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第47話 『理想と現実』

第47話


『理想と現実』



俺は二人きりの講習会を終えて、部屋を出た。

エンリは黒板を消したり片付けをしていたので今は俺一人だ。

ふとギルド内を見渡してみる。

すると、さっきまでと明らかに違う点が一つあった。

冒険者の数が先程よりも大幅に減っていたのだ。


当然というかカウンターと酒場には相変わらず幾ばくかの冒険者たちの姿が見えるが、先程まで掲示板に群がっていた冒険者の数はかなり少なくなっていた。


そこで、とりあえず受ける受けないは別として確認だけでもしておくかと、掲示板を一通り見てみる事にした。


掲示板には、各ランク毎に依頼書が貼り付けられている。

流石にSランクの依頼欄は無かったが、DからBの依頼を中心に掲示してあった。

Aもあるにはあるが数枚だけだ。

所々空きがあるのは既に依頼を受けたか取り下げられたのだろう。

とりあえずDランクは…


Dランク依頼


・町のすぐ近くに生息しているヒメハギ草を指定の袋で最低3袋分採取願います。

詳細はカウンターにて

依頼期間:3日以内

薬師ノンデル


・店内の改装をするのでその手伝いをお願いします。町の中なのですごく安心。初心者でも歓迎。

1日平均銅貨3枚もしくは格安で当店武具進呈

依頼日数:3日間

武器屋吉兆


・フレンツ村への配達をお願い致します。荷物は絶対に無くしたり壊したりしない様にして下さい。

依頼希望日2~3日中

詳細はカウンターにて

ヒューストンより


・引っ越しをするので力仕事が得意な方募集。出来れば至急お願い致します。

1日銅貨2枚

依頼期間:終わるまで

アントマーク


・店員が一人足りません。1日でも結構ですので働いてみませんか。

 初心者でも丁寧にお教えします。女性冒険者優遇。

依頼料:店長と要相談

掲載期間:決まるまで

オクラホマ


・ペットを探して下さい。

数日前から私のペットが帰ってきません。

心配で夜も寝られません。

どうか見つけて下さい。宜しくお願いします。

依頼料:要相談

掲載期間:10日間

マチルダ


他にもいくつか同じ様な部類の依頼が並んでいる。

『依頼料が少なかったり割に合わない仕事は残る訳か…』


『あっ!グレンあれとかいいんじゃない?』


『どれだ?』


レンは目線でそれを示した。

その視線の先は、

・温泉の清掃及び温度の管理。

一緒に働いてみませんか?簡単なお仕事です。

やる気があれば正規採用も検討!

給金:月銅貨20枚+まかない付き

掲載期間:早い者勝ち

小麦亭


『却下』


『えっ⁉僕らが泊まってる所だし丁度いいんじゃ?』


『もはやアレは冒険者の仕事じゃねぇだろ』

『ここはどこぞのハローワークか!』


Dランクはほとんど雑務と言うか、なんでも屋みたいな仕事ばっかりだな。

しかもこれじゃ只のアルバイトと一緒な気がする。

どの世界も楽して稼げないって事か…

リアルな現実を見せつけられた感があるな。


年齢制限が無い分まだマシだがリアルで身に染みている俺にはちょっとキツいな…

もっと心踊る依頼とか期待してたのに…

俺の中での冒険者のイメージが崩れてしまいテンションが一気に下がった。

仕方がないかと、一応上のランクの依頼も見てみる。


Cランク依頼


・護衛募集

エルカトラ村まで護衛を願う。

村から町まで安全に送り届ける事が条件です。

腕に自信があり、尚且品行方正な冒険者を望みます。

依頼料:片道銀貨1枚

依頼希望日:大至急

注意事項はカウンターにて

ロドリゲス


・ゴブリン討伐

町の近くの森にゴブリンが住み着いているとの事ですので、退治して下さい。

依頼料:ゴブリン1匹100エンド、部位証明無きモノは無効

エステル町内会ヤッテル


・囚人護送

エーゲ村から盗賊を護送するのでその警護を頼む。

盗賊は数十名いるので充分な注意が必要。

依頼料:基本給銀貨1枚

依頼期間:規定人数に達するまで

エステル警護団



・物資輸送の護衛

エルドラへの物資輸送の護衛をお願い致します。

馬車での移動となりますが冒険者の方は基本徒歩での移動となります。御者の経験がある方優遇。

依頼料:片道1500エンド

詳細はカウンターにて

商人エルスダーク


『ふむ、Cランクなら多少はまともな依頼の感じがするな』

主に護衛任務や簡単な討伐が見られる。

大分俺の理想と近づいてきたな。

しかもなんか書かれ方とかもちゃんとしてきた気がする。

一応文字はそれなりにちゃんと書かれてはいるのだが文章というか表現の仕方がDランクのものは稚拙な感じがするのだ。

それに比べてCランク辺りは一応精査されている気がした。


Bランク


・調査及び捜索依頼

エラル山にある洞窟の調査及びそこに行ったと思われる者たちの捜索をお願い致します。

詳細はカウンターにて

依頼料:洞窟調査のみの場合は5000エンド、該当者発見の場合は一人につき金貨1枚を進呈。

エルステ冒険者ギルド


・剣術指南依頼

冒険者で腕の立つ、かつ人に教えるのが上手い方を募集しています。

出来れば優しい方を希望します。

依頼料:1日銀貨1枚

面接希望の方はギルドカウンターまでお越し下さい。


・討伐依頼

エナンテ村の西の森に現れた魔物たちを討伐。

未確認種の恐れあり。

頭数は不明。

詳細については依頼者に確認

依頼料:銀貨5枚、討伐達成時には村で出来る限りの歓迎を行う準備有りとの事

掲載期間:当ギルド管轄下にある期間


『んっ!?』


『どうしたの?』


『いや、あの依頼内容がちょっと気になったんだ』


『何が?』


『掲載期間の所に書いてある意味がよく分からなくてな』


『あー、僕もよく分からないや』


俺が少し気になっていると、


『でもどうせ今の僕らじゃ受けられない依頼だし、別にいいんじゃない』


『それもまあ、そうだな』


周りを見ると今も数件の依頼書を片手にカウンターへと向かう冒険者が数名いた。


そこで目線をカウンターの方に向けると、ふと気になる事があった。

それはカウンター前のさっき俺が座っていた椅子の所に()()青年が座っていた事。


俺がギルドに入ってきた時に声を掛けてきた気弱そうな青年の事だ。

何故俺が気になったのかと言うと、気を遣ってくれた事もあるし、俺が講習を受ける前からいたのに未だギルドにいたからかもしれない。

講習は1時間ほどだったが…

特に気になるのはあの雰囲気だ。

椅子に腰掛けつつも、前傾姿勢で『はぁー』と何度も溜め息をついているみたいだ。

まさに負のオーラ全開だった。

気弱な感じがより悲壮感を醸し出していた。

俺がギャンブルで有り金突っ込んで負けた時もあんな感じだったな。


とりあえずいつまでもここにいても仕方が無いし、登録は一応済んだのだしそろそろ戻るか。


俺はギルドを出るべく入り口へと向かった。


『あれっ!?グレン依頼は受けないの?』


『当たり前だろ、俺たちはここに明日までしかいないんだぞ』


『あっ!?そうか』


『まぁ、すぐに終わる依頼ならともかく日数がかかりそうな依頼は無理だし、今日は登録だけでいいと思ってたからな』


『じゃあやっぱり小麦亭の…』


『却下だ!何が哀しゅうて自分が泊まってる宿の風呂を掃除せにゃならんのだ、しかも別にこの町に住むわけでも…』


『どうかしたの?』


『いや、何でもない』


俺はそのまま入り口へと向かい、まだ日の上る外へと出て、これからどうするかと思った所に…


「おい、ガキ!!遅かったじゃねえか!」


入り口を出たすぐ脇にあのモヒカンが座っていた。近所のコンビニとかでたむろってるヤンキーの如き座り方をして。


「てめえが兄貴の言ってたくそガキか」

その隣には巨漢という言葉が似合う厳つい顔をしたスキンヘッドの男が立っていた。


『またお前かよ、めんどくさいな』

思わず俺は心中で舌打ちせざるを得なかった。


「てめえ、さっきの舐めた真似した事覚えてんだろうな!ああん!!」


『すげえテンプレだな、逆に感心するわ』


「俺様が誰かも分からねえガキに、身の程ってもんを教えてやるぜ」


モヒカンはおもむろに立ち上がって、後ろに控える男と共に肩で風を切るように俺に近付いてきた。


『テンプレチンピラ(おつ)って感じか、依頼はともかくこいつらは理想?通りって訳か』


「おい!てめえ、さっきから何黙りこくっていやがんだよ、ああん!!」


「除名されてもいいのか、()()()()()?」


「て、てめえ!!俺の名前はケルストンだ!!ふざけてんじゃねえぞ!!」

相当に怒っているらしく額に井の字を浮かび上がらせ、顔を真っ赤にしている。


『いちいちやかましいヤツだな』


「それで一体なんの用だ」

俺は既に粗方答えは分かっている問いを敢えて投げ掛けた。


「てめえ、冒険者になったんだろうが!!」

若干顔色を戻したモヒカンだが、相変わらずその額には(しわ)が寄っている。


「だから何だ?」


「さっきまでは冒険者じゃなかったからエンリの姉さんに免じて引き下がってやったが、冒険者になったからには話は別だつってんだよ!」


「何の事だ」


「てめえ見てえなガキが冒険者になるとか笑わせてくれるぜ、さっきはちょっと脅してからかってやるつもりだったがもう容赦はしねえ。俺様に手を出したのが運の尽きだ」


『さっきからエライ意気込んでるが、鼻からの詰め物がプランプランしててメッチャ気になるな』


「冒険者同士なら問題無いのか?」


「今から俺様がお前に模擬戦をしてやるつってんだよ、冒険者同士のな」

してやったりという風にニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべ、粘着質な物言いだった。


「なるほどな…」


「まあ駆け出しの冒険者風情がこの俺様たち()()に相手してもらえるんだから有り難く思うんだな。」


()()?」


「そうだ!!地べたに這いつくばった後じゃ可哀想だから今の内に教えといてやる。俺様の名前はケルストン、そいで後ろにいるのが俺の相棒で弟のガルストンだ!!」


『実際こんな奴等いるんだなぁ』

俺は思わず遠い目をしながら考えてしまった。


「ふっふっふっ、怖くて声もでねえか、俺様たちC級冒険者、笑う子も泣く『ケルガルコンビ』に、こてんぱんにのされる姿を想像して泣きたくなっただろう」


『こてんぱんって久しぶりに聞いたわ』


「慈悲深い俺様はてめえみてぇなクソガキにもハンデをくれてやろう、俺様じゃ相手にならないだろうから()()弟のガルストンが相手をしてやる。」


ズイっと前に一歩出てきたスキンヘッドの男は身長2メートルほどでプロレスラーよりも力士の様な体型だ。

手にはハンドアックスが握られている。


「だが断る!!」

俺は何の躊躇いも無くそう言った。

こいつらと揉めても面倒なだけだし、これだけの公衆の面前で騒ぎを起こすのもちょっとな…


見ると既に周りには人垣が出来ていた。

町では当たり前なのか、それともギルドではよくある事なのか、いつの間にか興味津々で俺たちを見ている。


よく見るとギルドの中にいた者たちも出てきて見守っていた。


「あっ!?てめえに聞いちゃいねえよ!今更ビビっても許さねえんだよ!!」


『誰も止めに来ないのか…仕方が無い』


「仕方が無いから付き合ってやるが、ルールとかはあるのか?」


「ルールだぁ!?」


「まぁ約束事みたいなモンだ」


「ああん!?」

モヒカンは暫く黙りこんだが、


「仕方ねえ、決闘じゃねえから武器は無しにしといてやる。その変わりてめえが負けたら有り金全部とその腰にある武器は貰うぜ」

腕を組ながら嫌味ったらしく顎で指し示しながらモヒカンは告げた。


「それじゃ俺は片腕で相手してやるから、負けたら今後一切因縁(いんねん)つけてくるなよ」

俺は毅然とした態度でそれに答えた。


またもやモヒカンの額に青筋が浮かぶ。

「な、なんだと!!もう一度言ってみやがれ!!」


「能書きはいいからさっさとかかって来い、何なら二人一緒でも構わないぞ」


「言わせておけば調子に乗りやがって!!もう、許さねえからな!!、おい、ガルストンやっちまいな!!」


声を掛けられたガルストンはハンドアックスを下に置き、両拳をボキボキと鳴らしながら近付いてきた。


周りの観客たちからは『坊主頑張れ!』とか『大穴狙ってるんだからな』とか聞こえてくる。

チラリと視線を移すと血気盛んな男性だけでなく、女性や子供の姿もチラホラと見えた。


『さっさと終わらせるか』


俺が足に魔力を込めたその瞬間、

「よそ見してんじゃねえぞガキが!!」

と、猛然とした勢いでガルストンが殴りかかってきていた。


次の瞬間…


ズン!!


と言う深く芯に響く音と共に俺の拳はガルストンの腹に突き刺さっていた。


より正確に言うと脂肪で覆われたその腹にめり込んでいたのだが、

一時置いてから俺は一歩後ろに身を引くとその巨体を前方へと倒れ込ませた。


「えっ!?」

ケルストンの間の抜けた声が響く…


周りの者たちは何が起こったのか分からない様で、皆一様にキョトンとしている。


相当加減したつもりだが、目で追える者はいなかった様だ。まぁ腹を突き破らなくて良かった。


ガルストンが倒れてから少しの静寂が過ぎ、


「ワー」と言う歓声と共にその静寂が破られた。


「スゲー!」

「何なんだよアレ!!」

「ねぇ、ママ今のどうやってやったの?」

「キャー♪」

「ヨッシャー!!これで今日の負け分取り戻せたぜ!!」


歓声が上がる中、モヒカンは一人震えていた。


「う、嘘だ!!て、てめえ、汚ねえぞ!!魔法なんか使いやがって!!」

ケルストンは後ずさりながら怯える様な驚愕の表情を浮かべていた。詰め物がとれて、鼻から鼻水が出ている。


まるでコントの1シーンの様なモヒカンを見やり、

「さっさとコイツを連れてどっかに行け、何ならお前もやってみるか?」


ケルストンはイヤイヤと首を振りながら下に置かれたバトルアックスへと近付き…


「す、すみませんでしたぁああ!!」


とそれはもう見事な土下座をしたのだった。






最近体の動きが鈍くなってきました…

今度ジムにでも行こうかと悩んでます(ノ∀`)

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