第73話 『エンリの秘密』
仕事が終わらない…
外からの投稿です( ´△`)
第73話
『エンリの秘密』
そして翌日…
「それじゃ、行こうか。」
俺たちは各自準備を済ませて、宿で食事を摂ってから女将さんにも挨拶をして小麦亭をあとにした。
『確か門で待ち合わせだったよね?』
『ああ、そうだ』
今はレンが身体を動かしている。
有事の際を除いてはどちらが動かすかなどの理由は今の所は特に無い。
今日の場合は単純に朝先に起きていたというところからだ。
俺たちは馬車で大通りを進んでいる。
ギルドにはきっとエンリが挨拶してるだろうし、昨日ギルマスにも会っているし、特に寄る必要も無いのでそのまま待ち合わせ場所へと向かう事にした。
配置は御者台にリルルとミスティ、二人に挟まれる様にしてエルザ、荷台に俺とスーがいる。
エンリと合流したら変わる可能性もある。
今一緒に荷台にといるスーはふてくされて寝ている。
先程出発する時に、『ご主人久しぶりに愛を魔力を欲しいだわさ』と肩の上で擦り寄るようにして宣っていたのだが、『ごめん、僕には君が何を言ってるのか分からないんだ』と断られた、というかはぐらかされてしまったのだ。
『ご主人に代わってくれだわさ‼』
『ご主人聞いてるんでしょ!』
『あちしに愛を‼』
とかしきりにキュイキュイほざいていたが、
レンに『ねぇ、グレンこの鳥何て言ってるの?』
とかも聞かれたが、
『んっ?ああ、腹が減ってるんだよ』
と返すと、
「仕方ないなぁ、はい。」
と干し肉を渡されたスーが、
『………』
数秒その干し肉を見て固まってから、
『違うだわさぁ!!』
と鳴いたあと、その干し肉をバチッと嘴で奪い取るようにして肩の上から飛んで籠の中へと去って行く出来事があった。
「グレン殿、そう言えばロンデル殿には挨拶しなくても良かったのですか?」
と御者台から顔を覗かせて言った。
『ああ、そう言えばすっかり忘れてたなぁ』
鍛冶師のロンデル…あの娘溺愛ドワーフ。
一応氷円丸には世話になってるし、一言くらい挨拶しておくべきだったかな。
だがまあ、また会うこともあるかもしれないし、今から行くのも面倒だからいっか。
「リルルさん、グレンはまたの機会にするよだって。」
レンに代わりに伝えてもらったが、
「またの機会ですか…」
リルルは少し困ったような頬を掻く姿を見せていた。
『まあ、俺はともかくリルルはもう会うこともない可能性の方が高いしな』
門が間近に見えてきた。
「あっ!!もうエンリさん来てるみたいだよ。」
ミスティが声をあげる。
どうやらエンリは既に先に到着している様で、俺たちはそこへ馬車を進ませていった。
門のすぐ側で大きなカバンを片手に手を振っているエンリがいた。
俺たちはひとまず馬車を止め、スー以外の面子は馬車を降りた。
「おはようございます皆さん。」
エンリはニコッと笑顔を見せてから、
「宜しくお願い致します。」
と言って深々と頭を下げた。
「おはようございますエンリさん。そんなに畏まらないで下さいよ。」
レンはいやいやいやと手を振りながらそれに答える。
「そ、そうですよ、こちらこそ宜しくお願いします。」
同じくミスティも深々と礼を擦る様にして頭を下げている。
「エンリ殿、これからエグザイルまでですが一緒に旅をする訳ですし、そんなに畏まる必要はありませんよ。エンリ殿にも色々とこちらもお世話になるでしょうし。」
リルルは笑顔を見せながらそれに応じている。
『リルルも余裕が出てきたな、自分の時を思い出して見ればそうも言えないだろうに』
だがまあ、考えてみればこの面子ではエンリは一番年上だろうし、いかにもお姉さんキャラだしな。
無論それでも俺の方が歳上なんだろうが…
「あら、そう?じゃあそうさせてもらうわね。」
頭を上げたエンリは皆の対応を見てから、コロッと態度を一変とまではいかないが、一気に昨日の状態へと戻った。
初めて会った時もそうだがこの辺の使い分けと言うか態度の変え方などは、リルルと違って流石だなと思わされる。
「それじゃ、行きましょうか。宜しくねみんな。」
お決まりのウィンクを決めてから、門へと向かった。
そうして俺たちは特にこれといって問題無く門を抜け、エステルの町をあとにした。
滞在料として預けていたお金も無事9割を返金してもらえた。
無論エルザの分もだ。
「ところでエグザイルまではどのくらいかかるんですか?」
レンがエンリへと尋ねた。
「そうね、馬車で大体5日と言うところかしらね。」
門を抜けてからの配置は若干変わっている。
現在は御者台にミスティとリルル、スーは変わらず籠の中。そしてレンとエンリは向かい合って荷台に、更に俺の横にエルザがいる。
はじめ、『わたしは荷台の方でいいのかしら』とエンリが尋ねたら、『エンリさんは馬を操れるんですか?』とミスティが聞き返して、『ええ、一応は、でも邪魔になるのも悪いから荷台で大人しくしてるわ』と言って荷物を運び入れたまま荷台に乗り込んだ。
乗った後、『リルルさん、エグザイルまでの道は分かる?』と確認すると、『ええ、大丈夫ですが』というやりとりを見た後、俺も荷台に乗り込むのを見たエルザが『わたしもあっちにする』と俺の横にこうして陣取ったのだ。
何やらエルザがエンリを見る目が少し警戒している様に感じた。
先程の挨拶の時もエルザはジーっと観察している様に俺には見えた。
レンは全く気付いた様子は無いが、やはりこうして客観的に見ると分かることもあるんだな。
「それで、グレン、一つ聞いておきたい事があるんだけどいいかしら?」
エンリは表情を少し引き締めている。
「えっ!?何でしょう?」
「…あなたどうしてそんなに変わっているの?」
眼鏡に手を掛けつつ、レンを見つめている。
『そりゃまあ、そうなるか…』
俺とレンも流石にその質問に対して認識を間違えることも無かった。
『えっ!?ねえ、グレンどうゆう事?』
『分かってないのかよ!!』
『とりあえず可能な範囲で説明しておこう、レンの事を隠しておくのも面倒だし、俺が説明するよ』
このままレンに任せると変な事まで言ってしまいそうだしな。
こうして折角なのでエルザも含めてリルルに説明したのと同様、エンリにも俺とレンが二重人格と言うか別の人格が発生している状況を説明した。
ただし当然他言無用にしてくれと付け加えてはある。
黙って俺の話を聞いていたエンリは、
「…そう、信じられないけど…あなたならそれももう今更と言った所ね。」
少し考えるように顎に手を当ててから、
「分かったわ、信じる。それに現在の光景を目の当たりにされてしまっては反論の余地もないしね。」
「そうか、まあ…信じてくれなくてもいいんだが、実際そうなんだから仕方がないんだけどな。」
「それにしても本当に変わるものね、口調もそうだけど雰囲気がまるで違うわ。」
俺の言葉を聞いてエンリは更に俺の顔を見るようにして眼鏡に手を掛けたまま顔を近付けてくる。
「ダメ!!」
そこへ隣にいたエルザが俺たちの間に割って入るようにして、
「グレンお兄ちゃんはエルザの!!」
と頬を少し膨らませた表情で現れる。
「ああ、ごめんなさいね。エルザちゃんはグレンの事が大好きなのね。」
エンリはニコッと微笑みを返し離れた。
『むう』と言った感じで子供扱いされた事に怒ったのかまたも頬を膨らませた様子だ。
「俺も一つ質問させてもらいたいんだがいいか?」
「えっ?ええ、何かしら?」
「以前あんたから竜人族の話を聞いた事があったよな。」
「ええ、アニーの事ね。」
「その時年齢を聞いたんだが…」
『ちょっ!!グレン何回目だよ!!もう止めてよ!!』
レンが即座に反応してきた。
『いや、レン大丈夫だ』
「あの時あんたドワーフやエルフの事を引き合いに出した時、『わたしたち』って言いそうになったよな、あれってどういう事だ?」
「!!」
エンリは眉をピクリと動かしてから、少し黙った後、
「…流石ねグレン、あの時聞かれてたら多分はぐらかしていたでしょうけど、あなたの話を聞かせてもらった後にわたしがとぼける訳にはいかないでしょうね…」
『どうゆう事?』
『まあ、エンリの話を聞けば分かるさ』
「そうね、別にこれは話したところで問題がある訳ではないのだけれど、一応あまり大っぴらにはしないでもらえるかしら。」
フゥと一度ため息を吐く様にしてエンリは言う。
「ああ、分かった。」
「お察しの通りわたしは人族ではないわ。」
『「「ええっ!!」」』
三人の驚いた声が馬車にと言うか俺の頭に響いた。
どうやらミスティやリルルも聞き耳を立てていたらしい。エルザは何故かそれほど驚いた様子もなくキョトンとしていた。
「あら、聞いていたの?まあ、あなたたちにも隠すつもりは無いけど…」
「エルフ族か?」
俺は話の腰を折られたので修正して聞き直した。
「ええ…流石ね、でも正確に言えばハーフエルフよ。」
「ハーフエルフ?」
『ハーフエルフ』
エルフと他種族との混血で基本どちらの血が濃いかによってその特性は若干異なるが、その大抵は人族よりは長寿であるらしい。
ただ混血種というのは迫害の対象とされ、エルフ族、交わった種族のどちらにも邪険に扱われてしまうそうだ。
その大半は村を出て人里離れた場所に住むか、同じ様な種族が集まった場所で生活することを余儀なくされたりもしているらしい。
「この事を知ってるのはギルドでもギルマスと一部の限られたものだけよ。あとはそうね、昔パーティーを組んでいた仲間たちくらいかしら…」
「何!?」
『どうしたの?』
こいつ、とことん鈍いな…
「あんた昔冒険者だったのか?」
『ええっ!?』
「そんなにおかしい事じゃないでしょ、ギルマスだって元冒険者だし…あとわたしはエンリよ!」
「あ、ああ…すまん。エンリ。」
ハーフエルフで元冒険者か…そうなるとひょっとしたら俺より歳上の可能性もあるな…接しにくくなるのも微妙だし年齢は聞かないでおこう。
「それにしてもわたしがハーフエルフという事よりも元冒険者の方に驚いてくれるなんてグレンはやっぱりどこか違うわね。」
クスッと笑いながらエンリは少し嬉しそうに言った。
「そうか?それにしてもエンリは冒険者の時はランクはいくつだったんだ?」
うーんと考える様な仕草を見せてから、
「ひ・み・つ」
といかにも意味ありげな感じで指を口元に当てて答えてから、
「女の子には秘密が多い方がミステリアスでしょ。」
と得意のウィンクを入れて付け加えてきた。
『参ったな…』
『何が?』
『こいつは強烈だぜ…』
綺麗なお姉さんでミステリアスって色々もうヤバイわ…今の俺は一応16歳だから、尚更ヤバイ…
俺がリアル16歳の時に出会ってたら即日陥落してた所だ。
などと思っていたら、
脇腹から軽く痛みが走った…
見るとエルザが俺の脇腹をつねりながらむくれていた。
それから俺たちの旅の目的やこれからの予定なども話しつつ、エンリからは次の目的地であるエグザイルの町についても聞いていた。
無論、ミスティやリルルの事はごまかしてはいる。
流石にエリス王国の皇女であるとか、リルルの目的を話すつもりも無かったので護衛という形にして、俺たちの目的は先程の件の情報収集という事にして伝えてある。一応エンリにも聞いてみたが二重人格の話は聞いた事は無いらしい。
少し思うところもある様にしていたが、『それは無いわね』と自己完結して首を振っていた。
少し気にはなったが、正直なところを言うと俺はこの状況を気に入っている。
だからレンには内緒だが今のこの状況を打破する様な手段は、出来れば見つかって欲しくないというのが本音でもあった…
「…だから、ギルマスの話によるとエグザイルでは結構大変な事になってるらしいのよね…」
エンリは少し難しい顔をしながらスプーンを片手に俺たちに話してくれていた。
現在食事をとりながら皆でエンリの話を聞いている。
エグザイルでは今もなお復興の最中だそうだ。
では何故そうなったのか…
今から一ヶ月ほど前、町を魔物の群れが襲ったらしい。だがその際は見事撃退に成功したらしいのだが、そのあとにも何度か襲撃を受け、かなりの被害が出ていたそうだ。
どうしてそんなに襲撃を受けたのか聞いたら、襲ってくる魔物が普通のものではなく、何か目的を持った様に繰り返しに攻めてきているらしく、原因を探るべく冒険者を派遣してみたりもしたそうだが…その目的は不明のままらしい。
魔物の規模や撃退については現地で確認してくれと言われているらしく、今回エンリが派遣された理由もその辺にあると踏んでいるらしい。
ただ実際に戦う訳では無いが、危険を伴う可能性もあり、エンリが選ばれたという点もあるのだろう。
エンリが元冒険者と聞いてある程度予測はついたが、かなり高ランクの冒険者であったのではないかと考えていた。
最初はただの受付嬢にしてはやけに気丈な女性だな程度に思っていたが、冒険者からもエンリの姐さんとか、ギルド内でもそれなりの地位にある事からすればただの冒険者であったとは考えにくいのだ。
そんなこんなでエンリと俺たちは、お互いある程度の認識を交換し、共にエグザイルの町へと向かった。




