第51話 『新たな武器』
会話文多目です。
第51話
『新たな武器』
「誰だ‼」
俺はその声がした方向に振り返ると、そこには厳つい顔をした髭もじゃの男が立っていた。
体型はずんぐりむっくりな、良く言えば背は低いがガッチリとした体に短い足…
『こいつはまさか…』
「おい、お前そこで何をしてやがるんだ!!」
男はズカズカと俺を睨みながら店の中へと入って来た。
「あんた、ドワーフか?」
俺は剣を手にしたまま少し呆気に取られてしまっていた。
「ああん!?お前何を言ってやがる!!俺の家で何をしてるのか聞いてるんだ!!」
男はねめ上げるようにしながら顔を近付けてきた。
「あっ、すみません!!私たち、この店に武器を見に来たんです!!」
リルルが間に入って説明する。
「あん!?…」
男はおもむろに俺から視線を反らして、リルルを見てから、暫く…
「………なんだ客か…」
男はさっきの勢いは何処へやら急に落ち着いたみたいだ。
男は『フンッ』と俺たちを一瞥してからそのまま何も言わずに入口へと向かい、
「デルタちゃん、もう大丈夫でちゅから入ってきにゃちゃい。」
気色悪い幼児言葉を使って扉の外に話し掛けていた。
すると、男の脇からトコトコと小さな女の子が現れた。
赤髪を両方で小さく結んだ可愛い女の子だ。
その女の子は俺と目が合うと、ペコリとお辞儀して、
「いらっちゃいませ。」
と挨拶をしてくれた。
「デルタちゃんえらいでちゅねぇ。」
男は先程までの厳つい表情から一変し、目元は垂れ下がり、口元は緩み、これでもかといった程に顔を砕けさせている。デレデレと言う言葉がピッタリな表情だ。
正直ちょっと、いやかなりキモかった。
「もう、パパだめでちゅよ!お客さんをこわがらせちゃ!」
頬を膨らませてアピールしている。
「ごめんねデルタちゃん。パパ鍵閉めたと思ってたから間違えちゃったんだ。」
男は右手を自分の頭の上にのせ、テヘペロみたいな仕草をしている。
いや、やっぱキモいな…
俺はその光景を見て『なるほど相当な親バカっぷりだな』としみじみ思っていた。
男はグリンと、急にこちらを向いて、またもや厳つい顔に戻してから、
「おい、お前ら!!デルタちゃんが挨拶してやったんだから、大人しく見て行けよ!!」
「プッ…ああ、ところで武器はここにあるのしか無いのか?」
表情の変化に思わず笑いそうになってしまったが、俺はここにある武器以外には無いのか気になったので聞いてみた。
「あん!?お前らそこにある武器で満足出来ねぇってのか?」
男は怪訝な表情を浮かべた。
「リルル、お前どれか気に入ったものあるか?」
俺は横で剣を見ていたリルルに聞いてみた。
「そうですね…もし他にもあるのなら見せて頂きたいですが…」
リルルは立て掛けてある剣にも目をやってから答えた。
俺は元々武器にそこまで詳しくは無いが、俺の今持っている刀よりも良いと思えるものは無かったのだ。
「パパぁ、奥にあるのも見せてあげればぁ?」
女の子はクイクイと男の服の袖をつまんで引っ張りながら言っている。
「デルタちゃんやさしいんでちゅねぇ、でもパパはお仕事だからちょっとコイツら…この人たちとお話があるからちょこっとだけ奥で待っててくれるかなぁ?」
男は女の子の頭をいい子いい子と撫でている。
「えー」
女の子は不服気味だ。
「あっ!、そう言えば台所の棚に美味しいお菓子を用意してあるから食べてもいいよ。」
思わず気付いたみたいなリアクションで女の子に告げた。
「うーん…分かった!パパお仕事がんばってねぇ。」
パタパタパタと女の子は奥へと走って行った。
それを男はちょっとキモい笑顔で見送ってから、
「おいお前ら、今使ってる武器はあるのか?それともぶっ壊しちまったか?まさか初めて買うのに文句つけてんじゃねえだろうな。」
「いや、俺は一応持ってるが、彼女のは壊れちまってな。いい武器が無いか探しに来たんだ。」
ここにある武器は今リルルが持ってる短剣よりはマシかもしれないが、折角ならいい武器も見てみたいしな。
まぁ、実際買うかどうかは値段次第だが…
「ほう、なら坊主、試しにその武器見せてみろ。」
男は俺の腰に視線を向けた。
俺は武器をすんなり渡すほど愚かでは無いが、感覚的にこいつなら大丈夫そうな気がした。
「その前に確認したいんだが、あんたの名前と種族を聞いていいか?」
「あん!?何でそんな事が気になる?」
男は眉を寄せた。
「いや、武器を見せるなら相手の素性が分かった上でというのが俺の中の決まりでな。」
まぁ勿論今作った決まりだが。
「………」
それを聞いた男は一瞬黙りこんだが、一息間を置いてから…
「がっはっはっ!!生意気抜かしやがって!…だがその心掛けは最もだ!!」
少し笑みを浮かべながら、
「儂の名はロンデル、この店の主人の鍛冶師だ。種族は見ての通りドワーフだ。」
「分かった。」
俺はそう答えてから腰の刀をその鞘ごとロンデルに渡した。
それを手に受け取った瞬間、ロンデルは眉をピクリと動かし何か違和感でも感じたのか怪訝な表情をした。
「おい、こいつはまさか…」
そう言った後ロンデルは刀の柄に手をやり、その刀身を抜き放った。
スーと抜き放たれた刀身を見たロンデルは…
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべていた。
「お、おい!坊主!!この刀を何処で手にいれたんだ!!」
ロンデルは信じられないと言った感じで俺を見た。
「ああ、その刀は俺が村を出る時に餞別がわりに貰ったものだ。」
「ば、馬鹿言え!お前この刀の事を知っているのか!?」
ロンデルはジロジロと俺に疑いの目を向けていた。
「んっ!?名は『炎月刀』で魔力を注ぐと炎が宿る魔法剣のはずだが?相当凄いものなのか?」
「や、やっぱりか!!」
ロンデルは改めて刀を見やる。
「お前この武器を誰が作ったのか知っているか?」
「いや、俺の父親みたいな人から貰ったもので、昔仲間が使っていたって聞いたな。」
「父親がわりだと?その男の名はなんて言うんだ?」
「ドランクだ。」
「ドランクだと!お前ドランクの息子なのか!?」
「いや、実の子じゃないけどな。」
「な、なるほど…そうか…ドランクが…」
「あんたドランクの事知ってるのか?」
「んっ!?ああ、ドランクとは昔馴染みでな、そうか、そうか…」
何やらロンデルは納得している様だった。
「それで結局その刀がどうかしたのか?」
「いや、この刀をドランクがお前に渡したんならいいんだ。…だが一つだけ聞いておくぞ。」
勿体ぶる様にロンデルは尋ねた。
「なんだ?」
「お前、本当にドランクからこの刀を渡された時に他には聞いていないんだな?」
何の事か意味がよく分からなかったが、
「ああ、名前と使い方くらいしか聞いてないな。」
「そうか、分かった。坊主、名前は何て言う?」
「えっ?炎月刀だろ?」
「違う!お前の名前を聞いてるんだ!!」
「ああ、グレンだが…」
俺は思わず咄嗟の事で頭が回らなかったが、ドランクの知り合いだったら『レン』と名乗るべきだったかもしれないとちょっと後悔していた。
変に勘ぐられるのもマズイしな…
「そうか、グレン…か…」
ふむ、と一つ頷いてからロンデルは、
「グレン、お前に見せたいものがあるが、それを見せる前にもう一つ確認したい事があるんだがいいか?」
「またか?今度は何を確認するんだ?そんなに一々確認しなきゃならないのか?」
正直疑われてるなら変な事にならない内に店を出たいんだが…
「ちょっと剣の腕というか、お前の力を見てみたいんだ。」
「何故だ?」
「お前さんがこの武器に似合う実力があるかどうかを見てみてから判断したいんだ。」
「……分かった、だがどうやって見せればいいんだ?」
「なあに、簡単だ。この刀に魔力を注いでくれればいい、それと出来れば思いっきりな。」
「まぁ、それでいいならいいけど…ここでやるのか?」
ぶっちゃけ全力で魔力を注いだ事は無いからどの程度の炎が出るか分からないが、少なくともこの中でやると火事になりかねない。
特に木で出来た建物でやるのは自殺行為に等しい様な気がした。
「と言う事はコレを使えるんだな?」
「ああ、使えるが他のやつが使ってるのは見たことないからどの程度使えてるのかは分からないがな。」
「そうか…ならこっちに来い。」
ロンデルは刀を俺へと返し、視線で付いてこいと言った。
「すまんなリルル、何か面倒な事になっちまって。」
「い、いえ、グレン殿が気にする必要は無いです。わたしもグレン殿のお力には興味がありますし…」
俺とリルルはそのままロンデルの後に付いていき、カウンターまで行った。
ロンデルはカウンターの横に見える扉を開けた。
そこには部屋というか、個室トイレくらいの広さしかなく、3人は入れそうに無い。
ロンデルは地面にある蓋のようなものを開けた。
するとそこには地下へと続く梯子の様なものがあった。
若干もわっとした熱気の様なものが吹き出た気がした。
「付いて来い。」
と言ってロンデルがその梯子を降りて行く。
俺とリルルもそれに従って梯子を降りていった。
梯子を降りた先はうっすらと光が見える程度でそれほど明るくは無いが何か暖生かい空気が立ち込めている。
更に人が一人通れる程の通路があり、そのすぐ先に扉が見える。
そこを開けると中から結構な熱気が感じられる。
そこは鍛冶場だった。
部屋の奥にうっすらと燃える炎が見える。
釜と言うか暖炉の様なものがあり、明るさ自体はそれほどでもないが熱気は大したものだ。
ロンデルは中に入ると扉の横に置かれたバケツの様なものを拾い上げ、中の水をそのすぐ横にあった穴へと入れた。
すると…
ジュワーと言う音と共に、一気に部屋全体が明るくなった。
「それは何なんだ!?」
どうゆう原理なのか気になったので聞いてみた。
ロンデル曰く、部屋の周りに『蛍石』と言う鉱石が埋めてあるらしく水をかける事によって光を発するのだそうだ。
リルルも蛍石は知っていたらしく、俺ほどは驚いてはいなかったが、蛍石は結構貴重らしいのでその事に驚いてはいた様だ。
部屋を見ると結構な広さがあった。
上の店のスペースよりもかなり大きい気がする。
更に奥にはもう一つ扉も見える。
「地下にこんなスペースがあるなんてな、武器屋ってのはみんなこんな感じなのか?」
「いや、普通はないだろうな。」
ロンデルはニヤリと口角を吊り上げた。
「さて、ここならいくら炎が上がっても大丈夫だぞ。」
「換気とか大丈夫なのか?」
素朴な疑問だが重要だ。
特に地下なんて所では殊更だ。
「換気?空気の事を心配しているのか?」
「まぁ元々鍛冶場なんだから、そこまでは心配してないが一応な。」
「安心しろ、この部屋は風の精霊の加護が効いているから心配するな。」
ロンデルは腕を組みながら自信満々に言い切った。
「そうか、分かった。」
本当はあまりよく分からないが、確かに空気の流れも感じるし、密閉空間ではない様だな。
「んじゃまあ、やってみるからちょっと離れていてくれないか。」
俺はそう言ってから刀を抜く。
リルルとロンデルはそれを聞き、少し俺から距離を取った。
それを見てから俺は刀へと魔力を込めた。
これまで込めたのは段階的に少しずつかほんの一瞬込めてみただけだったが、今度は一気に頭の中で『燃えろ!』と念じてより強く魔力を込めた。
ただ万が一を考えて全力では無い…
だが次の瞬間、刀が即座に真っ赤に染まった直後、その刀身から吹き出た炎は一直線に天井に燃え上がり、その炎は天井一面に広がった。
「うぉおおお!!」
「きゃっ!!」
『うわぁ!!』
三人がそれぞれ驚きの声を上げる。
「しゃがめ!!」
俺は思わず叫んだ。
ヤバイ!!と思いすぐに俺は魔力を止めた。
すると刀の炎はすぐに消えたが、辺り一面焦げ臭くなってしまった。
しかも天井が焼け焦げて黒ずんでおり、刀の直上の部分は大きく抉られていて凹んでいる。
「すまん、大丈夫か?」
俺はしまったと思いつつ二人に声を掛ける。
「わ、私は大丈夫です。」
リルルが少し身を屈めた状態でそれに応じる。
ロンデルはと言うと、まるで信じられないものを見たかのような表情で唖然としていた。
俺は今ので一つ分かった事がある。
この刀から出た炎は何故か俺にはそれほど熱さは感じられなかった。見た目は派手だったが火傷はしていないし髪も焦げてはいない。
一応熱は感じたがそれだけだ。
勿論天井が焼かれて臭いは感じているがそれだけだ。
つまりこの炎には指向性を与えれば俺自身には影響がないのか?…便利だな。
しかも魔力を切って『消えろ』と念じたらすぐに消えたし…
「それで、今ので良かったのか?まだ慣れてなくてな、制御に少し戸惑ったが、次はもっと上手くやるが…」
「い、いや!充分だ!!」
ロンデルは驚きから少し脱して手を顔の前に出す。
「そうか。」
俺は『今度は外でもっと練習するか』と思いつつ刀を鞘へと納めた。
「お前さんにドランクが刀を預けたのは分かった…だがその刀の使い方を間違えるなよ。」
ロンデルは何かに納得した後、表情を引き締めた。
「ああ、分かった。次からは気を付ける。」
「いや、そう言うことじゃない。」
ロンデルは一度首を左右に振ってから、
「グレン、お前さんにとってその刀はなんだ?」
「はっ?」
ロンデルが言ってる意味がよく理解出来なかった。
「だから、お前さんはその刀を使って何をしたいか
聞いてるんだ。」
「うーん、あんたがどんな答えを望んでるかは知らないが、俺にとってこの刀は身を守るための武器だ。自分にとって守りたいものの為ならば振るうのを躊躇いはしないだろう。」
俺にとってこの刀は武器だ、当然敵を葬むる為に使うのだが、今のところ手当たり次第に切って捨てるつもりはない。
だが敵対する者や戦うべき相手だと判断した時は躊躇う事なく、使うだろう。
ましてや俺にとって大事なものや大事な事を傷つけるならば容赦はしない。
「そうか、守るための武器か…」
ロンデルは一度目を閉じ、何かを決意した様に、
「分かった!グレン、ちょっと待ってろ!!」
そう言ってロンデルは踵を返して奥の扉へと向かった。
奥の扉に入ってから、出てきたロンデルの手には一本の剣が握られていた。




