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タイムネメシス~二度目の人生は二つの入れモノde~  作者: あすか良一
エグザイル編
76/119

第75話 『エンタ村の傭兵』

自分なりに今回は結構長いです。

この辺りから1話分が少し長くなるかもしれません…

更新期間はなるべく早くしたいのですがリアルが結構やばげですみません。

第75話


『エンタ村の傭兵』



「あっちだよ。」


俺たちはライト兄弟の案内でエンタの村へと向かっている。

主に案内は御者台でミスティとリルルに挟まれてレフトがしていた。

その間、俺とエンリはライトに詳しい話を聞いていた。


「なるほどね…」

エンリはライトからの話を聞いて、何かを考え込んでいる。


「それでその魔物はその後も襲って来たりしているのか?」


「いや、あの後は襲ってきてないよ。」

首を左右に振って、最初に比べると大分落ち着いた口調でレフトが言った。

さっきまでの悪態もすっかりと鳴りを潜めて、神妙な面持ちで俺たちの質問に答えている。


レフトの話の内容とライトの話の内容は概ねは同じだったが、先程聞いたエンリからの話は、主にエンリがレフトの話を要約して説明していたらしく、レフトの話だけではよく分からない部分が多かった為、ライトから直接話を聞いている次第だ。

分かった事は以下の点。


・魔物について

レフトは直接魔物を見た訳では無かったが、ライトの方は魔物の姿を少しだけだが見ていた。

魔物は緑色の肌をした人型の化け物で大きなものや小さなものがいたらしい。

顔は醜悪で耳は尖った様なものもいて、その口からは牙の様なモノも見えた。

頭は小さい方のほとんどがスキンヘッド、大きい方はボサボサに伸ばされた髪を振り乱していたそうだ。

話を聞いた感じでは大きい方は2メートル程、小さいものはレフト程度の大きさのものもいたらしい。

得物は手にこん棒の様な棒状のものを握っていた様に見えたのだそうだ。

ただ、姿を見た瞬間逃げ出して、その後レフトと一緒に家にある貯蔵庫の中へと隠れていたとの事なので、その信憑性はあまり定かでは無い。

実際話を聞いている最中にも、その時の恐怖が甦ったのか、少し怯えた様な雰囲気で唇を噛み締めて、若干取り乱していたりもしていたので、エンリがそれを見て優しく落ち着かせていたくらいだ。


・冒険者について

その冒険者たちは元々村に滞在していた訳では無く、魔物が現れる少し前に来ていた者たちらしく、5人の冒険者に見覚えがある者はいないらしい。

全員が男であり、その中の斧を担いだ戦士風の男がリーダーの様で、顔には右目の上から頬にかけて大きな傷跡があるらしい。

その男の事を他の者たちが呼んでいる名前は『ボナーロ』と言うようだ。

その他の男たちは2人が鎧に身を包んだ同じく戦士風の男で、残り二人は盗賊の様な恰好をしているそうだ。


・要求された金額

男たちは村長の家で既に話をつけていたらしく、村を守ってやる代わりに村人1人につき金貨1枚を払う契約書にサインさせられてしまっていたそうだ。

大体町で1ヶ月ほど宿に泊まる上で必要になるのが6000エンド程度、その他の出費を考えても金貨1枚あれば充分に事足りる。つまりは町での一月分の生活費。そう聞くと大した事の無い金額ではあるが、実際問題、村の者たちにとっては大変な金額であった。

何でそんな要求を受け入れてしまったのかと村人たちは村長に詰め寄り、村長が男たちに土下座して懇願した結果、成人している者たちのみ対象とする事、つまりは子供たちの分は免除してもらったのだそうだ。

しかし、それでも無論村人たちにとっては高額であり、払えない者には対価としてそれに見合ったモノを徴収されてしまっていた。更にそれも無い者には体で払ってもらうと言って、兄弟は姉を連れて行かれた上に、返して欲しければ金を持って来いと言われたのだそうだ。

ライト兄弟には他に家族は姉一人。

『両親はいないのか?』という俺の質問に、ライトは口を噤んでいたが、エンリが『グレン…』と俺の名前を呼び左右に少し首を振ったのを見てそれ以上は聞かなかった。


「グレン、どう思う?」

エンリは考え込んだ後、俺を見て尋ねる。


「少し出来すぎな気がするな…」

俺はエンリを見つめ返してその問いに答える。


「そうね、そもそも予め村長に話を通してあるのも気になるけど、魔物たちが村を襲った理由も気になるわ。」


今まで魔物に村が襲われた事があるか、その魔物を今まで見た事があるかの質問にはいずれもレフトの答えは『NO』だった。

村の周りにも魔物はいなかったらしく、たまに獣などが現れても村の畑が荒らされた程度で大きな被害が出た事は聞いた事は無いそうだ。

余談になるが、魔物と獣についての違いはこの世界では見た事や聞いた事があるかないかの判断で決まっているらしい。

レンの知識からだが、獣と言うのは人間と同じ動物と一緒で、その突然変異が魔物やその他の人種とされているらしい。

まぁつまり人族基準で判断されているので、別に魔物と呼ばれているモノでも実は獣と同じであったり、逆に獣とされているのが魔物であったりもするみたいだ。

明確な基準としては、人が脅威と感じる生き物が魔物で、人が恐れないモノを獣と言っている気がする。


閑話休題


当然これまでの話は全てライトからの情報なので完全にはそれを信用は出来ない。

ライトはまだ年若く、つっぱってはいるが、13歳でレンよりも年下だ。その割には意外としっかりとはしている様にも見える。この世界での成人年齢からすれば俺のいた世界よりも皆、大人びてはいるのだろうが…

因みにレフトは4つ年下の9歳だそうだ。


これまでの話を聞いて、

『何か違和感を感じるな…』


『ほんと酷いよね、その冒険者の人たちって』


『まぁ、行ってみれば分かるだろう』


そして、

「村が見えましたよ。」

リルルが御者台から顔を覗かせる様にして、荷台の俺たちへと声を掛けた。


俺たちがこの兄弟と会った場所から馬車で1時間程街道から逸れて、森へと入って行った場所にその村はあった。歩くとその2~3倍程度はかかるらしいが、幸いにも馬車で通れる程度の道もあり、魔物などにも遭遇せずに無事村へと辿り着いた。


「それにしても随分と低い塀なんだな。」

俺は立ち上がる様にして前に近付く村を見た。


そこは前面を門の左右に木で作られた壁にこそ覆われているが精々が人の身長程度のもので、乗り越えるのも簡単そうだ。

今は下から少し高台へと上がる形で馬車で移動している為、村の中はそれほど見えないが、ここから少し上に上がれば、村の中も充分覗けそうだ。


ただ、普通に考えればその程度のものが普通なのかもしれない。

魔物ではなく、獣を防ぐものならばこれでも充分だと言える気がする。

エナンテ村に行った時にも思ったが、皆一応はぐるりと壁に近いものに覆われていた。

だがレンたちがいたエクシル村においてはそもそも壁では無く柵だった。

しかも壊そうと思えば結構簡単に壊せそうな柵だ。

それと比べればこれでも充分立派なものだとも言える。

それに囲われているだけでもまだマシでエクシルにおいては各入り口部分にだけ柵があり、門らしい門も無く、あまつさえ見張りの様な者もいなかったのだ。

今考えれば普通に『どうぞご自由に』的な出入り可能で、この世界だと襲わたりしても不思議ない様な気がする…


『今更だけどやっぱ平和な村だったんだなぁ』


『それ、確か前にもおんなじ事言ってたと思うけど、僕の村には結界が張られていたんだからね』

レンいわくフリージアが村に来てからは結界の様なものが張られていたらしい。


(へぇ)ー』

『グレン!事あるごとに塀を見てエクシルと比べるのやめてよ!なんか馬鹿にされてる気がするよ!』

『塀、塀』

『………』


それはさておき、

俺たちが馬車で村の入り口へと進むと、


「誰だ!!」

と門の近くで声があがった。


そこには門のすぐ横にある壁の上に作られたスペースに鎮座していた男が立ち上がってこちらを見ていた。

特に武装している訳では無く、普通の村人の格好をした者で手にも何ら武器の様なものは見られない。


「あっ、フォアさん僕です!」

御者台からレフトが手を振っている。


「おお、レフトか!?」

男は梯子を使って壁の上から門の前へと降りてくる。


馬車を門の近くで止めてから、俺たちは一旦馬車から降りた。


「そうか…だが悪いがお前たち以外の者をこのまま村に入れる訳にはいかないんだよ。もし中に入れるのなら、あの人たちに聞いてからじゃないと入れられないんだ。」

フォアと呼ばれた男はライトからの話を聞いて一旦考える素振りを見せたがすぐに首を左右に振ってからそう答えた。


「何でだよ!!何であいつらの許可がいるんだよ!そんなの…」

ライトはその男の反応に両手を広げて反論する。


「馬鹿!!…声を荒げるんじゃない、聞かれたら大変だぞ。」

男はライトの肩を掴み、小声で口元に手を当てながらライトに顔を近付けて言った。


どうやらこの男は冒険者たちへの自分の支払い分として見張りをやらされており、必ず村人以外がこの村に現れた場合には知らせる事になっているらしい。

黙って村に入れたりした場合には報酬金額を元に戻すとも脅されている。

因みに何故村人たちがこうも律儀に冒険者たちの言う事に従っているのかと言うと、契約書があるからだそうだ。


『血判による契約書』

この契約書がある限り、横暴だと訴える事もギルドに依頼したりも出来ない。

勿論いきすぎたものについては指導される事もあるが、交渉の上で既に契約書に記された金額の半分近くまで下げてもらっている以上、それを横暴だとは認められないそうだ。

ではそもそもどうしてその契約書が村人たちに対して有効なのか…実際に承諾したのは村長であって村人一人一人では無いのはずなのだが、しかしここが巧みな所で、もはや村人一人一人に血判を押させているらしい。一人から一家族に変更させる上でその条件が付け加えられたのだそうだ。

そして押した理由は簡単だ。

『連帯責任』


『一蓮托生』とも言うが、町と違って村は家族にも近い、そして何より全員が仕事を持っている訳では無いので財産も共有に近い形で扱われている。

無論、裕福さに全く差がないわけではないのだが、大抵村に住む場合には一度村長に挨拶をしなければならない決まりなどがある。

元から持っている財産については免除される事もあるが、基本村に住む上で誰か一人が豪勢に過ごす事はあまりない。

柵を作ったり、家を建てたりするのには当然労力やお金もかかる。

その時にその恩恵を受ける以上は一人だけ得をすると言う精神が掟によって縛られたりする。

逆に一人が浪費した場合にもその負担が増える事になる為、原則的には皆の意見を元に同意した場合にのみそう言った掟が作られるそうなのだが。

平たく言えば村人の絆が深いほど掟に縛られる傾向にある。

一緒の村に住む上でそう言った事に同意して住む事になる。

見捨てて一人だけ逃げる者なども中にはいるが、その場合は当然家を捨て新しい場所を見つけなければならないし、当然他の者に見つかれば新たな場所で責められる事にもなるだろう。


ただこれは全ての村がこうではないし、村長がそこまでの権限を持つわけではないのだが、この村、エンタ村においては絆がかなり強い村で、村長も代々とても住人に慕われている。

そもそも村長の行動も住人の命を守るために頼んだのだから間違ってはいないとも言えた。


そう言った理由から、現在ほぼ全ての村人たちが各自お金を支払うべく色々と頑張っているらしい。


ライト兄弟はまだ成人していないが、『代わりに姉ちゃんが働くから大丈夫よ』と言って男たちに自ら進んでついて行ってしまった姉の為に、何とかお金を稼ごうとしたらしい。


「もうすぐ報告の時間だ、このまま立ち去ってくれればあんたたちの事は報告しないから…」

俯くライトの肩に手を置いたまま、フォアは俺たちの方を申し訳なさそうな顔をして見ている。


「それはちょっと困るわね。」

エンリは一歩前に出てフォアに告げる。

「出来れば報告をしてもらいたいのだけど。」


「えっ⁉」

フォアとライトは同時にエンリの顔を驚いた様に見ている。


「そうだな。」

エンリの横に並ぶ様にして俺も前に出て同意する。

「このままじゃ埒が明かないし、さっさとそいつらを呼んで来てもらえると助かるんだが。」


「あんたたち何者なんだ?」

フォアは交互に俺たちの顔を見てから、後ろのリルルやミスティたちの顔も見やる。

「見た所、女ばかりで強そうには見えないが…」


「それはまぁそうかもしれないけど、人を見た目で判断するのは良くないと思うわよ。それに私たちはその冒険者たちに用があって来たのだから、あなたは自分の仕事をするのだしそれほど問題はないんじゃないかしら。」

眼鏡に手を掛け、小首を傾げてエンリは言う。


「ああ、俺たちの事は旅の者があんた達に用があると門に来ているとでも伝えてくれ。出来ればボナーロとかいう奴に話しを通してもらえると事が早そうで助かるんだが。」


「…おい、この人たちは一体どういう人たちなんだ?」

全く物怖じせず話す俺たちを見て、フォアはライトに小声で話し掛ける。

「お、俺も知らないけど、姉ちゃんを助けてくれるっていうから…」

ライトもそれに少し首を左右に振って答えている。


「安心して下さい。あなたたちに迷惑を掛ける様な事をするつもりはありませんよ。」

リルルもミスティの横からフォアへと声を掛ける。

「そ、そうです。わたしたち…ううん、エンリさんはとても頼りになりますし、その冒険者の人たちだって話をすれば分かってくれるかもしれないですよ。」

ミスティはリルルの横でうんうんと頷きながら言葉を続けた。


「おじさん、どうせ俺たちはこのままだとあいつらの言いなりになるしかないんだから、ダメもとで聞いてみるのもいいんじゃ…」

ライトがフォアの顔を見て進言する。

「そ、そうは言ってもなぁ…とてもあの冒険者たちが話の通じる相手とも思えんのだが…」

少し考える様に斜めに視線を落とす。


俺たちを気遣ってくれているのか、それとも俺たちを村に引き入れてトラブルになるのが怖いのか分からないが、依然渋っているフォアに、


「おじさんお願い!」

トタタタと前に出てきたレフトがフォアに懇願する様に視線を投げかけた。


その視線を受けてフォアは少し間を空けてから、

「…分かった、ボナーロたちに報告をしてくるからちょっと待ってくれ。」

そう言って、梯子を上り、門の向こう側へと向かって行った。


それから暫くすると、門がギギギと音を立て、内側から開いた。

そこには先ほどのフォアと、鎖帷子を身に纏った戦士風の男と頭にバンダナの様な布を巻いた盗賊風の男が一緒に立っていた。


二人の男は俺たちを見て、

「お前たちが俺たちに話があるとか言ってた奴らか?」

戦士風の男が憮然とした表情で言葉を投げ掛けて来る。

「へっ!本当に女ばっかりじゃねえか…それにかなりの上玉だ。こいつは楽しませてくれそうだな。」

盗賊風の男はニヤニヤとこちらを見回して値踏みをするかの如く見ている。


「そうよ、少し話を聞かせてもらえるかしら。出来ればあなたたちのリーダーにも話を聞かせてほしいのだけれど。」

エンリはまるで臆することなくその男たちにそう切り返す。


「…ほう、何の話があるのか聞かせてもらう前に、お前たちは何者だ?それにわざわざこんな所まで来た理由を教えてもらおうか。」

戦士風の男はエンリの態度、いや俺たちの態度が気に入らないのか少し警戒している様に見える。

「おい、別にいいじゃねえか、野郎ならともかく、あの女どもなら俺は歓迎するぜ。」

盗賊というより野盗の様な男がイヤラシイ笑いを浮かべながら戦士風の男に話し掛けている。


「おい、さっさとボナーロとかいう奴の所に行って話をさせてくれ。それとそこの盗賊風のお前の視線を見てると嫌な気分になるからやめてくれると助かるんだが…」

俺は初めはエンリに任せようとも思ったが、どうにもさっきからあのにやけた笑いをしている男が気に入らないので遠慮なく話を進めてやろうと言ったのが…


「ちょっとグレン、待って!」

横にいたエンリが俺を抑止する様に肩に手を置いてきた。


「おい、そこのガキ!お前今なんて言ったんだ?」

ズカズカと俺の方へ盗賊風の男が額に青筋を浮かべて近付いてくる。


「おい、ガスト止めろ!」

戦士風の男は盗賊風の男の肩を掴みそれを止めようとする。

「うるせえ!俺に指図するな!」

その手を振り払う様にして肩を回し、

「あの舐めた事言いやがったガキにちぃとばかし話をするだけなんだ。止められる理由はねえだろ。」


「ちょっと、グレン、ここはわたしに任せて頂戴」

小声で俺に話し掛けてくるエンリに、

「でもなぁ、このままあいつらの言いなりになるより押し通った方が早いと思うんだが…」

その言葉を聞いたエンリは、ふぅと一度ため息を入れた後、

「お願いグレン、なるべく無用なトラブルは避けたいの」

懇願する様な瞳を俺に向けてきた。

「分かったよ」

俺は多少思うところはあるが、渋々ながらにそれに了承した。


「私の名前はエンリ、エステルの町の冒険者ギルドで働いている者よ、それにこの子はそこで働く冒険者で護衛をしてもらっているの。」

エンリは男たちに向き直り、一歩前に出て告げる。


ピタリと一度動きを止めた盗賊風の男が、

「へえ、冒険者ギルドねぇ…」

更に値踏みをするかの様な、そして今度は若干の警戒心も見せている様な視線で俺たちを見る。


「…それで、その冒険者ギルドの者が一体俺たちに何の用だ?」

戦士風の男は警戒心も露わにエンリに尋ねる。


「さっきも言った通り、話を聞きに来たのよ。この村を襲ったという魔物についてね。それと出来ればその()()についても聞かせてもらえないかしら。」


「経緯だと?」

戦士風の男は僅かに眉を顰める。


「ええ、あなたたちも冒険者ならギルドにも所属しているのでしょう?それなら…」

エンリが更に言葉を続けようとすると、


「おい、おい、この嬢ちゃん、俺たちがギルドの冒険者だと思ってるみたいだぜ!」

ガストと呼ばれた男がかっかっかと笑い声を上げる。

「おい、止せ!」


「どういう事かしら?」

エンリは眼鏡を一度掛け直す仕草で問い返す。


戦士風の男はやれやれといった仕草を見せてから、

「俺たちはフリーなんでな、ギルドの指示は受けない。」


「なるほど…傭兵ね…」


「だからこのまま立ち去れ。」

戦士風の男はこれで話は終わりだと言わんばかりに踵を返して立ち去ろうとする。

「お、おい!こんな上玉たちを逃すのかよ‼」

ガストはエンリと戦士風の男を交互に見やってそれを制止しようとしている。

「派手にやりすぎるとマズい、特にギルド関係者に手を出すと面倒だ。」

小声で話す男たちを尻目に、


「フリーって何だ?」

俺はエンリにそう問い掛ける。

「フリーってのはお金で雇われている人たちでギルドに所属する冒険者と違って、制約などは特に無いのよ。だから好き勝手やっても犯罪で無い限りは抑止出来ないのよ。」


「分かったわ、ならお金を払うから話だけでも聞かせてもらえないかしら、それに必要なら体で払ってあげてもいいわよ。」

エンリは俺に一言説明してから男たちに向かってそう発言したのだ。

「おい、エンリ‼」

俺は思わずそれを制止しようとしたが、

「お願い、グレン任せて」

エンリはこちらを見やる事なく男たちの方を見たまま俺に告げる。


ミスティやリルルたちも黙ってそれを見ている。

ミスティは若干不安な表情を浮かべながらも、横にいたリルルが頷きを返していた。


そしてそれを聞いたガストは、喜色も露わに振り返り、先程よりも更に下卑た笑いを浮かべながら、

「へへっ!マジか、そんなに俺たちの武勇伝を聞きたいってか!」


「おい、ガスト‼」

立ち去ろうとしていた男は振り返り、盗賊風の男を呼び止める。

「おい、おい、ラントスさんよぉ、ボナーロさんならともかく、あんたの指図は受けねぇ、これは是非ともボナーロさんに確認すべき案件じゃねぇか。俺は是非とも聞いてみるべきだと思うぜ。」


「ちっ!分かった…俺がここでこいつらを見張っているから、お前はボナーロさんに聞いて来い。」

ラントスは一度息を吐いてから、ガストに向けて顎をクイッと村の方に向けた。


「了解、了解、あっ!ラントスさん一人で先に手を出さねぇでくれよ、ちゃんと俺にも…」

「さっさと行け!」


「ちっ、偉そうにしやがって…」

「何か言ったか?」


「分かったよ、行ってくるからちょっと待っててくれよ。」

ガストは村の中へと走って行った。


「おい、ギルドの者と言ったな、本当に俺たちに魔物の事について話を聞きに来ただけなのか?」

盗賊風の男が走り去った後、戦士風の男は改めて確認する。


「ええ、そうよ、村を襲った魔物を調べる事もギルドの役割だし。」


「だが、その為に金はともかく体で払ってもいいとまで言うのには理由があるんだろう。」


「あら、そうとでも言わないと聞かせてもらえそうになかったんじゃないかしら、それに体で払うと言っても私は別に夜のお付き合いとかをするつもりは一切ないのだけれど…」

エンリはまるで恥じらう事も無く、眼鏡に手を掛けて答える。

むしろ赤くなっていたのはミスティやリルルだったが…


「………」

ラントスは暫く押し黙った後、

「おい、そこの坊主、お前は冒険者なのか?」

俺の方を見ながら話を振ってきた。


「ああ、そうだ。」


「ランクは?」


「Cだ。」


「…そうか、お前みたいなのがランクCとは驚きだな。まぁいい、それとその後ろにいる者たちも冒険者なのか?」

後ろにいるミスティやリルルを見る。


「いえ、この子たちは違うわ、それに話を聞きに来たのは私とグレンだけよ。」


「「えっ⁉」」

思わずミスティとリルルが声を上げる。


『そういう事か』

『どういう事?』

『つまり、この村の冒険者たちが危険だと判断したからエンリは俺と二人で行く事に決めたって事だ』

『でもそれじゃミスティとリルルは置いて行くの?』

『まぁスーとエルザもここにいてもらうつもりだから実質俺たちが村に連れて行かれる感じだけどな』


俺はエンリに一度目くばせしてから、ミスティとリルルの元へ行き、事情を説明した。

『ギルドで管理している冒険者と違い、フリー、所謂傭兵の奴らと話をするには危険なのでここで待っていてくれと』

リルルは少し渋ってはいたが、ミスティを守る手前同意してくれた。

ミスティもエルザの事を頼まれて仕方なく了承してくれた形だ。

だがエルザはそれまでずっと御者台の上でスーと大人しくしていたのだが…

『エルザも一緒に行く!』『あちしもご主人と行く‼』

と聞かなかったので、

『言う事聞かない悪い子にはもうご飯(魔力)あげないけどいいのか』

と言う俺の一言で従ってくれた。

勿論エルザはぷくぅと頬を膨らませていたので、頭を撫でてやってから、

『その代わり、大人しく待っててくれれば言う事一つだけ聞いてやるから』

と言うとぱぁーと表情を綻ばせ、うんと大きく頷いていた。


それから盗賊風の男が村の門の前へと戻って来た。

「ボナーロさんが連れて来いだってよ。」


「…分かった、それじゃ中に入れる前に、武器を預かるから寄越せ。」

戦士風の男が俺たちに向かって手を差し出す。


エンリは腰に差していたレイピアをその男へと渡す。

「ほう、いい剣だな。」

戦士風の男はそれを見て呟く。

「そっちの坊主も早くしろ、それとも入るのはこの女だけでいいのか?」


『ちっ、何でこいつらに俺の刀を…』

「グレン、お願い」

エンリが俺にそう懇願する。

「分かったよ。」

俺は納得いかない表情で、戦士風の男に2本の刀を渡した。


「こいつは…」

その刀を受け取った男は思わずその刀を抜こうとする仕草を見せたが、

「おい、さっさと連れて行け!あんたらのリーダーをあんまり待たせるのも悪いだろうが。」

俺は睨み付ける様にしてその男に詰め寄る。


「グレン!」

エンリは俺を一度たしなめてから、

「ごめんなさいね、彼は気が短いの、それに自分の武器を預けるのだから神経質にもなるわ。早くあなたたちもリーダーの所に連れて行った方がいいでしょう?」


「おい、あいつらは行かないのか?」

盗賊風の男は馬車に残っている者たちを見て言った。


戦士風の男は刀を脇に抱えてから、

「ああ、行くのはこの二人だけだ。」


「勿体ねぇなぁ、あっちの女どももまとめて連れて行けばいいだろう。」

ヒッヒッヒと笑い声を上げる。

「行くぞ!」

戦士風の男はそのまま村の中へと入る。

「お、おい待てよ!あっちの女どもはどうするんだよ‼」

慌てて先を行こうとする男を呼び止める様にして声を掛ける。

「いいんだよ、もし何なら()()中に連れてくればいいだけだろうが…」

それを聞いて少し考える様な視線を馬車へと向けてから、

「それもそうか…」

とニヤリと歪んだ笑みを浮かべてから、

「おい、付いて来い‼」

と俺たちに向かって声を大きくして呼びかけた。


そうして俺たちは、ようやく村の中へと入って行くのだった。


思ったより説明重視で話の進みは遅かったのですが、読んで頂けると有り難いです。

そしてこの話結構続きそうです。

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