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タイムネメシス~二度目の人生は二つの入れモノde~  作者: あすか良一
エグザイル編
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第74話 『安直な考え』

第74話


『安直な考え』



エステルの町を出て数日、ここまでは特に問題も無く進んでおり、あと2日程度もあればエグザイルへと到着しようとしていた頃、


「おい、行くぞ!準備はいいな‼」


「ほ、ほんとにやるの?」


「今更ビビってんじゃねぇ!」


「で、でも兄ちゃん…」


「ほら見てみろ!女二人だ、あれならいけるぞ!!」


「で、でも…」


「お前いい加減にしろよ!!もう何台馬車が通りすぎたと思ってんだ!!」



ヒヒーン!!


大きな馬の(いなな)き声と共に馬車が大きく揺れてから止まった。


「だ、大丈夫ですか!!」

「………」


御者台からミスティの声が上がる。


「何だ!?」

「行ってみましょう!」


現在御者台にはミスティとエンリが座っていた。

今はリルルは交代してから俺と一緒に荷台に座っていた。


荷台から御者台へと顔を覗かせているエルザを置いて、俺とリルルは荷台から降りて馬車の前へと回った。

スーは今は俺の肩の上に乗っている。


「うわぁ!!痛いよぉ!!」


「おい、お前ら俺の大事な弟に何て事しやがるんだよ!!」


馬車の前には何やら一人倒れた少年、そしてそれを介抱するかの様に側で寄り添う青年がいた。


「す、すみません、すぐに回復魔法を!!」

ミスティは慌てて側へと近付こうとしていたが…


「待って!!」

エンリがそれを片手で制止してから、つかつかと自ら少年の方へと近付いていく。


「それで…何が目的?」

エンリは少年の様子を見るでもなく、眼鏡に手を掛けたまますぐ傍にいた青年へ向けてそう話し掛けた。


「!?…なっ!!何言ってるんだ!!弟をこんな目に合わせておいて、言い掛かりでもつける気か!!」

青年はまさかそんな事を言われるとは思っていなかったのか、一度驚きを見せてから捲し立てる様に言葉を吐き出す。


「あなたたち…ひょっとして当たり屋か何かかしら?」

エンリは青年の怒声に怯む事無く、淡々と切り返す。


「ばっ!!馬鹿野郎!!そ、そんな訳あるか!!」

青年は眼を大きく見開き、少年の体を抱きながらエンリを見る。

「い、痛い!!痛い!!」

すかさず少年が大きな声で悲鳴をあげた。


「ふーん、それじゃ治してあげるから傷を見せて貰えるかしら?」

エンリはようやく少年を診ようと屈み込むが…


「ま、待て!!まさか治してハイ終わりだなんて思ってないだろうな!!」

横にいた青年がエンリを止めるようにして体を少年の前へと庇うようにして乗り出す。


「ふーん、そういう事…」

エンリは納得顔で頷いていた。


「おい、どうしたんだ?」

それまで経緯を黙って見ていた俺とリルルはエンリやその青年たちへと近付いていく。


「なっ!?ま、まだいたのか!?」

それを見た青年が慌ててエンリと俺たちを交互に見ている。


「さて、どうするの?そのまま演技を続けてみる?」

エンリはニコッと微笑みながら眼鏡に手を掛けている。


「や、ヤバイよ兄ちゃん…」

「く、くそっ!!」

『こうなったら…』


青年は自分を覗き込む様にして見ているエンリにたじろぎながらも、懐に手を入れて何かを掴んだように見えた。


俺は一瞬動くべきか迷ったが、その必要は無かった。


そこには既に懐に手を入れた青年の腕をがっしりと掴むエンリがいた。


そしてそのまま捻り上げる様にして素早く青年の体を反転させる様に後ろ手にして掴む。

すると、その青年の手からはポロリとナイフの様なものが溢れ落ちた。


「兄ちゃん!!」

少年が思わず演技も忘れて立ち上がろうとする。


俺は素早くその少年を背後から羽交い絞めにする形で取り押さえた。

勿論危害を加えるつもりは無く、少年は俺に後ろから両脇をガッチリとキャッチされて、宙ぶらりん状態で足をジタバタさせて何とか逃れようとしてる。

「一体どうしたんだこれは?」


「さあ、でも聞いてみれば分かるわよ。ねぇ?」

エンリは俺に首を傾げてから、再び青年にそう告げた。



「それで、結局どういう事なのかしらね?」


俺たちは今、馬車を路肩に寄せてから、街道から少し外れた脇の所で、正座する二人の男を尋問していた。

いや、正確には二人の男の子たちに話を聞いていたと言うべきか。


「だ、だって仕方が無かったんだ!!こうでもしないと俺たちは…」

青年は悔しそうに唇を噛み締めている。


別に縛られている訳では無いので隙があれば逃げ出す事も可能かもしれないが横にいる少年を一人置いては行けないだろう。


今横にいる少年は馬車の前で倒れた拍子に擦りむいたのか、少し赤みがかった肘の部分にミスティから回復魔法をかけられていた。

「はい、これで大丈夫だよ。」


「あ、ありがとうお姉ちゃん…」

少年は今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「誰かに脅されてやったと言う事なのかしら?」

エンリはまるで見透かすようにして青年に尋ねる。


「ち、違う!!俺たちは別に…」

青年はそう言ってから顔を背けた。


「だ、だってこうしないと姉ちゃんが!!」

「ば、馬鹿野郎お前は黙ってろ!!」

少年が声を上げた途端、隣にいた青年は慌てて少年の口を塞ぐようにしている。


「ふぅー、仕方無いわね、グレン、悪いけどちょっとこの子を見張っていてくれる?」

やれやれと言った感じでエンリが俺を見た。


「ああ、分かった。それで結局どうするんだ?」


「わたしに任せて頂戴。」


その後エンリは少年を馬車の方へと連れて行き話を聞いたのだった。

当然青年の方は弟を連れていかれまいと抵抗しようとしたが、俺が抑えていたので無意味に終わった。


「なるほどな。」


エンリが話した内容はこうだ。


少年の名前はレフト、青年の方はライト。

彼らはこの近くにあるエンタ村という所に住んでいるらしい。

その村では3日程前に魔物の群れに襲われたそうで、その際に何人かの村の者の命も奪われたそうだ。

数ははっきりとは分からないが、結構な数がいたらしい。

そしてその時に現れた5人の冒険者の者たちによって追い払われて一先ず安心したのだが、助ける際にお金を要求されていた。

その冒険者たちは払えないのなら金の代わりにと二人の姉を連れていってしまった。

他の村の者もその冒険者たちの言いなりで誰も助けてはくれなかったそうだ。

二人はその為のお金を稼ぐべく、朝からここを通る馬車を見つけてはこうやって当たり屋まがいの事をしてお金を得るつもりだったらしい。

だが実際にやってみたのはこれが初めてで、あの青年『ライト』が『兄ちゃんに全部任しとけ』と言っていたらしく、少年『レフト』の方はただ馬車の前に出て転べばいいと言われていたそうだ。


『それにしても…やり方もそうだが…名前も安直すぎるだろ』


「それでグレン、どうする?」

エンリは口元を僅かに緩めながら、少し首を傾げて聞いてきたが、まるで『分かってるわよね』みたいな聞き方に聞こえる声音だった。


「どうするって言われてもなぁ…」


俺たちは今、全員で食事をとっていた。


エンリとライトが一緒に戻ってきてから、ライトは俺に後ろ手にとられた状態の兄を見て、慌てた様子で駆け寄ってきた。

エンリに、

「もういいわよグレン、離してあげて。」

と言われて離してやってから、

「もういいのか?」

と俺が聞くと、

「ええ、話は聞けたから、折角だから食事にしましょう。」

とニッコリ笑ってから、

「勿論、あなたたちも一緒にね。」

と二人にもその笑顔のまま話し掛けた。


無論、二人は『はっ?』みたいな顔をしたのだが、『ライト君、また何かするつもりならお姉さん容赦しないからそのつもりでね』と眼鏡に手を掛けたまましっかりと念を押していた。正直その笑顔は俺から見ても少し恐かった…


「まさか行くつもりなのか?」

俺は黙々と食事をとっているレフトと、目の前にあるパンと果物をじっと見つめて我慢している様子のライトを見ながらエンリに返した。


「そうね、()()()()行かせてもらうわ。この子たちの言っている冒険者が気になるのよ。」

エンリは俺から視線を僅かに逸らして、二人を見てから、

「それに、魔物の方も少し気になるし…」


ここからエグザイルの町までは目と鼻の先、と言うほどは近くもないが、町の近くの村が魔物に襲われているという事はその魔物も町を襲った魔物と無関係では無い可能性もある。

だがきっと、エンリとしてはギルドの者として元冒険者として、その冒険者が村の者たちを苦しめているのが気に入らないんだとは想像はつく。


「お前らはどうする?」

俺としては付いて行ってもいいとは思ってはいるが、そんな気軽に付いていくべきかどうかも迷っていたのだ。こうやって事あるごとに人助けをしていく訳にもいかないし、ギルドの依頼として受けた訳でも無いのだから。


「わたしは行ってもいいです。いえ、出来ればその…行かせて下さい!」

リルルは俺の目を見ながら、最後はハッキリと言いきった。


「わたしも…出来れば行ってあげたいな。あっ、でもわたしは何も出来ないかもしれないけど…」

ミスティは少し気まずげに俯きながら答えたが、その思いは伝わってくる。


「エルザはお兄ちゃんが行くなら行くよ!」

エルザはパンをかじりながら元気よく答えた。


「キュイー!!」

『どっちでもいいだわさ!!』

鳥がなんかエルザの膝の上で干し肉を啄みながら鳴いていた。


『お前もいいのか?』

『うん、僕も賛成だよ』

俺はレンの言葉を聞いてから、

「分かったよ、俺たちも一緒に行ってやるよ。全くお前らみんなお人好しだな。」


「グレンもね。」

『グレンもだよ』


エンリの言葉にミスティとリルルも頷いていた。

エルザとスーは特に同意する事無く飯を食っていた。


「ほら、あなたもさっさと食事をしなさい、これからわたしたちをあなたたちの村に案内してもらうんだから。」


「あんたらを案内してどうするんだよ!!俺らの分の金を払ってくれるのか!!」

ライトは立ち上がってエンリを睨むようにして見た。


「残念だけどそうじゃないわ。」

エンリは一度首を振ってから、

「それでもあなたたちの力にはなれるはずだわ。」

お決まりの眼鏡をクイッとかけ直して言った。


「そ、そんな事…」

ライトはエンリの自信ありげな迫力に思わず言い淀んだが、

「あの冒険者どもに勝てるのかよ!!」


「兄ちゃん!!」

隣でレフトが兄を止めようと服を引っ張っている。


「そうね、それは行ってみなければ分からないけど…少なくともこのままじゃあなたたちのお姉さんは助けられないわよ。」

エンリは眼鏡に手を掛けたまま、上目に鋭い視線を投げつけながらそう告げた。


「ぐっ!!…」

ライトは悔しそうに言葉を詰まらせる。


「姉ちゃんを助けてくれるの?」

エンリの言葉に反応したレフトがすがるような眼差しでエンリを見る。


「うん、そうね任せて頂戴。」

パチンとウィンクしてそれに返したのだった。


それから俺たちは食事をとった後、ライト兄弟の村、『エンタ村』へと向かう事になった。



【エラル山麓の洞窟近くの場所】


「いやぁ、ほんと助かってるぜ、おかげで金にも女にも困らねぇ。」

革の鎧に身を包んだ戦士風の長身の男が頭の後ろで腕を組みながら気楽そうに話す。


「ば、馬鹿!!お前これから行く所が何処か分かってるのか!!」

盗賊風の男が後ろを振り返りながら、呑気な言い分の男に怒鳴り付ける様にして言った。


「あん?分かってるよ、その為に俺がついて来たんだろ。」

男は余程腕に自信があるのか、腰の剣をポンポンと叩きながらそう返す。


「お前は仲間になったばかりだから知らねえんだろうが、これから行く所では絶対にそんな軽口叩くんじゃねえぞ。」

見た目は盗賊に似た格好をした細目の身体だが決して痩せ細っているという訳では無く、それなりに筋肉もついていて、ある意味無駄な肉を削ぎ落としたかの様な体つきの男が、全く変わらない様子の男に言い聞かせる。


「あんたいい加減先輩風だけじゃなく、臆病風まで吹かせ過ぎなんだよ、何かあっても俺とあんたがいれば大丈夫だろうさ。」

戦士風の男は変わらず余裕の態度を見せていた。


「…とにかく、俺が話すからお前は黙ってろよ。」


「へい、へい。」


男たちは洞窟の前へと着くと、


「この中か?」

戦士風の男が入り口を覗き込むようにして聞いた。


「シッ!!黙ってろ!!」

盗賊風の男は中に入る事無く、入り口で立ち止まる。


すると洞窟の中からいつの間にか男たちの前へとスッと現れた一つの人影があった。


「何っ!?」

戦士風の男が即座に剣を抜き構える。

伊達に腕に自信がある訳では無く、その動きはかなり俊敏なものだった。


「待て!!」

しかし盗賊風の男がそれをすぐさま制止した。


そこへ一人の黒いローブを全身に纏った男が傍へと近付いてきた。


「遅かったな…」

低くくぐもった声だが何故か頭の中にハッキリと聞こえるその声は、ローブの男から発せられた声らしい。


「す、すまねぇ、情報を得るのに時間がかかっちまって…」

盗賊風の男は少し額に汗を浮かべつつ、苦笑いを浮かべた。


「それで…分かったのか…」

ローブに包まれたその男の顔は、何故かフードの中が暗く闇に包まれており、近くでも窺い知ることが出来ない。


「おい、何でコイツは顔が見えないんだ?」

小声で隣にいた戦士風の男が盗賊風の男に話し掛ける。


盗賊風の男は戦士風の男の言葉を無視して、

「あ、ああ、()()()()はギルドの地下にあるらしい。」

と告げた後、横にいる男を睨んだ。

『何も言うんじゃねえ』と顔に張り付けて。


「…そうか…分かった…」

ローブの男は頷く事無く、相変わらず抑揚の無い口調で返す。


「い、いつ襲うんだ?」


「………」

ローブの男は答えない。


「い、いやその、お互い連携した方がより確実になるんだし…」

盗賊風の男は少し焦った様に言葉を繋げる。


「…まだ…決まっていない…」

ローブの男は沈黙を破りそう返す。


「そ、そうか、それで次は何を調べればいいんだ?」

盗賊風の男は少しホッとした様にしてから、聞き返す。


「………もう用はない…」

少しの沈黙の後、ローブの男は告げた。


「えっ!?いや、まだ他にも目的は無いのか?俺たちに集めて欲しい情報があったら集めるし、必要なら協力して更に…」


「…不要だ…」

ローブの男は盗賊風の男が話している最中にそう答えた…


「てめえ、下手に出てればつけあがりやがって!!」

横で話を聞いていた戦士風の男が再び剣を抜きかけた。


「馬鹿野郎!!止め…」


すると洞窟の後ろから無数の人影が浮かび上がる。


「ひっ!!」

盗賊風の男は一瞬にして背筋も凍るほどの危険を察知し、そのまま踵を返して逃げ出そうとしたが…


その僅か数瞬置いた後、

「ヨロシカッタンデスカ?」

緑色の少し小さめな人影がローブの男に語りかける。


「…ああ、構わない…片付けておけ…」

ローブの男はそう告げて、何事も無かったかの様に洞窟の奥へと消えていった。


そして暫くの後、洞窟の入り口にはわずかに残った血の痕と少し生臭いその香りだけが、残っていた…

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