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タイムネメシス~二度目の人生は二つの入れモノde~  作者: あすか良一
エグザイル編
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第89話 『ナイスプレー』

第89話


『ナイスプレー』



「姉ちゃん!!」


「ライト!!こっちに来ちゃだめよ!!」

ショートは首に短剣を突き付けられながらも気丈に振る舞おうとする。

「姉ちゃんは大丈夫だから、ね。」

無理矢理にでも笑顔を作ろうと努力しているが上手くはいっていない。


弟を心配させまいとし努力はしていてもそれはとても大丈夫そうには見えなかった。

男に後ろから拘束されて喉元に短剣を突き付けられてどこが大丈夫だと言うのだろうか。


「おらぁ!!さっさと道を空けろ!!」

キースは大声で喚く。

『くそがっ!!さっさとこの場をおさらばしなきゃならねえってのに、次々と現れてきやがって!!』


キースは元盗賊だ。

しかも以前いた盗賊団の中でもかなりの下っ端であり、今の団の中でも恐らく最弱だ。

唯一の取り柄はその悪運とでも言うべき運だけだった。勿論気配を消したり、捕まった時に備えて小刀を隠し持っていたり用意周到さも持ってはいるがそれは小心者である裏返しでもあった。

前の盗賊団が壊滅した時もたまたま偵察に出ていたお陰で助かった。

この団に入れたのもたまたま酒場で知り合った男が団の男と知り合いで紹介してもらえただけだ。

しかし彼は自尊心だけは強かった。


「そこのガキ!!水を持ってこい!!姉ちゃんを殺したくなけりゃ急いで取ってくるんだよ!!俺様の機嫌を損ねたらどうなるか分かってんだろうな!!」

喉がカラカラで逃げる前に水をと要求するキース。


『ど、どうする?』

ライトは迷う。


「わ、儂が取ってこよう!!」

ライトを抑えていた村長が声を上げる。


「うるせえ!!俺の言うことに口ごたえするんじゃねえ!!俺はそこのガキに持って来いって言ってんだ!!」

キースは村長を睨み付けてから、

「お前は金を取ってこい!!どっからでもいから金目のものを集めて来るんだ!!村長だったらその辺の家からでも持ってこれるだろうが!!さっさとしろ!!」


「そ、そんな無茶苦茶な…」


「うるせえ!!俺様の言うことに従いやがれ!!」

キースは苛立ちと共に短剣をショートの喉元に押し当てた。


「うっ!!」

ショートの首筋が僅かに切れて、うっすらと赤い線が引かれて血が流れている。


「行ってくるよ!!」

ライトは村長を振り払ってから走り出す。

今はとにかくこの男の言う通りにしないと姉ちゃんが危ないと。


「わ、分かったわい…」

村長も渋々男の言葉に従い背を向けて歩き出す。


レフトは今建物の脇に隠れてそれを見ていた。

『ど、どうしよう…』

レフトは意外と頭がいい。

年齢は9歳だが多分兄よりも全然頭は良かった。

今まで兄の無茶な考えにも従ってはいたがこれじゃうまくいかないとかこれじゃきっとダメだとかも分かっていた。

直情的な兄に比べ思慮深い弟はさっきも遠くから石を投げて牽制した時も、ただ石を投げていたのではなく、ちゃんと投げつける場所は自分なりに考えたりもしていた。事実相手の注意を引き、尚且男二人が飛び込む際にも邪魔にならないポジショニングであり、駆け寄ってくるのもタイミングを図っていた様にも思える。

ただ無論姉や兄が危険に晒されて、そこまで計算していたわけではないのだが少なくとも何も考えずに突っ込む様な事はあまりしない。

最初に馬車に突っ込む時もうまくいかない事が分かっていたから中々飛び込まなかったのだし…


『くそう!!どうすりゃいいんだ!!』

ライトは近くの家に駆け込んで、水場を探してから見つけた桶に水を掬い上げながら考える。

『こいつをぶっかけて怯んだ隙に姉ちゃんを…』

『いやダメだ!!』

『桶ごとアイツの顔面に叩きつけて姉ちゃんを…』

『ダメか!?』

『石を拾って隙をついて投げつけるとか…』

ライトの頭には幾つか挙げられていく案がどれも却下され否決されていく。

ライトはそれほど頭が良くない、その上無茶な事をしてしまうのだが、今はとにかくそれすらも自信が無い。

これまでもどう考えても難しそうな事でも、これでイケるだろうと考えたりしていたが今は姉の命がかかってる。ここで間違えてしまったらここで失敗してしまったらと必ずそこでブレーキがかかる。

『くそっ!!』

ライトは頭を振って今はダメだとそのまま水の入った桶と柄杓を持って家を飛び出した。


『今のうちに逃げるか…』

キースは内心ではドキドキだ。

女の首に短剣を突き付けられながらも焦りと苛立ちとで考えが纏まらない。

元々誰かの指示の元で動いていたキースにとって一から考えて行動するのは苦手なのだ。

『今は水を飲んで金を持って…』

そんな事を考えながらもふと目の前の女に目を向ける。

『へへっ』

キースの脳内に邪な考えが浮かぶ。

正確に言えばキースの頭に邪な考えが浮かばないことは無いのだが…

キースは欲求の塊だ。常に自分がしたい事をしてしまう。衝動があまり抑えられないのだ。

そしてキースは大の女好きで娼婦に行っては自分が馬鹿にされた鬱憤を娼婦に当たり散らすかの様にして発散していた。

既に何人からかの娼婦からは苦情が上がって店を出入り禁止にもなっている。

キースの欲求ランキングで堂々のトップは性欲でもあった。自尊心や欲求を満たすのに都合が良かったからだとも言える。

そしてこんな状況であってもそれは変わらない。

普通ならそれどころではないと分かっていても一度その事に意識が向くとキースには抑えられない。


キースは短剣を突き付けられながらも片手で女の胸元をまさぐる。


「きゃっ!!」

ショートは思わず悲鳴を上げる。

「動くな!!」

キースは更に後ろから首元に舌を這わせる様にして舐めている。

「いやっ!!」

それから逃れようと僅かに首を反らすが逃れられない。


そこへ、ガタンと勢いよく扉を開けて桶を持った少年が息を切らせて現れる。

「持ってきたぞ!!姉ちゃんを離せ!!」


『ちっ!!』

幸いにして扉の音と共に首筋から顔を離した事によりライトにはその光景は見られなかったが、

「ちゃんと家に入る時にはノックをしろと教えられてねえのかこのクソガキが!!」

苛立ちも顕にキースはライトを睨み付ける。


ガタッ!!

キースの後ろで何か物音がした。


思わずそれに振り返ろうとするが、

「約束通り水を持って来たんだから姉ちゃんを離せ!!」


「ああん!!誰がそんな事言ったよ!!俺は水を持ってこねえとどうなっても知らねえって言ったんだ馬鹿が!!」

弱い相手には強気なキースは吐き捨てる様にしてライトへそう告げてから、

「おい、柄杓を拾って俺に飲ませろ!!」

ショートに首元でそう命令する。


『ちくしょう!!』

ライトは歯軋りしながらそれを見守るしか無かった。


ショートは言われた通り柄杓で水を掬い上げた。


「おっと待て!!念のため味見が必要だな、もしそこのガキが水に何か入れてやがったら大変だからな。」

ニヤリとキースが下卑た笑みを浮かべる。


「そ、そんな事してないよ!!」

ライトは身に覚えのないそんな言いがかりに思わず反論するが、

「黙ってろガキ!!」

キースは再度ライトを睨み付ける。

「お前がまず飲んでみろ。」

ショートの耳元でそう語りかける。


ショートは一瞬躊躇うも、直ぐ様手に持つ柄杓を口に当ててそれをゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干す。

それを見てキースもゴクリと一度喉を鳴らしてから、

「よし、もう一度柄杓に水を掬え。そして今度はそれを口に含んで俺に飲ませろ!!」

キースの口元が歪む。


「ふざけんな!!」

ライトは今にも飛び掛かろうとしたが、

「待ちなさいライト!!」

ショートはライトを呼び止める。

「お願いします。せめてこの子は外に…」


「ダメだ!!いいかガキ、これから少しでもそっから動いたらお前の姉ちゃんは死ぬぞ。ああ、あと声も出すんじゃねえぞ、出したら姉ちゃんのこの綺麗な肌にまた血がつくことになるんだからな。」

と短剣を突き立てながら、先程血が流れた首筋の箇所を舐めるようにしてから見やる。


『くそっ!!くそっ!!くそっ!!俺はまた何にも出来ずに見てるだけしか出来ないのか!!くそっ!!くそっ!!くそっ!!…』

キースを睨み付けながら拳を強く握り締めたライト。しかし視界の端に何かが動くのが見えた。

そうキースの後ろ、足下の辺りで近付いている姿を。


「ほらっ!!さっさと口に含んで俺に飲ませろ!!たっぷりとな…」

キースは相変わらずニヤつきながらショートを急かす。

確かに喉も渇いているが今はそれ以上の自分の欲求を満たすのに夢中といった所だ。


ショートは躊躇いながらももう一度柄杓から水を掬い上げて口へと含ませる。


それを見て益々口元を歪ませたキース。


そしてショートはキースへとその口をゆっくりと向けた…

その瞬間キースの右足、ふくらはぎの辺りに激痛が走る。

「ぐあっ!!」

更に目の前に近付いていた女の口から顔へと水がかけられてから、僅かに顔を反らした直後に胸元へと肘鉄をかまされて、後ろへとたたらを踏んだ所へ、凄まじい衝撃が自らの股間から電撃の様にして全身へと伝わった。


キースの右足に噛みついたのはレフト、肘鉄を入れたのがショート、そして止めの一撃がライトだった。

最後の一発は正にクリーンヒットしていた。

これぞ三兄弟による見事なトリプルプレーだった。


「ががっ!!」

蹲る様にしてその場で股間を押さえながら崩れ落ちるキース、ここで意識を失わなかったのは流石だとも言えた。

辛うじて意識を失わずにいられたのは、ある意味で今も噛みついたままのレフトがいたからかもしれないが。


レフトは家の裏の小窓から中へと入ったのだが、別に事前に打ち合わせをしていたわけではない。

ライトがそれに気付いたのも今さっきの事だ。

ショートに至っては隙は伺ってはいたが、肘鉄を喰らわせたのはライトが動いたのを目にしたからである。


既にショートはキースから逃れ、ライトはキースから少し距離を取っていたが、レフトは噛みついたままで距離を取るのが遅れてしまっていた。


「くそがぁ!!」

キースは痛みを抑えながらも、自らの短剣をレフト目掛けて降り下ろそうとした。


しかし、ドンと言う衝撃を受けて体が後ろへと引き寄せられる。

左肩へと突き刺される様な痛みを感じ目を向けると、そこには文字通り自分の肩が突き刺されていた。

ショートの短剣によって…


「ぐあああ!!」

手にした短剣を離して後ろに転がるようにしてのけ反りながら左肩の痛みに耐える。

『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたすぎるぅ!!』

キースは今まで幸運にして刺された事が無かった。

擦り傷や切り傷はそれこそ数え切れない程負ってきた。殴られたり蹴られたりして打撲や出血も勿論ある。だが刺されたことは一度も無かったのだ。

キースの生きてきた中で一番の大怪我は骨折だ。

それも逃げる時にこけた拍子に右手の小指をついて折ったというかなり間抜けな格好での骨折。

『痛い熱い痛い熱い痛い痛い熱い痛い痛い!!』

今までこれほどの痛みを受けた事の無いキースにとってはとても耐えられない様な痛みだった。

キースはじたばたと足を床に叩きつけながら少しでも痛みを薄れさせようと力を込めるが一行に痛みは収まらず、短剣に手をあてたが、その瞬間またも痛みに襲われるというループを一人繰り返していた。


「行きましょう!!」

ショートは素早く立ち上がってキースを一瞥するも、すぐにレフトの手を取った。

「こ、こいつこのままにしといていいのかよ!!」

先程股間へと見事な一発を放ったライトだがまだ少し悔しさが残っているのは止めの一撃を結局はショートに持っていかれたからか。

「お兄ちゃん早く!!」


「ちっ!!分かったよ!!」


3人は外へと出ると丁度向こうから村長が走ってきていた。手には置物やら謎の像の様な物を手にしてた。

「おおっ!!無事か!!あいつはどうしたんじゃ!?」


「俺と姉ちゃんでブッ飛ばした!!」

ライトがへへんみたいに人差し指を鼻元にあてて自慢気に返す。

「僕もやったよ!!」

レフトが抗議する。

「あの人は今もあの家の中にいます、でも暫くは追ってこられないと思います。それよりも早く逃げましょう!!」


「う、うむ!!」


【エルザside】


エルザは今とりあえず村人たちが逃げてきている方向へと走っている。

流石に匂いでエンリを追えるほどはエンリの鼻も強くは無い。

頑張ればひょっとしたらイケるのかもしれないが試してはいない。

今も横を走って通り過ぎようとしていた村人がいた。

皆必死で余裕が無いのか、逆に走って行こうとするエルザに声を掛ける者はいなかった。

エルザの横を過ぎた女性の直後に手を引かれていた少女が倒れたのを目にしてエルザは急ブレーキをかけて、

「大丈夫?」

と声を掛けた。

以前の人見知りの頃のエルザならスルーしていたかもしれない。多分年齢が近い事もあるかのかもしれない。


「うん。」

少女は涙を浮かべながらも立ち上がろうとしている。

「す、すみません!!」

慌てて駆け寄る女性はエルザを見て、

「きゃっ!!」

思わず悲鳴を上げて、女の子を庇うようにして抱き締めた。


それを見たエルザは哀しい気持ちになった。

女性が自分を見て驚いたからでは無い。

無論それも悲しくはあったのだろうが、それよりも庇うようにしている母親がいるのが羨ましいのだ。


「魔物はどっちにいるの?」


「えっ!?」

女性は子供を胸に抱いたままエルザを見た。

目の前にいる子はとても可愛い顔をした自分の娘とそう歳も変わらなさそうな女の子だ。

見るからに獣人と分かるそれだがよく見れば、見た目はとても自分に危害を加えそうな気はしない。


エルザは今は帽子も被っておらず耳は露出している。

あの帽子は町のお出掛け用で普段は外している。

耳が痒い時に邪魔になるのとグレンが自分の為に作ってくれたお気に入りなので大切にしているものだ。


「あ、あっちだけど…」

女性は少し震えた指で自分が魔物が来たと聞いた方向を指差す。


「んっ、ありがとう。」

ペコリと可愛いお辞儀を披露してからエルザはその場から去っていく。


「あっ!?お嬢ちゃんも逃げて!!」

と背中に聞こえた女性の声を置いてエルザはその場から走っていく。

『これ以上大切な人を失わない』

と決意を胸にしながら…


【スーside】


『やれやれ参るだわさ』

スーはキョトンとしているエンリを見て考える。

『なんであちしがあの女を守る為にご主人の魔力を』

スーにはグレンから貰った魔力がまだ残ってはいるが出来るだけ使いたくは無い。

今のもエンリが危なかったから助けたのだが、正直あの技で倒す必要は無かった。

既に今日二度変化しているスーにとっては極力魔力の無駄遣いは避けるべきだったのだが今のは過剰でもあった。

スーの力ならば恐らく羽1本突き刺して燃やす事も可能だ。

無論スーにとってご主人からの命令は絶対だがご主人を守るのとご主人に言われたから他のものを守るのとでは当然比重が違う。

グレンを守るためならば自分の魔力がたとえ少なくとも無理矢理にでも魔力を引き出して守るだろう。

では何故今瞬時に魔物を蹴散らしたのか…


『嫌におかしな魔力を感じるだわさ』

スーは目を細める様にして視線をこちらに近付いてきている緑の魔物、ではなく、その後ろからゆっくりと歩いてくる遠くのローブの人影へと向けた。


「スーちゃん!!」

レイピアを手にしたままエンリが近付いてくる。

衝撃から復活したエンリは少しだけ離れた位置からマジマジとスーの姿を見ていた。


「グガアアア!!」

そこへ一匹の魔物が走り込んでくる。


『邪魔だわさ!!』

スーはその魔物へと片翼を一振りして羽を飛ばす。


魔物はそれを平たい大きな剣で受け止めるが、数本の羽はそれをかわし魔物の身体へと突き刺さる。

そして突き刺さった羽がまた瞬時に燃え上がる。

先程と比べ一瞬にしてその身を塵とする事は無かったが、燃え上がった羽は魔物の身体を大きく侵食していく様に纏わりついてゆきその全身を燃やしていく。

「グガアアア!!」

先程の雄叫びと同じ悲鳴を上げながら、

火だるまになった魔物はその場で身をよじらせながらそして動かなくなった。


『どこがBランクよ、Aランクでも勝てないんじゃない!?』

エンリはその光景を見て安堵するよりも戦慄の方が強かった。



























やはり詰まるのはタイトルですね。

表題もそうなんですが惹き付けるようなタイトルって難しいので作者はついシンプルなものにしてしまいます。『24』とか『スピード』とか洋画のタイトルは素晴らしいと感じております。

※原題は違うのでしょうが作者の拙い知識なのでツッコミはご勘弁をば(^ー^;A

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