第31話 『盗賊とのエンカウント』
ね、眠いです…
第31話
『盗賊とのエンカウント』
「ちょっと待って下さい!」
それまで黙って話を聞いていたリルルが声を上げた。
「なんだ?」
俺は面倒な事を言いそうだと思いながらもリルルに聞いた。
「助けられるかどうかは分かりませんが、
このまま見過ごす訳にはいかないのではないでしょうか。」
リルルは拳を握りしめ、俺の顔を見ながらそう返す。
それを聞いたマーレンはぱぁと明るい表情を見せた。
俺はそれを意図的に無視し、
「お前は一刻も早く国に戻りたいんじゃないのか?」
俺は回答は分かっていたがそう問い返した。
「勿論、ミスティ様を無事送り届けねばなりません、
ですが…例え我が国の事では無くともこのままという訳には!
せめて近くの町に救援を要請しに行くというくらいならばと。」
まぁそうなるよな、
護衛対象であるミスティを危ない目に合わせるわけにはいかないが、
マーレンと一緒に助けを呼びに行くぐらいならと。
「そ、それで結構です!」
マーレンはこのチャンスを逃すまいとリルルに必死に縋りついた。
しかも本当に縋りつきそうな勢いだ。
さっきからこのマーレンとか言う男、
リルルやミスティを見る目がなんかイヤラシイんだよな。
話を始める前、二人を見た瞬間から顔が思いっきり
『デヘッ』って感じだったし、話をしてる最中にも
ミスティの胸の辺りとか見てやがったからな。
俺の中では即処刑コースだったが、
まぁ、ミスティが可愛いのは分かるし、
リルルもそれなりにというか、かなりの美人だからな。
だが…やはり!この男気に入らん‼
ええ、お父さんは断じてこんな二股野郎は認めませんよ。
コイツと一緒に馬車の旅とか俺の中では超却下だったのだが、
「そうだよ!知らせに行くぐらいならいいんじゃないかな。」
ミスティも加わってきた。
これまたマーレンは瞳を輝かせ、この子マジ天使みたいな顔をしている。
しかも両手を組み合わせながら、その瞳は全身をなめ回すように見ている。
よし処刑だな。
結局近くの町へと救援に向かおうと決まりかけたその時、
『キュイキュイキュキュー!!』
と鳥の声、スーの声が響いた。
『変なやつらが来ただわさ‼』と。
マーレンを除く3人は一斉に立ち上がった。
リルルとマーレンにはスーの言葉は分からない。
リルルは鳴き声の雰囲気で何事か察したのだろう、
腰に差してた短剣の柄を握り身構えた。
マーレンは俺たちを見て、ただならぬ事だと思ったのか、
『なに?なに?何があったの⁉』と辺りをキョロキョロと見ていた。
ミスティはスーの事が心配だったのだろうか。
即座に馬車の前部方向へと走り出した。
俺も続いてそれを追いかける。
馬車の前へと出ると籠の中からスーが文字通り飛び出てきた。
『あそこだわさ!』
キュイキュイ喚きながらその方向を示す。
見るとその先には、
見るからに大きな巨体を揺らしながら近付いてくる者がいた。
その周りには数人の男も付いて来ている。
そこへ、
「あっ⁉…奴だ!奴らが来たぁ‼」
と少し遅れてやってきたマーレンが腰を地に落とし叫んだ、
「奴ら?盗賊か…」
近付いて来る男は5人。
一人は巨大な斧を肩に乗せて悠々と歩いてくる大きな男。
そしてその両脇と後ろに2人づつ着き従えている感じだ。
先頭の大男は俺たちを見てニヤぁと表情を歪め近付いて来て、
「おい!お前ら、喜べ!女が二人もいるぞ。しかもすげぇ上玉だ。」
ニタニタと周りの男たちに向かって下卑た笑いを浮かべながら言った。
周りの男たちも『お頭ぁ、俺たちにも回してくださいよ。』とか
『あんまり派手にやって壊さねぇで下さいよ』とか…
まるでグエッヘッヘとでも効果音が付きそうな空気を漂わせながら、
ミスティやリルルを値踏みしていた。
俺の中でブチッと音が鳴りそうな直前、
「おんやぁ?お前マーレンじゃねぇかぁ?」
周りの男の一人がリルルの斜め後ろにいたマーレンに気付いて声を掛けた。
「マーレンだと?あぁ、あのへなちょこマーレンか。
テメェこんな所で何してやがる。確かオデは金目のモンか女を…
あぁ、なるほど。その女たちをかっさらおうとしてたのか。」
俺たちはその言葉にマーレンへと視線を送る。
勿論俺はその男たちから視線を外さず横目にチラリと見ただけだが…
するとマーレンは分が悪いと見たのか、
へたれこんでいた腰を上げてから、
「そっ、そんな事…」
一度否定しようと言葉を発しようとしたが…
「いやぁー、バレちゃいましたかぁ。
参ったなぁ、もう少しでお頭に極上の女たちを
連れて帰るはずだったのに、流石はお頭だ。見抜かれたかぁ。」
と如何にもわざとらしく言い始めた。
話していた大男は斧を持っていない方の手を振り上げてから、
「そうかそうか、オデたちの手伝いをしてたのか。」
「そうですよぉ、もうちょっとで…」
そう言いかけた瞬間、
大男は手を振り下ろした。
するとマーレンの頭部目がけて鋭く飛ぶモノが飛来した。
そう『矢』だ。
キン!
矢はマーレンに当たる直前に叩き落とされた。
一番近くにいたリルルの短剣によって。
それを見たマーレンは、
「ひぃいい!」と悲鳴を上げながらまたもや地面に尻餅をついている。
「ちっ!仕方がねぇ、楽に殺してやろうと思ったがこりゃまたお仕置きだな。」
大男はつまらなさそうな顔をして、そう呟いた。
それを聞いたマーレンはガクガクと体を震わせ、股間を盛大に濡らしていた。
更にそれを見た周りの男たちが、
「ひゃは、見ろよ、マーレンの野郎また漏らしてやがるぜ!」
馬鹿にした口調で囃子立てている。
ここまで俺は黙って努めて冷静に成り行きを見守っていた…
訳でもない、矢を放ってきた敵の場所を探っていたのもあるが今一番重要なのは…
さっきから俺の右腕にとても柔らかいモノが触れていた。
そう、ミスティが大男が現れてから俺の腕を胸に抱えていたのだ!
俺はその柔らかな感触とひたすら戦っていた。
中学生か!と思われるかもしれないが、
15歳でこのボリュームはやはり反則だ‼
「あと、そこのガキは要らないな、さっきからオデの女とくっついてるし、
何よりその目が気に入らねぇ。」
ギロリと俺に目を向けて大男がそう言った。
そう言われた俺の横にいたミスティは少し慌てて俺の腕を離して赤くなったが、
そのままキッとその大男を睨み付けていた。
「それじゃあ、捕らえてマーレンの時みたいに
いたぶるってのはどうですかい?」
周りの男たちは面白そうにそう進言していた。
「確かにそれもいいかもなぁ、
女をオデに寝とられて、オデの前で無様に縋りついた挙句、
漏らして泣きついてくる様は面白かったしなぁ!」
大男の話にギャハハと周りの男たちは笑いを上げた。
「安心しろガキ、そこの嬢ちゃんもあそこの女もちゃんとオデが
責任もって可愛がってやるからさっさと…」
ズシャ!
「グギャアアアアア‼」
大男の図太い片腕が落ちた。
数瞬遅れて腕から血が噴き出た。
男の懐に飛び込んだ俺は刀を握りながらソレを黙って見詰めていた。
ゴミを見るとまではいかないが
侮蔑の表情であったのは間違いないだろう。
大男は腕の切り口を抑えながら蹲り
「て、テメェ!なにしやがる‼
このクソガキがぁあああ!、おい、てめえらぶっ殺せ‼」
それまであまりの一瞬の出来事に周りでポカンとしてしまっていた男たちは、
短剣や剣を抜いて俺に襲い掛かろうとした。
「リルル、ミスティを頼む。」
俺はリルルに顔を向けてそう告げた。
あっけにとられていたリルルは、
「は、はい!」
と俺に返してからミスティの傍へと向かった。
股間を濡らし『あぁあぁ』言っているマーレンは当然スルーだ。
「このガキャア!」
周りの男たちが一斉に俺に迫って来た。
俺はふぅ、と一息入れた後、
まず俺に切りかかって来た、前にいた男二人の、
片方の短剣を持った腕だけを切り落とし、
もう一方の男の攻撃を躱してからその腕も切り落とした。
男たちは『があああ!!』と言いながら蹲っていた。
その後ろの二人も同様に武器を持った腕の方を切り落とした。
俺は一度刀を振り、血を振り落とした後、大男の方に向き直った。
大男は既に立ち上がって、斧を残った片腕に握っており、
俺にその大斧で向かってくるか…と思いきや、
「くそがぁ‼やっちまえ!」
と自らの斧を乱暴に振り回しながら後退している。
次の瞬間、俺に3方向から一斉に3本の矢が飛んできた。
しかもご丁寧に頭、体、足元を狙ってきている。
俺はしゃがんだり、ジャンプ、身を捩らせるのも難しいと判断し、
即座にその場で刀を体を軸に回転させるようにして
矢が早く到達する順番に、斜めにして振り払った。
一斉に3本の矢は俺に到達する事なく落ちた。
それを見た大男は、驚愕の表情を浮かべつつも、
「し、しかたねぇ!、お、女を狙えぇ‼」
と大声で叫んだ!
俺はちっ!と盛大に心の中で舌打ちしながらミスティの元へと跳び出した。
視界の端で大男はそれを見届ける事なく後ろへと走り出していたが、
一旦俺はそれを無視して今はそれよりもとミスティたちの元へ向かう。
ミスティとリルルに向かって迫りくる矢は、
今度は4本、俺の方向からだと防げるのは2本まで。
俺は即座にそう判断したが無論何とかして見せる。
ミスティたちに迫った矢を俺は2本切り落とし、
リルルが1本防いでくれた。
残り1本の矢はミスティにまさに当たるかという直前、
俺が残った左手でソレを受け止めた。
掴めるかとも考えたが、万が一にも失敗したらシャレにならない。
しかも俺にはまだ戦闘経験と呼ばれるものが少なく、
絶対の自信がある訳では無かったので安全策という事でもある。
矢を受け止めた俺の手は無傷だ。
矢を受ける前に既に手の平には魔力を薄く張っていた。
貫かれる事なく、矢ははじかれている。
万が一即死性の毒とか塗られてたらやだしな。
ただ本当にこれで防げるのかはやってみなくちゃ分からなかったので成功して
ホッとしている自分がいるのも否めない。
「さてと、舐めた事してくれた礼をしなくちゃな。」




