第45話 『冒険者ギルド』
説明的なものが思いの外長くなりましたので一旦区切ります、本当はもっと長くなるはずだったんですが少し省かせて戴きました(^ー^;A
第45話
『冒険者ギルド』
「それじゃ、二人とも気をつけてな。」
俺たちは食事を取ってから、各自準備をし終えて、宿を出る所だ。
「うん、レンもしっかりね!」
「気を付けて下さいね。」
『ご主人あちしを置いてくなんてひどいだわさ!』
鳥があちしを忘れるなんて!とピーチクパーチク喚いていたので、
ミスティが『スーちゃんは私たちと一緒に行こうねぇ』と慰めていた。
「おっと、すまん。忘れてた、スー!」
俺が名前を呼ぶと、
それはもう嬉しそうに『キュイー‼』とミスティの胸に抱かれていたスーが羽を広げて、返事をした。
今にも俺の方に飛んできそうな勢いだったが…
「スー、二人に迷惑を掛けない様、気を付けろよ。」
…キュ…『あ、あちしの扱いだけちがうだわさぁああああ!』
とスーの背後にズーンという黒斜線の背景が浮かんだのだった。
俺は宿で聞いた道筋を歩き、目的地である冒険者ギルドへと向かった。
宿を出てから10分ほど歩き、大通りに面した道を一本抜けると、右手に大きな建物が見えた。
『あれか』
そこには周りの建造物よりも明らかに大きく横に長く広がった建物があった。
外見上は木材で、高さは3階建て、入り口は大きなものが2ヶ所、小さな入り口が1ヶ所見える。
奥行きもかなりあるみたいで小麦亭より広そうだ。
敷地がどのくらいかは分からないが、今度町の上から眺めてみようかと思った。
俺は迷わず中央にある両開きの扉が既に開け放ってある大きな入口の一つへと向かった。
何故その入口へ向かったのかと言えば簡単で、もう1カ所ある大きな入口は扉が閉まっていたのと、
もう1カ所の小さな入口は通用口っぽかったからだ。
何よりその入口からは数人の冒険者らしき男たちが出入りしているのが見えたから。
冒険者の定義がどのようなものなのかは分からないが、村から出て冒険者らしき者たちとは数人ほどだがすれ違っていた。
俺自体は直接それらと言葉は交わしていないが、いかにも冒険者風であるのは見れば分かる。
町に入ってからはより顕著にそれらの者とすれ違っている。
しかし、今更ながらに俺の世界では考えられないなと思う。
普通に町の中で斧や剣を持って歩いているのだ。
日本でなくとも普通に危険極まりない状況だ。
正に前世紀の旧時代とか戦争真っ只中の状況なら分からなくも無いが、
武装してない人たちにとっては結構脅威だよなと思ってしまう。
冒険者全てにモラルがあるとも思えないしな…
まぁ、実際俺が町に入る際に刀についても触れられなかった事から考えて、
これがこの世界では普通なのは分かるが…
今も目の前で斧を担いだ筋肉隆々の男や、剣を腰に差した男たち、
いかにも魔法使いですみたいなローブを身に纏った女性などが出入りしている光景が見られる。
流石はファンタジーだ。コミケも真っ青なこの状況なら俺も、憧れの漆黒の鎧とか着られそうだな。
とりあえず俺は入口前の階段を数段上がり、中へと入ると、
そこには俺が思い描いていた通りの光景が広がっていた。
右手の奥へと広がる酒場で数人の男たちが酒を飲む姿。
正面奥には横にずらっと広がるカウンターと受け付け嬢たち。
左手にはおそらく依頼が書かれているであろう紙が貼られた掲示板。
そしてそのカウンターや掲示板に群がる冒険者たち。
ギルドと言えばコレ!みたいな光景が今まさに俺の目の前に広がっている。
もう少しショボいのかとも思っていたが、雰囲気も相まって俺の中のわくてか感が止まらない。
俺がキョロキョロとお上りさんの様に辺りを見回していると、一人の男が近付いて来た。
俺は早速お決まりのトラブルか?と逆にほんのちょっとだけ期待に胸を膨らませてしまったが…
近付いてきた男は厳つい男でも冒険者風の男でもなく、
眼鏡を掛けたいかにも気弱そうな雰囲気を醸し出している、青年だった。しかもその表情は前髪で隠れていてあまり読み取れない。
「あ、あなたもここに依頼しに来た方ですか?」
いきなり話し掛けてきたその男は俺の返答を待つまでも無く、
「ぼ、僕もここに依頼しに来たんですけど、その、最初よく分からなくて…
あそこのカウンターで聞けば教えてもらえますよ。」
とニッコリと言うよりは若干引きつった笑みを浮かべながら言ってきた。
どうやら完全に俺がここに依頼をしに来て、初めてでオロオロしている男だと思われたらしい。
青年なりに年の近そうな俺を気遣って声を掛けて来てくれたようだが、まぁ仕方が無い。
「いや、違うんだ。俺は冒険者になりに来たんだよ。」
と俺は腰の刀をカチャリと音をさせて見せる様に握った。
「あっ!そ、そうなんだ!ご、ゴメン!あの、その、が、頑張って下さい!」
青年は自分の間違いに気付き謝罪して頭を下げた。
「いや、別に構わない。」
俺は首を左右に軽く振って答えた。
青年は『それじゃ』と慌ててその場を離れて行った。
まぁ仕方が無いといえば仕方が無いのかもしれない。
おそらくは自分と似た境遇で困っている人がいたので見過ごせなかったのだろう。
俺の今の恰好はこの場では非常にラフな格好というか軽装とも言える。
鎧も着ていないし、刀以外はこれと言って冒険者の特徴も無いし、
多分端から見たら、只の村人か良くても狩人の様な格好に見えるだろう。
俺的に例えるなら帽子こそ被ってはいないが、ゼル○のリン○の恰好のそれと似ている。
この場でこの姿を見たならそう思われるのも無理はないだろう。
とりあえず俺は正面に並ぶカウンターへと向かい、空いている場所を探す。
整理券の様なモノはあるのだろうかとか考えたがどうやら無さそうだ。
俺は丁度冒険者らしき男が離れ、空いたカウンターの前へと立った。
受付嬢は一瞬、『んっ⁉』という顔をしたが、すぐさま営業スマイルに切り替え、
「ようこそ、エステルの町の冒険者ギルドへ。
ご依頼はどの様なものとなりますでしょうか。
それとも依頼に対するご確認でしたでしょうか。
まずはこちらへ必要事項をご記載頂けますでしょうか。
精査の上、必要な料金等を算出させて頂きます。もし…」
『うん、まぁ予想通りだな…』
相変わらず依頼について話している受付嬢を尻目に、
「いや、依頼ではなく、俺は冒険者になりたいんだが」
「えっ⁉冒険者ですか?」
「ああ、ここじゃ冒険者になれないのか?」
「い、いえ…その失礼致しました…」
受付嬢はコホンと一つ咳払いを入れてから、
「改めまして、エステルの冒険者ギルドへようこそ。
冒険者になりたいと言う事ですが宜しいでしょうか。」
何事も無かった様にやり直したいらしい。
「ああ、その為にここに来た。」
「それではまずいくつか質問をさせて頂きまが、宜しいでしょうか?」
受付嬢は営業スマイルを改め、やや真剣な表情をしながらいくつか質問をしてきた。
成人しているのか、これまで捕まる様な犯罪を犯したか、
登録するのには若干のお金が必要となるが大丈夫か等。
一通り質問も終わり、
「最後に冒険者になろうと思った理由をお尋ねしても宜しいでしょうか?
無理にとは言いませんが参考までにという事で」
上目にチラリとこちらを見た。
「その方が色々と都合がいいと思ったからだが問題あるか?」
「い、いえ、あくまでこれらの質問は確認ですので特に問題ありません。」
少し間をおいてから、
「そちらでご登録する前に何か確認しておきたい事はございますか?」
「登録したら何か義務みたいなものは発生するのか?」
「義務ですか?」
「そうだ、必ずこれがあったら依頼を受けなきゃいけないとか、こういう事はしちゃいけないとか。」
「ああ、なるほど。一応指名依頼などがあった場合にはそれを優先的にお勧めする場合などもございますが、基本以来の選定は冒険者自身に委ねられておりますし、指名依頼もある程度ランクが上がってからになりますので現状でそれほど気にする必要はございません。
ギルドからの直接の依頼などもそれなりの技能を必要とされますので、なりたての冒険者にはまず無いと言っていいでしょう。緊急クエストも強制では無いので選定は同様です。
ここまでで何かご質問はありますか?」
「いや、大丈夫だ。」
「それと禁止事項としては大きな点で2つございます。
まず一つはギルドへ迷惑をかける行為及びそれに付随する行いの禁止。
二つ目は登録冒険者による犯罪行為への加担やギルドが不適正であると判断した事案を行った場合となっています。」
「つまり…ギルドに迷惑を掛けず、冒険者としての役割をしっかりとこなせという事で、明確な禁止事項は無く、特定の禁止項目とかはないのか?」
「い、いえ、あくまで何かあったとしても基本的には冒険者本人の責任となりますので
充分お気を付け下さいという事ですので…」
こいつめんどくせぇと如何にも顔に書いてある引きつった笑みを浮かべながら受付嬢は答えたので、
『まぁ要は何があっても本人の責任だからギルドは関係ありませんよアピールか』
「分かった。それじゃ登録を頼む。」
ふぅと如何にもなため息を吐き出し、
「それでは登録をさせて頂きますのでこちらにご記入をお願い致します。
もし文字を記入できないようでしたらこちらで代わりに記載させて頂きますが、その際には銅貨1枚頂きますが大丈夫でしょうか?」
レンに頼もうかと思ったが、内容によっては素直に書くか迷うところだからここは頼んでおくか。
この世界の文字を俺は読めるが、書くのはまだ難しい。
一々レンの知識を引っ張り出すのも面倒だし、レンもフリージアたちに習って一応は書けるが、
多くの知識を持っている訳では無い。
特に村人などは文字を読める人間も少ないので特に代筆も珍しくは無いのだ。
「ああ、それじゃ代筆を頼む。」
そう言って俺は銅貨を1枚革袋から取り出し、カウンターへと差し出した。
「かしこまりました、」
必要事項を聞いて、俺がそれに答えるとその答えを羊皮紙の様なものへと書き写していく。
内容的にはこうだ。
名前:「グレン」
この世界ではこちらでいう所の苗字はある者もいれば無い者もいるのが普通。
特に問題無かったみたいで突っ込まれなかった。
突っ込まれたら一応考えてはあったのだが今回はスルーした。
年齢:16歳
性別:男
系統:戦士系
魔法は使えますか?と聞かれたので『少しだけ』と答えると、受付嬢の目の色が若干変わった様に見えたが、『具体的には何系の魔法を』と聞かれたので『風の魔法を少々』と答えたら、少し落ち着いて『なるほど』と言ってから、『でしたら剣と魔法どちらがお得意ですか?』と聞かれたので、『剣かな』と答えたら戦士系と書かれた。
特殊技能:風魔法
特記事項:特になし
「以上で必要事項は結構ですので、登録料として1000エンド頂きますが宜しいでしょうか?」
受付嬢は羊皮紙を横の箱へと入れてから俺にそう告げた。
俺は革袋から銀貨を取り出し、受付嬢へと渡した。
受付嬢は念の為、受け取った銀貨を上にかざし確認してから、
「それでは次に冒険者の講習を行いますので名前を呼ばれたら、あちらの部屋にお越し下さい。」
とカウンターの左手奥に見える扉を手で示した。
「最後に聞いておきたい事などはありますか?」
「講習って何を行うんだ?」
「講習は冒険者になった際に必要となる知識や心構えといった事を教える為のものです。
具体的には依頼を受けるにあったっての流れや、報酬についての事、その難易度諸々となります。」
「剣や魔法の実習とかはないのか?」
「そう言ったものはありません。基本冒険者になってからは自己責任となりますので虚偽の記載や虚言があったとしてもその責任はご自身のものとなります。ただしこれも説明されると思いますが、ランクアップの際の試験や訓練の申請などがあればこちらでお受けする場合もございます。」
「分かった。」
「それではお名前をお呼びするまでギルド内でお待ち下さい。」
受付嬢は説明は終わったと判断し、銀貨を横の箱へと入れた。
俺はカウンターを離れ、名前を呼ばれるまでどうしようかと思案したが、
とりあえずカウンターの前方に設置された椅子へと腰掛けた。
『ねぇ、グレン、登録する時の名前グレンで良かったの?』
『ああ、昨日の夜にも言ったが、冒険者としては俺の名前の方が色々と都合がいいと思ってるからな』
そう、何故冒険者の登録を俺の方の名前にしたかは一応レンにも話してある。
万が一何かあった場合、例えば手違いや誤解から指名手配されたとしても人違いや他人の空似でなんとかなるかもと思ったのだ。
最悪双子の兄ですとかでもアリかと。
そして素性を調べられてもグレンとしてなら足がつきにくいだろうし、何より写真という技術が無いこの世界なら精々探すとしても特徴や似顔絵くらいだろうから、その方が都合がいいと考えたのだ。
前々から思ってたが冒険者とかって特徴だけ似てれば容易に成り代われちゃうんじゃないかという疑問があった。
お決まりの偽黄○様とか悪評を立てるのも楽そうだし、そういった風評被害も半端ないだろうと。
そんな事を考えながら足を組んで座っていた…
ドカッ!!
俺の足に何かがぶつかった。
視線を上げると目の前でわざとらしくつまづくような素振りをして、振り返る男がいた。
「てめえ、今俺様に足かけやがったな!」
そうか、やっぱり来るんだな…




