第70話 『夜の訪問』
立て続けに投稿させて頂いてますが、10月からは少しだけ更新遅れるかもです。
出来る限り書き上げたら投稿しますが、誤字脱字は相変わらずかもしれません。
少しづつでも発見次第修正させて頂きますのでご了承下さい!
第70話
『夜の訪問』
結局その後、戻って来たエンリにも幾つか話を聞いて大体の状況は把握できた。
俺はどうやら倒れた後、このギルドへと運ばれて、翌日まで寝ていたらしい。
今は日も変わって次の日の昼頃だ。
俺と一緒に運び込まれたミスティたちは『アルラウネの香』という所謂、媚薬の様なものの影響を受けていた様で、かなり大変だったという話だ。
一応何度か風呂へと入り、肌に染み入った薬の効果を洗い流したりしていたらしいのだが、思いの外、エルザにだけはその効果が顕著に出ており、それが抜けるのも遅かったらしく、何度も風呂に入れている間にどこかへと逃げ出してしまっていたらしい。
やはり獣人だから発情と言う効果が強く出ていたのではないかとエンリは推測していた。
エルザは一旦受付嬢のスージーに任せて来たそうだ。
「そうか、それにしてもあいつらは今どうしてるんだ?」
「あいつら?」
エンリが突然振られた話の内容に少し戸惑った。
「あの金髪どもだ…」
俺は苛立ちを隠すことなく、憎々しく呟いた。
「そうね…ごめんなさい…」
アルフレッドたちは3人とも生きているらしく、今はまだ3人とも治療を受けているそうだが、拘束されており、おいおい事情を聞くことになってるらしい。
「それで結局どう対処するつもりなんだ?」
俺はあの三人、特にあの金髪野郎をこのまま説教程度で許すつもりはなかった。
「勿論キッチリ話を聞いた上で、冒険者資格剥奪の上、投獄される事になるでしょうね…」
先程からエンリは言葉の節々に申し訳なさそうにしている感がある。
今も目線を反らして俯いている。
「ぬるいな…」
正直俺にとっては生ぬるいとも思える対応だ。
しかもエンリは何かを不安に思っている様子だったので、
「投獄されるのは勿論だが、すぐに出てくる様な事にはならないんだろうな。」
ミスティやリルル、エルザたちにあんな事をしておいて、腕一本と一時的に投獄される程度で済まされてたまるか。
俺の事はさておき、リルルを殺そうとした男だ。
処刑とまではいかなくともキッチリさせておきたかった。
この世界の法律などは知らないが、俺の中では無期懲役レベルだった。
「安心して、彼らには別にも幾つか容疑と言うか疑いがかかっていたのだけれど、今回の件でそれも明るみに出るだろうから恐らくはもう大丈夫よ。」
「どういう事だ?」
アルフレッドたち三人は以前から勧誘と称して有能な冒険者に声をかけたり、気に入った女性冒険者などがいるとしつこくつきまとったりしていたらしい。
そして、その誘いを断った冒険者の内の何名かがすぐに冒険者を止めてしまったり、この町を出て行ってしまったりしていたそうだ。
更に女性冒険者の何名かが行方不明になったりもした為、一時期調査チームが組まれたりもしたそうだが、捕まったのは頭のおかしくなった冒険者だったそうだ。
「何故そんな事になってるのにそれで処理されてたんだ!?」
どう考えてもアルフレッドたちが容疑者候補No1の当選確実間違いなしだと思うんだが。
「それが…」
エンリは如何にも言いづらそうにしてから、その表情に悔しさを滲ませながら話始めた。
アルフレッドたちは用意周到で尻尾を掴ませなかった。
容疑者としては無論浮上していたがアルフレッドの親、シューマッハ家の手前上、捜査は難航した。
エンリは口に出してはいなかったが圧力が掛かっていたのだろう。
更に勧誘されて、断って辞めたり町を出た冒険者のほとんどは『あいつとは関係ない』の一点張りだったそうだ。
何名か仲間になった者もいたが、大抵はその後何度か依頼を受けて帰ってきた時には死んでしまっていたそうだ。
女性冒険者の方は見つからない者がほとんどで、唯一見つかった女性も廃人の様になっており、話を聞くことも出来なかったらしい。
最終的には『俺がやった』という少し頭がおかしくなってしまっていた冒険者の一人が自首してきた事で建前上は処理されたらしい。
『あのクソ野郎…』
「ごめんなさい…もっと早く対処出来ていればこんな事にもならなかったのに…」
エンリはミスティやリルル、最後に俺に視線を向けてから、目を閉じて姿勢を正してから頭を下げた。
「エンリが謝る事じゃないさ、それにこうして助けてくれた訳だし、感謝してるよ。」
悪いのは全部あの金髪だしな。
「そ、そうですよ!!エンリさんは悪くないです!」
ミスティがハッキリとそう言った。
「わたしもそう思います。助けてくれてありがとうございました。」
リルルはチラリと横目で一度俺を見てから、エンリへと向き直り頭を下げた。
それを見たエンリは目を少し涙ぐませながら、
「やめて頂戴、今回の件はこちらの落ち度でもあるんだから…本当にごめんなさいね。」
目元を指で擦るようにして、また謝った。
しきりに謝るエンリには理由があった。
勿論ギルドの代表として謝った部分もある。
だが当時その調査チームの中にエンリはいなかったのだが、サポーターと言うか御意見番的立場だったエンリはその話からアルフレッドを疑っていた。
しかし犯人が捕まり、証拠も無かったその時はそれ以上の事が出来なかった。
それでも腑に落ちなかったエンリはギルドとしてではなく、ある人物に指名依頼の形で依頼をしていた。
その結果、アルフレッドたちは捕まりグレンたちを助けた形にはなったのだが、エンリとしてはもっと早く対処出来ていればという思いは捨てきれなかったのだ。
その後暫くしてからギルマスことガゼフも現れて、
「大変だったみたいだね。でも流石はグレン君だ。僕の期待にしっかりと応えてくれているみたいで安心したよ。ああ、あの三人からは僕がキッチリと話を聞いておくから安心してくれたまえ。」
と笑いながら去っていった。
尚ギルドの代表者だったが謝罪の言葉は特に無く、
去った後、「ごめんねグレン、ギルマスはああいう人だから…それでもかなり心配していたのよ。職員が連絡を受けた時も、報告を受けてからいち早く陣頭に立って即座にあの店に向かう様指示を出してたんだから」と小声で教えてくれた。
こうして一応今回の件は幕を閉じた。
俺たちは一旦今日のところはギルドでお世話になってから明日宿へと戻ることにした。
一応ここには職員が泊まる為の部屋なども用意されているそうで泊まる上では特に支障も無く、食事も用意してくれた。
今回の件は依頼では無いが、冒険者による不始末の対処として扱われており、労う意味もあるらしい。
因みに俺の身体の毒は抜けており、右手の怪我も既に塞がっている。
だがまだ傷跡は掌にくっきりと残っており、握ると痛みがある。
俺は少し回復が遅い様な気がしたが、
エンリには『あなたの体どうなってるのよ』と呆れられてしまった。
それはまあそうか…
ただ掌だと刀を握るとき支障がありそうなんで早く治したいんだが…
腕ならまだ多少剣筋は鈍るかもしれないが痛みを堪えて刀を振れるが、掌だと離してしまう危険があるからな。
夕食を済ませ、今はもう夜。
この部屋には俺しかいない。
俺はベッドに入って毛布を掛け、仰向けになり、天井を見ていた。
『なぁ、レン…』
俺は一つ確認したい事があってあれからレンを何度となく呼んでいるが返事が無い。
以前にも何度かこんな事はあったが、そろそろ不安に思えてきた。
俺の中に確かにレンを感じてはいるのだが未だ応答が無いのが気になって堪らない。
まだ寝ているとは考えにくかった。
『あの時の声はお前だったのか…』
そんな疑問を浮かべていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「すみません、グレン殿…まだ起きていらっしゃいますか?」
控えめなノックの後、恐る恐ると言った様子で女性の声が聞こえてきた。
「ああ、ちょっと待ってくれ。」
俺はゆっくりと体を起こし、枕元に置いてあるランタンの様なモノに『ライティング』と唱え灯りを点した。
辺りがほんのり明るくなる。
「どうかしたのか?」
俺は扉に向けて声を掛ける。
その言葉を受けて、
「あ、あの中に入っても宜しいでしょうか…」
「ああ、構わない。」
ガチャリと扉が開き、ゆっくりと姿を現したのは予想通りリルルだった。
「どうしたんだこんな夜中に?」
正確にはまだ夜中と言うほどは遅くは無かったが、外はもう真っ暗なのでそう表現してもそれほど差し支えは無いだろう。
「す、すみません…実はグレン殿にお話が…」
扉の側で何かモジモジとして恥ずかしがっていたので、
「立ち話も何だし、座ったらどうだ?」
俺はベッドに座ったまま横にあった椅子を正面に置きリルルを促した。
「あっ!!はい!」
少し慌てた様子で駆け寄ってきてその椅子に座る。
「それで、どうしたんだ?」
正面に座ったリルルに目を向けた。
その目を見て、恥ずかしそうに視線を逸らして、
「実はその、昨日のお礼をまだしていなかったので…」
「ああ、その事か…あれは俺がやりたくてやったことだから気にするな。俺もこうして無事だったわけだし…」
「そ、そうはいきません‼ミスティ様をお守りすると誓ったのにあの体たらく…おまけにグレン殿に怪我をさせてまで庇って頂く始末…」
唇を強く噛み締めて、膝の上に置いた手を力一杯握り締めていた。
「そうは言ってもな、満足に動けない状態で刃を突き立てられそうになっていたら仕方がないんじゃないか?それに結果的にはみんな助かった訳だし…」
「で、ですが!危うくグレン殿まで命を危険に晒す事になってしまったのは!…その…私のせいでもありますし…」
リルルは悔しさと恥ずかしさからか、口をギュッと強く噤んで頬を少し染めている。
「分かったよ、今回は少し危なかったのは事実だ。次からはお互いもっと上手くやれるようにしような。何にしてもリルルが助かってよかったよ。俺が倒れた後、リルルたちが上手く逃げられたかどうか心配だったし、俺も倒れてしまってすまなかったな。」
リルルに心配を掛けずにもっと上手く対応出来たはずだし、こうしてリルルに負い目を感じさせる形にしてしまったのは俺の失態だとも言えるしな。
「そ!そんな事はありません‼私がもっと警戒していればあの様な事には‼それにグレン殿は人質など取られていなければもっと上手くやれていたはずです‼」
リルルは思わず立ち上がって、俺に泣いてしまいそうな表情を見せながら言葉と共にその感情を吐露した。
「それに…私は本来守るべき騎士の立場にありながら、グレン殿が助けてくれた時に心底ホッとしてしまっていたのです、あなたが現れて庇ってくれた時に心から安心してしまっていた…既にあなたには二度も命を救われています…このご恩にどうやって報いればいいのか私には分かりません…」
胸に手を当て、それを強く握り締めながら、苦しそうな表情を浮かべている。
「そうか…」
俺はベットに腰かけリルルの話を黙って聞いていたが、立ち上がってから、
「こうは考えられないか?お前はミスティを守ろうとしてくれた。騎士として誰かを守ろうと頑張った。俺はミスティを守ろうとしてくれたお前を守った。」
「で、でも!…」
リルルは涙を目に溜めながら俺の顔を見ている。
俺はリルルの頭に手を軽く載せて、
「最初の時も、あの時も俺がお前を助けたいと思ったからそうしただけだ。もしお前がその事に何か思うところがあったとしら、それは俺の責任だ。助かってくれてありがとな、もしお前が助かってくれなきゃ俺の後悔がまた一つ増える所だったよ。」
「そ、そんな…わ、わたしは…」
突然リルルは俺の胸元にダイブしてきた。
俺は思わず態勢を崩し、後ろのベットへと背中からダイブする形だ。
そして俺はベットに背中を預けていた。
胸元ではリルルが顔を埋めながら声を押し殺すようにして泣いていた。
暫くリルルが俺の胸元でひとしきりに泣いていた。
俺は黙ってリルルの頭に手を置いてそれを慰める様に撫でていたが、落ち着いたのか泣き声も徐々に治まってきたので、
「落ち着いたか?」
と俺が声を掛けると、
「はい…」
と依然鼻声ながらも、少し落ち着きを取り戻したリルルの声が聞こえた。
「そうか…」
ポンポンとリルルの頭を叩いた後、身をゆっくり起こそうとしたのだが…
リルルは俺の胸元から顔をゆっくりと上げていた。
その頬は赤く染まっており、潤んだ瞳はじっと見つめる様にこちらを見ている。
そして、
ズイと顔を近付け、俺の口に唇を重ねてきた。
少し間を置いてからゆっくりとその唇を離し、リルルは立ち上がって、俺に背を向ける。
俺は呆然としていたが、唇の感触を確かめる様に手を口元に当てた。
「お、おい…」
何か言葉を紡ごうとしたが、その前にリルルからの言葉が投げかけられ遮られる。
「わたしは!」
リルルは俺に背を向けたまま、
「エリス王国近衛騎士団所属、『リルル・シャマール』です。ミスティ様を護衛すべくここへやって参りました。ですが一度死に、またもあなたに命を助けられてしまいました。」
突然の言葉に俺は少し呆気に取られてしまったが、
「本当に助けておきながら、それを勝手に助けたから気にするなだなんて酷いです!」
そこで一度言葉を区切ってから、こちらを振り返って、
「勝手に助けてくれたのなら、わたしが勝手にあなたをお慕いするのも問題ないですよね!」
そう言って涙を目に浮かべながらも満面の笑みを浮かべていた。
そしてそのまま背中を向けて、部屋を出て行こうとしたのだが、
「おい、それって!」
思わず俺はその背中に向かって声を掛ける。
リルルは扉のノブに手をかけた状態で立ち止まり、
「ミスティ様には申し訳ありませんが、助けてくれた責任取って下さいね。グレン!」
そう言って部屋を出て行ったのだった。
『マジカ…』
俺は一人呆然としながら部屋に取り残されたのだった。
おまけ
『奇襲』
リルルが去った後部屋に残された俺はそのままベットに横になっていた。
今日も色んな事があったなぁとしみじみ思いながら、余韻に浸りつつ毛布を被った。
明日はどうしよう等と考えつつ、眠りに落ちて行った。
時は正に深夜頃、
突然目が覚めた。
何故か俺は今上半身裸だった…
胸ははだけ、下半身の辺りが妙に熱くなっている。
毛布も丁度腹の辺りから下を隠す形で掛けられているが、何やらもぞもぞと中で動いている。
『この展開はまさか!』
今も俺の下半身で、何かが纏わりついている。
俺は瞬時に覚醒し、上半身を起き上がらせて、毛布を手でそおーっと持ち上げる。
何かが動いている毛布の中から姿を現したのは…
俺の太腿に腰を擦り付ける様にしているエルザの姿だった。
『やっぱりかぁ!』
エルザは昼間同様、頬を赤らめながら毛布の中から俺の胸元へと這い寄ってくる。
「ちょ、ちょっと待てエルザ!お前どうしたんだ⁉」
昼間の時からあの香のせいなのかおかしくなっていたエルザだったが、食事の時にはとても恥ずかしそうにしながらも『ごめんなさい』と俯きながらも俺に言っていたのに…
今は既に元に?戻ってしまったのか、その言葉に返す事無く、俺の胸元を舐めている。
その少しざらついた舌に舐められて俺もビクンと反応してしまう。
「ちょ、ちょっとエルザ、本当に一体どうなっちまってるんだ、っておいそれ以上は…」
俺はその感触に身を委ねてしまっている。
俺も一応男だし、快楽と言う名の誘惑には勝てないという事だ。
だがエルザはまだ10歳程度の女の子だぞ!という俺の僅かに残った理性君が歯止めを掛けようと頑張る。
「え、エルザ!分かったからちょっと落ち着こうな!って馬鹿!手をそんなとこに!」
『エマージェンシー!エマージェンシー!第二次防衛ラインが突破されます‼』
俺の中の理性君がそんな言葉を俺に投げ掛けて来る。
既に第一次防衛ラインは突破されているらしい。
「んんっ、おにいちゃぁん…」
エルザの甘い吐息にも似た声が漏らされる。
『大変です!最終防衛ライン突破されます‼予備も動きません!』
『司令!このままでは…』
『もはや一刻の猶予も無いと言う訳か…』
俺の理性が既に限界点を突破しそうな勢いだ。
どうやら司令も呼び出されたらしい…
依然俺の身体に絡みつくエルザは、俺に柔らかなその肢体の感触を伝えてくる。
『し、司令‼』
『くっ!止むをえまい‼』
『○動砲発射準備!』
まさに俺の限界が近付いたその時…
バン!という大きな扉の開く音がした。
そして、ずかずかと凄い勢いで俺に近付く人影…
その人影は俺に近付くなり、俺に掛かっていた毛布をがばっと引っぺがして…
「もう!やっぱりここにいたのね‼」
と大きな声を上げてから、
「急にいなくなったから心配してみれば全く‼」
ギロリと一度俺を睨んでから、
「レンももうちょっと注意しなさいよね‼」
そう言ってミスティはエルザの首根っこをふんずと掴んで、そのまま部屋から去って行った…
『危なかったね…』
『あぁ、そうだな…』
『…って!お前起きてたのか⁉』
『うん、今さっき…』
レンも復活していた様だった。
『ほんとうに今日は色々あったなぁ…』
おまけいるのか微妙だったのですが、レンの復活タイミングとして利用させて頂きました。
何故レンがあの状態だったのかは後ほどという事で。




