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第38話 『黒い靄』

補足:霧と靄の違い

きりもやは、大気中の水蒸気が微小な水滴がとなって浮遊し、視界が悪くなる現象をいい、かすみは、空気中の水滴やその他の粒子によって視界が悪い状態をいう。 現象としては「霧」も「靄」も同じものを指すが、気象用語では、視程1km未満の状態を「霧」、視程1km以上10km未満を「靄」と呼ぶ。』らしいです。

第38話


『黒いもや


『ご主人、ご主人!大変だわさ‼』


目を開けるとスーが俺の腹の上で

バタバタと羽を羽ばたかせて喚いている。


俺はまさか夜襲か⁉と思い、

「何があった!」

と体を起こしてスーに聞いた。


『あっちで嫌な気配が強くなってるだわさ!』


「あっちってどっちだ?まさかミスティの方か⁉」

俺は慌てて立ち上がろうとしたが、


『ち、違うだわさ!村の外からだわさ‼』

とスーが俺の頭の上に乗って来て言った。


「村の外ってすぐ近くか?」

俺は少し落ち着いてスーに聞いた。

ちょっとシュールな絵図らだが、

スーが頭の上に乗った事で少し落ち着いたというか、

とりあえず体制を整えるだけの時間はありそうだと判断したからだ。


『うーん、多分ここからは少し離れているだわさ』

スーは俺の肩に下りて考える様な仕草で答えた。


「それでどんな感じなんだ」

肩に乗るスーを見ながら俺は聞いた。


スーが言うには、

何かどす黒い力が膨れ上がってきているのを感じるというモノだった。

とりあえず確認した方がいいと俺は判断し、スーと共に家を出た。


ミスティやリルルには伝えずに家を出た。

伝えなかった理由としては、

まだ眠ってから時間があまり立っていなかったので、リルルがあの状態だったのを気遣ったのと、

もし危険なものだったら色々とマズいと考えて、

とりあえず俺が確認してみようと思ったからだ。


レンは一応起こしたが、

『ねぇ、どこに行くの?』

『どうして外に出るの?』

と色々うるさかったので、

『とりあえず確認しに見に行くだけだからお前は寝ててもいいぞ』

と伝えている。

実際どうするかは見てから判断するつもりだが…


家を出ると真っ暗な中、いくつかの明かりが見える。

ほとんどの松明は消されていたが、

警戒しているのかまだ数本の松明が残されていた。


空には綺麗な月が浮かんでいる。

満月とまではいかないがその光はとても強く思えた。


村の門には数人の男たちがいたが、

ちょっと村の周りを確認してくると伝えて出してもらった。

一応逃げた盗賊が襲ってこないか警戒する為だと言っておいた。

それも無論嘘ではない。


『では俺たちも』と着いて来ようとしていたが、

俺は『足手まといだ』と丁重にお断りさせて頂いた。

救世主(レン)様がそうおっしゃるのならば…』と快諾してくれた。

そう、決してGOINGMYWAY(ゴーイン)だからではない。


門を出て、スーに『どっちだ?』と聞くとスーは肩から飛び立ち、

『こっちだわさ』と先導してくれた。


俺とスーは今、湖の傍まで来ている。

月の光を反射し、湖面がキラキラと輝き、とても幻想的だ。

思い人とでも来れば告白の一つや二つはしたくなってしまうだろう。

うん、今度はミスティとでも来てみるか。


『この辺りだわさ』

スーが湖の傍らで飛びながら俺にそう呼びかける。


俺は湖を見渡すが特に変わった様子は無い。

念の為と考え、『エアムーヴ』と念じ空から確認する為、飛び上がった。


何度か『俺魔法』を使って分かった事だが、

一度イメージが定着すると比較的念じるだけで使える様になってきた。

イメージを固定する為の、言い換えれば、効果をより発揮させる為の作業が省略できると言ったところだ。

ただ、使えるというだけであって

実際その効果を明確に強くする為には、魔力は勿論だが

やはり俺のイメージというかテンションが必要な事は変わらない。


空へと浮き上がった俺を追いかけてスーも飛んできた。

『ご主人と一緒!お空で一緒!』と何故か上機嫌だ。


俺は湖の周りも見てみたが特におかしな所は無い…

「おいスーどの辺りから感じるんだ?」


『お空でデート、ご主人とデート!』

俺の問い掛けを無視し飛び回っている。


俺は飛び回るスーをグワシと片手で捕まえて、

ニッコリと笑顔で

「おい!スー、スカイダイビングって知ってるか?

もしくはスキューバダイビングでもいいんだが?」


『す、すかい?すきゅーば??…キュ⁉ご主人目が怖い!』


「それでどの場所にその力を感じるんだ?」

俺はスーを離しもう一度同じ質問をする。


『う~ん、あの水たまりの中の方に感じるんだわさ』


『やはり湖の中からか…』

スーの返答がハッキリしないのはスーがここに来るまでは力を感じ取れたのだが、今は段々と薄くなってきているらしい。


その前に一つ確認しておくか、

『おい、レン!』


『…』


『おい‼』


『……なあに?』


『お前泳げるか?』


『えっ⁉』


レンは空ではなるべく意識を閉じたいらしい。

意識を開くと強制的に視界が見えてしまうからだ。

つまり、見たいと思うと視界が共有出来、見たくないと思うと、見えない様になる。

しかし、一つの感覚のみ遮断する事は出来ない。


つまり見たくないと視界を遮断すると聞こえないし感じない。

便利な使い方としては痛みを受ける前に意識を閉ざし、

治った後に意識を解放すれば痛みは感じなくても済む。

ただしその間の情報は無いのでタイミングは難しい。


また、眠っている時とは違い、

意識を閉ざすと何も無い空間で何も聞こえない状態を意識的に行わなければならない。

落ち着きのない俺にとっては非常にキツイ。

何より情報が無いので非常に不安だ。

そして時間の概念も薄い。


もしレンが死んでいたら、

そのまま一生意識が覚醒しなくなる恐れもあるのだ。

訳が分からず死ぬよりも、眠っている間に死ぬよりも辛いと俺は思っている。

自分が不意を突かれて殺されるのは仕方が無い。

自分が眠らされて殺されるのも仕方が無い。

全て自分が油断した結果だ。


だが、自らで意識を閉ざし、死ぬなんてたまらない。

それは俺から言わせれば他人に身を任せて自殺するようなものだ。


ちなみに意識を閉ざしている時も俺たちの声は聞こえるが、

解放している時よりも酷く聞こえづらくなるという難点がある。


今まで俺自身は眠る時以外はなるべく意識を閉ざさない様にしているが、

どうやらレンは俺が飛行する時や戦闘する時に

何度か意識を閉ざしていた結果、

かなり意識の閉ざし方が上手くなったらしい。

例えるなら座禅で悟りを得る様な感じといったところか…


それはさておき、レンは一応(・・)泳げるとの事。

ただ、近くの川で少しだけ泳いだ事がある程度で自信は無いみたいだ。

俺も一応は泳げるがあまり自信はなかった。

この身体なら行けそうな気もするが…


そうするとやっぱり…

俺はそのまま湖の中央へと飛行し、眼下を見やった。


結構近づくまで分からなかったが湖の中央辺りに来ると、

かなり奥の方に薄っすらと黒い霧の様なモノが見えた。


これか…


「おい、スーあれか?」


俺の近くを飛んでいたスーが俺の肩へと着地し、

黒い霧を上から覗き込む。


『あれだわさ!』


『俺魔法発動』


俺は片手を上へと掲げた。

「ブラスト」


正に口にしようとしたその瞬間、

湖から鋭いつららの様なモノが現れ飛んできた。


水面から四方八方俺目がけて飛んで来たソレを

俺は即座に空中で避けつつ、そのまま上空へと逃げた。


下を見ると、更に追撃するかの様に水柱が立ち昇り、俺を狙ってくる。

俺は身を捻り、間一髪の所でソレをかわしてから、

湖の外へと全速力で飛行した。


加速した瞬間、肩の上にいたスーが落ちた気もするが仕方ない。

俺は思わず出した自分のスピードに驚きながらも何とかコントロールし、

湖の縁へと着地した。


ズガガッガガガァァとかなり地面を滑りながらの着地であったが、

レンも意識を閉ざしていた様で余計な雑念に捕らわれずに済んだ。


『よし、コレ危ないな!』


実際マジで焦った。

いざとなれば重力魔法で何とかなるとは思っていたが、

風魔法との併用が結構難しい。

ただ飛ぶだけなら比較的簡単なのだが、

他の事に意識を集中しようとすると一気に制御しにくくなった。

空中での戦闘はまだ練習が必要だと改めて感じた。


俺は湖の方を見ると、未だ何かを狙う様につららが飛んでいた。


こちらに攻撃は飛んでこない。

よく見るとつららの周りに靄の様なモノが見える。

先程は気付かなかったがそういう事か…


俺が一人納得していると、

そこへ何かが俺目がけて飛んできた。

『キュイー』という声と共に…


『何だ、スーか』と俺は思ったが、

その後ろか一緒につららも飛んできていた。


俺は『ごしゅじーん』と叫びながら飛んできたスーをしゃがんで躱し、

両手を地面につけて、


『ブラストウォール』


瞬時に現れた黒い壁がつららを飲み込んでいく。


そして攻撃も止んだ所で、

『ご主人ひどいだわさ!あちしを置いて行くなんてぇ!』

俺の(かたわ)らでスーが泣きそうな感じで鳴いている。


それを見た俺は少し可哀そうになって、

「スー、見事なオトリ(・・・)役だったな、グッジョブだったぞ!鳥だけに!!」

と親指を立ててサムズアップしてやった。

俺の中ではキラン!という効果音付きだ。


それを聞いたスーは…

『ご主人の…ばかぁああああ!』

と本当に泣いていた。


しかし実際、コイツをこのままにしておくわけにはいかないな。


さてと、どうするか…

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