第21話 『善は急げ』
第21話
『善は急げ』
その後、神殿に戻ってきたロックベルとマリアと一緒に
フリージアも来ていた。
最初、フリージアが俺の傷を治そうとしてくれたが、
その時点で俺の傷は既に治りかけていた。
一応回復魔法をかけてもらい、俺たちは話をした。
相変わらずレンは蚊帳の外状態だった。
『やっぱトーリーのが良くない?』とか
『なんで僕にだけこの鳥の言葉が分からないのさ』
とか俺にとっては比較的どうでもいい事に拘っていた。
ロックベルは鳥についてこの神殿から出さない事を
主張したが、マリアに宥められて、今は黙っている。
後で聞いた話だが、この二人は夫婦ではなく姉弟らしい。
マリアがマリアベルで姉、ロックベルが弟との事。
フリージアにはこれまでの経緯を話し、
今後の事を話すにあたってドランクを交えて話すことを俺は告げた。
結局スーについては一旦保留としていた俺だが、
このまま神殿に置いておいても魔族に襲われる危険があるし、
助けてくれた事は事実で、俺についていくぞアピールを凄まじく
行った結果、一緒に行く事になった。
ロックベルはめっちゃ『キュイキュイ』言って俺に懐いてくるスーを
見ながら、
「いや、しかし」
「だがそれでは…」
などとごねていたが、
最終的には、
『これでようやくお役目から解放されるんだし、
残りの人生楽しめるじゃないの』
という急に憑き物が落ちたかのような
マリアベルに諭されて見送る事になった。
これまたどうでもいい話だが、
マリアベルは村の村長が好きだったが、
お役目があって、昔セルジオからプロポーズされた時に断ったらしい。
どうやら今だにお互い意識しているらしく今後
おしどり夫婦としてやっていくとかいかないとか。
俺とミスティとフリージアと1匹は、
こうして神殿を後にした。
村への道すがら、フリージアから花の事を聞いた。
「多分あの花は『フルムーンスフィア』の事だと思うわ。
この村で特殊な花と言えばあれくらいしか思いつかないし、
ただ、何故あの花を魔族が欲しがったのかは分からないけど」
『やっぱりか…』
欲しがった理由も多分だが想像がつく。
「多分、あの蛇女、名前はベズパとか言ったか。
あいつが欲しかっただけだと思うぞ。バーンはその花については
知らないみたいだったしな。」
「なるほどね、私も伝承でしか知らなかったけど女性なら
欲しがっても無理はないだろうし…
誰かさんもあの花を欲しがってたみたいだしね。」
フリージアはニヤっとした感じで俺の方を見てきた。
『ギクッ』といった感じでレンが『僕は知らないよ』と言っている。
ミスティは何の事だか良くわからないらしく、
肩に乗せたスーとじゃれている。
村に着いた俺たちは諸々の事はともかく、
一先ず、フリージアの家へと向かった。
フリージアの家に着いた頃には既に日は傾き始めていた。
家の扉を開き、中へと入り俺たちもそれに続く。
部屋の中に入ると既に起き上がってテーブルでお茶を飲んでいる
ドランクと、お茶を注いでいるミスティの母のアリスティがいた。
二人は『あっ』という感じで俺たちを見た。
ノックもせずに開けたので少しビックリしているようだった。
フリージアにしてみれば自分の家だからそれもまぁ止む無しか。
部屋に入るとミスティはそのままフリージアの近くまで行き、
『ただ今』と言ってから肩にいるスーを見せていた。
フリージアは、
「ドランク、ちゃんと寝てなさいって言ったでしょ。」
「もう大丈夫だって言ってるだろ。それより…」
ドランクと目が合った。
「ドランクおじさん!」
レンがドランクに駆け寄って行った。
「本当にもう大丈夫なんだね。」
嬉しそうにドランクに話し掛けた。
「お前、本当にレンなのか?本当に⁉」
ちょっと信じられないといった感じで問い掛ける。
「当たり前じゃないか。って、あ、そうか、おじさんも
グレンに会ってるんだっけ?」
「そうか、お前もちゃんと分かってるんだな…
それにしても、良かった。」
本当に良かったと感じているんだろう。
ドランクの目にはうっすら涙が滲んでいた。
「心配ばっかりかけやがって、お前は本当に」
鼻をすすりながらドランクはレンを抱きしめた。
『まぁおっさんに抱きしめられるのも仕方が無いか』
俺は一先ずここはレンに任せて感動の対面を見守った。
暫く柔らかな空気が流れていたが、
レンの凄い腹音がその空気を破った為、
全員で机を囲んで食事をしながら話を始めた。
これまでの出来事について
『神殿での事』
『魔族との戦闘』
『スーの事』
そして、
「それで、レン、いいえ、グレンはこれからどうしようと
思っているの?」
一通り話をした後、フリージアがそう切り出した。
これまでの経緯については大まかにフリージアが話をして
レンが俺の補足を説明していくといった流れだった。
魔法の詳細や魔族との会話の一部は話していない。
レンにではなく、俺に意見を求めたのはレンの説明が
俺の補足に基づくものだと感じたからだろう。
「まずは、村を出ようと思ってる。」
「ちょ、ちょっと待て!急にそんな事決めるんじゃねえよ‼」
それまで黙って話を聞いていたドランクが慌てて俺に言う。
「すまないが、俺とレンが村を出るのは既に決定事項だ」
神殿での戦いの後、レンに説明した際にレンには伝えてあった。
ただ、レンはその時にも『聞いてないよ』とか『勝手に決めないでよ』
とか言っていたが、
『俺たちが出て行かなければまた村が襲われるんだぞ』と
告げると黙り込んでいた。
まだ食い下がろうとするドランクに、
「俺がこのままここにいると村が襲われることになる。
魔族にも神殿の力が欲しければ俺を狙うように伝えた。
何より、俺の事を何とかするためにも調べに出る必要がある。」
それを聞いたドランクは俺の胸倉を掴んで、
「だからお前が勝手に決めるんじゃねぇって言ってるんだよ‼」
「待っておじさん、僕もそう思ってるんだ。
いや、そう決めたんだ。」
レンがドランクを見つめながらそう答えた。
「レン⁉お前…」
「ドランク、あなたの負けよ…」
目を閉じて話を聞いていたフリージアが頭を左右に振りながら
やれやれといった感じで口にした。
「あたしも一緒に行く‼」
ミスティが思わず声を張り上げた。
「ミスティ…」
アリスティは娘の顔を見て呟いた。
「お母さん、わたしももう成人したし、巫女としての役割も
終わったわ。何よりレンみたいな危なっかしい幼馴染を
一人で行かせるなんて出来ないもの‼」
変な使命感を帯びた様相で、ふんぬと拳を握りしめたミスティが
アリスティに向かってそう言った。
ふぅと一息ため息をついてから、
「分かったわ、あなたは昔からこうと決めたら
テコでも動かないものね。
でも、女の子なんだからあまり危ない事はしないでね。」
娘の目をジッと見つめながらアリスティは言った。
いや物わかり良すぎだろ!娘さん村出てくんだよ、
ちょっとコンビニ行ってくるレベルじゃないんだよ。
と俺は思ったがこの世界の常識は分からんしな…
「それで、いつ出発するんだ。」
ドランクも諦めたのか、そう聞いてきた。
頭の中でレンが『いつ出発するの?』と聞いてきたので、
「明日だな」
『『『『『えっ!』』』』』
5人が見事にハモッた。
そろそろ1章も終わりです。
ようやく村から旅立ちます。




