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第33話 『騙された男』

第33話


(だま)された男』


マーレンと共に村へと向かった俺は、

レンと共に村での立ち回りについて話していた。


『ねぇ、グレン、村にはどうやって入るの?』


『まずは中の様子を見てみるから例の魔法を使う』


『えっ⁉例のって…ひょっとしてアレの事⁉』


『覚えていたか、レンにしては物わかりが良くて助かるな』


『僕にしてはってどうゆう事だよ!

っていうかアレまた使うの⁉僕はやだよぉ』


『文句言うなよ、今の内に慣れておけ!』


まずは中の様子を探り、あの大男の居場所を見つける。


盗賊たちからは

『お頭は大抵は村の中央にある一番大きな建物の中にいる』と言っていた。

マーレンからの補足でそこは村長の家だった所だそうだ。


本当はそのまま突入して一気にケリをつけたかったのだが、

マーレンに『村に着いたらどうするんですか?』

と尋ねられて、『一気に片付けるから心配するな』と言ったら、

『あ、あの、無茶をされると人質が…』

と言われたので一応慎重に事を進める事にした。


人質を取られてるのに逃げ出したお前に言われたくないけどな、と思ったが、

敬語で聞いて来たので許してやろう。

マーレンは漏らして以降は俺たち全員に敬語になっている。

まぁ無理もない。


エーゲ村の村人はマーレンを入れて147人だったそうだ。

大体エクシル村と同じくらいの住人数だ。

だが、既に何人かは殺されたり逃げ出したりしたらしく現在の人数は

分からないとマーレンは言っていた。


因みに盗賊の数は50人程で盗賊たちもハッキリと人数を把握していなかった。

逃げ出したりしたら分かるようになってんじゃないのか、と聞いたが、

新参者が増えて来ている事やそもそも逃げ出したら分かるというより、

お頭の気分で見せしめや粛清が行われる為、

キッチリとした数は逆に覚えていない方が都合が良かったとの事。


じゃあ逃げられるじゃねえかとも思ったが、

新参者はともかく顔を覚えられている者は怖くて逃げられなかったらしい。


今、マーレンに案内され村の手前の森の中にいる。

湖から森を抜け、村へと続く道を歩き、村の入口が見えた所で

森の木陰へと身を(ひそ)めた所だ。


村の入口の上には高台の様な見張り小屋があり、そこから二人の人影が見える。


『結構上に上がった方がいいな』

俺が頭の中で呟くと、


『ちょ、ちょっと!グレンやっぱりやめようよ‼』

すかさずレンから制止がかかる。


気持ちは分からなくもないが…

本当はスーにでもやってもらえれば良かったのだが、

スーは今ミスティたちの所に置いてきている。

リルルを信用していない訳じゃないが、万が一に備えてである。


『それじゃ行くぞ!』

俺は『嫌だよぉ』というレンの声を頭に響かせつつ、


『俺魔法発動』


『エアムーヴ』


空へと飛び上がった。


下ではマーレンが『うわぁ!』と一言、

驚きの言葉を発した後、ポカンと口を空けて見ていた。


『高い!高いっ!!もういいよぉ‼』

レンは相変わらずだ。


上空へと上がった俺はある程度の高度、

大体30メートル位を維持していた。

ビルで言うと10階程度の高さだろう。


村は湖より高台にあり、この場所からなら湖も一望出来た。

非常に綺麗だ。

だが、よく見ると真ん中の方が少し薄暗い。

まるで水中に靄が掛かっている様な…


『ねぇ!グレン‼早く村を確認してよ!』


周りはかなりの絶景だ。

俺としては今まで空を飛ぶことなんて夢のまた夢だったので

とても胸が高鳴る光景だ。


だがレンにはそうではないらしい…

『分かったよ』


村は上空から見ると、その全体が見える。

大きさはエクシル村の半分くらいか。


村の中央に他の物より若干大きい建物が見える。

『あれか…あとは大男は…』



【ドラムside】


時間は少し遡る。

レンたちが湖へとやってきた丁度その頃。


「か、頭ぁ、大変でさぁ!マーレンの野郎がいません‼」

男が家へと慌てた様子で入ってくる。


「あぁ!」

男は如何にもチンピラが吐きそうな返事で不満を表した。


ここは元村長の家で今は盗賊団のアジトになっている。

その部屋の真ん中で仰け反る様にしながらソファーに座り、

その両脇には二人の女を侍らせている。


如何にも面倒くさいと言った感じで入って来た男を見やり、

「誰だぁそいつは?オデは今こいつらの相手で大変なんだぞ。」


ドラムは左側に座る女を自分に抱き寄せて、

その頬に自分の口を押し当てた。

それを右側では顔を引きつらせながら酌をしていた女が座って見ている。


「マーレンってのは、今お頭の横にいる女たちを

自分の女だと言い張ってた奴ですよ。」


それを聞いた男は、女から顔を離し、

「ああ!思い出したど!あのしょんべんマーレンか‼」

言いながらガハハハと大きな口を開けて大笑いしていた。


ようやく話が進みそうだと、

「お楽しみの所すいやせんが、如何いたしましょうか。」


大きな男はその大きな笑いを止め、

「ああ⁉んなもん殺すに決まってるだろうが!

脱走したら殺す!おめぇそんな事も分かんねぇのか?」

ギロリと睨み付けながら返した。


告げに来た男は、額に脂汗を浮かばせながら、

「わ、分かりやした!それじゃ何人かで行って探してきやす‼」


そのやり取りを聞いていた隣に座って酌をしていた女は、

更にその表情を歪ませた。

しかし、その歪んだ表情を見せない様にして顔を逸らすと、

ドラムはソレに気付きテーブルに自らの拳を叩き付けた。


「おめぇ、さっきから何しけたツラしてやがんだ!コラァ!」


バキッツ‼


ガラガラガッシャーン‼


木製のテーブルは見事真っ二つに割れて、

その上に乗っていた酒や料理を床に盛大にばら撒いた。


女たちは二人とも恐怖でその顔を歪ませていた。

出て行こうとしていた男も思わず立ち止まって見ていた。


「こりゃあまた、お仕置きが必要なようだなぁ。」

にやぁと言った感じでドラムの顔もいやらしく歪み、女を見た。


女たちは嫌々と首を左右に振っている。


まさにドラムの手が女たちに伸びようとしたその時、


「お頭ぁ!湖の側に馬車が止まってますぜ!しかもその馬車の近くに

マーレンの野郎もいやがった‼…ってアレ?頭何かあったんですかい?」

入って来た男は、真っ二つに割れたテーブルを見ながら

今更ながらに気付いた様子で尋ねる。


ドラムは女たちからその男へと視線を移した。


「おい!その話詳しく聞かせろ。」



オデの名前は『ドラム』

このエーゲ村の村長の息子だった。

10年前に村を飛び出した。


何故村を出たのか…

オデには好きな子がいた。


その子はいつもみんなに馬鹿にされてたオデに、優しくしてくれた。


こどもの頃、村の祭りで踊りの大会があった時に

その子に良いところを見せるためにオデはメチャクチャ頑張って練習した。

何をやってもトロかったオデは一生懸命練習した。


結果は…5人中5番目だった…

でもその子は馬鹿にされながら練習してたオデの為に

『がんばったで賞』と言って鉄のメダルをくれた。

オデはそれを首にかけて、『絶対オデのお嫁さんにする』と誓った…


月日が立ちオデが成人を迎えた頃、

オデは告白しようと彼女の家に行くと、そこに彼女の姿はなかった…


数日前にこの村にやって来た冒険者と一緒に村を出て行ってしまったのだ。


オデは頭の中が真っ白になった。


それから暫くして村にやってきた冒険者と一緒に彼女が戻ってきた。


彼女は見るからに変わっていた。

前に会った時よりも派手な格好に派手な化粧…


それでもオデはメダルを握りしめ彼女に会いに行った。


彼女はオデにまた会えて嬉しいと言ってくれた。

オデにまた優しくしてくれた。


次の日オデは彼女に頼まれた。

「ねえ、ドラム。わたし今とっても困ってるの…このままじゃわたし…」


彼女はお金に困ってるらしい。

必ず返すからお金を貸してくれないかと言われた。

今の一緒にいる冒険者には借金があって別れられないのだと。


オデは彼女のためにオヤジの金を盗んだ。

オデはこん時、生まれて初めて人の物を盗んだ。


彼女にお金を渡したら彼女は泣きながら、これでやっと別れられる。

と言い、これからはオデと一緒に暮らしたい。と…


次の日、彼女は泣きながらオデに抱き付いてきた。

冒険者の男に別れたいと言ったら、オデに会いたいと言っていると…


冒険者の男は別れてやるから金を寄越せと言ってきた。


オデはふざけるなと思ったがまたも彼女が泣いて頼むので金を渡した。


それから彼女はこのまま村で暮らすよりも、

町で稼がないとお金を返せないと言ったので…

金は返さなくていい。と言うと…


「それじゃダメ!!明日わたしと一緒に村を出ましょう!」と言われた。


あの冒険者はしつこいからこのままだとまた迷惑をかけてしまうから

他の場所で一緒に暮らしましょう。

明日湖の畔で待ってるから…と…


その日の夜、オデは親父に呼び出された。

金はどうしたんだ!!と…

オデは彼女の話をしたら、お前は騙されたんだと言われた。

そんなはずないとその日オデは親父と大喧嘩した。


翌日オデは『冒険者になる』と言って家を出た。

湖に彼女がいると確信して…


だがそこに彼女の姿はなかった…


代わりにソコには1通の書き置きと1足の揃いの靴が置いてあった。

『ごめんなさい、これ以上あなたに迷惑をかけられない…』と

そこには彼女の謝罪とオデへの愛の言葉が書かれていた。


オデは必死に湖に潜って探したが彼女は見つからなかった…

何度か溺れかけてから湖を離れた。


近くの町へとたどり着いたオデはある者を見た。

あの冒険者だった。

村へ彼女とやってきたあの男だ。


オデは怒りがこみ上げた!

それはもう今までで一番怒った。

急いでその男を追いかけると路地裏で

その男の笑い声と、女の笑い声が聞こえた。


『えっ!?』と今まで生きて来た中で一番驚いた。

彼女の声だ!!

オデは今すぐそこへ出ようとしたが…

『ハッハッハッ、しかしあんなに簡単に騙されるなんてね』


『もう、わたしがあんな馬鹿で不細工なヤツ好きになる訳ないでしょう』


オデはとっさに姿を隠した。

見ると二人は楽しそうに話をしていた。


オデはガクガクと体か震え出した…


『全く、お前も人が悪いな、昔から仕込んでたってんだから驚きだぜ』


『何言ってるのよ、あいつに優しくしてあげたお礼を貰っただけなんだから。

それに村長の息子じゃなきゃ誰があんなヤツの相手するかっての』


それを聞いた瞬間オデの中で何かが弾けた…

そこからはあまり覚えていない。


気がついたら真っ赤な自分の両手と目の前に物言わぬ二つの体が転がっていた。


そうしてオデは捕まった。


刑は死刑にされるところを特別に奴隷にされる事で免れた。

犯罪奴隷として、見世物として戦わされる毎日が続いた。


何年、何十年たったのか分からない…


ある時オデを買った男がこの戦いに勝ったら自由にしてやってもいいと言った。


オデは死に物狂いで戦った…

しかし勝った後で『次もちゃんとやれよ』と言ってオデの頭をポンポンと叩いた。

ブチッと俺の中で音がした。

見るとそいつをその衝動のままに殺していた。


襲い掛かってくる男たちを薙ぎ倒しながら身体中に痛みを感じた。


そしてまた気が付くと町の外れへと出ていた。

オデの腕にはまっていた腕枷もいつの間にか外れていた。


オデはボロボロな身体を引きづりながら町を出た…

どうやってこの湖までたどり着いたのかも分からないが、

瀕死の状態になりながらもオデはソコに着いた。


辺りはもう真っ暗な中、空に浮かぶ月の明かりだけが湖を照らしていた。


オデは湖を見詰めながらふと、首に掛かったソレを見た。

ソレは鉄のメダルだった…

見るとただのゴミにしか見えないが、オデはこれを捨てられなかった…


だが今となっては何の意味も無い。

そう思いメダルを握りしめてから、そのメダルを湖へと投げ込んだ。


オデは昔オヤジに聞いた話を思い出した…

この湖はかつて精霊が住んでいるとされていたが、

娘が一人身投げしてからは、それから多くの報われぬ恋をした者たちが

身を投げてしまっている湖だと…


投げ込んだメダルが沈んだ先をそんな事を思い出しながら見ていると、


『ゴボゴボゴボォー』と湖の水面が荒れ、黒い(もや)の様なモノが浮かび上がってきた。

水面から現れたソレは月の光を反射した様な輝きを持つ鱗の身と女性の様な顔をしていた。

目はつり上がり口が耳まで裂けており、身体の多くは衣の様な青白い布に包まれていた。

化け物の様でもあったが不思議とオデは怖くは無かった。


奴隷として戦った時は魔物とも戦わされた時もあった。

それにもう、今はどうでもいい…


その女?は両手をかかげ、

『お前が投げ込んだのはこのゴミクズか?それともこの素晴らしいメダルかえ?』


ソレは先程オデが投げたメダルと

反対側にはとてもキラキラと輝く宝石みたいなメダルだった。


オデは迷わず『そっちのメダルだ』と示した。


すると女は裂けている口を更に裂けさせたかの様な表情をして、

『いいだろう、くれてやろう』

と言った。


気が付くとオデは湖の側で倒れて朝を迎えていた。

ボロボロだった身体は痛みも無くなり治っていた。


身体の奥底から何か力のようなドス黒い感情が湧き出していた。


それからオデは…

更新時間不定期ですみません。

最近昼間と夜とが逆転中です!


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