第96話 『意思』
なんとか書けました。
ストックが無くなるとキツいですね(^ー^;A
第96話
『意思』
ローブが元ローブ姿へと変わった頃、少し離れた小屋の中に一匹の魔物が駆け込んできていた。
「イクゾ!!」
ゴブリンリーダーと呼ばれるその緑の魔物は、近くに立っていた同じく緑の魔物へと声をかけた。
「………」
同じとは言っても大きさはより大きく、頭には髪も生えており、とても同一種には見えなかったが。
その魔物は小さな魔物の言葉に反応する事無く、無言のまま立っていた。
「キキ!!ハヤクシロ!!」
小さな魔物は苛立って思わずその魔物の足を叩くがビクともしない。
最初それにも大きな魔物は反応しなかったが、電気が体に走ったかの様にビクッと一度身体を震わせた。
そしてその直後に手にした棍棒を…
「キキ!!ヤメロ!!」
緑の魔物は反撃されるのかと思い、手で頭を覆った。
ゴトン!
しかし大きな魔物は、手にしていた棍棒を床へと落としてから、そのまま無言のまま目の前に転がっていた二人を両脇に抱え始める。
「キッ!?」
小さな魔物はそれを見て声を出す。
当然それにも答える事無く、大きな魔物は小屋の扉を蹴り開けてからそのまま小屋を出ていく。
そしてそれを後ろから小さな魔物が慌てて追いかけていった。
【グレンside】
燃え盛る奴はそのまま突っ込んでくる事もなくその場で燃えて行く。
俺はそれを蹲りながら顔を上げ黙って見ていた。
「グレン!!」
「兄貴!!」
「グレンさん!!」
「「お兄ちゃん!!」」
5人が駆け寄ってくる。
「「おーい!!」」
「大丈夫かお主ら!!」
そして後ろからは村長とゲツとツーも走ってきていた。
暫くして燃えていた炎は元ローブ姿の男を焼き、その炎を納めていった…
そこに残ったのは黒ずんで割れている石と一枚のプレート、そして焼け残った緑の鎧。
その身は焼き尽くされ今はもう残っていない。
黒い靄も姿を消し、残ってはいなかった。
ショートが突然その場所へと走り出した。
「「姉ちゃん!!」」
ライトとレフトが二人同時に声を上げて追い掛ける。
俺も立ち上がり、その場所へと進む。
立ち上がった際に脇腹が痛んだが、エンリが支えてくれた。
『回復魔法を』と言われたが、一旦待ってくれと伝え、肩を借りつつそこへと歩く。
傷だけでなく、今は俺にもかなりの消耗があり、それは有りがたかった。
「お、お父さん…」
ショートは燃え尽きた元ローブのいた場所の前でストンと膝を突きその残骸を見つめる。
俺はエンリに肩を借りながら、
「どういう事だ?」
とショートに声をかけた…
ショートとライト兄弟の父親は冒険者だった。
そして三年以上前から消息は不明でライト兄弟にとっては既に死んだ様な扱いとなっていた。
しかしショートにとってそれは今も尚どこかできっと生きているはずだと信じていた。
父親の名前は『イー』、母親の名前は『ルー』。
母親は9年程前に亡くなっている。
父親は、三年前に村にやって来た冒険者から渡された仕送りの金と一通の手紙が届けられてからは連絡は無い。
仕送りの金額はいつもよりも少し多かった。
そしてその手紙にはこう書かれていた。
『ショート、いつも迷惑や心配をかけてしまってすまない。今度の仕事は少し長くなるかもしれないが、この仕事が終わったらきっとお前たちの元へ帰ると約束する。この手紙が届く頃には戻れているといいんだが、次に戻った時にはもっとたくさんのものを持って帰るから、楽しみに待っててくれ。』と。
因みにショートは読み書きが出来る。
幼い頃母や父から教えてもらったのだ。
レフトも今はなんとか読める様になっている。
むしろライトの方が怪しいレベルだった。
当然手紙が届いた時の二人には読めなかったのでこの手紙の事も知らなかった。ショートはいつ戻ってくると書かれていないのに、期待させるのも悪いと考え、二人には伝えずにいた。
ではその手紙が届いた時から行方不明なのではと思うかもしれないが、それは間違いだ。
手紙が書かれた頃は無事だが、手紙が届くまで無事だったかは分からない。
しかも直接会ったのはそれより更に前なのだから。
毎回仕送りなどが届くタイミングは異なる。
主にイーの場合はギルドに依頼して、冒険者に持っていってもらう形が多かったのでそれほど長くはかからないが、それでも場合によっては依頼を出してから1ヶ月以上かかる事もあったのだ。
信頼する冒険者に頼む事もあったが、彼の場合は近くの町に限らず他の町へと行くことが多々あった為、その限りでは無かった。
以前ショートは町へと行ってギルドに父の事を訊ねたが、その時には教えてもらえなかった。
ギルドの依頼内容は教えられないと。
しかしショートは諦めず足繁く通い、折れたギルドの職員が上に掛け合ってくれた結果…
特別にと教えられた内容は、消息不明だった。
死んだかもどうかハッキリと分からず、手紙が届いた日よりも前に消息が分からなくなっていたと…
そもそもその依頼も、本来そのギルドで受けたものでは無く別の町で受けたものらしく、詳しい内容は教えてくれなかった。
町の名前だけは教えてくれたのだが、村を出てその町へと向かう事は出来なかった。
それでもショートは信じ続けた。
『いつか必ず父さんは帰ってくる、だからそれまで私がライトとレフトを守るんだ』と。
そして今目の前で焼かれたものが自分の父親では無いかと思った理由は、顔を見たあの時。
確かに顔は靄に包まれ、地は緑色だったが父の面影を感じた。
そして決定的だったのはそのプレートだった。
幼い頃父に見せてもらったものが目の前に落ちていたからだ。
昔父が仕事で家を出て行く時、ショートは『行かないでお父さん!!』と駄々をこねた事があった。
その時はまだ母も生きていた。
ライトはまだ幼い頃で覚えてはいない。
父は困った表情を見せたが、優しく私の頭を撫でながらニカッと笑って、首から掛けているそれを私に見せてこう言った。
『いいかショート、お父さんはいつもお前たちを想っている、お父さんとショートはここで繋がってるんだ、お母さんやライトとだって勿論繋がってる』
胸を親指で叩きながら、プレートを前に出して、
『これがある限り、何時だってお前たちを想ってる。そして必ずお前たちの元に帰ってくるからな。父さんが戻ってくるまで母さんとライトを頼むな、お姉ちゃん。』
もう一度顔を綻ばせてから去っていった父の姿を今も覚えている。
一枚のプレートを優しく拾い上げ、胸に両手を組みそれを強く握って私は泣いた。
プレートに刻まれた言葉は、
『最も愛しく最も大切な者をここに刻む』
そしてその裏には、
ルー、ショート、ライト、レフトの文字が刻まれ、その最後に『心より愛している』と書かれていた。
その後、エンリと村長が彼の父親について話してくれた。
エンリが知っていたのはそれか有名な冒険者であったらしく覚えていたからだそうだ。
エンリは俺に回復魔法を掛けながら、
「本当に残念だわ…」と漏らしていた。
『旋風のリー』
Bランク冒険者であり、Bランクとしては珍しく二つ名を持っていた。
またリーと言うのは登録名であり、エンリ曰くその緑色の鎧から繰り出す風の様に速い蹴りからつけられたものだそうだ。
本名までは知らなかったが、以前一度会った事があり、その時に素晴らしい冒険者だと思ったそうだ。
彼はその頃既にAランク並の実力を兼ね備えていたが、あえてランクを上げていなかった。
ランクが上がれば当然その収入も上がり、Aランクともなればかなりの見返りもあったそうだが彼はそうしなかった。
あまり縛られたくなかったり、目立ちたくないから等の理由で昇格を拒む者も稀にいたらしいが、その大半は自己の都合から辞退していた。
だが彼の場合は、昇格する事によって依頼料が高額になる事を嫌ったのだそうだ。
『自分は弱者を助ける為に冒険者になったのだ。』と。
Aランク冒険者と言うのはBランク冒険者と比べて依頼料が跳ね上がる場合が多いらしい。
いくら低い依頼料でいいと本人が言ってもギルド側としては容認できない事でもあった。
それは何故か、それは言わずもがな体裁もあるが、他の冒険者からすれば納得出来ないからだ。
安く受けてくれるAランク冒険者がいて、それなりに実力もあるとなれば放っておかれる訳が無い。
それは依頼をこなし金を儲けようと考える者からも許容出来ないのが理由だ。
ギルドも慈善事業をしている訳では無いので当然と言えば当然かもしれない。
次に村長から語られたのは、ショートの父親『イー』について、因みに彼の名付け親は先代の村長で母親も幼なじみでその村長から名前を付けてもらったんじゃと割とどうでもいい話を少し胸をはった様に話していた。
空気読めよと皆が思ったのは言うまでもない。
イーは小さい頃は今のライトに似てとてもわんぱくだったらしい。
言うことも聞かずよく前の村長からも怒られていたそうだ。
イーは片親で母親はいなかった。
父親は狩人でいつも森に行っては村の為に獲物を捕まえて来ていたが、イーにはとても厳しかったそうだ。
父親に殴られてよく泣いて喚いている所を村長も見かけたらしい。
しかしある時、大怪我をして父親が帰ってきた。
足から血を流し、腕もちぎられた様な状態だった。
その父親を運んできたのが冒険者で、見つけた時には魔物に襲われており冒険者の持つ薬で一命だけはとりとめたらしい。
その時襲った魔物は退治したが、まだ残っているかもしれないと暫く村に滞在してくれた。
そして数日たったある日、ゴブリンの群れが森に現れたと村長の家に報せが入った。
そしてその時森へと父親の代わりにと狩りに出ていたイーを救ってくれたのもその冒険者で、彼は村の者たちからのお礼はいらないと言って、更にはイーの為にと金まで前の村長に渡して去っていったらしい。
イーはそれからはしきりに『俺もいつかああいう風になりたい』『俺もきっと冒険者になるんだ』とか言っていたそうだ。
そしてイーは父親の代わりに狩人になってからも、父親を養いながら、体を鍛えていたそうだ。
そしてそれから暫くして父親が死んだ後にルーと結婚して冒険者になった。
「その時の冒険者の名前は覚えていますか?」
エンリはその話を聞いて、村長に訊ねた。
「うーむ、確か…リー、リーチいやシードだったかのう…」
村長は眉を寄せて考え込む様にしながら答えた。
『前後で全然変わってるじゃねえか』
俺は村長の記憶を信じられなかった。
「…ひょっとしてリードじゃないかしら?」
「そ、そうじゃ!!そうじゃった、リードじゃ!!」
村長は閃いたみたいなリアクションで、うむ納得、みたいな感じで手を叩いた。
「そう、なるほどね。」
エンリは一人呟いた。
「誰なんだそのリードって?」
俺はエンリのお陰でわき腹の痛みも大分収まった。
エンリはそれほど回復魔法は得意ではないそうだが俺にとってはそれでも充分だった。
はじめはポーションを出されたが即座に断ったのだ。エンリには『子供みたいな事言わないの』と渋い顔をされたが俺はポーションはあまり好きく無いのだ。
それに脱力感はあるが、立てない程では無くなった。
「恐らくAランク冒険者、美脚のリードよ。私の予想が合っていればだけどね。」
エンリは考える様にして残っていた緑の鎧を見ながらそう答えた。
その後俺たちは村長の家まで行き、フォアと合流してから、近くの家に集まった。
門へはフォアとゲツとツーに行ってもらい、村人たちに魔物の事は伝えて、今はミスティとリルルもこの場に来ていた。
リルルもミスティの看病のお陰で大分治ってきており、歩ける様になっていた。
因みに村長の家の前にいた男はまだ意識を失っており、恐らく事情を知るであろう一匹の鳥もまだ寝ている。
俺が叩き起こそうとしたら、エンリに怒られた。
『スーちゃん頑張ったんだからもう少し寝かせてあげて』と。
加えて後で聞きたいこともあるからとエンリにジト目で見られてしまった。
俺は『鳥が何かまた余計な事でもしたのか!?』と不安になってしまった。
とりあえず鳥は置いておいて、俺たちは情報交換しつつ一旦話を整理した。
ここまでの間で分かった事は…
ボナーロたちが来て、それを仲間が助けに来て、門の近くに魔物が来て、その後すぐに反対側からも魔物が来て、その中にいたローブ姿の男が爆発して、もう一人現れたローブ姿の方がショートたちの父親だったという事だ。
全く勘弁してくれよと言うほど面倒が重なったなとも思った。
「タイミングが良すぎるわね。」
エンリが皆の情報を聞いてそう呟く。
「確かにな…」
エンリの言葉を聞いて俺も考え直した。
『どういう事?』
レンもこの話が始まる少し前でようやく意識を取り戻していた。
『つまり今までのは一連の流れだったのかもしれないって事だよ』
そもそもボナーロたちが現れたのはその魔物たちが現れたからだと言えるし、ボナーロたちがそのローブたちと繋がっていたのなら話は早い。
全ては仕組まれていた事だと考えれば辻褄が合う。
『だが少しおかしな点もあるんだよな…』
『何が?』
『いや、俺の気のせいかもしれないがこの村を襲うのにあそこまでの魔物は必要なかったと思うんだよな、実際俺たちがいたから対処出来たが、俺たちがいなかったらあの半分、いや下手したらあのローブ一人で事足りたと思うんだよ』
『確かにそうだね…』
「そう言えばエンリ、さっき爆発する時、また会おうみたいな事言ってたんだよな。」
「ええ、正確には『また近いうちに』だけどね。」
エンリは難しそうな顔をしながら答えた。
「ここからは私の推論だけど聞いてくれるかしら。」
エンリは部屋にいる皆を見回すようにして言った。
今この部屋にいるのは、俺とレン、ミスティとリルル、エルザとそれに抱かれたスー、それにエンリだ。
部屋がそれほど大きくないのもそうだが、とりあえず話をまとめたいからとエンリが村長たちに言ったからだ。
ひとまず村長は村人たちにこれまでの経緯を簡単に説明するために集めて話をするそうだ。
ゲツとツーには気絶している男を見張ってもらっている。
結局村長の家の中にいたボナーロたちは全員死んでいた。焼き殺された訳ではなく、それぞれ体を刺されて殺されていたそうだ。
仲間割れなのかそれ以外の者に殺られたのかは不明だが、少なくともスーにでは無いだろう。
それは後であの男かスーにでも話を聞くことで一旦棚上げされた。
因みにボナーロたちが持っていた金は無事だった。
エンリが事前に村長の家の部屋にある貯蔵庫に隠していたらしく、そのまま残っていた。
とりあえずそれもこの後どうするか決めるらしい。
村から巻き上げたお金以上にその金があったからだ。
ショートとライト兄弟は今は別の部屋にいる。
レフトは疲れてそのまま眠ってしまったのと、ショートはあれほどのショックがあったのにも関わらず、弟たちの面倒を見るために一緒にいる。
ライトだけは『俺も兄貴と一緒にいる』と聞かなかったがショートに引きずられる形で連れていかれた。
エンリの言葉に全員が頷くのを見てエンリが話始めた。
エンリの話した内容は、
恐らく村を襲った魔物、正確にはローブと一緒に来た魔物はアンデッドではないかと言うこと。
一つに痛みを感じでいなかった事。
これは既に死んでいたからではないか。
更に顔が人間に近かった事。
オーガではなく、ゾンビに近いのではないか。
そして決定的だったのはそれを連れたローブの男がゴーストであったらしい事だ。
音も無く近寄り、日の光を浴びた顔が蒸発していた事から考えるとそれに近いものであったと考えられる。
そしてここからが重要だが、ショートの父親がアンデッド化されて操られていたとすれば誰かがショートの父親をアンデッド化したと言うことだ。
「なるほどな…確かにそう考えるのが妥当だな。」
それならば『また近いうちに』と言うのもあながち嘘ではないのかもしれないな。
「それにしてもゾンビは日の光を浴びても平気なのか?」
俺は素朴な疑問を口にしてみた。
エンリは顎に手をあて考えながら、
「…そうね、必ずしもそうではないのでしょうけれど、あんな原形のハッキリとしたゾンビは私も見るのは初めてだし、何よりあんな力を持ったゾンビならそうであっても不思議じゃないわね…」
「そうか…」
今の所あの魔物たちについては分からない事が多いな。
『あの黒い靄も気になるが、アレも気になるな』
俺は机の上に置いてある石の欠片を見て呟く。
鎧の方は今はショートたちのいる部屋に置いてある。
一応遺品みたいなものだし、所有権は彼らにあるだろう。
エンリ曰く、かつてイーだったものが燃えて残ったあの石は、魔石に近いものだそうだ。
もう一人いたローブの方は粉々になって見つからなかったらしいが、こちらの方は割れてはいるが原形は分かる状態だった。
恐らく魔力を暴発させて爆発さようとしたと思われるが原理は不明だ。
火の魔力では無く、魔力を暴走させた結果ではないかと、エンリは見ているそうだ。
『俺にはあの石で意思を操っていた様にも思えるんだが…』
確かに奴が喋ったあの時、奴には意識があった。
何よりその前の一瞬躊躇った様に見えたあの時にも…
『グレンこんな時に冗談言わないでよ!』
『俺は何も…』
『だっていしでいしって』
『………』
『レン…ちょっと黙っててくれないか』
最後のオチ?はスルーしてもらって構いません。
グレンのオヤジギャグも有りかと思ったのですが、流れ的にレンの天然で締めたかった作者のわがままです(ノ´∀`*)ユルユルですが…