第82話 『作戦その2』
ストック放出です。
第82話
『作戦その2』
パリン!
静かな部屋の中、硝子が床に落ちて弾けて砕ける音が響いた。
幸いにしてそれに気付き動く者は中にはいない。
それを確認してから僅かな間をおいて窓の外から中へと入ってくる人影が一つ。
ヘッドギアを頭に被った男は部屋の中を見回しながらゆっくりと中へと入ってくる。
既に窓の硝子は割れており、枠を触って動かしただけで硝子の破片が落ちた時は少しだけ焦ってしまったが、何とか無事に入れたとホッとしていた。
そのまま身を低くして、部屋の扉へと向かう。
扉の向こうに誰かがいてもいい様にと腰の短剣を抜いてから、扉のノブをゆっくりと回す。
それからなるべく音を立てないようにして回し、そーっと奥へと扉を押していく。
ギィィと僅かに、そうほんの僅かに出たその音に内心で舌打ちをしながらも、その男は慎重に扉を開けていく。
少し隙間の出来たその状態で男は扉の外の音を拾うべく耳を近付ける。
しかし聞こえる音は無く、静まり返ったその状態にまたもホッとしつつも、男は扉を更に奥へと押していく。
ようやく人が一人通れるかといった程度の隙間から身を滑らせるようにして扉を潜り抜ける。
扉の外は廊下であり、人の気配はしない。
キョロキョロと辺りを見回した男はそのまま奥にある扉を見つめる。
自分の正面にある扉は恐らく入り口へと続く扉であると確信している。
しかし奥にある扉は3つある。
家の作りからして一番奥にある扉は外に繋がる扉ではないかと考えたが実際に裏口を見たわけでは無いので確信はもてない。
だがやはり調べるとしたら右の扉か左の扉だろう。
どちらにするか迷った男はとりあえず左だと考え、奥へと慎重に歩みを進める。
特に何かそちらを選んだ理由は無い、違うと分かれば直ぐに反対側へと移行するだけだ。
扉の前に来た男はまずは念の為にと確認する様に左の扉へと耳をつける。
なるべく音を出さないように注意しながら聞くと…
「くわあああ」と言った欠伸が聞こえてきた。
思わずそれを聞き、扉から耳を離しそうになってしまったが、ここまで見張りも含め、誰もいなかった事を考えればここに誰かいたとしてもそれは当たり前だ。
男は一旦中の様子を探るべく外に出るかとも考えたが、もう少しだけ中の様子を探るべきかと改めてその扉に耳をつけた。
すると今度は、
「キュキュキュ♪」
という鼻歌の様な音が…というか鳥の鳴き声、いや鳥の鼻歌みたいな音が聞こえた…
『何だ!?中には何がいるんだ?』
男は迷った、このまま中に入るべきかどうするべきかと。
『いや、その前に…』
一応こちらも確かめておくかと反対側の扉にも目を向け、そちらの扉にも耳を当ててみた。
『万が一こっちからも挟まれると面倒だしな』
そう思い扉の中の音を聞くため耳に意識を集中すると、
「モガモガ…」
というくぐもった、そう何かに口を塞がれ、声にならない声を発しようとしている男の声が聞こえた。
更にはガタガタと小刻みに聞こえる物音が聞こえる。
『こっちか…』
男は一瞬迷ったが、ここに仲間が捕らわれていると半ばながらに確信した。
念の為その扉のノブをゆっくりとそれはもうゆっくりと慎重に音を立てない様に細心の注意を払いつつ、回してみる。
勿論反対側の手には短剣をしっかりと握り締めながら、そして回しきった所で奥へと扉を軽く押してみる。
男は捕らえられているのならばきっと鍵が掛けられ開かないものだと鷹をくくっていたのだが…
ギィィと僅かに音を立ててその扉は開いていく。
『マズイ!!』
男はそのノブから手を離して、慌てて横の壁へと身をつける様にすると同時に息を潜める。
少し開いた扉はそのままで、男は短剣を構えたままその隙間を凝視している。
数秒してから変化が無い事に安堵しつつも警戒しながら、ゆっくりと扉を開く。
勿論横から襲いかかられない様にと体は前へと出さずに扉だけゆっくりと開ける形だ。
そして手に持つ短剣に力を込めながら、開いた扉の中を見てみると、中には大きな男の姿が見えた。
「ボナーロさん!!」
男は縛られて口に猿ぐつわをされた状態のボナーロを見つけて咄嗟に駆け寄ろうとする。
仲間の姿を開かれた扉に見つけたボナーロは目を見開く、
「モゴモゴ!!」
猿ぐつわをされた状態で言葉にならない何かを叫んでいる様だ。
「待って下さい!!今!!」
ヘッドギアをつけた男はそのままボナーロの元へ駆けて行こうとするが…
「ぐはぁ!!」
背中に激しい痛みを感じて倒れ込む。
痛みに苦しみながらも何とか顔だけでもと振り返る。
振り返った男の視線の先にはローブの男、ロンドが短剣を構えたまま見下ろしていた。
「な、何で…」
男は信じられなかった、いや信じたくなかった。
「さようなら。」
ロンドは一言そう告げてから男の首元めがけて短剣を降り下ろした。
「むごむごむごぉ!!」
ボナーロは首を必死に左右に振って、更には体をこれでもかと言うほど揺さぶっている。
現在手足を縛られて猿ぐつわを噛まされた上に腰の辺りと脚の太もも辺りとを鎖の様なもので繋がれる様にして縛られていた。
念のためにとエンリが指示し縛っていたのだ。
体育座りの様な格好で身動きが取れないボナーロは引きちぎってやろうと力を込めるが、逆に鎖が自らの脚と腰に食い込みそれも出来ず苦悶の表情をしている。
「やれやれ、相変わらず騒々しい人だなぁ。ちょっとは大人しくしてなさいよ。全く。これだから傭兵は無骨で嫌いなんだよ…」
首を左右に振りながらたった今突き刺した短剣を声の出なくなった男の首元からゆっくりと引き抜き、部屋を見回している。
「やっぱりあっちの部屋か。まあ、外から見て分かってはいたけど、やっぱり例の少年もいないのか…」
何かを確認する様にして周りにいる男たち、ボナーロと同じく縛られている男4人を見て呟く。
そしておもむろにボナーロへと近付くと、ボナーロの腰のポーチへと手を伸ばした。
「むぐぅ!!」
必死に身を捩らせそれに抵抗するかの様な反応を見せるボナーロに、
「おい、おい、大人しくしてろっていったろ。」
と如何にもめんどくさそうなため息と共に手に持つ短剣をボナーロの太ももに突き刺した。
「ぐむぅ!!」
ボナーロは痛みを堪えるがグリグリと短剣を押し付けられ更に傷口が開き、耐えきれない痛みに悶えている。
「おっ、あった、あった。」
お目当てのものを見つけたロンドは短剣を引き抜き体を後ろに持ち上げて立ち上がる。
「これこれ、このくだらない契約書、ほんとウザいよね。まあどうせ一緒に燃えちゃえばおんなじだけどやっぱりこれは自分の手で破り捨てとかないとね。」
そう言って手にしていた紙を破り始める。
「むごぉ!!」
目には涙を滲ませ、痛みに耐えているのか悔しいのか憤怒の表情でそれを睨むようにして見つめているボナーロ。
「はー、スッキリした。全く何が裏切らない為の契約書だよ。そんなもんにサインしなきゃ仲間に入れないなんてどんだけ裏切り恐れてるんだよ。…でもまあ実際こうして裏切られてるんだから一緒か。あははははは!!」
ロンドはひとしきり笑った後、
「はあーあ、それじゃさっさと始末しちゃいますか。」
そう告げてから未だに気を失ったままで縛られている男たちの元へと歩き出した。
ボナーロ以外の四人はいずれもまだ意識を取り戻しておらずボナーロと違って手足は縛られているものの猿ぐつわはされておらず、横になる様にして寝かされている状態だ。
「全く甘いなあ、これじゃ目を覚ましたら逃げて下さいって言ってる様なもんじゃないか全く。」
そんな感想を口にしながら、何の躊躇も見せず、短剣を寝ている男の首元へと突き刺す。
突き刺された男は、
「ぐがああ!!」
と目を見開くがまるでかき混ぜるようにして短剣をぐちゃぐちゃと突き刺している状態で動かされ、暫くして動かなくなる。
それと同じ事を順番に4回、いや正確には4度目は既に目を覚ましていた男が目を見開いて、逃れ様として必死に身を捩らせた為、胸元に短剣を刺したりもしたのだが…結果的には動かなくなるのは同じで、淡々と作業の様にそれを繰り返した後、ボナーロへと振り返る。
「全く、一人も殺しておかないなんて甘すぎて笑っちゃうね。反応が5つもあったからどれかは見張りだと思ってたのにまさか全員生かしてあるなんてさ…」
短剣にはべっちゃりと血がへばりつき、身に纏うそのローブも前部分はその返り血で染まっていた。
「こりゃもうダメだな。」
そう言ってロンドは短剣を投げ捨ててから、近くで倒れていたヘッドギアの男が握っていた短剣を奪い取り手に取った。
「さてと、そろそろおいとましなきゃね。ああ、その前に一つ確認しておくか。」
ロンドは思い出したかの様にして、ボナーロへと目を向けた。
目を向けられたボナーロは声を上げることなく、フーフーと荒い息をたてながらロンドを睨んでいた。太腿から血を流しながらも目は怒りを表すかの如く充血し、その憎しみを顕にして睨んでいる。
「ああ、怖い怖い。怖いねっと!!」
ロンドは手にした短剣を今度は先程刺した太股と反対側の太股へとまたも全く躊躇せず突き刺す。
「ぐぐう!!」
ボナーロはまたも痛みで涙が出るも必死に堪えている。
ロンドはそのまま太股から短剣を抜いて、ボナーロの猿ぐつわを切った。
「て!!てめえ!!絶対ぶっ殺す!!許さねえぞ!!許さねえからなあああ!!」
部屋を揺るがすほどの大音量、おまけに唾も凄い勢いで吐き出す様にして吠えた。
次の瞬間、ボナーロの額には短剣が突き刺された。
「が、が、が…」
「あーあ、もううるさいし、酒臭いし、もう耐えらんないよ全く、折角確認しておこうと思ったけどもう別にいいや。どうせこのままここを去るつもりだし、後はあいつらにくれてやるか。まあうまく行けばいいけどね。」
ロンドは短剣をボナーロの額に刺したまま立ち上がる。
そこへバタンと音が聞こえた。
ロンドは即座に身を横に反転する様にして振り返ると…
そこには凄いスピードで迫る紅い弾丸が見えた。
それはまさに凄い勢いで迫ってくる。
矢か!?魔法か!?
瞬時に頭の中で計算し、
「ウインドウオール!!」
身を屈める様にして障壁を展開した。
ロンドはそれほど強力な魔法は使えない。
だが彼の真骨頂は魔法の展開の早さとその正確性。
そして一番の特殊技能は探知系能力だ。
危険察知は元より、特殊な魔法で探知系のものも使える。
探知系の魔法を使える者はそれほど多くはない。
魔法使いだからと言って扱える魔法の種類はそれぞれだが、探知系の魔法はどちらかと言えば精霊系の魔法に近い。だからと言って精霊魔法にしかないわけではないのだが、ロンドの場合はより正確に言えば魔法と言うよりは生まれ持った資質であり、感覚というか技能と言った方が正確である。
この技能のおかげで今まで何度も死地を逃れてきたのは毅然の事実だった。
そしてこの家に入る前に既に5つの生命反応と人ではない何かを察知していた。
更にあらかじめこの部屋に仲間が捕らわれている事も分かっていた。
念の為、外からも一通り確認はしており、窓が木で塞がれているこの部屋と向かいの部屋は小窓であまり中を確認出来ず、僅かに見えた隙間からは鳥が気持ち良さそうにして寝ている姿が見えたので、何となくこの鳥の反応だったのかと自分を納得させていた。
ただ、相手がどんな相手か、そして何があるのか分からない様な状態では迂闊に侵入は出来なかった。
なので先に侵入させた男がこの部屋に入った時、それをいち早く確認して対処する必要があった。
相手を察知出来るという事、逆に相手に察知させないと言うことにも長けていたロンドにとっては奇襲はまさにお手のものだった。それがたとえ仲間であったとしても関係ない。いや仲間であればより簡単に行えると確信していた。
当然相手からの奇襲、このパターンも予測していた。
なので部屋に入る際に予め探知系の魔法をかけてあった。この部屋の入り口の廊下部分にも。
その上を何かが通った場合すぐにロンドには分かる様になっていた。だから振り向くと同時に呪文を詠唱し間に合ったはずだったのたが…
「キュイー!!」
『スーキック!!』
目の前に出現させた障壁をパリンと言う音が聞こえた瞬間、それを突き破ってロンドの視界に現れたのは2つのYという記号が並んだ様なもので、丁度目の下、両頬骨の辺りに強い衝撃を受けたロンドはそのまま勢いよく頭から後方にある壁へと吹き飛ばされた。
壁に頭から突っ込んだロンドは、
「ぐはっ‼」
という声を上げてから項垂れる。
「キュイー」
『危なかっただわさ、危うくまたご主人に怒られるところだっただわさあ』
スーちょっぴり焦っていた。
何故かって?
理由は少し遡る。
エンリが家を出る前、部屋の者たちに聞かせた話とそのやり取りはこうだった。
「恐らく相手は人質をたてに仲間とお金を要求してくると思うわ。私がなんとか意識をそらすからあなたたちはその隙に人質を解放する為に動いて欲しいの。出来るかしら?」
エンリは先程この家にやって来た村人の男とその後ろに立つボナーロの見張りをしていた村人の男に問い掛ける。
「で、でも俺たちだけじゃ…」
「た、確かに…いくら気を惹いてくれたとしても…」
お互いに顔を見合わせて気弱な返事を返す。
「そう…なら…」
エンリは仕方がないと諦めようとしたが、
「俺がやる!!」
ライトが堂々と手を上げて答える。
「ぼ、僕も!!」
続いてレフトも手を上げた。
「わ、私もやります!!」
そしてショートまでも。
「儂もじゃ!!」
最後には村長までもが高々と手を上げた。
「分かったわ。有難う、でも…」
そう言いかけたエンリに、
「やります!!」
「やらせて下さい!!」
先程自信なさげにしていた男二人が意を決した表情をして手を上げている。
「この子達でさえやろうってのに俺達がやらないわけにはいかないですよ!!」
「ああ、そうだよな!!こんな爺さんよりは俺らの方が上手くやれるはずだぜ!!」
なんかお互いにガッチリと腕をくの字に上げて握手して、腕相撲の様な姿勢のままグリンと顔を回しエンリの方を向いてから、ニカッと笑顔を作って言った。
どうでも言い話だがこの二人の名前はゲツとツーと言うらしい。
後にエンタ村のゲッツーコンビなどと言うコンビを結成して意気揚々と冒険者になる為に村を出るとか出ないとか。
「それじゃ君達にはその役目をお願いするわ。ライトもレフトも無理しちゃダメよ。」
「おう、任せとけ!!」
「うん、大丈夫だよ!」
「それとショートと村長さんもあたしと一緒にいて頂戴。念の為これを渡しておくわ。」
そう言ってエンリは腰の短剣をショートへと渡した。
「あっ!!姉ちゃんにだけズルい!!俺には?」
「ぼ、僕も!!」
ライト兄弟がすかさず声を上げる。
「これはお守りみたいなものよ。自分の身を守る為のお守り。あなた達は男の子なんだから私から貰うんじゃなくて自分で手に入れなさいね。別にこれが無くても男の子には他にもいくつも武器はあるんだから。ああ、だからと言って他の人から盗んだりしたらダメよ。既に大切な武器をあなたたちは手にしているんだしね。」
眼鏡を掛け直す仕草で覗き込むようにして二人を見つめる。
二人は意味が良く分かっていない様で、お互いを見て首を傾げていたが、暫くして頷くのを確認してから、
「それじゃ最後にスーちゃんにお願いするわね。」
エンリは元々この襲撃を予測していた。
この陽動に乗ってる最中に恐らく他の仲間がこの家にやって来るだろうという事は読んでいた。
直接ここではなく別の場所で騒ぎを起こし、自分たちを誘き寄せようとしているのは明白だ。
だが陽動を無視してこの場に留まる訳にもいかない現状でどうするか?
グレンがいれば問題ないのだが今はこの場にはいない。
そうなると…
エンリはグレンからエステルの町を出てから数日が経った頃に、スーの事も話して聞いていた。
『こいつはおかしな鳥で俺とミスティには言葉が分かるんだ、念話みたいな感じでな』
『それにこいつは魔力を食う鳥でな、俺とミスティの魔力を注ぐと結構強くもなれるんだ、多分冒険者で言えばランクB以上の力はあると思うぜ』
『ただこいつ、お調子者だからしっかり指示出してやらないとダメなんだよ、もし何かあって協力させる場合には…』
その後聞いた話と最後に、もし何かあって俺がいない時はその鳥を使っても構わないとも言われた。
正直半信半疑ではあったが、グレンが嘘をつくとも思っておらず、『そういう機会があったらお願いするかもしれないわね』と一応は返してはいたのだが…
「もし、この部屋に誰か入ってきたら、やっつけて頂戴。あと出来ればでいいんだけど前の部屋にいる人たちが暴れたら私を呼びに来て欲しいんだけど出来るかしら?」
スーを胸元に抱いてやって来た部屋の前で言い聞かせる様にしてエンリは話し掛ける。
「キュイー」
『やれやれなんであちしがこんな女の言うこと聞かなきゃならないだわさ』
何だか気のない返事を返すスー。
「ああ、それと私の言い付けを守ってくれたらグレンに魔力をあなたに食べさせて上げる様に口添えしてあげてもいいわ。何ならとっても賢くて可愛いスーちゃんをちゃんと可愛いがってあげる様に言ってもいいわよ。…逆に聞いてくれなかったらグレンにその事言い付けちゃうかもしれないけど。」
「キュイ⁉」
『何ですと⁉』
そいつは聞き捨てならねえぜみたいにエンリを見た後、
「キューイ‼」
『サーマム!!』
まるで軍隊の様な敬礼をして答えた。
『あらっ!!ほんとに言葉が分かるみたいね』
「それじゃ、お願いねスーちゃん。」
そう言って家を出ていったエンリ達。
残されたスーはボナーロたちが捕らわれている部屋の前にある部屋で少し横になっていた。
先程見事な敬礼をビシッと決めたスーだったが、眠くなっていたのだ。
例えるならば至福の食事を終えた後…
人はどうするか…
もとい鳥はどうなるのか…
そう眠くなるのである。
よって今の今まで寝ていたのである。
起きたのはさっき部屋の前で魔力を感知した際、そして動いたきっかけはあのボナーロの大きな声を聞いたからだ。
壁へと吹っ飛んだロンドは、まだ生きていた。
そして顔全体とその首筋に強い痛みを感じながらも意識もまだ残っている。
少し歪んだ顔を更に心中で歪めてその鳥を薄く開けた瞼の奥から見ている。
『なんだあの鳥、ヤバい雰囲気しかしない、ただの鳥じゃないな』
ロンドの危険察知能力がここは今すぐ逃げろと警告を鳴らしている。
『くそう!あんな鳥一匹に僕の計画が邪魔されるなんて冗談じゃない』
チラリと部屋の入口を見やる。
部屋の中央では鳥が辺りを見回す様にして飛んでいる。
『アチャー、参っただわさ全部死んじゃってるだわさね』
『でもまあこれは仕方ないだわさね』
『うん、これはあちしのせいじゃないだわさ』
なにやらキュイキュイ言いながらボナーロ達の死体を見ている様子だ。
『金は惜しいが仕方が無い』
ロンドは頭の中で意を決してから、行動を開始する事を決意した。




