第8話 『広場での攻防』
第8話
『広場での攻防』
「クソッ、そろそろ限界か」
ドランクはあまりにも早すぎる
自身の限界に思わず舌打ちした。
腕だけでなく足、
足だけでなく、腰と。
身体の各所の動きが鈍くなってきている。
横目に見たガルシアもそろそろ限界だろう。
むしろ良く持ちこたえたと言えるだろう。
「ええぃ!うっとおしい!!」
ガルシアは渾身の力でゴブリンもどきに
斧を叩きこんだ。
直後に真横に現れたゴブリンもどきが
棍棒を振りかぶってガルシアに襲いかかる。
「ガルシア!」
ドランクは目の前の魔物を切り捨てながら
叫ぶが魔物が邪魔で援護できない。
ガルシアは斧で防ぐが勢いを抑えきれず
斧を弾き飛ばされ尻もちをついた。
そこへゴブリンもどきは再度棍棒を振りかぶり
追い打ちが繰り出された。
ヤバい!と思ったガルシアだが斧は飛ばされ
防ぐ手段が無かった為、自身の片腕を頭の上に
かざし頭をかばった。
そして自分に振り下ろされるであろう棍棒の
衝撃を目を瞑って待ったが…
それは来なかった。
目を開けてみると、目の前にいたゴブリンもどきの
頭部に矢が刺さっていた。
ミーシャが放った矢が見事に命中していた。
ゴブリンもどきは手にした棍棒を落とした。
すかさずそれを拾い上げたガルシアは思いっきり
目の前の魔物に棍棒を叩きつけ吹き飛ばした。
それを見たミーシャはホッとしつつも
次の矢をつがえるべく、背中の矢筒に手を伸ばしたが
矢筒の中に矢は無かった…
慌てたミーシャを見たガルシアは
立ち上がってそのままミーシャの方に走り出した。
ミーシャはオロオロしながらも弓を放り出し、
腰の剣を抜いて構えたが
今度は足だけでなく腕もガクガクと震えていた。
『どうすれば…』
そうドランクが思った瞬間、
広場の向こう側で凄まじい光が見えた。
【フリージアside】
「シャイニングスピア!!」
フリージアは『ライティングオール』による
光の中で高らかに唱えた。
『シャイニングスピア』…
光属性の魔法で中級魔法とされている。
フリージアは
恐らくこの魔物には、この魔法だけでは
それほどダメージは与えられないと踏んでいた。
理由としてはいくつかあったが、
いくら『闇』に対して効果のある光属性の魔法でも、
元々属性はあっても適性を持たないフリージアの
魔法ではそこまでの威力が出せない事。
加えて相手の方が強いこの状況では
良くて相手を怯ませる程度だろう。
しかし今の状況ならばと…
『ライティングオール』は目くらましの効果プラス
相手の影を弱まらせる目的があった。
光そのものに力は無いが、相手の隙をつき、
尚且つ相手の力を弱めた所にこの魔法をぶつければ…
フリージアは
光の槍を生み出し、相手目がけて投てきする。
この光の中では相手もそうだが自身の視界も遮られる。
わずか前にいたはずの女の魔物がいたであろうその場所に
頭部ではなく身体の部分目がけて放った。
頭部では無く身体を狙ったのは絶対に外せないので
かわされてしまわないよう狙ったのだ。
そして…光の煙幕が徐々に薄れていった…
その先に見えたのは…
女の魔物の顔だった。
不気味に笑みを浮かべながら佇む女の魔物の姿。
正面に薄らと暗い霧の様な壁が出来ていた。
「うそ…」
フリージアは投てきしたあとの恰好で見つめて呟いた。
「やれやれ、
だから言っただろう。この程度の魔法で
わたしをどうにかできるなんて思わない事だねぇ。」
ニヤリと言った感じで女の魔物は言った。
「そもそも光が闇より強いはずがないだろうに、
闇は全ての光をくらうのさ。次はこちらの番だねぇ」
そう言って、
「シャドウスピア」
女の頭上に黒い槍が現れた。
フリージアの槍よりも一回り大きいそれは宙に浮いている。
フリージアは膝をついた。
連続詠昌により即座に次の魔法を使う事が出来なかった。
本来であればまだ余力があるはずの魔力が
光の魔法の連続詠昌で目減りしていた為だ。
しかも『これで決める』と思っていたフリージアは
かなりの魔力をシャイニングスピアにつぎ込んでいた。
おまけにそれがダメージすら与えられずに
防がれたのだから仕方がないだろう。
女の魔物はゆっくりと腕を上げて、
「死にな!」
そう言って手を振りおろそうとした瞬間、
キンッ!
女の魔物の後ろから音が響いた。
女の魔物は後ろを振り返りその男を見た。
ドランクが凄い勢いで走ってくる。
広場の反対側でまばゆい光が見えた時、
ドランクはフリージアが何かを仕掛けたのだとわかった。
ただの目くらましの可能性もあったが
ドランクはフリージアがきっと早く勝負を仕掛ける
だろう事が分かっていた。
自分の病状を気にして…
光が見えた時、ドランクは駆け出していた。
目の前にいた魔物を切り伏せ、
切り開かれた場所に飛び込んでいった。
光が消えた直後、ドランクは女の魔物が
頭上に黒い槍を携えているのを見た。
瞬間、これでは間に合わないと思い自らの剣を
女の魔物目がけて投げ放った。
剣は女の魔物に突き刺さる事無く弾かれたが、
そのまま構わずドランクは突っ込んだ。
女の魔物は振り返り、
頭上の槍をドランクに向けて放った。
とっさにドランクは避けようと右足に力を込めた。
しかしその瞬間、右膝がガクンと沈み込んだ。
既に熱を持ち始めていたドランクは限界が近かった。
黒い槍はかわしきれなかったドランクの左の脇腹を
かすめ地面に突き刺さった。
かすめたといっても
ドランクの脇腹は肉を削がれていた。
「ぐふっ」
大量の出血があったがドランクはそのまま魔物の側に
弾かれていた自身の剣を掴み、魔物の正面に立った。
膝が笑っているが、その顔は相手を睨みつけ諦めていない。
「ドランク!!」
フリージアは今すぐにでもドランクの側に
駆け寄りたかった。
だが駆け寄った所で今の自分に何が出来るのか。
唇を噛みしめながら女の魔物を見る。
「うざったいねぇ、本当に。いい加減にしな」
そう言うと女の魔物は
「シャドウ・アロー」
と呟いた。
女の魔物の上に数十本の黒い矢が現れた。
「これでも喰らってな」
面倒そうにそう言うと軽く腕を振った。
一斉にドランクに向かってその矢が殺到する。