第34話 『潜入』
第34話
『潜入』
『あれか…あとはあの男は…』
村の中央にある建物を見ながら、
俺はその周りの場所へと目を移していくが…
『やはり建物の中か…』
とりあえず、村の内部を確認して、
盗賊のいる場所や建物までのルート等を把握した。
それからスーっといった感じで降下して、
マーレンのいる場所へと戻った。
「おい、お前があそこに行って門を開けてもらえ。
その隙に俺が侵入する。」
マーレンに向かってそう告げた。
「えっ⁉そんな!それじゃ俺が殺されちまうよ‼」
「安心しろ、そうなったら俺が助けてやる。多分な。」
「た、多分ってなんすか⁉」
「あぁ、分かったよ、助けてやる。ただし裏切るなよ。」
「も、勿論じゃないですか!」
それから2つ3つほどマーレンと打ち合わせをしてから俺たちは行動に移した。
マーレンは時折渋る様な仕草を見せていたが、『お前、村のやつらを助けたくないのか?』
と俺が聞くと、『わ、分かりましたよ。やりますよ…』と渋々ながらも了承した。
まずはマーレンが村の門へと近づいて行く。
「誰だ!」
高台から声が聞こえる。
「お、俺だ!この村のマーレンだ!」
マーレンは声を震わせながら答えた。
「何しに戻って来た!お前は俺たちを裏切ったんだろうが⁉」
もう一人の男が見下したように言ってきた。
「ち、違うんだ!俺はあいつらから逃げて来たんだ‼
あいつらの情報も聞いているから、
それを皆にも聞いてもらおうと思って…」
マーレンは必死に男たちに主張する。
高台の男たちは少し話をしてから、
「ちょっと待ってろ!今、頭に聞いてくる!」
そう言ってから一人が高台を降り、もう一人は弓矢を取り出した。
既に村の壁際近くまで来ていた俺は、
マーレンに注意を払っているその隙に壁を越えて村の中へと潜入した。
壁といってもそれほど高くも無く、
俺にとっては魔法を使うまでも無くジャンプをすれば十分な高さだった。
村の中へと入った俺は、周りに人影が無い事を確認し、
素早く近くの物陰へと身を隠した。
暫くすると慌てて一人の男がやってきて、
門の近くにいた男と話をしている。
それから高台の男が、
「おい、今門を開けてやるからそこから動くんじゃねえぞ!」
と弓を構えながら外に向かって叫んだ。
どうやらマーレンを中に入れる様だな。
『ねぇ、グレン、これからどうするの?』
『多分、マーレンはこれからドラムの所に連れて行かれるだろうから
ひとまずはあいつらに着いて行く』
門が開かれると、男が二人出て行って、
それからマーレンは両手を縛られた状態で村の中へと入って来た。
「おら!さっさと歩け‼」
一人の男が先導し、もう一人の男がマーレンの尻を蹴飛ばす。
前のめりになりながらマーレンは、
「ど、どこに連れてくんだ?」
「頭の所に連れて行ってやるよ。話を聞いて下さるとさ。」
男はニヤニヤしながら言っている。
マーレンはオドオドしながらそれに付いて行った。
そのまま連れて行かれた場所は村長の家にではなく、
村の外れにある小屋の前だった。
そこで先頭を歩いていた男の一人が小屋の扉をノックする。
「お頭ぁ、連れて来やしたぜ。」
少しして、中から
「おう、入れ!」と声が聞こえた。
後ろで縛られていたマーレンは後ろにいた男に肩口を掴まれ、
中へと入って行く。
俺はそれを見届けてから、小屋の裏手へと周り、
窓へと顔を近付けて、中の様子を伺った。
中には大きなベッドが一つ置かれ、その上に大きな男と一人の女性がいた。
部屋の端には女がもう一人座り込んでいる。
ドラムは体を起こし近くにあったパンツを履いていた。
見るとドラムも女性も裸であった。
部屋の端の女性も恐らくは裸だろう。
今はシーツの様なものを身に纏って震えている様だ。
俺はドラムのケツを見せられてウンザリしていたが、
『グレン…これって…』
『あの野郎、片腕が戻ってやがる!』
俺も女を抱いているとは思わなかったが、
今はそれよりもドラムの腕が元に戻っている事に驚きを感じていた。
よほど優秀な治癒術師でもいるのか、それとも俺の知らない薬や魔法でも
あるのかと考えていた。
そこへ、
「失礼しやす。」
と声が聞こえてからマーレンと男が入って来た。
ドラムはパンツ一丁でそれを出迎えた。
「おう、マーレン、テメェどのつらさげて戻ってきやがった?」
縛られた状態のマーレンは中に入って、
「メルっ!ジャネット⁉」
マーレンは二人の女を交互に見ながら驚いていた。
「あぁん、オデの女たちの名前を気軽に呼んでんじゃねえぞ!」
ドラムは自分の問いかけを無視した事より女の名前を呼んだ事に怒っている様だ。
「また女の前でボコられたいのか、
今オデの女たちにお仕置きしてやったばっかりだってのによぉ。
いやご褒美か。」
「うわぁああああ‼」
マーレンは叫びながら、前へと出ようとした。
だが、直後に後ろにいた男に捕まり、
今は身を捩らせ、取り押さえられている。
それを見ていた俺は、
『マズいな』と思った。
本当ならマーレンが俺たちを裏切ったフリをして、
仲間になった様に見せかけてから、
今なら人質を使ってあいつらを油断させて捕らえる手があると
持ちかけさせる手はずだったんだが…
「おい、マーレン、それでテメェは何しにここに来たんだ?」
ドラムは取り押さえられたマーレンの顔を見下しながら言った。
マーレンは涙に目を滲ませながら、
「ち、ちくしょう、こんなモン見せられるくらいなら
あいつらに協力するんじゃなかった‼」
『ダメだな』、俺はそれを聞き、急遽プランを変更した。
『仕方が無い』
そして俺は即座に小屋の入口に向かった。
入口には先ほどの男ともう一人男が立って何やら話をしていた。
「たくよぉ、さっきからぎしぎしベッドの音がうるせえし、
たまに女の声も聞こえてくるんだぜ。これじゃ蛇の生殺しじゃねぇかよ。」
「そうぼやくなよ、お前も後で人質の女どもを抱けばいいじゃねぇか。」
「そうだな、でも頭がイイ女は軒並み潰しちまったからなぁ。」
「馬鹿野郎、頭の悪口いうんじゃねぇよ!言うんならせめて俺がいない所で…」
俺はその男の後ろに回り込み首筋に手刀を叩き込んだ。
「おまっ‼」
もう一人の男が声を出す前に、
「声を出すな!出したら首をぶった切る。」
俺は努めて冷静にその男の首筋に刀を突き付けていった。
男はコクコクと頷いている。
「人質はどこにいる?」
「お、おまえ何で…」
少し震えた声で男は言いかけて、
「余計な事を言うな、俺はこの村の人質はどこだと聞いている。」
俺はゆっくりと男に近づき刀を横にしてその首筋へと這わせた。
「わ、分かった。教える!教えるから助けてくれ。」
額に汗を滴らせながら男は引きつる様な声でそう言った。
男から場所を聞き出し、話し終えた直後にその男の首にも手刀を入れ、
先程の男同様に泡を吹いた状態の二人を、小屋の裏へと置いた。
『かなり手加減したんだがな』
実際首筋に手刀なんかで気絶するのかとも思ったが
やはり今の俺のスペックなら可能だった様だ。
加減はかなり難しいみたいだが。
俺は再び小屋の中を見やると、
ドラムは既に服を着ており、
その前に縛られたマーレンが泣きながら訴えている姿が見えた。
「あいつはもうこの村の中にいる!
でも人質がいるから手を出せないはずだ‼
だから人質を使ってあいつらを捕らえるのに協力するから…」
どうやらマーレンは当初の計画と少し変えて、
俺を売って話を進めようとしているらしいな。
『ねぇ、どうするの?』
レンが頭の中で俺に尋ねる。
『先に人質を助けてからと思ったんだが、時間が無さそうだな…
止むを得ないな。』
俺は窓を刀の鞘で叩き割った。
パリーンという音と共に、一斉にこちらに目が向いた。
「誰だ!」と小屋の中から声が聞こえる。
俺は身を屈める様にして、急いで小屋の入口へと回った。
いち早く入口についた俺は扉の前で待ち伏せをし、
出てきたヤツに一撃かまそうと身構えていた。
そこへ、バン!と勢いよく扉が開かれた。
そこで俺はそいつに一撃喰らわせようとしたが…




