第113話 『終わらない模擬戦』
すみません、仕事が忙しくて更新が出来ませんでした(>_<)
第113話
『終わらない模擬戦』
「は、はい!承知しました!!」
思わず顔を上げてそう答えた。
『おい、レン緊張しすぎだ!』
『だって仕方ないじゃないか‼』
「「⁉」」
ミネルバは勿論の事、イリアですらその様相に驚いている様だった。
『言葉遣いはともかく挙動不審にはなるなよ』
『………』
『まあ仕方がないと言えばそうかもな…』
俺がとった手段はレンと入れ替わる事だった。
レンにとっては確かにいきなりの事で動揺するのも無理からぬ事だったかもしれないが、俺にとっては模擬戦を行うにあたっては知らない戦い方の経験を積めればラッキーなのである。
しかも正直このレベルならば見る前提の方が都合がいい。
むしろ俺よりもいざという時の為にレンに実戦に近い訓練をさせた方がいいと判断した結果だ。
「おい、グレン、大丈夫か?」
ミネルバが少し、眉を寄せて怪訝そうな表情をしている。
心配そうというよりは、何かを訝しんでいる様な視線だ。
「えっ⁉あっ!はい、大丈夫で…い、いや、大丈夫だ!」
若干後半だけ口調を変えて、強がって見せるレン。
「………」
少し考える様な僅かな沈黙を見せたミネルバだが、
「まあ、いいか…よし!それでは始め!!」
ミネルバの開始の合図を受けて、早々に動き出すかと思われたが両者共にその場からは動かない。
片や杖を前方に構え、警戒しているかの様な仕草で相手を見つめるイリアと…
『ねえ、グレン、どうすればいい?』
『………』
緊張してどうすればいいのか分からないレンがいた。
やれやれ、参ったな…
確かにいきなり模擬戦だと言われても難しいのは分かるが、こうも緊張していては問題だな…
『とりあえず相手の動きに合わせて自分なりに考えて動け、負けても構わないが無様な負け方をしたら後で超絶特訓を受けてもらうからそのつもりでな』
『超絶って何!?』
『まあ超ヤバイ絶体絶命な特訓だな』
『ヤバイ!?絶体絶命!?って死ぬの!?』
『ああ、間違えた、絶句だったか?』
『いやいやいや!!』
『ほら、相手が動いたぞ』
ミネルバの開始の合図を受けてイリアはどう攻めるか必死に考えていた。
『多分私の魔法でもあの人にはきっと通用しない』
姉の戦いを見て、その姉から言われた言葉を噛み締めながら目の前にいるグレンと呼ばれる男を見つめる。
そしてレンとグレンとのやり取りが交わされる中、イリアは決意した。
『でも私だって!!』
イリアは杖を自らの頭上に掲げて、
「フリーズアロー!!」
イリアの杖の更に上空に横並びにして三つの矢が現れた。
それは氷で形作られた直径50センチ程の氷柱の様なものだがその尖端は鋭利に尖っている。
「スナイプ!!」
イリアは掲げた杖を降り下ろすと同時にそう言葉を発した。
すると頭上にあった三つの矢が即座に前方に向けて放たれた。
『ほう』
グレンはそれを見て心の中で感嘆の声をあげた。
それが驚くほどの威力を持っていたからでは無く、また物凄いスピードで近付いてきたからでもない。
三つの矢が三方向に分かれて向かってきたからだ。
通常この『フリーズアロー』は氷の矢を作り出し、標的に向けて放つ魔法だが、グレンの知るそれは一直線に向かってくる魔法だったからだ。
確かに追尾的な要素があってもおかしくはないのだが、グレンはそれを知らなかった。
それに追加で放たれた魔法による効果がこれかと驚いたのだ。
『魔法に魔法を重ねられるのか』
『スナイプ』
これは標的に対して魔法の命中度を上げる魔法だ。
残念ながら追尾して追いかける効果は無いが、使い方に幅がある魔法である。
目標に対して軌道を曲げたり、ある種の方向性を持たせる事も出来るのだ。
イリアから放たれた氷の矢がレンへと迫る。
頭上から迫り来るそれにレンは、
「ウィンドーム」
手を上空に掲げてそう唱えた。
すると即座に風が舞い、掌から半円状に体を包む風の膜が現れる。
そして三方向から飛来した氷の矢がそこにぶつかっていく。
カチンと言う音が三つ同時に鳴り響き、氷の矢がその膜へとめり込んで止まった。
そして風の膜が消え去り、それらはレンの足元へと落ちた。
『やるじゃねえかレン』
『へへっ』
『だが次が来るぞ』
『うん、分かってる』
イリアもそれが防がれる事は分かっていたのか、直ぐに次の行動を起こす。
『風の魔法…』
「ファイヤーストーム!!」
杖の頭を前方に向けて唱えるとその頭の部分に赤い光が発せられ、球体上に浮き上がったその箇所から唸る様にして炎が伸びてくる。
その炎が回転する様にしながら今度は一直線にレンへと延びてくると、
「ウィンド!!」
レンの足元に風が吹き上がる。
そのまま真っ直ぐに向かってくる炎の渦が近付く中で、レンは足へと力を込めて飛び上がる。
上空へとかわしてイリアを見た。
するとイリアは杖を持つ右手とは逆の手を上空へとかざしていた。
そう、レンが飛び上がっていた上空へと向けて。
「ファイヤーボール!!」
イリアからレンに向けて赤い球が放たれた。
レンは空中でそれを見つめる。
『当たる!!』
イリアはそれを見てそう確信していた。
空中で逃げ場は無い、仮に風の魔法でそれを防いでも相性的に少し位ならダメージが与えられるはずだと。
確かに風の魔法で防ぐならそうなるだろう。
圧倒的な魔法力の差があれば掻き消す事も可能だが、グレンならともかくレンには今はそれほどの魔法は発揮出来ない。
レンとグレンとの違いとして、戦い方にも大きな違いがある。
「ウィンドウォール」
レンは空中で風の壁を発生させた。
ここまではイリアの予想通りだったが…
「!?」
イリアはそれを見て意表を突かれた。
レンの前へと壁が現れると考えていたのだが、今現れた風の壁はレンの後方に姿を見せたのだ。
そして炎の球がレンへと当たる直前で、レンが姿を消した。
炎の球がレンの後ろに展開されていた壁に当たり、爆炎を撒き散らす。
『何処に!?』
イリアは上空へと視線をさまよわせレンの姿を探す。
するとトンと言う軽い音が、後方から聞こえた。
直ぐ様振り返ると、そこには掌を自分に向けたレンの姿があった。
『どうしよう…』
レンは迷っていた。
空中で風の壁を蹴り、イリアの後方へと回転して見事着地を決めて、手をかざしてみた所までは良かったがその後どうするかを考えていた。
本来ならこれで決まりだとも言えるのだが、止めとなる一撃を放てない。
相手が参ったしてくれれば御の字なのだがレンはここから攻撃するのを躊躇っていた。
一つにレンは女の子相手に攻撃したくない。
一つにレンは相手に怪我をさせたくない。
一つにレンは優しすぎるのだ。
『やっぱりな』
俺はそれについては最初から分かっていた。
俺とレンとの大きな違いはそこにある。
俺は力ずくでも相手をねじ伏せる戦い方が多い。
レンは相手の攻撃をかわしたりいなしたりしながら戦うスタイルだ。
例えるなら俺が剛でレンが柔と言った所だ。
そして何より性格上でレンは相手を気遣いすぎる。
闘いに向いていないと言うのもあるが、決め手に欠けてしまうのだ。
イリアは咄嗟に参ったと言うべきだったが、実際に出た言葉は違った。
恐らく相手が何かを言ってきてくれていればその言葉も出たかもしれない。
しかし無言でかざされたレンの手に焦りと恐怖を感じてしまったのだ。
無論レンにその様な意図は無かったのだが、イリアにはそう感じられてしまったのだ。
「バーストロンド!!」
杖から手を離し、両手を地面につけるようにしてしゃがみこんだイリア。
『おい!!レン避けろ!!』
『えっ!?』
目の前に円形に光が見えた。
ほのかに赤く光ったそれはイリアの周りを囲む様にして浮かび上がる。
そして次の瞬間その円形の光の線から炎が吹き上がった。
『バーストロンド』
炎の魔法の一つで自分の周囲に炎の柱と言うべき壁を沸き上がらせる魔法である。
完全な壁では無く無数の柱が立ち込める形だ。
イリアの奥の手であり、本来ならランクC冒険者に放てる様な魔法では無い。
そして威力を考えれば相手を殺しかねない魔法でもある。
主に防御としてなら使ってもいい魔法だが、模擬戦で攻撃として使っていい魔法では無いだろう。
無論相手がCランク冒険者であればと言う点では…
『あっ!!』
イリアは咄嗟に自分が放った魔法で我に返っていた。
目の前には自らが放った炎の柱が取り囲んでいる。
即座にその魔法を取り止めようと魔力を切る。
『人に対してこの魔法を使うなんて…』
イリアは目を閉じて俯きながら唇を噛み締める。
イリアはこの魔法を攻撃に使うつもりは無かった。
そしてこれまでにも防御以外で使った事は無い。
『グレンさんは!!』
慌てて顔を上げて前を見るイリア。
すると目の前には土の壁がそびえ立っていた。
それは二メートル程の壁で所々焼け焦げてはいるが、綻ぶ事無く整然とそれが立っている。
そして数秒してそれが崩れ去った後に現れたのは無傷のグレン、いやレンだった。
「まだやる?」
レンは両手をついて座ったままのイリアに頬をポリポリと掻きながら困った様な表情を見せて言った。
「………参りました」
首を力無さげに左右に振ってイリアは答えた。
「そこまで!!」
ミネルバの声が辺りに響いた。
『中々やるなレン』
『結構危なかったけどね…』
実際に際どいタイミングであった。
恐らく俺なら間に合わなかっただろう。
と言うより俺なら後ろに避けるか、身体強化で防いでいたと思う。
勿論あれで死ぬ事は無いと判断したが、ダメージを受けるとは思っていた。
あの瞬間レンは土の魔法『アースウォール』を発動していた。
レンは俺と違って土の魔法も使える。
適性的には風と土の魔法を得意としているのだ。
無論火の魔法も使えるが水の魔法は得意では無いらしい。
逆に俺は風の魔法も使えるが土の魔法は使えない。
より正確に言えば使えると言うレベルに無い。
発動するのに時間が掛かる上にその効果も弱いのだ。
それに対して今のレンの土魔法は発動時間もその効果も驚くほどの早さだった。
『誰にでも得意な事ってあるもんだよな』
『………』
「グレンさん…その…すみませんでした…」
イリアは俯きながらポツリと呟くようにして言葉を発した。
「んっ!?どうしたの?」
レンはキョトンとして首を傾げる。
「い、いえ…その…さっき…後ろに回り込まれた時点で私の負けだったのに…あんな魔法を撃ってしまって…」
イリアは顔を横へと向けて気まずそうに目線を泳がせている。
「ああ、その事か、正直驚いたよ。あんなに直ぐに反撃されるとは思ってなかったから、それにしても君は凄い魔法が使えるんだね。今度僕にも教えて欲しい位だよ」
ニッコリと微笑んで手を差し伸べたレン。
「えっ!?」
恐る恐る顔を上げて手を差し出したレンを見つめるイリア。
それを首を傾けながら見ていたレンの視線を受けてイリアの顔は赤く染まっていった。
そしてちょこんとレンの手に自分の手を置いた。
レンに預けた手が優しく包まれた後、グイッと引き上げられる。
「あの魔法って中にいても大丈夫だったのかな?」
「えっ!?あっ!は、はい!!」
何を言われているのか一瞬分からなくなったイリアだったが、恐らく自分の身を心配してくれているのだろうと分かり、更に顔を赤くしながら慌てて返答した。
「やれやれ、姉だけじゃなく、妹にまで手を出すなんてグレンは手が早いねぇ」
頭を掻きながらミネルバが近付いてきていた。
「えっ!?」
レンは何の事だかさっぱりな表情で小首を傾げていたが、目の前で真っ赤になっているイリアを見ればそれは一目瞭然であった。
『まあこれで終わりだし、よしとするか』
結果的にも三連勝だし、合格しただろうと俺は思ったので後は細かい手続きとか昇格の説明やらはレンに任せてOKだろうと考えた俺だったが…
「おっと安心するのはまだ早いよグレン」
『『えっ!?』』
俺とレンはミネルバの言葉の意味が分からず疑問符を浮かべた。
「それじゃ四回戦を始めようか」
ミネルバはニンマリと笑いながらそう告げたのだった。
更新速度は下がりますが少しずつでも更新出来る様に頑張りますm(__)m




