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第56話 『森の精霊』

区切りが難しかったので纏めて投稿させて頂きます┏〇))

第56話


『森の精霊』



エルザは暫くその場で魔物へとすがり付きながら泣き続けていたが、それから1時間程が過ぎてから泣き疲れたのかそのまま魔物へと身を寄せたまま、眠っていた。


その間俺は、始めに10分ほどその光景を見守っていた後、一人で辺りに散らばる魔物の遺体を集めて燃やしたり、石祠の紋様を確認したりしていた。


燃やしている最中もエルザは泣き続けていたが、それを止めようとはして来なかった。


墓を作ってやるなんて偽善はしたくなかった。

この場の魔物たちは確かにカシスが殺したものだが、その前に既に俺は何頭もの同じ魔物を殺している。

エルザたちからすれば俺もカシスとそれほど変わらないだろう。


石祠の方は結局刻まれている内容などは分からなかった。試しに石へと魔力を通してみた所、淡く光を放ち辺りを照らした。

ただ、起きたのはそれだけで、特にカシスが現れた時の様に魔方陣?が現れるでもなくそのまま暫くすると光は消えていった。


『グレン、これからどうする?』


『そうだな、とりあえずは村へと戻るべきだろうが…問題はどう説明すべきかだな』


『そうだよね…結局魔物は討伐出来たけど…』


俺は横になった魔物とそれに顔を伏せて覆い被さる様に眠っているエルザを見ながら考えた。


『まあ、仕方が無いよな』


俺は眠ったエルザへと近付き、泣き疲れたその顔を覗きこむ。

涙の跡をくっきりとその頬に残しながら目を閉じ、すやすやと眠るエルザの顔があった。

頭の上にはふにゃっとした柔らかそうな毛に覆われた猫耳も付いていて、時折ピクンピクンと動いてたりしている。


俺はその耳を触りたくて(たま)らなかったが、その衝動をグッと(こら)えてから、エルザの体を優しく持ち上げ自らの背中へと背負い歩き始めた。


『あの魔物このままにしといていいの?』


『いや、先にやっておきたい事があるからな』


『やっておきたい事?』


『ああ、それにこのままエルザが起きるまで待っててやるのもちょっとな』


『うん、まあそうだね…』


俺はエルザを背負ったまま、先程俺が倒した魔物たちがいる場所へと戻ってきた。

まずはエルザをゆっくりと木の根本まで運び横へと寝かせてから、さっきと同様に魔物たちの遺体を集めてから焼いていった。


それを終えてから木の根本まで戻ると、エルザは目を覚ましたのか目を擦りながら辺りをキョロキョロと見回していた。


「ここ、どこ?」

独り言の様に呟く。


俺の姿を見付けたエルザは、

「ま、ママは!ママはどこ!?」


すがり付くような眼差しを向けられた俺は、

「言わなくても…分かるよな」


エルザはクリンとした可愛い両の眼に再び涙を貯め始めて、今にも泣き出しそうな顔をしながら、

「死んじゃったの?」


「確かめに行くか?」


『ちょっとグレン!!』

レンは慌てて制止してくる。


エルザは俺の瞳をじっと見詰めながらコクンと小さく頷いた。


それから俺とエルザは再度魔物の横たわる場所へと戻り、その遺体を見つめていた。

エルザはまた泣き出すかと思ったが、ギュッとその小さな拳を握り締めながら何かに耐えるように身を震わせていた。


俺はその小さな背中を見つつ、

「俺はお前のママに頼まれた。だが、お前がどうしたいかはお前次第だ。決めるのはお前自身だ。お前はどうしたい?」


エルザは無情にも聞こえるその言葉に何も返して来ない。


『グレン、流石に今そんな事言われても答えられないよ…』


『いや、これから村へと戻るにしても今どうするか決めておいてもらわないとどうしようもないだろ、それに俺だってどうするのが正解かなんて分からないしな』


『それはそうだけど…』


『実際俺たちがどうしたいかじゃなくてこの子がどうするか決めなきゃ意味が無いしな』

俺は別にこの子を見捨てたい訳でも面倒を見てあげたい訳でも無い。

どちらかと言えば偽善に聞こえるかもしれないが面倒は見てあげたいとは思ってしまっている。

だが、それは所詮独り善がりな勝手な言い分に過ぎない。


「お、お兄ちゃんは…」

消え入りそうな弱々しい声が聞こえた。

「お兄ちゃんは…ママを殺した()()()を知ってるの?」


「……それを聞いてどうするんだ?」


「………」


「やり返したいのか?」


「……分からない…でも…」

エルザは震える声で続けた。

「でもこのままじゃママ可哀想だよ…」


「そうか…」

俺は一息入れてから、

「それならどうしてあげたいんだ?」


グッと拳を握りこんで、

「…分からない…分からないけど…一回思いっきり殴る!!」

振り返り、その拳を顔の横に肘を畳んで持ち上げた。


その顔はギュと唇を噛み締めて、涙の貯まったままの眼を見開き上向きにハッキリと俺の目を見ていた。


「そうか、分かった。…じゃあ俺と一緒に来るか?」


「お兄ちゃんと一緒に行けばそれが出来るの?」


「そいつを殴るなら強くならなきゃダメだろ、だったら今はまず強くならなきゃな。いつかそいつに会ったらギャフンと言わせてやるよ。」


「うん!!」


『強い子だな』

正直10歳にも満たなさそうな女の子が母親と慕っていた者を目の前でついさっき殺されて傷も癒えない内にこうも強く在れるのだろうか…

しかも見ず知らずのこんな俺に一緒に着いていこうだなんて…

俺も相当な偽善者っぷりだが、一応頼まれたのを引き受けちまったからな…


『グレン!!』


『何だ?』


『有難う』


『よせよ、俺はこの子に感謝される様な事はしてないよ』


それから俺たちは最後の別れを済ませたエルザと共に魔物を燃やして弔った。

石祠の横に小さなお墓の様なものを作り、俺たちは村へと戻る事にした。


その際に洞窟の中も案内してもらったが、暗い穴の中を進むとツンと匂う獣臭がした。途中幾つか横に穴が見えたがエルザによるとみんなの寝床とかがあると言っていた。更に奥へと行くと一際(ひときわ)大きな空間があり、その中は少し明るくなっていた。

壁に苔のようなものが張り付いており、うっすらと光を発している。

中央には多くの葉っぱや獣の皮で出来た様な敷物が轢かれていて、エルザ曰くそこで眠っていたらしい。

周りには食べ物とおぼしき干し肉の様なものも吊るされており、獣臭を辺りに撒き散らしていた。


エルザの服は汚れてはいるが、獣の革ではなく一応ちゃんとした布で作られた洋服だった。

その服をどうしたのかと聞くと、困った様な顔をして『分からない…』と答えた。


洞窟を出た頃にはうっすらと周りが明るくなってきていた。

レンも『グレン…僕一旦寝てもいいかな』と聞いてきていた。


エルザもまだ全然寝たり無いのだろう、少し目を擦りながら歩いていた。


「エルザ、眠いのか?」


「う、ううん、大丈夫だよ…」

それまでふにゃっとしていた猫耳をピンと一度立ててから、再びフニャリとさせて答えた。


「ほれっ」

俺は背中を向けてエルザの前へとしゃがみこんだ。


「えっ!?いいの?」

エルザはどうしようかと悩んでいる様だ。


俺はそのままの体勢で顔だけ振り向きながら、

「子供が遠慮するな。」


エルザはエイッ!といった感じで俺の背中に飛び乗った。


そのまま俺はエルザを背負いながら村へと戻る途中、いくつかエルザに質問をした。

『いつからあそこにいたのか』

ハッキリとは分からないが、話を聞いた限りでは結構前からいたみたいだ。

だが経緯については『気が付いたらあそこにいた』だそうだ。

そして、あそこにいた時より前の事は覚えていないらしい。

『本当の親とか分かるか』

この質問は正直気が引けたが、聞いておくべきだと思った。何か手懸かりでもあればと。

しかし、予想通りというかエルザにとってはその質問は辛かったのだろう。

暫く黙りこんだ後、『分からない』と一言だけ答えた。

続けて聞いて見たが結果は一緒だった。

これは別に俺の質問の意味が分からないと言う訳では無く、思い当たる節が無いと言う事だ。

初めは案の定、『わたしのママはもういない』と言ったのだが、『そのママ以外にもママがいたんじゃないかって事だ』と言ったら『えっ!?どうゆう事?』と返して来たので『じゃあパパの事は覚えているか?』と聞いたら、『パパ?』と聞いた後に考えた素振りをしてからブンブンと頭を振っていた。


恐らくエルザには記憶が無い。

言葉や服装から見るに、と言うよりその容姿からもほぼ間違いなく別の親がいたはずだ。

万が一にもあれが本当の母親なら俺はこの世界の遺伝子と言うものは一切信じなくなるだろう。


そうしてようやく村へとたどり着いた頃には背中のエルザもすっかり眠りへとついていた。


森から村へと入り、まずは中央の天幕へと向かった。

誰かいるかと暖簾を上げて中へ入ると、細長いテーブルの脇に一人の人物が横になって倒れていた。


俺は急いで近付き顔を覗くと、その人物はリッケルだった。


「おい、リッケル!大丈夫か!!しっかりしろ!!」

俺はエルザを背負いながら屈みこんで声を掛ける。


「んにゃんにゃ…もう食べられませんよ…」

リッケルは目を閉じたまま土定番の台詞を口にしている。


「おい!」

俺は何かイラッとしたので右手でリッケルの額にデコピンして優しく起こしてやった。


バチン!といい音を立てた後、

「痛い!!」


リッケルは寝起きにも関わらず派手に地面を転げ回っている。

「ぐわあああぁ」

額を手で押さえながらのたうっていたリッケルは俺と目があった。


「よう、元気そうで何よりだ。」

右手を軽く上げて挨拶をした。


それを見て、ピタッと動きを止めたリッケルは、

「グ、グレンさん!?」


「おう、ただいま。今戻った。」


「よ、良かったです!お帰りなさい!!」

ガバッと起き上がり、顔を近付けて俺の顔を見る。

「そ、それで…その…魔物の方は…」

ゴクリとリッケルは唾を飲み込み見つめてくる。


「ああ、全滅した。」


「ぜ、全滅ですか!?」


「ああ、少なくとも俺の知る限りでは全滅だ。生き残りがいたとしてもリーダー格の魔物はいなくなったからそれほど脅威にはならないとは思うぞ。」

しっかりと森全域を調査した訳では無いので当然まだ生き残りがいる可能性はあるし、あの魔物たち以外にも脅威と成りうる魔物がいる事も充分に有り得る。だが、ここでは敢えて全滅と言っておいた。

それは何故か、勿論村人を安心させる為では無い…全く無い訳でも無いが、ぬか喜びになってしまう可能性もある。最悪俺が倒した魔物じゃない魔物が今回のターゲットだった可能性もゼロではないのだ。

それならば…何故か…


「ああ、あと少し話があるから長老とかこの

村の住人にも話を通せる人物を呼んできてもらえるか?」


「あっ、は、はい分かりました!!……で、その後ろの子は誰何ですか?」

リッケルは返事をした直後に俺の背中のエルザに気が付きそう付け加えた。


「ああ、その事についても聞きたい事があるからみんなを集めてくれるか。」


「わ、分かりました!」

リッケルはまだ寝起きだからかイマイチ状況が掴みきれていないからなのか一度キョトンとしてから、再び返事をして慌てて天幕を出て行った。


俺は椅子を横に4つほど繋げてから、その上にエルザを寝かせてから近くにあった布をその上へと掛けた。

まだ寝ているエルザの寝顔を見ながら俺も椅子へと座り、腕を組んでリッケルたちが戻ってくるのを待った。



「グ…グレン…さん…」

「グレンさん…」

俺は目を開いてみると、正面にリッケルの顔があった。

俺は思わず軽くのけ反りながら、

「ああ、悪い、寝てたのか俺。」


「いえ、此方こそお疲れの所すみません…」

リッケルはホッとした表情を浮かべた後、申し訳なさそうに頬を掻いた。


周りを見ると出発前に天幕にいた4人の顔もリッケルの後ろに見える。

そしていつの間にか俺の横で椅子に寝かせていたはずのエルザも目を覚ましたのか、ちょこんと椅子に腰かけじっと俺を見ていた。


「それじゃ事の顛末を話したいから聞いてくれ。」


俺は今回の討伐について一通りリッケルを含めた5人とエルザに話して聞かせた。

エルザのいる場所でそれを聞かせるのもどうかとは思ったが、ある意味当事者とも言えるエルザを抜きに話を進めるのもどうかと思ったのだ。


「それで、その大きな魔物は死んだんだろうな。」

男の一人が疑わしそうに俺に言ってきた。


「ああ、死体は俺()()が燃やして埋めた。」


「間違いないんだな?」

もう一人の男が確認して聞いてくる。


「何度も言わせるな、それに見たとしても誰もハッキリ見たことがないんなら確め様もないだろう」

身も蓋も無い話だが今回の討伐については対象がハッキリと確認されていた訳では無いので確かめようが無いのだ。


「分かりました、信じましょう。」

話を聞いていた長老が一つ頷き答えた。


「「ちょ!長老!!」」

二人の男は『いいんですか!?』と言った表情で長老を見る。


「ここで問答した所で答えは出んよ、それよりも今は話を聞くのが先決じゃて。それで…」

長老が話を続けようとした所で、

「その子はどうしたんだい?見るからに獣人の子みたいだけど?」

横からドンと肘をテーブルに乗せて姉御肌風の女性が割り込んだ。


長老が『儂のセリフを…』ぐぬぬぬと言った感じで女性を睨んでいる。


「ああ、さっき話した森の奥にある洞窟の中にいたんだが、誰かこの子の事を知っている者はいないか?」

俺はそう言って5人の顔を見渡した。


しかし5人ともお互いの顔を見合わせてから首を左右へと振っていた。


「そうか…それでもう一つ聞きたいんだが森にある石の祠みたいなものを知ってるか?」


「『ほこら』ですか?」

リッケルが不思議そうな顔をした。


あれっ?この世界だと祠って言葉は無いのか?

「いや、まあ祠と言うか石の祭壇みたいな…その洞窟の横にある石で作られたやつなんだが。」


5人はまたも顔を見合わせてからそれぞれに首を傾げた。


「確かに以前その洞窟の事は聞いた事があるが、その石で作られた祠の様なものなどは聞いた事が無いのじゃが…」

長老が皆の意見を代表して答えた。


「何だと!?」

どういう事だ…流石に洞窟は知っていて祠の事を知らないって事はあるのか?


「分かった…もう一つだけ、カシスって男の名前を聞いた事はあるか?」


()()()ですか…いえ…カシ()って男の人なら以前この村にいましたが…」

リッケルがそう答えると、隣の男が、

「ああ、カシズな、あいつは最悪だった。女にふられたからって腹いせで家に火をつけて逃げやがった。」


「そのカシズとかゆう男は金髪か?」


「いや、スキンヘッドで髪は1本も生えてなかったが…ヤツがまた何かしでかしたのか?」


「いや、別人だ…」

スキンヘッドなら完全に違うしな。

まぁ、魔法を使えば変装も出来そうだが今はそれを疑っても仕方がない。


「それで結局その獣人の子は誰なの?」

姉御は興味深そうにエルザを見る。


俺は少し怯えた表情のエルザの頭を撫でながら、

「こいつはエルザだ。」

以上。


「えっ!?」

5人は5人とも『で?』と話の続きを聞きたい様な顔をしていたが、

「以上だ、何か質問はあるか?」


「いやいや、聞きたいことは一杯あるが、その子は一体誰の子なんだ、何で洞窟にいたんだ?」

男は耐えきれず思わずと言った感じで口に出した。


「知らん、と言うかこいつについてもう話すことは無いな。」

俺はポンポンとエルザの頭を優しく叩きながら答えた。

エルザは頬を赤く染めながら俯いている。

耳はピコピコと動いていた。

『猫耳やっぱ可愛いなぁ』


「他に何かあるか?」

皆一様に納得していない表情をしているが俺は超スルーした。猫耳は正義だ、今の俺の台詞も言い換えるなら『他に誰か文句のあるやつはいるか?ああん?』みたいな感じだ。


「あ、あのグレンさん、一ついいですか?」

リッケルが恐る恐ると手を上げた。


「何だ?」


「さっき、かなり大量の魔物を倒したと聞きましたが全部燃やしてしまわれたのですか?」


「そうだ、あそこにいた魔物は全部燃やした。」


「そ、そうですか…」

リッケルはそれを聞いて目を逸らした。


「おい、それじゃ本当にあの魔物たちが死んだのかどうか分からないじゃないか!!」

男が先程の魔物の件同様捲し立てる。

「そうだ!!これで魔物を倒したと言われても証拠が無いじゃないか!」


「別に信じる信じないは好きにしてくれ、ただ最後に一つ言っておく事がある。」

俺はそう言ってからエルザの方を見た。


エルザは俺に見られているのに気付いて目を合わせてから再び俯いて、俺の服の端をちょこんと握っていた。


「何ですかな?」

長老は腕をテーブルの上へと乗せて顔の前で手を組んで聞き返す。


「実はさっき言った石で出来た祠の後ろに木があるんだが、これがどうやら森の状態を見るパラメーター代わりになっているらしい。」


「はっ?」

長老他4人はまたもや何を言われているのか分からず首を傾げた。


「あー、つまりだ、森の木が弱るとその木が枯れるらしいんだ、俺もよくは分からないがどうやら魔物たちは森を守る為に人間たちを森に入れたくなかったらしい。」


「なんじゃと!?」

長老が驚いた様に声を上げた。

事実目を見開いている。


口々に周りの男たちは声を上げようとしたが、

「つまり、森の精霊を守ろうとしていたと言う事なんですね…」

リッケルが如何にも残念だと言った感じで答える。


「ば、馬鹿な!!大体何故そんな事が分かる?そもそも魔物がそう言っていたとでも言うのか!!」

男は腕を組んで反論する。

「そうだ!!馬鹿馬鹿しい!!」

フンと声を荒げ追随する。


『まぁ、普通はそうなるよな』

この話はエルザが魔物の墓を作ってる時に教えてくれた話だ。

にわかには信じがたいが嘘を言っている様にも思えなかった。


「そんな事無い!!」

俺の横から声が上がった。


「あの木には精霊が宿ってる。森の木を人間が切りすぎた性で森が弱って精霊の力も無くなって来ていた。あのままにしてたらきっと枯れてた!!」

俯いていた顔を上げ、これまでに無いほどハッキリと声に出して言った。

「だからママたちは…」

再び消え入りそうな声になり、下へと俯いた。


「なるほどのぅ…」

長老はエルザの話を聞いて何やら思案していた。


「そんなもん信じられるか…」

男がボソッと呟き、それに便乗した男が、

「そうだ!そんなはず…」


「黙ってな!!」

姉御は男たちに向け、ギロリと視線を向けて言い放った。


「こんな女の子が声を張り上げて訴えてるんだ!!確かめもしないで勝手な事言うんじゃないよ!!」


「ふむ、そうじゃな…まずはそれを確かめるべきじゃな」

長老は意を決した様におもむろに立ち上がった。


その後俺とエルザを含めた先程の天幕にいた者たちと数人の村人たちを引き連れて洞窟へと向かった。


洞窟前の広場にはいまだに血の跡と焼けた匂いが残っていた。


「ここですか…」

リッケルは洞窟の側にある石祠を見ながら呟いた。


長老や他の村人たちも初めて目にするそれに驚いている様だった。


石祠を一通り眺めた後、裏手に回り、問題の木を見た。

そこには大きな切り株があり、その上にちょこんと一本の苗木程度の木が生えていた。


「これが…」

長老やリッケルや周りの村人たちはそれをマジマジと眺める。


「しかし、これだけではこの木に精霊が宿っているかなど分かりませんな。」

天幕にいた男の一人がそう声に出すと、横にいた姉御がまたもギロリとその男を睨んだ。


それまで魔物の墓にいたエルザが村人の間からピョコンと出てきて、左手をその切り株の木へと充てた。


すると、パァーと光が浮き上がり、その中から子供の様な大きさの人の姿をした幽霊の様なものが現れた。全身が真っ白で顔はマネキンにも似た形をしており、その表情はハッキリと読み取れないが、不思議と恐いと言ったイメージは湧かない。

どちらかと言えば何か温かさを感じる気がする。


『私を呼んだのは君たちかい?』

その幽霊の様なものは直接頭の中へ話し掛けてきた。


『ちょっ、グレン!!これって!?』


『ああ、多分精霊だろうな…』


村人たちは信じられないかの様にお互いの顔を見回し、改めて精霊を見る。


「そうよ、あたしが呼んだの。」


『おお、エルザかい、久しぶりだね』


「精霊さんは精霊さんだよね。」


『んっ?まあ私はこの森の精霊だがそれがどうかしたのかい?』


皆に聞こえているのだろう、村人は皆、目を見開いて聞いている。


「このまま、森の木を切り続けたら精霊さん枯れちゃうよね。」


『ああ、確かに危なかったね。もう少し止めるのが遅かったなら、ここから私も去らざるを得なかったよ。でも今は漸くここまで持ち直したからね』


エルザは村人たちに振り返り、目で訴えた。


村人たちは愕然としながらその視線を受け入れていた。


それから暫くして精霊は消えて、村人たちは皆一様にショックを受けている様だった。


その後俺たちは洞窟へと入った。

そして中から一体の魔物の死骸が見つかった。

念のため横穴を調べた所、その中からそれが見つかったのだ。

恐らく切り口から見ると最初にレンが仕留め損ねたものだろう。

洞窟へと連れ帰ったが息絶えたと言った所か。


こうしてこの村の森での依頼は幕を閉じた。


村へと戻った俺たちは、長老から村の者たちへ説明があった後、盛大な宴とまではいかないが、この村にとっては豪華なと言える食事が振る舞われた。


皆が集まる中、酒を飲みかわす者もいるがまだ昼前と言う事もあり、それほどどんちゃん騒ぎにはならず少しワイワイと盛り上がる程度の食事が進んだ。

長老はエルザへと深々と頭を下げ、「ありがとう」とお礼を言っていた。

エルザは少し恥ずかしそうにしながら俯いていた。

姉御は既に酒が入っていたらしく天幕にいた男二人を殴り付け、エルザに謝らせてたりもした。


「グレンさん、本当にありがとうございました!!これで村も救われます!!」

今日何度目になるか分からないお礼を述べていた。


「まだ救われたと決まった訳じゃないぞ、問題はむしろこの後だ。もう森を守ってくれていた魔物がいなくなったんだから、これからはお前たちが森をどう守っていくかにかかってるんだからな。」

俺は果実水を口にしてそうリッケルに告げた。


リッケルは一度口を横に結んでその言葉を噛み締める様にしてから、

「はい!!」

と大きく返事をした。













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