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第39話 『湖の化物』

第39話


『湖の化物』



隣でオヨヨヨと泣き崩れているスーはほっておいて、

俺はまずやってみるかと思い。


『重力制御魔法起動』


俺は片手に魔力を集め、

湖の近くにあった巨大な岩に向けて魔力を注ぎつつ、

上へと持ち上げてみた。

文字通り、片手でだ。


岩そのモノの重力を軽減し、軽石かるいし位の重量にしてあるので

メチャクチャ軽く感じるが、実際結構下に埋まっていたらしく、

思っていたよりも持ち上げてみたらデカかった。

俺が持ち上げている様はかなり異様かもしれない。


それをポーンと言った感じで、先ほど湖の中央辺りに見えた

靄の辺りではなく、更にその先の延長線上目がけて投げた。


ちょうど目標の少し手前位に行った所で

フィンガースナップの音を合図に重力魔法を切った。

本来ならば目標よりやや先へと落ちる軌道であった岩は、

そのままカクンと、野球のフォークボールの様に

黒い靄の場所へと落ちて行った。


岩が飛んで行くまで一切攻撃は無かったのだが、

流石に急に進路を変更して落ちて来て焦ったのだろう。

急いで迎撃しようと水柱が上がるが、間に合わず、

重力を取り戻した岩は、


バッシャーン‼



と大きな音を立てて沈んで行った。

途端、ゴボゴボゴボと水が大きく湧き上がってから…


ザバシャーーーーン‼


と再度大きな音が上がり、大きな波がこちらにも押し寄せた。

俺は一歩後ろへと下がり、水面を見ると、

中から異様な黒い霧を纏ったモノが現れた。


突然勢いよく水面から飛び出したソレは、

頭の髪を振り乱しながらその姿を見せた。

月明かりに照らされてその体の一部が所々光って見え、

下半身と顔は水と靄に隠れてハッキリとは見えないが、

その上半身は女性の様な体つきをしていた。


ただ、その頭にはつのの様な尖ったものが見え、

上半身だけでもかなりの大きさだった。

その身を見る限り、とても人であるとは思えない。

明らかに人外のモノであると分かった。


『貴様ぁあああ!』

ソレは女性の金切り声にも似た声を出しながら、喚く。


どうやらお怒りの様だ。

俺は『喋れるのか…』と腕を組みながら思った。


『き、貴様…』

俺が全く驚いていない姿を見て逆に落ち着いたのか、

呆れたのか分からないが、まるで値踏みするような感じで

こっちを見ている。

警戒しているのだろうか…


まぁいきなり岩ぶち込まれればそうなるか…

俺は話せるのならばと、とりあえず対話してみる事にした。


「お前はここで何をしている?」

結構大きめの声で聞いてみた。


『貴様!いきなり攻撃してきてその物言いとは

不遜にも程があるではないか!』


「いや、先に攻撃してきたのはお前だろ。」


『ふんっ!貴様こそここに何の用があるのじゃ‼』


「ここで力を感じたから、

確認しに来たらお前が攻撃してきたから応戦しただけだ。」


『ほう、貴様も更なる力を欲するのかぇ?』

髪に隠れた目が怪しい光を放って俺を見た。


『なるほどな、大体話が見えてきたな』

ここは一旦乗ってみるか…


「ああ、俺ももっと力が欲しくてな。

特に裏切られた奴らに仕返しする為の力とかな!」


『エッ⁉』

『キュイ⁉』

レンもいつの間にか起きてたか…


ソレは暫く怪訝な、それこそ品定めをしている様子で、

『なるほどのぅ…じゃが貴様はかなりの力を持っておるはずじゃ、

それほどまでに力を欲するとは……まぁ良かろう…

もし復讐する為の力を欲するのならばこの問いに答えるが良い!』


そう言って片手を持ち上げ、

なんじが欲するのは、このただの石か?』

と一見何の変哲もない石と、


更に反対側の手を持ち上げ、

『それともこの、黄金の石かぇ?』

と突然ソレの手の上に現れた光り輝く石を掲げた。


『そうきたか…』

『ねぇ!グレン、一体どうなってるの⁉

誰に仕返しするつもりなの⁉』


『レン、恐らくだがあのドラムに力を渡したのはコイツだ』

『ドラム?』

『あぁ、それと俺には復讐したい奴とか今は()()いないしな』


あくまで俺の推測だが、この質問には何かしら意味があるのだろう…


「じゃあそっちの石をもらおうか!」

俺は光り輝く石…ではなく、もう片方の石…でもなく、


湖の脇にある岩石を指差して言った。


『なっ⁉』


俺は即座に左手に魔力を込め、指差した岩石を持ち上げて、

湖の中央へと思いっきりブン投げた!


先程よりは小ぶりだがスピードは先程よりも段違いに速く、

一直線に女の魔物へと向かって行った。


『ぐぬっ!』

しかし両手を掲げた状態の魔物の顔へとぶつかる寸前で、

下から生じた水柱によって岩は砕け散った。


『き、貴様‼』


「残念だったな、俺は復讐するなら自分の力でやりたいんでな。

お前みたいな奴から力を貰うなんて真っ平ゴメンなんだよ!」

俺は刀に手をかけ、叫んだ。


『えっ⁉真っ平ゴメンって何?』

『ちょっとレン黙ってろ!』


『くくくくくく…あははははは…』

魔物は笑いながら、徐々にその身に纏わりついた黒い靄を

より濃くしていった。


『上等じゃないか!面白い!面白いよ‼

 そんな答えを聞いたのは貴様が初めてさね!

 やってくれるじゃないか!』

正に怒り心頭と言った所か…

魔物の周りに無数の黒みがかったつららが浮かび上がってくる。


「そうか楽しんで戴けたようで何よりだ。

 お礼代わりに一つ教えてくれないか、お前は何者だ?」


『調子に乗るんじゃ無いよ‼』

魔物は周りのつららを一斉に解き放った。


直後、そのつららは俺に向かって無数に殺到する。


俺は片手を大地に着け、

「ブラストウォール!」


瞬時に黒い壁が現れ、それらを吸い込んで行く。


『それはさっき見てるんだよ!』

見ると、魔物の頭上に巨大な一本のつららが見えた。


『喰らいな‼』


黒い壁が消えた直後、間髪入れずに巨大なつららが向かってきた。


「ちっ!」

俺は刀に魔力を注ぎ、即座に抜き放った。


鞘から抜かれた瞬間に燃え上がった炎の刀身は、

迫りくる巨大なつららを見事打ち砕いた。


だが、

『お舐めでないよ‼』

立て続けにまた無数のつららが襲いかかって来た。


『キリがないな!』と思い、

大きく後ろへ跳び退けるが、尚も軌道を変え追撃が入る。


俺はそのまま両足に力を込め、

『エアムーヴ』と念じ、空へと浮かび上がった。


かなりの上空へと浮かんだが、尚もつららを飛ばしてくる。

勢いが弱まったそれを俺は刀で砕いて行く。


ある一定の距離でそれは止まった。

眼下では未だ魔物が周りにつららを備えて迎撃態勢をとっている。


『それならコイツでどうだ』


『俺魔法発動』


俺は右手を空へと掲げ、

「我が前にひれ伏せ、そして砕け散れ!」


「ブラスト・ディメイション!!」


俺の右手の上に磁場が形成されていく。

目標はあの魔物だ。

正直この魔法にどれ位の射程距離があるのか

ハッキリとは分からないが、届きそうな気がした。


徐々に魔力を込めると魔物の周りのつららが

砕けて水になって落ちていく。

魔物は左右の砕けて行くつららを見て、慌てた様に俺を見上げた。


握り込む拳に力を入れる。


だがその瞬間、

魔物は異変を感じ取ったのか、その身を湖へと沈めて行った。


『逃げられた⁉』

俺の拳は握り込まれると同時に磁場も消え去った。


『うーん参ったな…このまま遠距離から狙ってもいいんだが、

確実性に欠けるしな…』

俺は今あの魔物に魔法を撃ってみて感じた事がある。


さっき『ブラストウォール』で防いだ時などと違い、

つららを潰す時に違和感を感じた。

言葉で表すのは難しいが、魔力?が入った水を潰すのに

中の魔力自体は潰せたが、水の方は漏れたような感覚だ。

事実吸い込むのではなく、崩れいったのだから…


恐らくだが、どちらか一方しか吸い込めないのではないだろうかと。

『俺魔法』は非常に万能ではあるがそのイメージが難しい。

何故それが出来るのか、何故それが出来ないのかの定義が

『俺基準』なのだ。


湖の中に逃げ込まれても、やってやれない事は無さそうだが、

無理な事はあまりしたくない。

『時空魔法』の件もあるが、何より無茶な魔法には代償が必要だ。

当然魔力量の消費も半端ない…

例え俺の魔力が膨大であったとしても決して無限では無いのだから。


【そもそも魔法は何発撃てるのか?】

MPマジックポイントとか数値化されていれば分かりやすいのだが、

それは当然ながらに分からない。

レベルアップすれば簡単に上限が上がる…それも分からない。

というか『レベルアップ』という概念がまず数値化出来ない。

あくまでより使い慣れる()()()しかないはずだ。

無駄な魔力の消費や込める魔力の力加減を調整するのが重要であり、

ホ○ミ1回でMP3とか決まっているはずも無く、

魔法に込める魔力によって同じ魔法でも消費量は大きく異なるのだ。

同じ魔法1発でも10発分の魔力も込められるのだから。

かと言って魔力を込めれば効果が出るという訳でもなかったりするし、

ハッキリ言ってその時の体調や状況も大きく影響してくるだろう。

挙げて行けばキリが無いのだが、つまりまぁそういう事だ。


総じて俺がこれまで魔法を使ってきて分かった事は、

結局の所、『感覚()()に頼るしか無い』という事だ。

いっそのことファンタジーなんだから

ステータスとかあってもいいんじゃないか…と思ってしまう。

因みに俺の魔力残量はまだもう暫くは大丈夫だと思う、

あくまで感覚でだが、脱力感的なモノがまだそれほどないという点だ。

身体の内から湧く力も感じる。

以前の様に湧き上がる程の衝動は今は無いが、

まだイケると感じてはいる。



『仕方が無いか』


俺は近くにいたスーに声を掛けた。

「おい、話がある。」


『何ですかご主人?』

パタパタパタと飛んできて俺の肩に乗る。


「お前の力を借りたい」

俺はスーの目を見てそう言った。


『ご主人!ついにあちしのコトを‼』

スーは嬉しそうに目を輝かせている。


俺はスーへと魔力を注ぎ、打ち合わせをしてから、

眼下の湖を見下ろした。

補足

ドラム…エーゲ村を襲った盗賊の頭領で元エーゲ村村長の息子※あと作者が本当によく名前を間違えます。


ベスパ…エクシル村を襲った魔族の女、名前は魔族の将のバーンから聞きました。



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