第81話 『作戦その1』
気が付いたら80話突破していました。
一応予定通りではあるのですが結構最初の頃と比べると書き方も変わっている事に気付いてどう修正しようか迷ってます。
とりあえずは今の書き方で行こうと思ってますが読みにくかったらすみません。
もしご意見等ありましたら頂けると有り難いです。
第81話
『作戦その1』
ドカッ‼
扉を大きく蹴破り中へと入る。
「きゃあああああ!」
中にいた女が悲鳴を上げ、近くにいた子供を抱き寄せる。
ズカズカとそれに構う事なく、中へと入り、辺りを見回し、他に人がいないかどうかを確認する。
既に先程外から部屋の中を確認し、いない事は確認していたが念の為にといった所だ。
家の中にいたのは女一人と子供が一人。
手にした短剣を女たちに見せびらかす様にして、
「おい、大人しくしていろ!」
「や、やめて下さい!お金はありません‼わたしはどうなっても構いません‼せめてこの子だけは‼」
女は自らの娘である少女を胸に抱き、必死にその男へと懇願する。
「おい、キース、お前完全に野盗だな、流石は元盗賊だけあるぜ。」
「全くだ、お前の顔見てすっかり怯えちまってるじゃねえか。」
男の後から更に二人の男が家の中へと入ってくる。
「ああ?何だよそれ、喧嘩売ってんのか‼」
キースは短剣を女の前にチラつかせたまま、男たちの方を見て方眉を上げて如何にも気に入らねえなという顔を向けている。
「いや褒めてんだよ。お前のお蔭で仕事が捗るってな。」
「そうそう、ロンドさんの言った通り、これで奴らも迂闊に手が出せなくなるだろうしな。」
男二人は、にやけながらもお互いに顔を見合わせる様にして頷いている。
「ちっ!まあいいや、おい、お前。」
吐き捨てる様に振り返り、再び女に短剣を顔の近くへと近付ける様にして、
「俺たちと一緒に来てもらうぜ。もし騒いだり抵抗したりしたら、その娘が危険な目に合う事になるから覚えとけよ。」
短剣を突き付けられた女は目を見開き、顔面蒼白になりながらも喉元まで出て来ていた悲鳴を何とか堪えて、コクコクと頷いている。
胸に抱かれている幼女は涙目で必死にその女にしがみついて、男から目を逸らす様にして女の胸元に顔を埋めている。
「ひゅー、流石はキースさん堂に入ってるなあ。」
「惚れ惚れしちまうほどの盗賊っぷりだぜえ。」
二人の男がそれを見てまた茶化す様にしてにやけ面を浮かべている。
「うるせえ‼」
キースの声に女がビクンと反応し、体を震わせる。
それに呼応したかの様に幼女が泣き始める。
「うるせえ‼」
再び、女に向けてキースは同じ口調で投げ掛ける。
「さっさとこいつら連れて行くぞ‼」
『たくっ!こいつら俺の事馬鹿にしやがって、このキース様が本気を出したらてめえらみんな平伏する事になるってのに全く』
【ロンドside】
「どうやらここにはもう無いみたいですね。」
ヘッドギアを被った男が部屋の中を見渡している。
「そうみたいですね、多分あちらの家に既に運び入れた後なんでしょうね。」
ローブを被った男はやれやれと言った様子で軽く首を左右に振ってそれに答える。
男たちはそのまま幾つか部屋にあるものを見て回った後、
「それじゃ後はキースさんたちが動くまで待つとしますか。」
そう言って部屋を出て行く。
部屋の入り口には男が一人横たわっている。
頭から血を流し、既に息はしていない様だ。
この家の見張りをしていた村人なのだろう。
ロンドはその男を一瞥し、
『うまくやって下さいよ、みなさん』
と薄っすらと笑みを浮かべていた。
【エンリside】
慌てて部屋に入って来た村人が告げた内容は、
『村の家を次々と荒らしまわっている男たちがいて、仲間を直ぐに解放しろと喚いているらしい』
「それで、その男たちは今どこにいるのかしら?」
エンリは顎に手を置き、目線をその村人に向けて尋ねる。
「あ、は、はい。俺が見たのはニックスの家の辺りで、俺の家にも来るかもしれないと思って家を出たら、ニックスを蹴り飛ばしながら、「契約違反だ」とか「仲間を直ぐに解放しろ」とか言っていて…」
「そう、その男たちは何人いたの?」
「俺が見たのは二人です。鎧を付けた男が二人…」
その話を聞いてエンリは考え込む。
「…分かったわ。それじゃ行きましょうか。」
ふぅと一度息を吐き、眼鏡を一度掛け直してから、
「あなたたちも一緒に付いて来てもらえるかしら。それと、私に考えがあるの。聞いてもらえるかしら。」
エンリは部屋にいる皆の顔を見回した後、机の上にいた1匹の鳥の前で視線を止めて、お決まりのウィンクをして見せた。
スーはくわああと漏らしていた欠伸を止めて、その視線に気付くと、「キュワ?」と首を傾げて見せた。
【キースside】
「おらぁ!さっさとボナーロさんたちを連れて来い‼」
男は村人の背中を家の入口から蹴り飛ばしながら大きな声でそう言った。
村人は前につんのめるようにして入口から転げ出る。
「た、助けてくれ‼」
「だったら、早くここに金と仲間を連れて来いって言ってんだ!」
背中を突き飛ばした男が再びそう凄んで村人に詰め寄る。
そして追い打ちをかける様にして家から出てきたもう一人の男が椅子を投げ捨てる様にしてその村人のすぐ脇に叩きつけた。
「ひいいいいい‼」
村人は男たちから逃れる為に背を向けて大慌てで逃げ出す。
「お前何かノリノリだな。」
椅子を投げつけた後、それを見送る男は隣の男を見てそう言った。
「だってお前派手にやってくれって言われてるんだからこれ位はやってみせないとよ。」
ニカッと本人的には爽やかそうに笑顔を作っているつもりなのだが、その厳つい顔と行動でニヤっとした気持ち悪い笑みになっている事に気付いていない。
「…そりゃまあそうなんだが、幾ら人質がいるからってボナーロさんたちをやっちまう様な奴らにこんな手で通用するのか俺はちょっと不安なんだが…」
もう一人の男は同じく厳つい表情ではあるが、隣の男と違って今一乗り気では無い表情を浮かべる。
「まあロンドさんならうまくやってくれるだろうぜ。」
と再度男は家の中に入っていき、何か金目の物でも無いかと探している。
「……」
「何だ?お前失敗するとでも思ってるのか?」
男は見た所大したものは無いなと思い、入口に立ったままの男にそう話し掛ける。
「いや、俺はどうもあのロンドってやつをそれほど…」
「おい、お前ら遊んでないでさっさと次の家を見て来い‼」
キースが手を縛られた女を連れて、入口の男へと声を荒げる。
「ちっ!あの野郎、大した実力もねえのに口だけはいっちょまえだな。」
部屋を物色していた男は動かしていた手を止めて立ち上がり、入り口の男の元へ向かう。
「まあな、あいつ自分ではこの団のNo2だなんて思ってやがるみたいだぜ。」
「ぷっ!マジかよ‼あいつなんてこの団で一番よええ奴じゃねえかよ。」
『くそ、さっさと動きやがれってんだちくしょう!』
キースは内心でドキドキしながら、縛り上げた女とその横にその女と一緒に縄で縛った幼女を見て内心で舌打つ。
すると幼女が何かに気付いた様に顔を向けている。
キースも思わずそちらに視線を移すと、
「おい、誰か来たぞ!」
キースは慌てて入口にいた男たちに向けてそう告げる。
家の前にいた男たちは小走りにキースの元へと駆け寄った。
そこへ、
「あなたたちがボナーロの仲間なのかしら?」
村長やライト兄弟たちを引き連れたエンリが到着した。
【ロンドside】
「今出て行った女どもが例の奴らですかね?」
ヘッドギアを付けた男が隣のフードの男へと顔を向ける。
「そうですね、あの制服には見覚えがありますが、例の少年の姿が見えないですね…」
ロンドはそれを肯定しながらも、懸念事項が残っている事に少し考え淀んでいる。
「どうします?中に入りますか?」
前の家の建物の陰から、隣にいるロンドへと確認をする。
「…ここにいても仕方がありませんし、様子を見に行くべきでしょうね。」
そう言ってロンドは軽く頷いてから、身を屈める様にして前の家へと向かった。
それにヘッドギアの男が続いて追いかける。
家の中には人の気配がしない。
いや正確に言えば外から見た限りで中から動く人影を見る事が出来ないといった所だ。
今窓の外から部屋の中を伺う二人は、
「誰もいないみたいですが、突入しますか?」
「…確かにここにはいないみたいですが、少し気になりますね。待ち伏せをしているにしてもその少年一人ならば…」
未だに姿が確認出来ない少年を警戒しているロンドを見て、ヘッドギアの男は、
「ボナーロさんたちもここにいるのなら、まずは先にそちらを助けた方がいいんじゃないでしょうか?」
ここはひとまず戦力を増強して万が一その者が現れても対処出来る様にするべきではと助言する。
「…分かりました、それじゃまずはわたしがここで見張りをしますので、あなたは先行してどこにボナーロさんたちが捕らわれているのか探して来てもらえますか?勿論無理はしないで下さい。もし難しいと思ったら直ぐに引き返してくれて構いませんから。」
ロンドは男を気遣う様にしながら言葉を続ける。
「それとその少年がいたら無理に仕掛けずに、自分の身の安全を一番に考えて行動して下さい。流石にあなたまで捕まってしまったら私も悲しいですから。」
「分かりました!任せて下さい。こう見えても俺は慎重さには定評があるんです、そう簡単に捕まったりはしませんよ。」
男は心配されているのが嬉しかったのか、鼻に人差し指を擦り付けながら少し嬉しそうにしながら答えた。
「五つですか…それに…」
ロンドは独り言の様に小さな声で呟く。
「えっ!?何ですか?」
「いえ、何でも…あなたなら大丈夫だと思いますが、気を付けて下さいね。」
そう言ってロンドはフードの中で口元を吊り上げた。
【エンリside】
『あいつらね』
声を掛けてから近付く男たちを見やってエンリは心の中で呟く。
「お、お前らがお頭を捕まえた奴らか?」
女を盾にする様にして前へ出し、キースがまるで盗賊の様な口調で声を出す。
「キースお前は黙ってろ!」
前にいた男が振り返る様にしてキースにそう投げ掛ける。
「おい、ボナーロさんたちと金を持って来い‼」
もう一人いた男がエンリたちに向けてそう告げる。
「それが目的?」
エンリは全く臆する様子も見せず、そう返す。
男はその態度が気に入らなかったのか、いかにも怪訝な表情を浮かべて、
「そんな事は聞いていない!早くさっさと持って来いと言ってるんだ‼」
「そ、そうだ‼早くしないとこの女どもがどうなってもいいのか‼」
キースが短剣を見せびらかす様にして女の前へと突き出す様にしている。
「だからお前は黙ってろつーんだよ。」
イラつく様にして前の男がキースを睨む。
「まあ、そういう事だ!早いとこ持ってこないと色々と面倒な事になるんだから、早くしろ!ああそれと契約書もちゃんと持って来いよ‼」
男は念を押してそう言った。
「分かったわ!あなたたちの言う通りにするわ‼だからその代わりにその子達を離してくれないかしら?」
エンリは仕方が無いわねと言った素振りで、男たちに向かって話を続ける。
「勿論、ただでとは言わないわ!もしその子達を離してくれるなら、私かここにいる子、もしくは村長でもいいわ、代わりに人質になってあげるけどどうかしら?」
すぐにエンリの物言いに反論しようとしていた男たちは、矢継ぎ早に出された二の句に思わず考え込む。
「おい、どうする?」
「確かにこいつらよりもあそこにいる女や村長の方が有効ではあるな。」
「う、うるせい‼さっさと金と、ボ、ボナーロさんたちを連れて来いって言ってんだ‼」
キースはその話に参加する事無く、喚き散らす。
「お、俺は騙されねえぞ‼」
「あら、交渉決裂かしら、仕方が無いわね、それじゃ契約を結びましょう。」
そう言ってエンリは胸元からロール紙の様に丸められた紙を取り出す。
「お互いに遺恨を残さない様、交換条件とその後の条件をここに記して血判を押しましょう。勿論必要な限りあなたたちの条件は飲むようにするわ。」
「う、うるせえ!さっさと…」
キースがそう言い続けようとした所を前にいた男が睨み付ける様にして、
「黙ってろキース‼」
先程同じ事を言われた男の方では無く、もう一人の男からも言われたキースはぐっと言葉を止めて黙り込む。
「…仕方がねえ、その条件にのってやるよ!」
男はエンリへと向き直りそう告げる。
「おい、いいのか勝手に?」
隣の男は小声でそう話し掛ける。
「考えてみろ、このまま無事事を終えたって口止めが必要になる。じゃなけりゃ、俺たちはお尋ね者になりかねないからな。」
「ああ、そういう事か、でも確かロンドさんはその点も大丈夫だって…」
「さっきも言ったが俺はあのロンドって奴を…お前ら程信用していないんだ。」
「話は決まったかしら?」
エンリは男たちのやり取りが一段落したとみてそう声を掛ける。
「ああ、それじゃまずはその契約書にそっちがサインをしてもらおうか。」
「分かったわ、それじゃ内容を確認してもらう為にも机が必要ね。とりあえずあそこの家の中で話を進めたいのだけど…」
そう言ってエンリは先程男たちが出てきた家に視線を向けて促す。
「分かった。」
男は少し考える素振りを見せてから答える。
「おい、どうするんだ?」
もう一方の男がそれを受けて再度小声で、了承した男に確認する。
「とりあえず俺が話をつけてくる、お前とキースはここで待っていてくれ、なに、必ずキッチリと条件を飲ませてやるから安心しろ。」
キースは苛立っていた。
『ちくしょう、さっきからあいつら実質No2であるこの俺を蔑ろにして話を進めやがって、あの女に上手く騙されちまうんじゃねえだろうな!俺は騙されねえぞ、さっきからあの女の余裕、きっと何かありやがる、俺様の危険感知センサーが警告を鳴らしてやがるんだ』
「ああ、そうだわ。あなたたちの仲間はこれで全員ってわけじゃないんでしょ?他の仲間たちは今どこにいるの?」
エンリはたった今思い出したかの様にして付け加える。
「それが何の関係がある、さっさと行くぞ!」
男はそう言って先程エンリが示した家へと歩き出そうとする。
「そうね、でも他にも仲間がいるのならその人たちにも意見を聞いた方がいいのではないかと思っただけよ。だってまた仲間がやってきて、この契約じゃ気に入らないからって、また新しい契約をさせられるんじゃいたちごっこの様になってしまうもの。」
エンリもそちらへ向かって歩き出している。
「ふん、要らぬ気遣いだな、安心しろ、俺たちは今、全員村に来てる。」
男は何気なく、特に警戒する事無く言葉を返した。
「そう、それは助かるわ。」
エンリは歩みを止めて、男に向き直る。
『くそ、契約内容の確認は実質No2のこの俺が…』
「ぐわ‼」
キースは突然後頭部に受けた衝撃にそれ以上の事を考える事が出来ず意識を失った。
キースの前方にいた男は思わず後ろを振り返った。
男の視線の先ではキースの後ろから木材を持った少年の姿と、女たちを家の中へと引っ張り込もうとしている少年の姿が映る。
「てめえら‼」
すかさず剣を抜こうと身構えた男の後ろで、
「ぐあ‼」
という声が聞こえた。
更に振り返った男の先には蹲る様にして倒れる男の姿が見えた。
しかし次の瞬間、男は剣を抜こうとしている自分が動けない事に気付く、更には冷たい冷気に体を覆われていく様な感覚を感じ、視線を自分の身体へと落とすと、体のほとんどが氷の様なものに覆われている事に気付いた。
そして再び視線を上げて前を見ると、近付いてきている女が一人。
「て、てめえ…」
男は既に動かぬ自分の身体にどうする事も出来ず、睨み付ける様にして悔しさ満点の表情でそう呟く。
「残念ね、交渉決裂よ。お話を聞かせてくれるかしら?」
エンリはその男にウィンクをしながらそう告げるのだった。




