第77話 『裏切られた男』
久方ぶりの連続投稿です。
投稿出来る時に投稿していきます。
ただその分投稿できない時は間隔が空いてしまうかもしれませんが…頑張ります。
第77話
『裏切られた男』
【エンリside】
グレンたちが部屋を出た直後、エンリとボナーロは真ん中の机を挟んだ形で向き合って対峙していた。
片方のソファーは既に後方へと倒れており、今あるのはエンリの後ろにあるソファーだけだ。
他には吹っ飛ばされて壁で白目を剥いて倒れている男と、宙ぶらりん状態で天井に頭からぶら下がっている男くらいで一応二人共死んではいないだろうが、自らの意思で動ける状態には無い。
勿論確認した訳では無いので壁の男の方はともかく、天井にいる方の男は生きているかも定かではないが…
「随分と派手にやってくれやがったな。」
ボナーロはその光景を見て手にした斧をブンと1回振り払う様にして見せた。
「そうね、グレンたら少しやりすぎね。」
エンリはそれにも臆すること無く、片手の手の平を相手に向けたまま、もう片方の手で眼鏡を一度クイッとしてから毅然とした態度で返す。
その態度を見たボナーロは、
「がっはっはっはっはっは‼」
と再び高笑いを上げつつ、エンリを見やり、
「提案なんだが、俺を見逃す気はねえか?」
ボナーロは手にした斧を肩に置いて、そうエンリに持ち掛ける。
「あら、大人しく協力してくれる気になったのかしら?」
エンリもそれに乗る様な素振りで構えていた腕を一旦下へと下げる。
「勿論ただじゃねえ、それに俺をちゃんと見逃す契約書にもサインしてもらう。」
ボナーロはニヤリと表情を歪めてそれに応じる。
「あら、さっきも言ったけど犯罪者に契約書は無意味よ。」
「構わねえ、それでも破るってんなら、それは俺にとっては裏切りだ。裏切りってのは最低だ。殺されたって文句は言えねえ。」
ボナーロは関係ねえとばかりに言い返す。
「そう、それじゃあ契約する前に一つ聞かせてもらえるかしら?魔物が何故この村を襲うと知っていたの?」
エンリは出来るだけ情報を引き出すべく交渉を始めた。
『ここで早めに情報を聞き出しておいた方がいいわね』
「…どうゆう意味だ?」
ボナーロは歪んだ笑みを止めて表情を真顔にしている。
「だから、あなたが協力する気があるのなら私の質問に素直に答えて頂戴。」
「食えねえ女だな…」
「あなたもね、タナトス。それで、質問には答えてもらえるのかしら?」
「…お前、俺の名…どこで知ったんだ?ギルドの手配書でか?」
「質問に質問で返すなんて答える気が無いのかしら…でもまぁいいわ。私は以前あなたにも会った事があるのよ。」
「会っただと…」
タナトスは眉を顰めて気難しい表情を浮かべる。
「ええ、10年ほど前にね。」
『冒険者タナトス』
彼は10年ほど前はギルドに所属するランクC冒険者であり、それなりに実力も認められてもうすぐでBランクになれる程だった。既に実力的にはBランクではあったがパーティ編成上、Cランクであったといった所だ。
その頃は今の仲間たちとは違ったパーティーを組んでいた。
戦士の自分と盗賊の男が1人、そして弓を扱う女が1人の3人パーティだ。
リーダーとしてタナトスは自分なりに精一杯頑張っていたつもりだった。
事実、他の二人はようやくCランク程度の実力といった所で、とてもタナトスほどの実力は備えていなかった。依頼も主にタナトスが中心となり処理していた為、当然ながらに報酬の分配もタナトスが一番多く、とても3分の1ずつという分配は行われない状況であった。
そしてタナトスはその弓を扱う女とは恋仲にあり、付き合って半年。
とある依頼の最中、その事件は起きた。
依頼そのものは簡単で、森に棲むホブゴブリンを退治するというものでその時もタナトスは先陣をきって切り込み、周りのゴブリンたちを蹴散らして、ほとんど一人でホブゴブリンも見事討ち果たした。
そしてその討伐後の帰りの野営で、彼は毒を盛られ殺されかけた…
幸いにして盛られた毒の量が少なかった事と逃げ出した二人が死んだのをしっかりと確認していかなかった事で九死に一生を得た。
何とか毒を抜いて町へと戻ったタナトスだったが、既に仲間二人の姿は無く、溜め込んでいた金も奪われており、挙句に二人はタナトスが死んだ事にして依頼を完了した形で依頼料を貰って行方を晦ませていた。
激しい怒りと共にタナトスは死に物狂いで二人を探した。
そしてそれから半年近くが経った頃、とある町で二人を見つけたタナトスは歓喜した。
それからその二人を殺し、お尋ね者になるも追跡してきた冒険者と戦って死んだ扱いになっていた。
しかし、彼は死んでいなかった。顔に大きな傷を残したものの生きながらえ、名前をボナーロと変え、職業も冒険者から傭兵へと変えていたのだった。
「確かに俺が冒険者だったのは10年ほど前だが…お前確かエステルの町って言ってたよな。」
「あら、ちゃんと覚えてくれてたのね。」
「茶化すな!俺はエステルの町のギルドには行ってねえ‼」
「あら、別にエステルで会ったなんて言ってないわよ。その時は私もまだパーティを組んでいたし。」
「パーティーだと?」
「ええ、『鎌鼬の夜』って聞いた事あるかしら?」
「なっ⁉…か、鎌鼬だと…」
タナトスは目を見開き驚きを露わにした。
「ふ、ふざけるんじゃねえぞ‼てめえがあのパーティーにいた訳が…」
「まあ、信じてくれなくても別に構わないわ。それで話の続きだけど答えてくれるかしら?」
「だって、お前…あのパーティーにいた女は確か今のお前と同じくらいの年齢だったはずだ…」
驚きからまだ立ち直れないのか、信じられない様な視線を向けている。
「あら、女性に年齢を聞くのはマナー違反よ。あまり時間が無いのだけれど、どうするのかしら?」
「ぐっ!」
『どうする⁉この女が本当にあのパーティのメンバーだったんだとしたら俺じゃ恐らく勝てねえ…』
『傭兵ボナーロ』
かつて信じたはずの仲間の裏切りに遭ってからは、人を一切信用する事無く生きて来た。
仲間を殺す際に聞いた言葉、盗賊の男は自分の愛したはずの女とデキていた。
女も自分の事は愛しておらず、金が目当てだったと聞かされた。
それからは人では無く金だけを信用してきた。
だから必ず契約書にサインをさせ、それを破る者には容赦をせず搾取してきた。
時には脅し、時には殴り、しかし裏切らなければ殺す事だけはしない事をモットーにもしてきていた。
そして尖刃の斧と言うパーティも組み、とある出来事で軌道に乗ってからは最初は3人だったメンバーも今では12人にまで膨れて、それなりの集団へと成り上がったのだ。
しかし今窮地に追い込まれていた。
「わ、分かった。答える。答えるが…」
その瞬間、
ヒュルルルルルー
という音が外で鳴り、そのすぐ後にパンと大きな破裂音が聞こえた。
意識をそちらに取られた瞬間、ボナーロは好機と見たのか何かに駆り立てられるように、なりふり構わずエンリへと襲い掛かった。
右手に持つ斧を振りかぶり渾身の力を込めて振り下ろす。
今まで追っ手の冒険者にですら積極的に殺そうとはせずに、防御に徹して顔に大きな傷を付けられ崖に落とされてまでも変えなかった信念を曲げてまで振り下ろした斧。
『ここでやらなきゃまた仲間に裏切られちまう‼』
ボナーロはリーダーとしてここでやらなきゃまた仲間を失うという焦燥感に覆われていた。
恐らく金だけを信じ生きてきたが、本当は心のどこかで頼られるリーダに憧れていたのかもしれない。
だが、その思いは空しく空を切った。
振り下ろしたはずの斧は直前までエンリを捕らえていたが、当たる寸前でエンリの姿はかき消えた。
まるで蜃気楼の様にエンリの残像だけを残して斧はそれを切り、勢い余ってその下の机を真っ二つに叩き割る。
「残念ね…」
そうボナーロの耳に聞こえた瞬間、首筋に強い衝撃を受け、彼の意識は立ち消えた。
【エンタ村近く】
ヒュルルルルー
パン‼
空に上がった花火の様な光景を見上げる男が一人。
「やはり何かありましたか…」
男は馬で野を駆けながらその光景を見て呟く。
「今のは信号弾じゃねえですか?」
同じく馬上から隣を走る男が声を掛ける。
「そうですね、魔力も感じられましたし、何かあったみたいですね。」
男は努めて冷静にしながらも、内心では少し焦っていた。
『全く、引き際を間違えたかもしれませんね、やはりあの村を襲った辺りが潮時でしたか…』
「ロンドさん、どうしますか?このまま村に正面から入ってもいいんですかい?」
頭をヘッドギアの様な防具で覆った男が後ろから中団辺りを走っていたその男へと話し掛ける。
現在この集団は5名で纏まって馬を走らせている。
前に鎖帷子と鉄で出来た防具を身に纏う戦士風の装備をした者が2名。
中団に革で出来た防具を胸と手と脚の部分に着けた盗賊風の男と、ローブを身に纏い、如何にも魔法使いといった格好をした男が1人、そして最後に矢筒を背にした軽装の男が一人。
その集団はエンタの村のすぐ近くにまで来ていた。
「そうですね、一旦村の反対側に回って様子を見ましょう。」
『入口で挟撃されたりしたらたまりませんからね、あわよくば金だけ奪って退くべきですかね』
ロンドと呼ばれた男は頭の中で、もしもの時を考えながら馬を走らせた。
【グレンside】
「やめて‼」
少女はレフトに突き付けられた剣を見て悲鳴を上げる。
「う、うるせえ!それ以上近付いたらこのガキの命はねえぞ‼」
ニックは最初の頃は冷静そうだったその顔を、今は強張らせ大声で威嚇している。
『どうするかな…』
『何落ち着いて見ちゃってんの?早く助けてあげようよ!』
『って言ってもなぁ…』
確かに助けてやりたいのは山々なんだが、この状況で突っ込んで間に合わなかったら流石に俺も時空間魔法でも使わないと取り戻せない失態になりそうだしな…せめて隙が出来れば何とかなるんだが…
『おっ!そうだ‼』
「分かった!これ以上近付かない!だがそいつを盾にしてもあまりいい事はないぞ!」
「な、何だと‼」
「それよりもここにある金と女を人質にした方がいいとは思わないか!」
「何⁉」
ニックは剣をレフトに向けたまま俺を見ている。
ついでに俺の発言を聞いて、隣にいた少女、そして近くで倒れていたライトも驚きの眼差しで俺を見ていた。
「いや、人質交換と言うか、金もここに置いてく訳にはいかないだろうから、交換してくれるなら持って来てやるぞ。」
『ちょ、ちょっとグレン!何言ってるのさ‼』
『いいから俺に任せとけって』
『重力魔法発動』
ニックは少し考えてから、
「お、お前俺をだまそうとしてやがるのか!ふざけんな‼」
「別に俺はそいつがどうなろうと知った事じゃないんだが、一応は助けられるのならばと考えているだけだ‼流石に年端もいかない子供が殺されるのを見るのはあまり好きじゃないんでな、だがもしそいつを盾に俺に何かするつもりならその時は俺は容赦はしないぞ!」
『おい!グレン‼』
ニックは俺とレフトを交互に見てから、
「わ、分かった!だが妙な真似はするなよ!もしおかしな真似しやがったらぶっ殺すからな‼」
「ああ、分かった。それじゃとりあえず俺が金を持ってくるから、その前にこの女をそっちに行かせるからその子を離してやってくれないか。」
視線を俺は男に固定しながら、横にいる少女、ショートに小声で話し掛ける。
「いいか、ショート、お前はライトの所に向かえ、お前があの男の注意を逸らしてくれれば俺が必ず全員無事に助けてやる。」
その言葉を聞いたショートは、何も言わずグッと顎を引いて答えて見せた。
それを横目で確認した俺は、
「この女は何も持っていないが、心配だろうから両手を上げて行かせるからな!」
ニックは俺の気遣いとも言える発言に少し落ち着いたのか、
「仕方ねえ、早く金も持って来い‼あと中の奴らはどうしたんだ!もうやられちまったのか!」
「おお、そう言えば、さっき何か空に打ち上げてるみたいだったが何だったんだ?」
俺はニックの問い掛けを無視し、ショートを押し出す。
「何だと!そんな事お前に言う必要はねえ‼それよりも俺の質問に答えろ‼」
ニックは憤りを露わにそう答える。
そこへすかさずショートがライトの元へと駆け寄ろうとした。
俺は既に準備万端で足に魔力を込めてあり、おまけに重力魔法も仕込み済み。
『ブラスト・コネクト!』
ニックの直上に黒い玉が現れた、厳密に言えば既に数瞬程前から浮かばせてあったのだが気付かせない様にしていたのだ。
ある一点に意識を集中し、そこに集めるイメージだ。
いわば重力球を手で放つのでは無く、座標点に出現させるという事。
だがぶっつけ本番なのでうまくいかなかったり、相手にばれて躱されない様に時間稼ぎプラス意識を逸らしていたのだ。
そして意識が一瞬ショートとライトの方に逸れた今、
その球体は男を上へと吸い上げ引き寄せる。
体が浮き上がった状態でニックは、
「う、うわあああああ!な、なんだ‼」
とジタバタ暴れ出す。
その次の瞬間には、魔力を込めた足で飛び立った俺はニックへとエアムーヴを使って接近し、その顔面へと右拳を叩き込むと同時に左手でレフトを掴み取った。
ニックは後ろの建物へと吹っ飛ばされ、扉を破って中へと転がって行った。
「大丈夫か?」
俺は着地してから左手に掴んだレフトを下ろし、聞いてみる。
「う、う、うん、こ、怖かったよおおおお‼」
とこれまで我慢していたのか、一気に堰を切ったかの様に泣き出した。
タイトル変えさせて頂きました。
中々しっくりくるタイトルが浮かばず…難しいです。




