第36話 『執念』
30話~36話のサブタイトル変更しました。
やっぱりタイトルって重要ですよね…
第36話
『執念』
「ブラスト・コレクト!」
叫ぶと同時に、俺の掲げた左手と
腰横に開いた右腕の手の平の上に、黒い球体が現れる。
それを見たマーレンだったはずの男は、
「ぐわぁぁあああああ‼」
と物凄い叫び声を上げて、
「お前さえ、お前さえいなければオデわあぁあああ‼」
凄まじい怒号とも言える声を上げながら俺に向かって来ようとしたが、
それが一歩足を踏み出した瞬間、俺は右手の玉をヤツに撃ち出した。
黒い球はその男に向かって一直線に飛んで行き、
防ごうとした男の剣先も削り飛ばして、
正にそれが着弾する寸前で…男の胸の前にピタっと止まった。
俺はすかさず左手に魔力を注ぐ。
そのまま黒い球は男に纏わりついていた靄を吸い込み始めた。
「ぐぎゃぁあああああああああああぁあ‼」
男は折れた剣を握ったまま天を仰ぎ、
まるで感電したかの様な状態で体を震わせながら叫んでいる。
徐々に纏っていた靄も薄くなり、
もう少しで黒い球へと全てが吸い込まれるという直前、
「い、イヤダァ‼一人で消えるのはヤダァアアアア‼」
そう言って自らの力を吸われている玉を壊そうと、
持っていた折れた剣を自らの胸の前にある玉へと突き刺した。
だが、玉はバッチと音をたててソレを弾き、
軌道のそれた剣はそのまま男の腹へと突き刺さる。
『あがががが……』と声を漏らしながら、
最後に残った黒い靄もその玉へと吸い込まれて消えた。
俺はすかさず左手の玉に魔力を注ぎこみ、
『戻れ』と念じ、その男の前にあった黒い球を左手の玉へと吸い込んだ。
暫くするとマーレンの身体は倒れ込み、
俺の手の平の上にあった玉も握り込んで消した。
周りには数名の盗賊と小屋の近くで座り込んで抱き合う女の姿があった。
『しまったな…』俺は心中では失敗したと感じていた。
本当ならあのままヤツに何もさせないまま
吸い込んで消し去る予定だったのだが、あそこでまだ動けるとは…
『ブラスト・コレクト』ver2
今回は詠唱付きでイメージも更に強めて放った俺魔法だ。
詠唱にも意味を持たせ、より明確な形で効果を付けたつもりなのだが、
相手の意思というか執念の方が上だったって事か…
そんな事を考えながら倒れたマーレンの傍へと近づく。
仰向けに倒れているマーレンは自らの腹に剣を突き立て、
血を垂れ流しながら口を大きく開けている。
今度は演技じゃないんだな…
俺はそう思いながら顔を覗き込んだ。
こんな奴でも一応助けてやるとは言ったしな…
その瞬間、ビクンとマーレンの体が動き、
目を見開き、ゴボッと口から血を吐き出した。
俺は思わず後ろに身を引いて目を逸らした。
『レン、まだ生きてるよ!』
レンが驚きを俺に伝えてくる。
『いや、もうダメだな…』
見るとマーレンは目を見開いたまま目から、口から血を流しながら死んでいた。
『裏切らなければ考えたんだがな…』
俺はそのまま女たちの方へと歩いて行った。
女たちはガクガクと震えていたが、
「大丈夫か?」
と俺が声を掛けると、
一人は『ヒッ』っと声を上げ、もう一方の女に抱きついた。
「あ、あなたは助けてくれるんですか?」
抱きつかれた方の女はそう俺に聞いてきた。
「あんたらがそれを望むんなら助けてやってもいい。」
「お、お願いします!」
女は懇願するような目で見つめてきた。
そこへ、
「おい、これは一体どうなってやがるんだ⁉」
と男の声が後ろからした。
先程の数人の盗賊たちと後から来た盗賊たちが話している。
「俺らが来た時には、あそこのガキが黒い球を手にしてて、
それになんだか吸い込まれていって、マーレンの野郎が倒れたんだ!」
うん、わかりにくい説明だが…好都合だな、捕まえる手間が省ける。
「選べ、お前らの選択は二つだけだ。
俺に黙って従うか、両腕、両足失って湖に沈むかだ。」
その後、円月刀で脅したり、小屋の中で伸びてた盗賊を引っ張り出し、
笛で仲間を呼ばせたりして、瞬く間に盗賊たちを捕らえて行った。
俺は20人ほどを気絶させ、縛り上げていった。
そして、女を連れて人質たちが捕らわれている場所へと向かった。
途中この村の若者で女も顔を知る者たちが現れ、
俺と一緒に人質を助けに行くとついて来たりもした。
人質たちは村長の家のすぐ近くにある建物の中に
数カ所に分けて捕らえられていた。
だが、解放するのにあまり手間はかからなかった。
特に牢屋の様なモノがある訳でも無く、普通に縛られ捕らえられているか、
窓を塞がれた部屋に纏めて閉じ込められているかだったので、
すぐに見張りたちを倒して解放していった。
だが村長だけは見つからなかった。
仕方が無いので捕らえた盗賊を締め上げて聞くと、
『俺たちも知らねぇんだ!お頭がどこかに連れて行っちまったんだよ』
と言った。
そう言えばドラムは村長の息子だったんだっけか…
あらためて少し考えた後、俺は盗賊たちに、
『この村に地下にある部屋とかはないのか?』と聞くと、
盗賊の代わりに村人の一人が、
『地下に部屋があるのは村長の家だけです』と言った。
そして村長の家の地下室から村長が見つかった。
無残に四肢を引きちぎられた状態で…
お決まりと言えばお決まりの展開だった。
地下室に捕らわれていると確信があった訳では無く、
隠すなら地下かなと思った程度だったがビンゴだった。
それから俺はミスティたちの元へと向かった。
村の者たちには仲間を呼んで来ると伝えて、
盗賊が他にいないか確認をしておけと指示を出し、村を出た。
既に辺りは日も落ちかかっており、オレンジ色の空になっている。
夕暮れ時と言った感じだ。
村を出た俺は、
森へと入った所で重力魔法を使い空へと浮かび上がった。
一応村人が二人ほど見張り台にいたが、見られない様にしたつもりだ。
村を見渡すとそこには動き回る村人や数人毎で家々を確認している姿が見える。
村の周りには今の所、他に人影は無い。
念の為逃げた盗賊がいないか確認したのだが、
どうやらもう既にどこかに行ってしまったか、身を潜めているのだろう。
後者ならまた来るのかもしれないが、
流石に今すぐには襲ってきたりはしないだろう。
どうせ、この村が次に襲われた時にまた俺がいるとも限らないし、
何よりあの力…
『ねぇ!グレン‼いつまでこうしてるのさ!
早くミスティたちの所に行こうよ!!』
レンが高い所が怖いのか、それともミスティが心配なのか、俺を急かしてくる。
まぁ多分両方だろうな。
俺は仕方が無いので湖を見やり、『行くぞ!レン‼』
訓練がてら湖へと風魔法を併用して飛行した。
レンは相変わらず怖くて頭の中で悲鳴を上げている。
湖を見ると一面夕日に照らされてとても綺麗だ。
確かあの辺りに何かあった様な気もしたが今は何もないな。
見間違いか…
そうして馬車を発見した俺は少し離れた場所へと着地した。
空中操作は思いの外良好だったが、俺は若干疲れが出てきていた。
俺は暫くは大丈夫だろうと思い、
『レン、暫く頼む』と伝え、
『何かあったら呼んでくれ』
とレンにバトンタッチした。
俺がレンと交代した直後、馬車の方から、
「レーン!グレェーーン‼」
と声が聞こえた。
ミスティたちが大きく手を振っている。
レンがそこへ走って行き、リルルとミスティに合流した。
馬車ではどうやら食事の支度をしている最中だった。
まだ食べてはいない状態だったが、心底ホッとしている様子だ。
盗賊たちにどう食べさせるか悩んでいたからだそうだ。
俺はここを離れる際、盗賊たちには念入りにそれはもう念入りに、
『もし二人に危害を加えたら絶対にお前らをぶっ殺すからな』とか
『逃げ出したら死ぬより辛い結果になるから覚えておけよ』とか言ってあった。
リルルにも、もし逃げ出したり、トイレに行きたいから縄を解いてくれとか
言われたらコレで狙えと盗賊たちが持っていた弓を渡しておいた。
実際に何人かがトイレに行きたいと言ったので、
その時には二人一組で湖の側に連れて行き、
縄を解かずに片方にズボンを下げさせて常にそちらを弓で狙いながら、
逃げたら撃ちますよと言って用を足させていたらしい。
正直大きい方はグレンが戻るまで我慢してと言っていたらしく、
モジモジしているのが一人いた。
漏らさなくて何よりだ…でも男手が無かったとはいえ、たとえ小でも、
リルルには悪かったな…
ミスティ様の為なら『例えどんなものにでも耐えて見せます!』と
握りこぶしを作って答えていた。
最初の時、盗賊は女だからと舐めていて、
ズボンを下ろされたままの状態でリルルに振り返ったり、
下を露出した状態でそのまま逃げ出そうとしたらしいが、
リルルがすぐさま弓を放って威嚇すると大人しくなったらしい。
ミスティはリルルの話を聞いて赤くなってモジモジしていた。
相変わらず可愛いなぁと思っていると、
「ミスティもトイレに行きたいの?」
とレンが流れに逆らわず定番の天然さを発揮し、
「レ、レンの馬鹿!」
と平手打ちをくらっていた…
俺も痛いんだからやめろよな。
その後、お茶を飲みながら簡単に状況を説明し、
盗賊たちにも順番に用を足させて水を与えてから、
俺たちは馬車で村へと移動した。
馬車で移動中にスーはしきりに俺に、
『あちしも役にたったんだわさ』
『ご主人褒めて褒めて』とか言っていた。
ミスティ曰く、リルルが盗賊を連れて行き離れている際、
残った盗賊たちを見張っている時に、
盗賊たちが一斉に逃げ出そうと企てたらしいのだが、
スーが魔力を使ってそれを止めたのだそうだ。
よく見れば盗賊たちはキュイキュイと騒いでるスーを見る目が、
何か恐ろしいものを見る様な目で見ている気もする。
『こいつら懲りもせずに全く』と思いながらも、
まぁ予想は出来たけどな。
村の近くまで着いた所で俺は
『レン、先導して村に入って説明しといてくれ』
と告げた。




