第97話 『尋問』
少し短いですが、区切りの面で一旦投稿します。
次話はなるべく早めに投稿しようと思いますのでご了承下さい┏〇))
第97話
『尋問』
その後もリルルやミスティたちが、ローブの事や魔物について幾つかエンリに質問したりしていた。
『ゴーストはどうやれば倒せるのか』とか『ゾンビとゴーストの違いは』とか。
特にリルルもアンデッド系のモンスターと戦った事がないらしく興味津々にそれを聞いていた。
ほとんど門の辺りで蚊帳の外状態だった為、ボナーロたちの事もほとんど知らない彼女たちにとっては、少なくともまた現れるかもしれない者たちの事が気になったのだろう。
ミスティは初め怖がりながらその話を聞いていたが、エンリ曰くミスティには光魔法の才能があるらしく、今度また有効な魔法が使えるかどうか改めて確かめてくれると聞いて、真剣に話を聞いていた。
エルザはというと、スーの頭を撫でたりしながら話を聞いていたが、たまに俺の顔を見て、目が合うとプイッと顔をそらしたりしていた。
『何か俺エルザに変な事したか?』
『きっと怒らせるような事したんだよ。グレンは意外と天然だから。』
『……前にも言ったが…お前にだけは言われたくないわ‼』
しかしレンと話すと腹は立つが不思議と何となく癒されている気がする自分もいる。
出会った時からコイツはこのままだ。ふと俺の弟が生きていたらこんな感じかなと思ったりもしてしまう。
ひょっとしたら変わらないって事も変わるのと同じくらい大切なのかもしれないな…
「どうしたんですかグレン?」
リルルが俺の顔を心配そうに覗きこんでくる。
「いや、別に何でもない、それでなんだっけ?」
「ですからこれからどうしますか?って話ですけど…」
「ああ、そうだったな、そうだな…」
俺は知らぬ間に思わず感傷に浸ってしまった。
最近弟の事を思い出していなかった事もあってか、つい物思いに耽ってしまっていたみたいだ。
『レンのせいだな』
『何で?っていうか何が?』
「まずは…」
俺がそう口にした所で、部屋の扉がノックされた。
ミスティが立ち上がり、扉を開けた。
「お話し中の所すみません…」
そう言って中に入って来たのはゲツだった。
「男が目を覚ましたんですが…」
ゲツが何故か部屋の中を見回して、少し赤くなりながら俺たちに告げた。
いつもの勢い命の物言いが尻すぼみで何か恥ずかしがっている様にも見える。
何を赤くなっているのかと思ったが、考えてみればこの部屋にいるのはそのほとんどが、いや俺とレン以外は全て女子だった。しかもその全てが美女、美少女たちだ。
いや一匹変な雌も混じってはいるが…
その雌の鳥を見て思い出した。
『それじゃそろそろいいか…』
ゲツには部屋の外で待っていてもらい、俺はある事をしてからエルザに頼み事をした。
エルザは少しムスッとしていたが、黙ってそれに頷いてくれた。
『やっぱり何か怒ってるのか?』
俺は先程の事もあってか少し疑問を感じ、何があるのかやはり聞いてみようとしたが、
コンコンと再びノックが聞こえた。
「あの、俺、あいつが心配なんで先に行って見てきますんで…」
ペコリとお辞儀をして部屋を出ていこうとする。
どうやらツーの事が心配らしい。
「ああ、悪いな、今行くからちょっと待ってくれ。」
待たせたのは少しだけゲツに事前に聞いておきたい事があっただけなのだが、今はそっちが優先か。
「それじゃ俺とエンリで話を聞いてくるから、ミスティたちはここで待っていてくれるか?」
「「わ、わたしも!!」」
ミスティとリルルが同時に手を上げて答えるが、
「あまり多いとかえって混乱するわ、女の子ばかりだと甘く見られる事もあるだろうし…何よりあなたたちみたいな可愛い子達が来たら恥ずかしくて話せなくなっちゃうかもしれないもの。」
エンリはそう言ってゲツの方を横目で見た。
見られたゲツは慌てて視線をそらす。
結局俺とエンリが話を聞くことになり、ミスティたちには部屋で待っていてもらう事になった。
エンリと少し打ち合わせをしつつ、ゲツと共に部屋の前へと来るとツーが部屋の前にいた。
部屋は外から杭をかけて鍵をかけてはあるが、別にここは牢獄ではなく鉄の格子も作られてはいない。
普通の木で出来た扉であり、簡単に蹴破れそうである。
俺とエンリは扉を開け、部屋の中へと入った。
中には縛られた男が踞る様にして座っている。
その姿はローブを脱がされ、顔を露にしている。
運ぶ時に腰にあったポーチと武器は既に外してある。
武器は短剣が1本と長針の様なものが1本ローブの内側から見つかった。
ポーチの中からはポーションが3本と毒消し薬、それに毒薬と金が入った袋などが入っていた。
魔法使いだと読んだエンリの拘束で今は魔法も使えない状態だ。
便利な魔道具なんだなと俺は感心したが、よくよく考えればそう言ったものが無ければ手足を縛っても逃げるの簡単だよなと俺は改めて納得した。
俺たちが中に入った瞬間、男は目を見開いて、
「ぼ、僕は何もやってない!!そう、君たちの勘違いなんだよ!!だからまずはこれを解いてくれないか。」
肩まで伸びる茶髪を振り乱しながら頭を左右に振っている。
少し髪はボサボサにはなっているが、どこか薄っすらと気品を感じさせもする。
少なくともボナーロたちの仲間の盗賊や他の粗暴そうな男たちとは少し違う印象の男ではあった。
顔は前に村長の家の前で見たときよりかは幾分ましになっているが、頬骨の辺りが未だ赤く腫れ上がって痛々しく見える。
あの時の顔は別の意味でも酷かったが…
腫れがなければそれなりの男前の様だった。
俺から言わせれば元はイケメンの茶髪のチャラ男に見えるのでそのままの方が嬉しかったりもする。
「さてと、それはともかく、お前はあそこで一体何をしていたのかな?」
その男の訴えを退けるかの様にして、まずは俺がその男に尋ねる。
うっ!と前へ出てきた俺の余裕そうな口ぶりに思わず一度息を飲んでから、
「ぼ、僕は何も知らない、気が付いたらあそこに倒れていたんだ!!」
「へえ、何も知らないか…さっき騙されたんだとか言ってたらしいじゃないか。」
先程ゲツツーにこの部屋に入る前に聞いていた。
起きた時に何か言っていたかと。
突然部屋の中から物音が聞こえたので中に入ったら『僕は何もやってない!!』『あいつらに騙されたんだ!!』とか言っていたらしい。
「そ、そうだ!!僕はあそこに連れてこられたんだ!!四人組の男たちに町にいた所を拐われたんだ!!」
うんうんと頷いている。
「そうか、ならなんでお前の着ていたローブに、ガストたちの血がついてたんだ?」
「そ、それは突然あいつらが仲間割れを始めて…」
「嘘ね。」
それまで黙っていたエンリが前へ出て告げる。
男は少し顔色を変えて上目遣いにエンリを見た。
しかしすぐに目線を逸らして、
「な、なんで嘘だなんて!!」
「あら、だってそれなら何であなたはあの人たちの名前を知ってるの?」
「えっ!?」
「ボナーロなら知っていてもおかしくはないかもしれないが、ガストまで知ってるのはおかしいだろ。」
俺はニヤリと口元を緩める。
「それにあなたさっき何も知らないって言ってたけど、仲間割れを始めた時に一体どこにいたのかしら?」
「ちがっ!!僕は騙されたんだ!!あ、あいつらに脅されてて…それで…」
男は追い詰められて少しパニックなっているのか、
それまでは割と声を上げて訴えながらも平静を装っている様に思えたが、今は急に早口でまくし立てる様にして、
「違う違う違う!!聞いたんだ!!あいつらの仲間の一人にその名前を、それで俺に協力すれば見逃してやるって!!さもなくば殺すぞって!!で、でも僕は勿論断ろうとしたけど、言うことを聞くふりをして逃げ出すチャンスを探してたんだ、目の前で殺されていく男たちを見て怖くなって逃げ出したんだ!!」
何とか辻褄を合わせようと必死だった。
『よくもまあこうスラスラと嘘が出てくるもんだな』
と感心した。
それとも事前にこうなった場合を考えていたのか?どちらにしてもここまで必死に言われると逆に憐れになるが…
「そうなの?それじゃ仕方ないわね、でもその前に聞かせて頂戴。あなた町で拐われたって言ったけどエグザイルの町でかしら?」
「…ああ、そうだ。」
一瞬少し躊躇うも、男はそう声を落として答えた。
「そう、それともう一つ、拐われたのに何でポーチの中身は無事だったのかしら?お金も入っていたと思うけど?」
「そ、それは、その…ああ、そうだ奴ら間抜けで急いでたから気付かなかったんだきっと!!」
「へえー、武器もか?」
『嘘も大分苦しくなってきたな』
「い、いやあれはその、僕のじゃなくてさっき言った男のもので、気が付いたら僕が持たされていたもので、ほ、ほんとだよ!!あれは僕のじゃない!!僕ははめられたんだ!!」
「そう、それは仕方がないわね…」
エンリは哀しそうにして首を振った。
それは男を哀れむ様なものであり、
「わ、分かってくれたんだね!!」
男はパッと表情を明るくしてエンリの方を見た。
「そうだな、それじゃ仕方がないな…」
俺もエンリに同調するかの様にして同じく首を振ってそう答えた。
男は心底助かったみたいな顔をしている。
「それじゃこいつの話が本当かどうか、残った三人に聞いてみるしかなさそうだな。」
俺はそう言ってから部屋を出て行こうとした。
「ま、待て!!い、いや違う、他の三人の言うことなんて嘘に決まってる!!僕の言ってる事なんて嘘だと言うに決まってる!!」
男は表情を険しくした瞬間、首を大きく振りながら大きな声で呼び止める。
しかし俺は黙って部屋を出て行った。
『来る途中、ゲツにこの男が仲間の事を聞いてこなかったかも確認してる、何よりエンリと村長たちから事前にそいつらが何をしてどうなったのかも聞いているしな…』
そう、男たちが何の為にこの村にやって来てどうなったのかを俺は既に聞いていた。
これはある意味で出来レースだ。
無論その3人の男たちからもっと話を聞き出せていれば良かったのだが…
しかし結局、その三人の男たちがどこに行ったのかは分からない。少なくともあの後エンリがゲツとツーと小屋に行った時には、血痕は大量にあったが既にそこにはいなかったみたいだし、内二人は既に死んでいたそうだから、考えられるのは残った一人がそれを連れていった可能性だが、ショートの話からするとその男も怪我をしていたそうだからそれも難しい。
男二人の死体を抱えて逃げるのも、それを処理してというのも厳しいし、おかしい。
では今もどこかに潜んでいる可能性があるのかと思ったが、そこは今気にしても仕方が無いと考えた。
むしろ姿が見えなくて気になるのは、俺が見つけたあの眼鏡をかけたゴブリンの方が気になるしな。
一応俺のその話を聞いたエンリ曰く、それはゴブリンリーダーではないかとの事だった。
通常のゴブリンよりも頭が回り、群れの指揮をとったりしていると聞いたので多分間違いないだろう。
ただ分かったのはそれだけだ。流石に眼鏡を掛けているのはエンリも見た事はないそうだが。
あいつがどこに行ったのかは分からないままだ、それにローブと戦っていた時にあの男の後ろから俺に向かって飛んできたものを投げたヤツとか、その後に爆発したヤツの正体もわからないままだしな。
分からないままってのは気持ち悪いが、やはり考えても答えが出ないものを考えても仕方が無いしな。
俺が去った部屋の中でエンリは眼鏡をクイっと一度掛け直して、
「じゃあ彼が戻る前に私にも聞かせてもらえるかしら?ロッド君。」
「なっ!?」
男はサーと背筋から焦りがこみ上げてからその顔を真っ青に染めていた。