第48話 『はじめての依頼』
少し多忙につき若干更新が遅れるかもしれません(汗)
出来る限り頑張ります(>_<)
第48話
『はじめての依頼』
「分かってくれたみたいで何よりだ。約束は覚えておけよ。」
「は、はい!分かってます‼」
スケルトンは必死にモヒカン頭を地面に擦り付けている。
「それじゃ、早くそいつを見てやった方がいいぞ。」
ガルストンは今も泡を吹いて倒れている。
ピクピクと体が動いているので死んではいない様で少しホッとしたが、流石にそのまま放置するのもちょっと気が引けた。
一応加減をするにしても力というか魔力の込め方が難しいのが難点だな。
スケルトンが公衆の面前で華麗な土下座を披露した後、
数人のギルド職員らしき人がやって来て、今はガルストンの容態を確認している。
スケルトンも土下座を止め、今は弟の安否を気に掛けている様だった。
これで『覚えておけよ!』とか言って逃げ出してたら、テンプレすぎて困ったのだが一応は冒険者であるし、この観客の前で大見え切っといて逃げ出す様な事はしないか…
俺は直ぐにその場を離れたかったのだが、
『よくやったぞ坊主!』とか『やるじゃねえか‼』と幾人の冒険者風の男たちが近寄って来ていた。
「おい、坊主、さっきのアレはどうやったんだ?」
「お前冒険者なんだろ、俺と一緒にパーティー組まないか?」
などと質面攻めにあっていたが、
これ以上面倒事になるのは困るので、俺は適度にあしらってからその場を離れようとした。
初めは周りの観客たちも遠巻きに見ていただけだったが、徐々に近付いて来ていたので、
周りの冒険者たちに『すまん、俺は今は誰とも組む気はないんだ』と告げ、群がる人垣を押し退け、その場を脱出した。
人垣を抜け、一時ギルドの中へと退避した。
このまま通りを歩くより、少し色々と落ち着かせる時間が必要だと思ったのだ。
本当は路地とかに駆け込んで飛んで逃げるのもありかとも考えたが、見られたりしたらマズそうだしな。
だが一番の要因は俺がトイレに行きたかっただけなのだが…
『ねぇ、グレン、これからどうするの?』
『そうだな、トラブルもあったが一応目的は果たしたから、宿に戻る前にもう少し町を探索してみるか』
『じゃあ昨日行った唐揚げのお店に行こうよ!』
レンは相変わらずの様子だったが、俺的にはリルルたちが向かったであろう武器屋等も気になった。
昨日行っていない場所を見て回るかと思い、俺はトイレを出た。
どうでもいい話だがトイレは結構広かった。
酒場もある事とかを考えれば最もだが、イメージしていたよりも綺麗だったのは少し意外だった。
主に立ってするタイプの物と個室が数個設置されている。
一応立ってするタイプは箱状のモノが置いてある中に用を済ませてから水を流す形だ。
因みに女子と男子は分かれていなかった。
そして俺がトイレを出ると、
「す、すみません!ちょ、ちょっといいですか!」
いきなり横合いから声を掛けられた。
視線をそちらに移すと、立っていたのはあの青年だった。
俺は水で濡れた手を振りながら、
「何だ?」
「あ、あの実は、あなたに折り入ってご相談がありまして…その…」
青年はモジモジと言い辛そうにしていた。
「だが断る!」
俺はまたトラブルの匂いがしたので即座に断った。
『「えっ⁉」』
レンと青年は同時に驚いている。
「あ、あの、せめてお話だけでも…」
『グレン、せめて話だけでも聞いてみようよ』
『いや、だってコレ厄介事の気配しかしないぞ』
青年は今にも泣きだしそうな顔をしながら俺を見ている。
「仕方が無い…話だけなら聞いてやるよ、レンに感謝するんだな。」
「?…ありがとうございます!」
青年は一瞬良く分からないといった反応だったが、俺の答えを聞いて一拍、その表情を綻ばせた。
俺たちはとりあえずここでは何だからと酒場へと向かい、席に座った。
適当に飲み物などを注文して青年から話を聞く事にした。
「それで、話って何だ?」
俺はあまり乗り気ではなかったので、早めに要件を聞こうと切り出した。
「あ、あの…実は…」
青年は席に座って向き合ってからは更に緊張している様で、相変わらず話し辛そうだった。
俺は椅子の背もたれに体を預けながら、左手で頭を掻いてから、
「とりあえず言うだけ言ってみてくれ。その後それを聞いてどう判断するかは俺たち次第だしな。」
「たち?」
青年はまたも『えっ⁉』という顔をしたが、
「わ、分かりました。じ、実は…」
青年は意を決したように表情を引き締め話し出した。
青年の名は『リッケル』、彼はこのギルドに自らが出した依頼の確認をしにやって来たそうだ。
ただ依頼自体は数日前から出しているが、一向に引き受けてくれる冒険者がいないそうだ。
指名依頼は依頼料が倍額近くになるので依頼できず、今日も引き受け手がいないか見に来たとの事。
そしてやっぱりまだ受領されていない為、途方に暮れていたのだという。
「で、ですので是非あなたにこの依頼を…」
「ちょっと待て!」
俺はそこまで聞いてから大体予想はしていたが、
「なんで今日冒険者になったばかりの俺にそんな事頼もうとしてるんだ?」
リッケルはビクッと一度体を震わせてから、改めて、
「は、はい!実は先程どうしようかと途方に暮れて帰ろうとした時、表であなたの事を見掛けまして…」
話はこうだ、さっきの入口付近での一幕を見て俺に依頼しようと決めたらしい。
しかも藁にも縋る思いだった上に、今日成り立ての冒険者であれば他にまだ依頼も受けていないかもしれないし、何より依頼料が安く済むと踏んだのだろう。
『さてどうするか…』
「それで、どんな依頼なんだ?」
まぁ話だけは聞くと言った手前、一応聞くだけは聞こうと考えた。
「じ、実は、僕の村の森に棲む魔物を倒して頂きたいんです!」
内容はと言うと、
リッケルの住む村、『エナンテ』の近くの森で今から10日程前に突然魔物が現れたそうだ。
その魔物が現れてからは森に入る者の多くが襲われており、大変困っているので討伐もしくは追い払って欲しいのだそうだ。
魔物は1匹ではなく何頭もいるらしく、その姿は犬にも似た魔物の様だが正確な種類は分からないのだそうだ。
凶暴な魔物で生き残った者の多くは村を出て行ってしまったのだという。
そこでリッケルは急いで馬を走らせ村を出て、ギルドに依頼に来たとの事。
「どうか!どうか依頼を受けては頂けないでしょうか‼」
リッケルは目の前のテーブルに頭を付け頼み込んできた。
『今日は頭を下げられる事が多い日だな…』
俺は注文した少し甘酸っぱい果実水を飲みながらそんな事を思った。
「とりあえず頭を上げてくれ、それとその依頼ってBランクの依頼だよな?」
さっき依頼書で見たあの依頼だったので聞いてみた。
「は、はい…ご存知でしたか…ギルドでお願いした所、ギルド側がそう決めたものですから…」
リッケルは頭を机から上げて俺に向き直り、そう答えた。
「なら、俺は受けられないんじゃないのか?俺は今Dランクだし。」
『あっ⁉そうか』
レンは気付いていなかったのか頭の中でそう聞こえた。
「いえ、その点は大丈夫だと思います…指名依頼をしますので…ただ…」
「『ただ』何だ?」
「…恐らくランクとは関係の無い、お仕事になってしまうかもしれませんが…」
「どういう事だ?」
リッケル曰く、依頼を出してから次の日に指名依頼を出そうとしたらしいのだが、
高ランクの冒険者への指名依頼は高額な為依頼できないので、低ランクでもいいので腕のいい方を紹介して頂けないか聞いてみたが、その場合ギルドに関係なく依頼する形になると言われたのだそうだ。
多分ギルド的に無理な依頼を斡旋するわけにも行かず、かといって放置するのも忍びないと考えたのだろう。
何よりそれが可能ならランク別にする必要も無いのだから…
加えて恐らくだが、ギルドを通さず依頼するというのはギルドが責任を持たないという規約と、もしギルドがそれでランクに関係させるとなると色々とマズいからだろう。
何故マズいのか…それをランクに反映させる形になると当然だが偽装依頼が後を絶たなくなる恐れが出来てしまう。
例えば、低ランク冒険者が指名依頼で高ランクの依頼を受けたとして、それをクリアしてランクアップしてしまうなら嘘の依頼を出してもらって建前上でクリアした事にすれば簡単に昇格する事も有り得るからだ。
無論ギルドも馬鹿ではないだろうからそれなりに調査するだろうが、そう考える輩は間違いなく存在するだろう。
「なるほどな、それは分かったが…」
『レン、色々と聞いた上で判断するが、お前はどうしたい?』
俺はリッケルの話を聞き、いくつか確認した上で決めようと考えた。
第一にリッケルが少し可哀相だったのと、折角冒険者になったのだから依頼を受けてみてもいいかもしれないと思ったのだ。勿論条件に合えばだが…
『う~ん、話を聞いただけじゃ分からないけど結構難しい依頼みたいだけど…』
『まぁ難しいかで言えば多分簡単では無いだろうが、俺たちならイケると思うぞ。』
『えっホント⁉…だったら受けてもいいんじゃないかな』
『ただ面倒には違いないだろうからその辺は覚悟しないとな』
『でも…出来るなら受けてあげたいよね、やっぱり困ってる人は助けてあげたいし…』
『そうか、分かった』
「リッケル、その依頼を受けるか決める前に幾つか質問させてもらう。その上で決めさせてもらう。」
俺はそう言ってリッケルに質問をした。
まず、エナンテ村が何処にあるか?
『エナンテ村はこのエステルの南方に位置し、徒歩で2日ほどの場所にある。リッケルは馬で急いで来たので1日程で着くとの事』
次に、村自体は襲われているのか?
『初めは森の中だけだったが、徐々に被害は大きくなっていて、村の畑が荒らされていた以外にも先日、村人が村の中で襲われて殺されていたそうだ。』
最後に、
「俺にとってこれが最初の依頼になるが、俺を信じるつもりはあるか?」
いきなり会った俺を信じられるかという質問は俺もどうかとは思うが…
リッケルは当然と言えば当然だが、少し答えあぐねた様子だったが、
「あ、あの……正直信じられるかどうかと言えば、今はまだハッキリと言えませんが、先程のあなたの姿を見て、この方ならばと思いました。無理なお願いだと承知していますが、どうかお願い致します!」
リッケルは再度机に頭を付け、懇願した。
俺はそれを見て、こう答えた。
「ああ、分かった。引き受けよう。」




