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第46話 『講習』

前話に続き説明文が多いですが、ご了承下さいませ。

第46話


『講習』



「てめえ、今俺様に足かけやがったな!」


『はい、テンプレですね。有難うございます。』

俺は心の中でヤレヤレと思いつつ、その男を見やる。

見ると男はギロリと俺を眉間に皺を寄せながら睨んできた。


男の背自体は俺と大差無く、頬は痩けて頬骨が出ており、体型はヒョロッとしている。

その格好は胸に革のプレートと腰には短剣、いかにも盗賊然とした格好をしていた。

何より印象的なのはその頭だ。

赤いモヒカンでいかにもヒャッハー!してそうだ。

他にも耳には片方リング状の大きなピアスを付けているし、腕には蛇の様な刺青(タトゥー)を入れている。あとは肩パットさえあればまさにコレでもかと言わんばかりの世紀末ブリだったのに惜しいな。


こんな雑魚ッポイやつ、冒険者じゃなくて只のチンピラだろと思ったが、コレから講習もあるから正直早めに終わらせたいと考えていた。


「おい、てめえ、ビビって声も出ねえのか!ああん!?」

モヒカン男は相変わらず額に眉を寄せながら顎を突き出して、

「聞いてんのかオラ!!」

と俺の胸ぐらを掴もうとしてきた。


避けるのは簡単だったが、あえて俺はモヒカンに胸ぐらを掴ませた。

モヒカンは俺がビビって抵抗出来ないと思ったのか、そのまま掴んだ服毎自分に引き寄せようとした。


「よし、正当防衛成立だな。」


掴まれて引き寄せられるままに前へと出て、そのまま頭をモヒカンの顔面に叩き込んだ。

まさに頭突きであるがそれほど威力は出してないつもりだ。

全力でやったら死にかねないからな、モヒカンが。それに俺の頭にヤツの血がつくのも嫌だし…


『ぐぶっ!!』

と俺の頭突きを喰らったモヒカンは後ろにヨロヨロと後退し、

「で、でめぇ!!いきなり何しやがる!!」

と鼻を手で押さえながら喚く。

よく見ると手の隙間から血が流れ出ていた。


「変な言いがかりつけて、人の胸ぐら掴むとそうなるから覚えとけ」


「な、何だと!!てめえ、この俺様が誰だか分かって言ってやがるのか!?」


「知らないな。」


「てめえ、ふざけやがって!!」

モヒカンは腰の短剣に手をかけた。


「やめなさい!!」

カウンターの方から声が上がる。


見るとカウンターの中から眼鏡を掛けた受付嬢らしき女性が立ち上がってこちらを見ていた。


「ケルストンさん、いい加減にして下さい。ギルド内でこれ以上騒ぎを起こすつもりなら除名処分も有り得ますよ!」


それを聞いたモヒカンは、

「ちっ!!…分かったよ。」


短剣から手を離し、俺の横を通りすぎる際に小声で、

「おい、ガキ、てめえ、命拾いしたな…このまま終わると思うなよ…」

と声をかけていった。


『テンプレにも程があるだろ常考』

まあ、このまま問題起こして冒険者になれなかったりしたら困るし、一応礼は言っとくかと思い、俺は声をかけてくれた受付嬢の元へと向かった。


その受付嬢はモヒカンが入り口から外へ出ていくのを確認してから、一旦腰を下ろした。


「ありがとな。」

俺はその女性の前へと行き目くばせをして感謝の意を伝えた。


「いえ、私は職務を果たしただけです。

 ただ、あなたも冒険者になるのならば色々と気を付けないと、要らぬ所で目をつけられてしまいますから注意して下さい。」


「ああ、分かった。助かったよ。」

実際あんなヤツどうにでも出来るが、まぁ助けてもらったら礼を言うのが筋だしな。


しかし、流石はギルドの受付嬢だなと俺は少し感心していた。

因みにこの受付嬢はさっき俺がカウンターで対応してもらった受付嬢とは別の女性だ。

俺が対応してもらった受付嬢はと言うと、今も俺から目を逸らし見ないようにしている姿が見える。


「それじゃ」

と俺がカウンターから立ち去ろうとすると、


「待って下さい。」

その受付嬢に呼び止められた。


「グレンさんですよね、これから講習を始めますので付いてきて下さい。」

受付嬢はそう告げてからカウンターから左手にある先程指示されていた部屋へと歩き出した。


俺はそのままその受付嬢の後を付いて行き、部屋の中へと入った。


部屋にはテーブルと向かい合わせで椅子が2つ、周りには黒板の様なモノと椅子が数脚ほど置いてある。

それほど広い訳では無く、8畳程度といった所か。


「そちらにお座り下さい。」

黒板の前に立った受付嬢は椅子へと座る様に俺を促した。


俺は案内された椅子へと座り、

「あんたが講習をするのか?」


受付嬢は眼鏡を一度クイッと上げてから、凛とした佇まいで

「はい、私の名前はエンリと申します。

 本日は私があなたに冒険者の講習を行わせて頂きます。」


「そうか、受付以外にも大変なんだな。」


「今日の受講者はあなただけですのでみっちりお教えして差し上げます。

これも職務ですし。」


「そ、そうかよろしく頼む。」


まるで家庭教師の様なその姿に俺は少しドキドキしてしまった。

『マンツーマンか…』


「では早速講習を始めさせて頂きます。」


講習内容は、大まかに冒険者の心構えから始まり、ランクの詳細、パーティーについて、依頼の受け方やランクアップについて、魔物の素材の買い取り、各冒険者ギルド等の説明が行われた。


ランク詳細

D<C<B<A<Sの計5段階あり、余程の事が無い限りは皆、冒険者になるとDランクからのスタートとなる。当然俺もDランクからだ。

依頼はそれに応じて受けられるものが決まってくる。

ただし、パーティーとして登録するとその者がたとえ低ランクであってもリーダーが上のランクで在れば受けられる場合もあるらしい。

例えばAランク冒険者と組んだ場合はCランク冒険者であっても最上位の者の一つ下のランク、つまりBランク制限の依頼までは受けられる。

しかしその場合は依頼を達成もしくは解約するまではパーティを解散出来ない条件もあるという。

尚、仮にAランク冒険者とパーティーを組んだとしてもDランクなどで実績が認められない者は、高ランクの依頼を受けられない事もある。


パーティーに人数制限は特に設けられていないが、基本的には4人程で組むのが一般的とされている。

勿論ソロや2人組のパーティーも多くいるが、腕に自信が無いと務まらない場合があるので考えておいた方が賢明との事だ。

まぁ俺は今の所組むつもりも無いが…


依頼は基本ギルドで受ける場合には、掲示板もしくはカウンターにて依頼を探し、受付嬢に依頼内容を確認してもらい、その依頼を受ける手はずになっている。

依頼は達成もしくは解約の2つがある。

達成条件をクリアして報酬を貰うがその1割はギルドに納める形になる事。ただし、指名依頼に関しては例外も認められる。

期日内に依頼を達成出来なかった場合や死亡した場合は解約となる。

解約の場合は違約金が発生し、依頼料の3割を冒険者が払う事となる。

死亡した場合については装備品及び、金銭の一部を取り立てる場合もある。

ただ、何らかしらの事態により達成が不可能と判断された場合は違約金は発生しない場合もある。

無理な依頼を受けたと判断した場合には速やかに違約金を払うのも賢い冒険者には必要とされるらしい。

補足としてギルドを通さず直接ないしは間接的に受ける場合には罰則は発生しないが、ギルド評価は下がる可能性があるので留意して欲しいとの事。勿論ギルドはその依頼に関しては情報提供及び責任の所在等は一切関与しないとの事だ。


次にランクアップについてだが、先の依頼をこなして行き、ギルドが昇格に相応しいと認めた場合にはランクを上げる事となっている。

具体的にはDランクからCランクへはある程度の依頼数をこなせば比較的すぐにでも上がる事が可能だそうだ。ただし、無理な依頼を受けて、失敗を続けると降格になる場合もあるらしい。

因みに冒険者の大半はDかCランクであり、現在冒険者の比率はDとCで全体の6~7割、Bが2割ほど、Aが1割に満たない程度でSランクに関しては現在5人しかなった者はいないらしい。

Sランクの5人が気になったので聞いてみたが、『Sランク冒険者に関してはギルドから情報を提供する訳には参りません、特に高ランク冒険者の情報については本人の承諾及び犯罪行為が国またはギルド本部により認められた場合にのみ公開されます』との事で教えてもらえなかった。

そしてランクアップについてはBランク以上からは試験があるらしい。

試験についてはその際に説明されるそうなのでこの場では割愛された。

当面の目標はCランクへの昇格だそうだ。

長期間依頼を受けなくても特に罰則は生じないが、1年以上実績が無い場合には、降格や評価の再査定等が行われるらしい。


依頼内容としては大まかに、

Dランクは採取や運搬などがメインで雑用関連の他、一部護衛任務もあるらしい。

Cランクからは低ランクの魔物の討伐や商隊や要人の護衛。

Bランクは遺跡調査や中ランクの魔物討伐任務。

Aランク以上は特定魔物の討伐や指名依頼などが多い。

勿論高ランク冒険者は下位のランクの依頼を受ける事は可能。

あくまで基準としてだが、魔物討伐などは最低でもCランクになってから行う様にと教えられた。

実際早くランクを上げようと魔物に挑んで死んでいる冒険者は後を絶たないとの事だ。

ギルドでは魔物の素材の買い取りも行っているので、依頼に関係しない素材に関しては別途鑑定の上、支払われるらしい。


最後に各ギルドについてだが、

町にはそれぞれギルドが設置されている。

勿論全ての町にある訳では無いが、少なくとも人族の国、このエスカ大陸においては多くあるとの事だ。

基本ギルドは中立の立場である為、各国家間の戦争などには関与しないとされているらしい。

ただし、人族の危機に対するものや国からの依頼もある為完全な中立とも言えない。

しかしながら各国の首都には本部ギルドが設置され、その情報も共有しているとの事。


依頼の報告は受けたギルドにて行うのが原則だが、共通依頼もあるのでその場合は他のギルドで

『ギルドカード』を提出して他のギルドで完了報告を行う事も可能らしい。


「以上が冒険者に必要とされる基本的な知識ですがお分かりになられましたでしょうか?

勿論、これで全てという訳ではありませんし、都度様々な問題等も出てくると思いますので、その度にギルドにてお教え致しますのでどうぞお気軽にお聞き下さい。」


「分かった。」


「それではこれで講習を修了とさせて頂きます。

 その証としてギルドカードをお渡しさせて頂きます。」

エンリは意外と膨らみのあるその胸元から1枚のプレートを取り出した。


「こちらのギルドカードはグレンさんの身分証ともなります。

 お手数ですがこちらに血を1滴頂けますでしょうか。」

そう言ってプレートを机の上に提示した。


「血だと⁉」

俺はそのギルドカードなるものを凝視した。


見るとそこには真っ白な1枚のプレートに俺の名前や年齢、ランク等が書かれており、

手に取って裏面を見てみると受注依頼の欄などがある。


「そちらの窪みの部分に血を垂らして頂けますか?」


言われてからよく見ると、表面の中央に薄っすらと窪みの様なものがある。


「垂らすとどうなるんだ?」


「そちらに血を垂らす事でグレンさんの生体を認識し、本人以外は使えなくなります。

 当然本人確認も兼ねておりますので拒否される様でしたらそれも構いませんが、依頼を受けるにあたって不具合が生じる事になりますのでご理解下さい。」


『なるほどな、そういう事か…』


『えっ⁉どうゆう事?』


『つまりどうゆう原理かは知らないが、冒険者としてのグレンはレンと同一人物だと分かっちまうって事だよ、それに成り代わりとかも防げるし管理出来るって訳だ、してやられたぜ』


「分かった。」


俺がそう言うとエンリは服のポケットから針を取り出し俺に寄越した。

俺はその針で指を刺し、血を1滴プレートの窪みに垂らした。


するとプレートは少し淡い光を放ち、暫くすると白から銅の色へと変化した。

更に種族の欄が空白だった個所に『人族』と浮かび上がっている。


「これも魔法か?」


「詳しい事はお話出来ませんが、これでグレンさんの登録は完了致しました。

 以降はランクアップ毎に更新が行われます。また、無くされた場合は自己責任となり、

 再発行には銀貨1枚が必要となりますのでしっかりと管理して下さい。」


その後ギルドカードの説明を終えて、

「グレンさんこれで今日からあなたも我がギルドの一員です。

 冒険者の名に恥じぬご活躍を期待しております。」


「ああ、分かった。」

俺が椅子から立ち上がって彼女を見ると、

エンリはそっと右手を差し出してきた。


俺はその手を握って彼女の顔を見た。


エンリは眼鏡を一度クイッと持ち上げてから、

「死なない様にお気を付け下さい。」



「ああ、分かった。」




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