第52話 『氷円丸』
ちょっと短いですが区切り的な事となるべく早めの投稿です。
第52話
『氷円丸』
「コイツをお前に譲ってやってもいいがどうする?」
ロンデルは口元を片方上げて、ニヤリと言った様子で、俺の目の前にその剣をズイっと差し出してきた。
ロンデルの手に握られたソレは薄い光沢のある水色の鞘で、見るからに刀の様な緩やかな曲線を描いていた。
俺の持つ炎月刀の鞘は赤だが、よく見ると持ち手の柄の装飾も似ている気がする。
「どうするって言われてもな…その刀は…」
俺の中の予想が正しければそうなんだろうが…
「試してみるか?」
ロンデルは刀をグイッと俺の胸元に当てた。
俺はその刀を受け取った瞬間、直感した。
『やっぱりコイツは…』
予想が当たっていた事を確信するために抜いてみた。
スラリと抜かれ現れたその刀身は、冷たい冷気を漂わせている様に感じる。
「こいつも魔法剣だな、しかも炎月刀と同じヤツが作ったのか?」
「ほう、やっぱり分かるか。そうだソイツの名前は『氷円丸』だ。」
ロンデルは腕を組んで自慢気にそう答えた。
「氷円丸…」
『やっぱりか…』俺はその刀身を見ながら呟いた。
「試しに少しだけ魔力を注いでみろ、あっ!!ただしちゃんと加減はしろよ!!」
言った瞬間ロンデルは少しだけ焦っていた。
「ああ、分かってるよ。」
そう言ってから俺は刀に魔力を注いでみた。
すると、その刀身は魔力に呼応するかの様に冷気を強めていった。
炎月刀との違いは炎の様に水が吹き出るのではなく、冷気を放っている点だが、恐らくこれは更に魔力を込めれば…
「これ以上はここでは危ないな…」
俺はそこで一旦魔力を切った。
刀身はそれに連動して冷気をおさめた。
「す、凄いですね…」
リルルはまじまじと俺の持つ刀を見ていた。
「ちゃんと使えるみたいだな、それでどうする?」
ロンデルは再度この刀についてどうするか俺に聞いてきた。
「いくら何だ?」
俺はこの刀を欲しいとは思ったが、一応値段を聞いてみた。
「いくらなら払う?」
ロンデルは腕を組んだまま聞き返す。
「そうだな、正直欲しいんだが俺の予想じゃ相当高そうだからな…無理なら諦めるさ。」
さっきからのロンデルの物言いからしてかなりの金額だと思われた…残念だが仕方が無い。
「グレン、お前に一つ質問したい。」
ロンデルは目を閉じて俺に問うた。
「またかよ、…何だ?」
「お前にとって大事なものとは何だ?金か?それとも地位や名声か?」
『どうゆう事だ?』相変わらず質問の意図が読めなかったが、
「まあ、勿論金は大事だが…今の俺にとっては地位とか名声よりも、この身体と俺が大事だと思う人たちだな。」
俺は自分の胸をポンと一回叩き、刀を鞘へと納めた。
「そうか……気に入った!!」
ロンデルは目を見開き俺に言った。
「その刀はお前にくれてやる。代金はいらねえ、ただし粗末に扱うんじゃねえぞ!!」
「ーーー!?」
「いいの…か?」
何か知らんが、俺にとっては願ったり叶ったりだが…
「ドワーフに二言はねえ!!持ってけグレン坊!!」
フンとふんぞり返って答えた。
『持ってけドロボー』みたいな言い方に聞こえるな。
『うわぁ、良かったねグレン』
レンは純粋に喜んでいる。
『いや、気前良すぎだろ、タダより高いものは無いってゆうしな…』
「じゃあ、その有り難く貰っておくが…やっぱりタダってのは気が引けるから少しだけでも払わせてくれないか?」
「ああん!?俺の刀が受け取れねぇってのか?」
「いや、そうじゃないが、本当にいいのか?」
もうこのまま貰って、はい終わりにしても良かったのだがやはり気が引けるからなぁ…
「やれやれ、お前思ったより疑り深いんだな…仕方がねえ、ならそこの嬢ちゃんに武器を買ってやんな。勿論この店でだ。」
ニヤリと悪役っポイ笑みを浮かべた。
「…分かった、有難う、そうさせてもらうよ。」
俺は目を閉じ、そう答えた。
この後、先程ロンデルが入って行った扉の中に置いてあった剣を何本か見せてもらった。
扉の中は武器庫になっているらしく、気に入った客にしか見せないのだという。
その中のリルルが気に入った1本を俺が買った。
リルルはしきりに自分が払いますと言っていたが、それだと俺が刀を受け取れなくなるからと制した。
リルルに買った剣は魔法剣では無いが、やはりそれなりにいい剣だったらしく、結構な値段はしたが、この刀の事を考えればいい買い物だったと思う。
お陰で俺の財布の余裕は無くなってしまったが…
「本当にいいんですか?」
リルルは何回目かの確認をしてくる。
「ああ、その剣でしっかりとミスティを守ってくれよ。」
「はい!必ずやお守り致します!!」
リルルは胸に手を当てて宣誓した。
それから俺たちは上へと戻り、ロンデルと少し話をしてから店を出た。
最後にロンデルが「グレン、その刀の使い方、間違えるんじゃねえぞ!」と念を押すように告げた。
「ああ、分かってるよ。」と俺は手を上げそれに返した。
因みにデルタも俺たちが上に上がって来た時にやって来て、「お買い上げありがとうごじゃいまちたでちゅ」と言ってきたのでロンデルは『デルタちゃんマジ天使』とデレデレしてたのでやっぱりキモかった。
あと、余談だが店がピンクだったのはデルタが『ピンクがいい』と言ったから塗り替えたとの事だった…
俺とリルルはその後宿へと戻り、合流したミスティと共に飯を食ってから部屋へと入った。
スーはなんだかグッタリとしていたが、気にする事なく放っておいた。
『もう風呂はこりごりだわさ』とか喚いてた気もするがスルーだ。
そして俺とレンはいつもの脳内会議を終え、眠りへとついたのだった。
翌日、
俺とレンはミスティとリルルと食事を取り、宿を出た。
スーはまだ篭の中で眠っていたのでそのままにしておいた。いざとなったら飛んで来るだろうから問題ないだろう。
魔力もミスティがいれば余程の事が無い限りは大丈夫だと思うし。
大通りを歩きながら俺はリッケルとの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所は門の場所にしていた。
「待たせたか?」
俺が門へと着くとその脇に既に馬を引いたリッケルがいた。
「いえ!僕も今さっき来たところです。」
リッケルはブンブンと首を左右に振ってから、何だかとっても安心した表情をしていた。
「そうか、それじゃ行くか。」
リッケルは頭を下げつつ、
「は、はい!宜しくお願いします!!」
門番の者に念の為に1日分の延滞金を払っておいた。もし戻るのが遅れた時の事を考えて3人分を。
そして今俺たちは町の外へと出ている。
「えっ!?これ何ですか!?」
リッケルは俺から説明されて戸惑っていた。
俺は馬には乗らないからコレを腰に巻いてくれとリッケルにロープを渡したのだ。
「とりあえずそれを腰にしっかりと巻き付けてから馬に乗ってくれればいいから。宜しくな。」
「どういう事か分かりませんが…」
リッケルは困惑しながらも言われた通りロープを自分の腰に巻き始めた。
「あと、ちゃんとロープの端で結んで反対側は余らせる様にしてくれ。」
「こんな感じですか?」
リッケルは指定通り腰にロープを巻き、馬へと跨がった。
俺はリッケルの腰に巻かれたロープを握り、
「よし、それじゃ村へ行ってくれ。」
「えっ!?だってこれじゃあ!?」
リッケルは当然意味が分からずオロオロしている。
「いいから進んでみてくれれば分かる。」
『重力制御魔法起動』
俺は少しだけ体を浮かせた。
地上数十センチと言った所だ。
「わ、分かりました…」
リッケルは半信半疑ながらも馬を走らせた。
「う、うわぁ!!」
リッケルは自分の後ろを振り返って驚いている。
そこにはロープを持ってついてくる俺の姿があった。
引っ張られているが、引きずられているのでは無く、空中を飛んでいるのだ。
「おい、リッケル!前をちゃんと見て走らせろ!!」
「は、はい!!分かりました!!」
慌てて前を見て馬を走らせる。
「で、でも本当に大丈夫なんですか!?」
リッケルは前を見つつ叫んでいる。
「ああ、大丈夫だ!!ただ止まる時とかは一声かけてくれると助かる!」
「わ、分かりました!!」
『う、うわあああ!!』
レンは驚いていた。
『大丈夫だレン、落ち着け』
『いや、だって、昨日言ってたのだとこんなに怖いと思ってなくて!』
昨日レンに、
『馬が無くても平気なの?』
『僕飛んでくのは好きじゃないんだけど』
と言われたので、
『ああ、大丈夫だ任せろ』
『馬に引っ張っててもらうだけだから楽チンだぞ』
と言っておいたのだ。
要は高いところが苦手なレンでもこれなら大丈夫だろうと考えた結果だ。
気分的にはジェットスキーみたいな感じを予想していたがレン的にはジェットコースターに近いのかもしれない。
重力魔法のお陰でリッケルや馬にも負担は無いし、ある程度はロープを握る長さで調整しているので高低差も問題なく行けるはずだった。
ある程度馬を走らせ、休憩を取る頃には大体の要領は掴んでいた。
「す、凄かったです!!あんな事が出来るんですね!!」
馬から降りたリッケルは驚きを顕顕にしていた。
しかしレンは…
『ねえグレン…』
『何だ?』
『これって別にロープで引っ張ってもらうんじゃなくて、普通にリッケルの腰に掴まっててもいいんじゃないの?』
『…そこに気付くとは成長したなレン』
『…………ぐぅれぇんぅ!』
『だって、それじゃ…カッコ悪いだろ』
所々で休憩を取りつつも、馬を飛ばす事半日程。
既に日は落ちかけた頃、俺たちはようやく目的の村、『エナンテ』の村のすぐ近くへとやって来た。
「あそこです!!」
リッケルは馬を走らせながら俺へと話し掛ける。
「よし、それじゃ一旦止まってくれ。」
俺は結局、超低空飛行で飛んで来ていた。
一応はロープを握りながらだが、引っ張ってもらっていると止まる際にブレーキをかけるタイミングが難しかったからだ。
では何故ロープを握っているのか?
平たく言えばカモフラージュで、道行く人たちに指を指されたり驚いたりされていたが、原理はどうあれ、見た目的には馬に引っ張られてる様に見えるだろうと思ってだ。
実際馬に引っ張られてもああはならないだろうと思うかもしれないが、そのまま飛ぶよりはマシだろうと…
「あそこか…」
「はい、あの村の奥にある森に魔物がいます。」
俺たちは村の入り口へと向かった。




