って…」
ランティスがそう言いかけた時、
「僕はまだ魔力に余裕があるから大丈夫だけど、二人はもう限界かい?」
ロッドは強がりでも無く、平然とそう返す。
「いや、まあまだ全然俺もイケるから大丈夫だけど…」
ソートはランティスの方を見て言った。
「分かったわ、あなたたちがそう言うのであれば行きましょう。」
ランティスも目を閉じてそれに応じた。
そうして一つの横穴に入った時、それは襲い掛かって来た。
髪を生やした魔物、オーガにも似た緑の肌をした人型の魔物。
それに襲われた3人は…
戦って、逃げた。
とても敵わないと判断し、逃げだしたのだ。
それは決して油断していたからという訳でも無い。
ソートは必死に戦い、ロッドは魔法でそれを止め、ランティスも支援魔法で何とかそれを援護したが倒せなかった。
しかも戦っている最中にゴブリンやホブゴブリンも現れてしまい、何とかそれを隙を作って逃げ出したのだが追って来ている魔物を前にソートが足止めの為に残った。
「俺がこいつらを足止めする!お前らは先に行け‼」
ソートが後ろから現れたゴブリンを蹴散らしながら呼び掛ける。
「ダメよ‼」
ランティスは足を止めそれを拒む。
ロッドはその瞬間、頭の中に邪な想いが浮かんだ。
そして黙ってランティスの手を取り走り出す。
「ちょ、ちょっと待って!ロッドダメよ‼」
嫌がるランティスを無理矢理に連れて走るロッド。
しかしそれを見て、自分の為にランティスを連れて行ってくれた事に感謝したソート。
「頼むぞロッド。」
剣を握り締め、目の前のホブゴブリンに斬りかかる。
洞窟の入口が見えた。
ロッドは『しめた!』と思い、引きずる様にして連れて来ていたランティスを見た。
ランティスは、
「先に行ってロッド、私はソートを助けに行く!」
そう言って引かれていた手を離す。
ロッドは思った、
『行かせてはならない』
ようやくそれが僕のものになるんだ。
今まで手に入らなかったものが手に入りそうだと感じた瞬間、ランティスを追いかけ、その手を掴んだ。
「離してロッドお願い‼」
ランティスはそれを離してくれと懇願する。
「もう奴は死んだんだ!行っても無駄だ‼それよりも今は‼」
ペチン!
とロッドの頬を叩いたのはランティスの手だった。
「まだ分からないわ!それに私はソートを見捨てるなんて出来ないもの‼」
ロッドは無言でランティスの両手を掴み、その口を塞いだ。
唇が触れ合った瞬間、ランティスは嫌々と首を振るがロッドはより強く引き寄せる様にしてより強くその唇を重ねようとする。
しかし、それは次の瞬間僅かな衝撃と共に離される事になる。
ロッドの唇に痛みが走り、離れた瞬間その唇からは血が流れ出す。
「ごめんなさいロッド、私にはもうソートがいるの…」
そう言ってランティスはロッドから顔を背けた。
そしてランティスの言葉を聞いたロッドはその後ろに走って来ているソートの姿を見た。
その瞬間彼の中の憎悪が湧き上がった。
憎しみ、妬み、嫉み、そう言った負の感情に火がついたのを実感する。
「ウィンドネクスト」
片腕をランティスの背後に向けて唱えた。
凄まじい強風がそこから放たれた。
それは魔物を背に逃げて来たソートへと直撃した。
「うあああああ‼」
意表を突かれたソートはその風をモロに喰らって後ろへと倒れ込む。
そしてそれを狙ったかの様にして走り込んできた緑の魔物のこん棒が、横から薙ぎ払われた。
「ぐあああああ‼」
こん棒を叩きつけられたソートが悲鳴を上げる。
「ソート⁉」
振り返りそれを見たランティスはロッドに捕まれた腕を振りほどきそこへ向かおうとする。
しかしロッドは無言でそれを離さず、引きずり洞窟の入口へと引っ張ろうとした。
「止めて!離して‼あなたは最低よ‼」
ランティスが喚く。
ロッドは嫌がるランティスの腹へと拳を叩き込んでいた。
「かっ‼」
そう一声発したランティスは項垂れる様にしてその身をロッドに預けた。
そしてそのままランティスを担ぐようにして、入口へと走る。
追ってくる魔物を後に洞窟の入口へと向かったロッドは入口を背にして、魔法を放とうと振り返った。
しかし振り返った正面にはスッとまるで気配を感じさせずに、黒いローブ姿の人影が現れた。
思わず驚き、その場にランティスの重みを感じたまま、重力に引かれるままにして腰をついた。
「…お前は…冒険者か…」
ローブの男はそれを見下ろしたまま声を掛ける。
その顔は暗闇に包まれたまま見えない
「そ、そうだ‼僕は冒険者だ!怪しい者じゃない!それよりも‼」
目の前の不気味な人物が言葉を発した事に少し安堵するも、それが決して味方であるとは思えないロッドは、まずはこの場を逃げ出さなくてはと考え、目の前の男に声を上げた。
「…ネクロノミコン…」
ローブの男はそう呟いた。
「へっ⁉」
ロッドは意味が分からず、そう声を返した。
そして更にその後驚かされる。
ローブの男の後ろから魔物たちが取り囲む様にして現れたのだ。
入口を塞ぐようにして回り込む緑の魔物たち。
ローブの男の後ろから現れた魔物に頭を握られ吊るし上げられた状態のソートの姿。
その姿は頭からは血を流し、目を閉じたままピクリとも動かなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ‼話をしよう!何か欲しいものがあれば僕が何とかするから‼そうだ金や食料を大量に用意する‼それ以外でも欲しいものがあれば必ず手に入れて見せるから‼」
ロッドはローブの男に縋りつく。
これが言葉の分からない魔物であれば無意味な行動であっただろう。
だが幸いにしてこのローブは言葉を話したのだ。
ならばと矢継ぎ早に言葉を繋げようとするロッド。
「…ネクロノミコン…」
ローブはまたも一言そう告げる。
「⁉…ネクロ、ノミコン?」
ロッドにはそれが何か分からなかったが、確かに男はそう言った。
「わ、分かった、ネクロノミコンだな‼それがあればいいんだな、俺がそれを取ってくるから‼」
緑の魔物たちはロッドを取り囲んだまま動かないが、今にも襲ってきそうな状況だ。
「…その女を…置け…」
ローブの声がロッドの頭に響く。
「そ、それは…」
ロッドは後ずさりながら口を濁す。
そこで突然ドシャとローブの後ろで音が聞こえた。
それは何かが地面に落ちる音だった。
見るとソートの姿が地面に落ちて、そこから歩み寄る様にして近付いてくる緑の魔物の姿だった。
落とされたソートは一言も声を発する事無くその場で倒れている。
「ひっ‼」
ロッドは言葉を発してから顔を青ざめさせて、
「わ、分かった!あんたの言う通りにする、だから許してくれ‼」
ロッドは担いでいたランティスを差し出した。
『これは仕方が無いんだ!こいつが黙って俺のモノになっていればこんな事には…そうだ僕の役に立って死ねるなら彼女だって本望のはずだ!そうだ、彼女はもう僕のモノだ!僕のモノを僕がどう使おうと僕の自由だ‼』
その後彼は解放された。
ただし一部記憶が曖昧な部分もあり、覚えているのは今の所までとその後、それを手に入れるために、その魔物たちと手を組んだという事。
しかしそれは一人では難しいと判断したロッドは、ボナーロ達と組んで魔物たちを利用して仕事を行った事。
名前を変え、考え方も変えて、ただ自分だけが良ければいいと思いながらそれを行ってきた。
しかしここでロッドが気がつけなかったのは彼にとっては幸いでもあり、不幸でもあった。
彼は何故それに気が付けなかったのか…
音楽グループでもそうですが、3人の内女性1人に男性2人って解散する理由が音楽性の相違以外にも結構ありそうですよね。