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第49話 『エンリの姐さん』

第49話


『エンリの姐さん』



俺はリッケルの依頼を引き受ける事にした。

理由としては、一つに村の場所がここから近くである事。

一つにかなり切羽詰まっている状況である事。

最後にリッケルが誠実であった事が伺えたからだ。


印象は勿論だが、何より『あなたを信じます!』なんて答えた場合には、残念だが受ける気は無かった。

そんな上っ面の信頼を抱かれても困るというものだ。

ある意味でこちらも依頼人を信用するかの判断だったのだが、俺的には合格と判断したのだ。


「あ、ありがとうございます‼」

リッケルは頭を上げると、その緊張して強張った表情を和らげ、今は泣き笑いの様な顔をしていた。


「それじゃ、まずはギルドにも一応話を通しておくか。」

そう言って俺は手にした果実水を飲み干した。


「は、はい!宜しくお願い致します‼」

リッケルは心底ホッとしたという表情をした後、改めて頭を下げた。


俺たちは酒場の支払いを終え、カウンターへと向かった。

カウンターは既に幾つか空いている個所が見えるので待つ必要はなさそうだ。


俺はどこにしようかと思ったが、リッケルが先導して声を掛けた。


「すみません!先程、依頼確認をした者なんですが…」


どうやらリッケルは既に先程対応してもらった受付嬢がいたみたいで、話を通しやすいと思って声を掛けたみたいだ。

よく見るとこの受付嬢、俺が登録した時の受け付け嬢だった。


受付嬢は書類の処理をしていた様で声を掛けられ、一度顔を上げてから、

「ああ、リッケル様ですね…残念ですがまだご依頼を受けてくれる冒険者は見つかっておりません…」


「あっ!いえ、その、実は、こ…こちらの方に依頼しようと思いまして…」

リッケルはしどろもどろになりながら俺の顔を見ている。


そう言えばまだ名前も言ってなかったな。

「グレンだ。」


「ぐ、グレンさんにお願いする事になったので…」

リッケルは再び受付嬢に向き直り、俺を手で示した。


「はっ?…えーとそのですね、確かこちらの方は今日冒険者になられたばかりの方だと記憶しておりますが…」

受付嬢は思わずあっけにとられた表情を浮かべた後、困った様な顔をしていた。


「いえ、その指名依頼の形にしたいんですが…」


受付嬢は少し考え込むような仕草を見せてから、

「はぁ、残念ですがそうなりますと、グレンさんのランクでは当ギルドの規定上、こちらの依頼をお勧めする事は出来ませんので…取り下げという事で宜しいでしょうか?」

受付嬢はやれやれといった感じで営業スマイルも忘れて事務的な対応をした。


「そうですか…」

リッケルは予想していた事とは言え落胆した表情を見せた。


「一応、取り下げの場合には依頼料の2割を頂く事になります。また、再度同じ依頼をする場合にも同様の手順が必要となりますが宜しいでしょうか?」

受付嬢は念を押すように告げた。


「リッケルが個人的に俺に依頼する場合でも依頼料を2割取るのか?」

俺は別にギルドに承認されなくても依頼を受けるつもりだったが、受付嬢の対応にちょっと腹が立った。


「ええ、規則ですので。」

受付嬢は全くひるむ事なくそう答えた。


流石は普段から冒険者を相手にしているだけあって堂に入った態度だな。

「そうか…リッケルはそれで構わないのか?」


「ぼ、僕はその、構いません!で、でもグレンさんはギルドに関係なく依頼を受けてもいいんですか?」


「ああ、さっきも言った通り、俺はそれでも構わないぞ。」

正直一応ギルドに話を通しただけであり、結果、ランクアップに関係しなくても問題は無い。


受付嬢は俺とリッケルのやり取りを見てから、

「グレンさん、一応ご忠告までに宜しいでしょうか?」


「何だ?」


「今後ランクアップ前にこういった形で仕事を受けていく事が増えますと、以降の昇格に影響する事を覚えておいて下さい。」


「どうゆう事だ?」


「当ギルドに来た依頼を当ギルドを通さずにこなしていく場合には、その後の査定に大きく関わって行くという事です。」


『なるほどな』

つまりギルドに来た依頼を横からかっさらわれる形だし、ギルドとしての存在意義が問われる訳か。

更に実績があればともかく、ランクも最低の俺が高ランク依頼をこなして行けばランク制度の意味合いも薄れる事になるわけだしな…

偽造依頼の件を疑っていたが、それならばギルドとしては仮にそれを容認しても依頼料は貰えるし、どちらかと言えばこっちの方が信用に関わるのかもしれないな。


「普通に依頼を取り下げにして個人的な頼みとして受ければ問題ないのか?」


受付嬢は首を振り、

「それならば、もはや冒険者としての仕事ではなく只の人助けとして問題ないとお考えでしょうが、残念ながら今回の件はギルドの管轄下における依頼となっておりますので、本来ならば取り下げの際にも調査が必要となります。ですので解決するにしてもギルドが達成した事を確認する必要があったのでグレンさんが個人的に受けたいと言うのであれば、冒険者になっていない時ならば問題はありません。」

言い終えた後、

「あと補足としてですが、冒険者を一度除籍すると再度申請するのにそれなりの審査期間が必要となりますので予めご了承下さい。」


『依頼書に書かれていたギルド管轄下の事か』

色々と面倒臭いんだな…これじゃまるでお役所仕事を民間に依頼する場合に制限がかかるといった感じだな。


「ぐ、グレンさんすみません…僕の依頼の性で…」

リッケルは受け付け嬢の話を聞き、顔を俯かせ申し訳なさそうにしていた。


「仕方ないさ、ギルドも体裁を取り繕うのに大変なんだろうからさ。」

俺はもうギルドを通す意味合いを感じていなかったので、今はそれよりもリッケルをなぐさめる事を優先した。


しかしそれを聞いた受付嬢は、

「グレンさん、ギルドを中傷する様な発言はお控え下さい。」


「ああ、悪かったな」

俺は特に悪びれる事無くそう返した。

別に受付嬢に喧嘩を売っている訳ではないが、特にギルドに対して気を遣う必要を感じていなかったからだ。


思わずその場に剣呑な空気が流れた…


「ちょっといいかしら。」


そこへ、受付嬢の横から声が聞こえた。


見ると、そこには薄紫色のロングの髪をなびかせ眼鏡を掛けた綺麗なと表現して充分差しさわりの無い、理知的な顔立ちをした女性が立っていた。

青色の服の胸元は若干開けており、大人の女の色気を漂わせていた。


そうエンリだ。


エンリは眼鏡を一度クイッとしてから、

「スージー、あなた仕事だから事務的な対応になるのも分かるけど、もっと愛想よくした方がいいわよ。それじゃいい相手も見つからないんだからね。」


「エ、エンリさん!ここでそんな事言わないで下さいよ‼私だって好きで独身やってるわけじゃないんですから‼…あっ⁉」

思わず本音が出てしまったらしく、受付嬢ことスージーは顔を真っ赤にしながら自らの口を手で押さえた。


「それで、グレン君はこの依頼を受けるのね?」

エンリはカウンターに手を付いて、スージーの横から前かがみにして俺を見た。


思わず開いた胸元へと視線を向けそうになってしまったが、辛うじてエンリの目へと視線を向け、

「ああ、そのつもりだ。」


「分かったわ、それじゃこの件はグレン君に任せるわ。ああ、それとこれはギルドとしてあなたにお願いするつもりだから、ちゃんと依頼を達成したら報告に来てもらえるかしら。」

エンリはニッコリと微笑んで俺にそう告げた。


「ちょ、ちょっとエンリさん⁉」

スージーは横にいるエンリに向け抗議する。


「私の方からギルマスには伝えておくから心配しないで、それにグレン君の力もさっきちょっとだけだけど見せてもらったしね。」

エンリはスージーに向けて左目を一度ウィンクさせた。


『どうやらさっきの入口の件を見ていたみたいだな、そう言えばあのモヒカンもエンリの姐さんに免じてとか言ってたし、エンリって意外と上役なのかもしれないな…』


「それはまぁ、俺としては有り難いがいいのか?」


「ええ、ギルマスに報告はしておくけど多分大丈夫だと思うわ。それと悪いんだけど討伐した場合には、出来れば魔物の遺体を持ってきてもらえるかしら。どんな魔物かによるけど討伐部位が確定していないからお願いしたいのだけど。」


俺は少し考えてから、

「ああ、分かった。報告ってのはこの町じゃないとマズいのか?」

俺は一応確認の為聞いてみた。


「ええ、今回の件は特殊な場合ケースだからこのギルドへ直接報告に来てもらいたいのだけど何か問題があるかしら?」

エンリは首を傾げた。


「いや、別に問題ないが一応聞いてみただけだ。」

俺としてはいち早く解決するつもりだが、そのまま南方へ進んだ方が進行上でも都合がいいかもと思っただけなのだ。


その後俺は、ギルドカードを提出し、依頼を受ける事になった。

その際、一応エンリがギルマスに確認しに行ったのだが、直ぐに戻って来て『OKよ』と言ってから処理を進めてくれた。

スージーはやれやれと言った感じだが、これも仕事として割り切って対応してくれていた。


かくして俺は依頼を受けるべく、リッケルと相談し、明日の朝、村へと出発する事になった。

尚、馬は必要ならギルドから貸出すると言われたが断った。

理由はこちらでアテがあるからと伝えたが、俺としてはいざとなったら戻ってくるのに飛んで来ようかと思っていたからだ。


最後にエンリから『期待してるわよ』とウィンクされた時にはちょっとドキッとしてしまった。

綺麗なお姉さんは好きですか?ええ大好きです。


リッケルとはギルドの入口で別れた。


幸いにしてギルドの入口には既に先程の人だかりも無くなっており、周りの人々も平常通りといった感じだった。

モヒカンやその弟の姿も見えず、特に変わった形跡も無かった。

恐らくこの様な事は日常茶飯事なのかもしれないなと俺は思う事にした。


大分遅くなったが、まだ時間はあったので、それから少し町を探索しようと通りを歩いていた。


探索中、昨日行った唐揚げのお店に寄ったら、

『うまうまだわさぁ!』

と羽をぶわっさぶわっさとしながらキュイキュイ鳴きながら唐揚げをむさぼる変な鳥を発見したので、直ぐにミスティたちとも合流出来た。

別に待ち合わせをしていた訳では無く偶々(たまたま)だ。


そして今俺たちは、とりあえず近くにあった広場に面した店へと入り、お茶をしている。

俺は遅い昼食を、ミスティとリルルは既に食事を終えていたので飲み物を飲んでいる。

スーも唐揚げを大量に食べた後で、今は籠の中で丸まって寝ている。


「へぇーそうなんだ」

ミスティは俺のギルドカードを見ながら頷いている。


「ああ、血を垂らすと本人確認が出来るみたいで身分証にもなるらしい。」


「じゃあ、その講習を受けるだけで冒険者になれるんだったら私もなった方がいいのかなぁ。」

唇の下に人差し指をあてながら、考える様な素振りだ。


「ミスティ様は危険な事はなさらないで下さい!」

どうかお願いしますと言った形でリルルがその考えを遮った。


「まあ、なったとしても無理に依頼を受けなければいいんだし、それほど問題ないとは思うけどな。」

俺はウィンナーを口に詰め込みながら答えた。


「グレン殿までそんな…」


「だがまあ、ミスティがなりたいんなら俺は止めないけどレンとしてはな…」


『なぁ、レン』


『なあに?』


『ミスティが冒険者になる事に賛成か?』


『うーん、薬草の採取とかなら出来るかもしれないけど正直あんまりなってほしくはないかな…』


『何でだ?』


『だって、今日みたいに変な人達に絡まれる場合もあるかもしれないじゃないか…それにミスティはその…可愛いし…』


俺とレンが頭の中で会話してる最中、ミスティは続きが気になったのか、

「ね、ねえ、レンとしては…ってどうゆう事?」


「ああ、ミスティは()()()()()変な奴等に絡まれない様に冒険者にはあまりなって欲しくないらしいな。」


『「えっ!?」』


ミスティは一瞬戸惑いながらも顔をボンっと言った感じで真っ赤にしている。


『ぐ、グレン何で言っちゃうんだよ!!』

レンも大分焦っていた。

多分ミスティ同様顔を赤くしている事だろう。


「ま、まぁ、レン殿もそう仰っている事ですし、その話は一先ず終わりにして…」

リルルは渡りに舟とこの話を中断した。


「グレン殿は何か依頼を受けられるんでしょうか?」


「ああ、その事なんだが、実はな…」


そして俺はリッケルとの一件を二人に話した。



















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