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第63話 『狩る為のりゆう』

作中にはあまり書いてありませんがエンリは一応制服です。頭には帽子も被ってます。

制服を着た綺麗なお姉さん…作者的には大好きです。


第63話


『狩る為のりゆう』



『アナスタシア・ミストレア』

ギルド全体でも数少ないA級冒険者の一人。

以前A級冒険者はギルドに所属する冒険者の1割にも満たないと聞いた覚えがある。

二つ名は『青龍』、または『ドラゴンキラー』等とも呼ばれているらしい。

だが正式登録名は『アニー』とされており、ドラゴンキラーはあの大剣の名前だそうだ。

如何にもな名前だが、俺が既に半ばからポッキリ斬ってしまった為、今はドラゴンキラー改となるべく準備中と言った所か…そんなに大層な名前の付いた剣だったとは、結構ショックを受けていた様だったし、少し悪い事をしたかな…

だがあの場を納めるには最善だったと俺は自負している。

時間にすれば大した時間はかかっていない。

それでも結構な魔力は使用した。

戦いは一瞬で決まるとはよく言ったものだ。

お互いの実力が拮抗していると勝負が長引くってのはあるがあれはスポーツや本当に相手の手の内を知り尽くしている場合の事だと思う。

真剣勝負で殺し合いなら一瞬の隙であっさり勝負が決まる事は多々ある。

あのまま続けていればきっと、どちらかが動けなくなるまで続いた可能性も高かったのだから。


しかし、二つ名が青龍か…やっぱり四聖獣をイメージしてしまうな。

こっちの世界でもその概念はあるのか?

地脈とかの概念はありそうだが…

それにしてもアニーもだが、この『りゅう』ってのも色々呼び名があるよな、『龍』『竜』『ドラゴン』…俺は単純に国々での呼び名の違いだと考えていたが、呼び方によって想像する『りゅう』の姿も変わるな。実際はそうじゃ無いのかもしれないが…


「それでアニーが何故ドラゴンを狩っているかだけど…」

エンリはそこまで話してから言い淀む表情を見せていた。


「呪いか?」

俺はカウンターで盗み聞ぎ、いや小耳に挟んだ情報を出してみた。


「ええ!良く知っているわね?」

エンリは少し驚いた表情で俺を見る。


「すまん、あの時後ろにいたもんでな。」

別に嘘をつくつもりも無かったので素直にネタ晴らしした。


「ああ、あの時…」

エンリは納得顔をしてから、

「あまり他人の事に聞き耳を立てるのはいい事じゃないわよ。」

眼鏡の縁を持ちながら俺を覗き込んでいる。

「まぁ、そうね。…端的に言えば、ドラゴンから一種の呪いを受けたの。」


「返り血を浴びたからか?」

これもギルドに来てから聞いた話だが、少し気になったので聞いてみた。


「返り血?ああ、二つ名の方の由来ね、確かに返り血は浴びたかもしれないけど、それが直接的にその呪いに関係しているのかは分からないわ。ただ…」


「ただ?」


「少なくともそれ以降に彼女の顔を見た記憶は無いわね…」


「どうゆう事だ?」


「呪いに関係しているのは間違いないけど、返り血を浴びたとされてから彼女は一度も鎧を脱いだ姿を晒していないのよ。勿論顔もね。」


「そうなのか?エンリはその女の顔を見た事があるのか?」

俺は一番気になっていた事を少し体を乗り出し気味にして尋ねた。


「ええ、まぁ一応。もうかなり前の事になるけどね…」

そう言ったエンリは少し遠くを見つめる様な眼差しを虚空へと送った。


「今()()()何だ?」

『ちょ、ちょっとグレン‼』


虚空を見つめていたエンリがピシッと固まった。

途端ゴゴゴゴと言ったオーラがエンリの周囲に幻視された気がした。


「グレン君、()()()って何の事かな?」

エンリの目は何かとても怖かった。


『馬鹿、グレンまたやらかして‼』

『いや、俺はアニーの年齢を聞いたつもりなんだが…』


「いや、今何時かなぁと思ってな…」


「………}


『グレン、それは流石に苦しすぎるよ…』

呆れたレンとエンリがいた。


「はぁ…まぁ、いいわ。年齢を聞いてるのよね?」


「いや、アニーの方なんだが。」

エンリの年齢もとても気になったが、ここでわざわざ虎の尾を踏む事もないだろう。


「そう、女性に年齢を聞くのは失礼なんだけど、今回は()()()教えてあげるわ。グレン君、()()()って知ってる?」


「竜人族?」


「そう、かつて龍の種族と人の種族との間に生まれたとされる種族の事よ。」


『そんなモンまでいるのか…』

俺は正直ファンタジーすぎてワクワクしてきてしまった。


「彼らは古くから龍種と人との間を取り持って来たわ。龍種が暴走し、他の種族を駆逐していく中、竜人族はその行いを諫めてくれていた。ここまで言えばもう分かってるかもしれないけど…」


「アニーがその竜人族なのか?」

俺さっきから驚いてばかりだな。


「そうよ、彼女は数少ない竜人族の生き残りよ。」


「生き残り?」


「そう、竜人族はかつて鋼の様な精神とその強靭な肉体で全種族間の頂点にも立つ存在と言われていたわ。一説には竜神とも呼ばれていたそうよ。」


「魔族よりもか?」


「ええ、竜人族に関しては未だ未知の部分が多くあるけど、魔族すらも従えるほどだったと言われていた。恐らくは敵う者はいなかったんでしょうね。でも数百年ほど前に一度滅んだとされている。」


「何があったんだ?」


「元々数の少なかった竜人族は、歴史上では内紛によって滅んだ者とされているわ。」


「内紛?それって竜人族同士で殺し合って滅んだって事か?」


「その辺りの詳しい経緯は分からないけど、竜人族より強い種族なんて他にはいなかったのだし、そう考えるのが妥当でしょうね。ただ昔、アニーは言っていたわ。」

またも虚空を見つめる様な仕草をしてから、

「『龍どもに滅ぼされた』って…」

再び俺へと視線を戻し、

「年齢だったわよね…竜人族は人間のそれと比べるととても寿命というか生きる年月が長いの、実は私も詳しい年齢は確認していないのだけど、彼女は少なくとも100年以上は生きているわ。ギルドカードにも年齢不明と記載されているし。」

そこで一度区切ってから、

「勿論他にもエルフやドワーフなんかも長寿で100年以上生きている者はざらにいるけどね。私たち…いえ、彼らの中では100歳未満の人たちは子供と一緒の感覚なのよ。」


「その理論で行くと人間は皆子供って事か?」


「そうは言っていないわ、あくまで種族内での事であってそれぞれの種族によって成人の年齢は違うのだし…」


「ああゴメン分かってるよ。じゃあ呪いを受けたのも相当前なのか?」


エンリは『もうグレンったら!』みたいな顔をしながら、一度咳払いを入れて、

「そうね、もう10年ほど前になるかしら…彼女はその呪いを受けてから執拗なほどに、いえ、それは昔からだったけど…今は龍種絡みの依頼以外は極力受けなくなったわね。」


「その呪いってのは具体的には何なんだ?」


「それは…」

エンリはその先の言葉を繋げるかどうか悩んでいる様だった。


「言いにくい事か?」

俺はこれ以上首を突っ込んでもいいものなのか少し迷った。


「そうね、正直これ以上は本人のいない所で話すのには気が引けるわね。」


「そうか、分かった。ならいい。」


「他に何か聞いておきたい事はあるかしら?」


「そうだな、その呪いを解く為にドラゴンを必死になって討伐しているのも納得がいくし、龍種を恨んでいるのも何となく分かるが、そもそもドラゴンってそんなに多くいるものなのか?」


「龍種と呼ばれる生き物はそれなりにいるけど、彼女が欲しているのはあくまで上位種よ。ただ、中位種でも言葉を解するものもいるから一応情報は通しているけどね。」


「上位種?」


「講義みたいになってしまうけれどいい?」


『龍種』

かつてこの大地全てで確認された事がある種族で、非常に獰猛なものも多く、その力は誠に凄まじいものとされている。しかも基本長寿であり、その多くの年月で多くの種族を滅ぼしてきたとされる生き物である。

龍種は他の魔物に比べてその力量は一線を画しているが、知能には千差万別があり、言葉を操る龍もいれば、低能なままの龍も存在する。

その昔、魔法を扱う龍もいたとされるが、種族としての群れ行動はほとんど行っておらず、数で勝る種族などにより次第にその数を減らしていったとされている。

現在生き残っている龍で確認されているものは大きく分けて3つ。

『上位種』…ブルードラゴン、イエロードラゴン、ブラックドラゴン、ホワイトドラゴン、レッドドラゴンなど全身の色をそのまま名称とされた『ドラゴン』などで、ドラゴンと呼ばれるのはある一定の水準を満たしたものであるとされているが、その基準はハッキリとは定まってはいない。

一つの定義としては言葉を解する、その大きさ、単純に強さなどを物差しとしているらしい。

なので一言に上位種といってもピンキリであり、その能力には大きな差があるとの事だ。

『中位種』…一般に竜と呼ばれるのがこの種族であり、龍とどこが違うかと言えばその大きさである。

上位種に比べ、この中位種はある程度幅があり、上位種へと変わる前の成長過程のものも含まれ、世間一般では1匹で充分脅威となりうる存在は中位種であると認知されているらしい。

数は上位種と比べれば当然多く、といっても他の種族の魔物に比べれば少数なのだが、その力はズバ抜けている為、力関係では圧倒的に上だ。

魔族の中にはこれらの一部を従える者たちもいるらしいと噂されている。

『低位種』…龍種の中では最も多く生息し、飛行している魔物の中でも多くはこれに当たるとされている。知能はそれほど高くは無いが飛ぶという上では確固たるアドバンテージが有り、その飛行能力や他の魔物に比べれば知能があるという点から飛龍の様に人間が乗り物として活用している場合もある。

低位種の中で最も多く確認されているのがワイバーンであり、龍種ではあるがどちらかと言えば別の一個体として認知されている感がある。

あくまで龍種の中での低位種であって、他の種族や魔物と比較すればその身体能力の高さは抜けており、群れを成して襲い掛かられようものなら人間などひとたまりも無いほど危険である。


「ざっとだけどこんな感じね。ああ、ただあくまで()()としての認識だから他の種族がこれをどう捉えているかは別よ。」

最後にそう付け加えて説明が終わった。


「ありがとう、大体分かった…気がする。」


「そう、一応依頼としては中位種以上になるとBランクからしか受けられないだろうから、そこでまた説明するわね。」


「なるほど…」

Bランクか…今のままでも別にいいが、なっておいた方が色々と都合がいいのか?

「そう言えば、結局エルザの件はどうなったのか聞いてもいいか。」

俺は当初の目的をふと思い出して、エンリに聞いた。


「えっ⁉ああ、そうだったわね。安心して、ちゃんと3日間は首輪無しでも滞在出来るように許可は取っておいたわ。」

眼鏡をクイッと上げてウィンクと言う、もはやエンリ定番の合図で俺に応えてくれた。


「そうか、助かる。でもよくすんなり許可が下りたな。」

あの門番の雰囲気だと結構面倒な気がしたんだが…


「すんなり、では無かったのだけれど、上役さんに話を通したら、門番の不正が発覚してお詫びにという形で通ったのよ。それと新しい許可証を貰える様に話をしてあるから私の名前を言えば受け取れるはずよ。」


「不正?」


「ええ、門番の一人が通行料と称して色々と通行客に因縁を付けて、多めの料金を取っていたらしくてね。それで預かったお金を着服していたの。本人は小銭稼ぎのつもりだったんでしょうけど、調べてみたらかなりの数の苦情があったみたいだったわ。」


「なるほどな。」

『あいつか…きっと首輪も割高で売りつけるつもりだったんだろうな』


アニーの話と当初確認しておきたかった事も聞けたし、と俺は立ち上がった。


俺はエンリに軽く手を挙げて、

「世話になったな。」

と一言告げて部屋を出ようとした。


「グレン!」

エンリは立ち去ろうとしていた俺を立ち上がって呼び止めた。


俺は扉のノブに手を当てたまま振り返った。


いつもの毅然とした雰囲気のエンリと違って、少し頬を染めて手を股の辺りでモジモジとさせながら下に俯きつつ、それからスッと顔を上げて、

「その、さっきは…私の為にありがとう…」


俺は思わず萌え萌えキュンとしてしまったが、

「ああ、問題ない。」

とそのままなるべく表情を変えぬまま、ドアへと向き直り、さも何事も無かったかの様にしてノブを捻って、部屋の外へと出た。


バタンと扉が閉まった後…

『やばかったぁ!』


『何が?』


『馬鹿野郎!あのシュチュエーションは色々とヤバいだろ‼』


『だから何が?』


『レンはお子様だなぁ』

多分あれはあのまま部屋にいたらヤバかった…俺の理性が…






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