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タイムネメシス~二度目の人生は二つの入れモノde~  作者: あすか良一
エグザイル編Ⅱ
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第109話 『いきなりの挑戦』

第109話


『いきなりの挑戦』



「ここですかね?」

「うん、そうみたいだね…」

「おおぅ…」

「………」

リルル、ミスティ、ライト、エルザの四人はエンリに教えてもらった場所へと辿り着いた。


予想していたよりも大きな建物と言うか、大きなテントみたいなそれに驚いていた。

例えるならサーカスなどを行う天幕みたいな建物だ。

実際サーカスでは無いのだが、今も多くの人たちが出入りしていた。


そしてその入り口には『ギルド主催 定期大会開催中』と書かれた大きな垂れ幕が掲げてあった。


「大会とかあるんですね」

「そうだね、何だか教えてもらえる様な雰囲気じゃない気がするけど…」

「んんぅ!燃えるぜ!!」

「………」


四人はとりあえず、その修練場であろう場所へと入っていく。

一応エルザの頭の上には鳥も一匹乗っていたが、その鳥はさほど興味が無い様で今は大人しく寝ていた。


「うわあ何か凄いね…」

「そうですね、なんと言うか活気がありますね」

「うおぅ!たぎってきたぁ!!」

「………」


入り口を抜けて中へと入ると、天幕の中と言うよりは木材で出来た建物の中であり、そこはロビーの様な開けた場所になっていた。

更にその場所には今、多くの人たちがいる。


冒険者風の格好をした者たちや、それとは別で普通の服装をした者たちが入り乱れている。

男性が多いがその中には女性の姿もある。


そう言った中で目立つのは体格のいい大男や上半身裸に近い筋肉質な男、細身でありながら武道家の様な格好をした女性等々。

皆一様に鍛え上げられた肉体を現す様な者たちだ。


「これってみんなこの大会に参加するために来たのかなぁ…」

「いえ、恐らくは観戦に来た人たちも一緒なのだと思いますが…」


リルルは奥に示されている案内板を指して、

「あそこから先がどうやら分かれているみたいですね」


そこにはカウンターの様な場所を挟んで、『選手』『観戦』と大きく書かれた札が上に付けられた入り口が見える。

更に『選手』と書かれた入り口の横には少し小さく『一般』と書かれた札が付いた入り口も見えた。


「一般って何だろう?」

「さあ…?とりあえずあそこで聞いてみましょう」


まだ試合は始まっていないらしく、ロビーにいる者の多くは並んでいるという訳では無く、それぞれが皆、各々何かをしている。

ストレッチをしている者や食事をしている者、談笑している者、真面目な顔で話し合っている者たち、特に何かをせずに考えていたり、休んでいたりする者たちなど。

広いこのスペースに集まる人たちの賑わいはあり、町の中よりも明らかに活気があった。

特に箝口令が敷かれた今の状況からすれば尚更それが強く感じられたのかも知れない。


四人は奥にあるカウンターへと向かった。


「あの、すみません、この修練場で訓練を受けるにはどうすればいいんでしょうか?」

リルルがカウンターの中にいる職員らしき女性へと話し掛けた。


「入会希望の方ですか?」


「入会?」


職員の女性は何も知らないリルルやミスティたちに説明してくれた。


この修練場は入会すると自分の受けたい講座や訓練を受けさせてくれるらしい。

お試し入会と言うのもあるらしく、短期間だけ利用したい方にお勧めだそうだ。

無論講座を受けずに訓練場を使うだけでもいいとの事だ。


「…入会金として一人銅貨1枚。そして別途施設使用料がかかります……しかし!今なら入会希望者限定で、なんと入会金込み込みで一ヶ月間施設使いたい放題で、たったの銅貨3枚でお受けできますよ!」

事務的な説明の最後、ニンマリと笑顔を浮かべて、カウンター越しにずずずいっと身を乗り出してきて、ここぞとばかりに押してくる職員の女性。


それに圧倒されつつもリルルは、

「い、いや、とりあえず()()()でお願いします」


きちんと入会するかは見てみないと分からないし、ここに長期滞在するかも分からないので、まずはお試しからという事である。


一度落ち着いてふぅーとため息をついた職員は、一瞬疲れた様な顔を見せたが、それも次の瞬間には再び笑顔を取り戻してから、

「体験入会ですね、畏まりました。でしたら銅貨1枚で一週間は施設利用が無料となります。ただし、延長される場合にはまた改めて手続きが必要となりますがそれでも宜しいですか?」


「あっ、はい」


「でしたらこちらに必要事項を…失礼ですが代筆の必要はございますか?」

職員はリルルに上目遣いで尋ねてくる。


「いえ、大丈夫です」


「そうですか、助かります。それではこちらを…」

紙を一枚カウンターの下から取り出してペンと共にリルルへと差し出そうとした。


「すみません、それを四枚頂けますか?」


「えっ!?」

女性職員はリルルの周りにいたミスティやライト、エルザを見て、

「失礼ですが、そちらの方々でしょうか?」


「あっ、はい、ダメでしょうか?」

リルルはひょっとして年齢制限とかあるのだろうかと不安になったが、


「あっ、いえ、失礼致しました、特に年齢制限とかはございませんよ」

少し焦った様子で追加の紙を三枚出した。


「ありがとうございます」

リルルはその紙を受け取り目を通す。


必要とする記入事項は下記の通り。

一、名前

二、年齢

三、受講したい講座のタイプ


「すみません、この最後の項目はなんと書けばいいんですか?」


「あっ、はい。そこにはお客様が希望する講座のタイプを記載して頂いております。基本的には戦士系、魔法系、盗賊系、格闘系等ですね。その他にも冒険者の心得や武器の種類の記載など受けたい講座の内容などありましたらご記入下さい」


「なるほど、分かりました」

リルルとミスティは字が書けるので、ライトとエルザに聞いて二人の分も含めて記入した。


リルル

18才

戦士系、剣術希望


ミスティ

15才

魔法系、魔法全般希望


ライト

14才

戦士系、剣術希望


エルザ

10才

格闘系、特に無し


提出された紙を受け取り、職員の女性はそれに目を通してから、

「畏まりました、それでは一応ご確認ですが、当修練場における一部規約をご説明させて頂きます。一つに施設内におけるトラブルに関しましては全てお客様の自己責任となります。基本的には破損及び破壊による物の修繕費、または人的被害等による請求等があるかもしれません。また迷惑行為やそれに該当した場合にも罰金が課せられたり除名処分とさせて頂く場合がございますのでご注意下さい。尚、原則として施設内ではこちらの指示に従って頂きますが宜しいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」

代表してリルルが答える。


「それでは入会金として銅貨4枚頂きますが、ご利用は()()からで宜しいですか?」


「今日からではダメなのでしょうか?」

リルルは銅貨4枚をカウンターへと出しながら尋ねる。


「すみません、ご覧の通り、本日は大会開催となっておりまして、講座や訓練場の利用も行われておりませんので…」


「なるほど…この大会はこの修練場に入会されている人たちが出ているんでしょうか?」


「はい、基本的にはそうですね。定期的に修練の成果を競う意味合いで行われています。ただ一部ギルドから特別に参加される場合もありますが…」


「それ、俺たちも出られるのか?」

ライトがカウンターへと身を乗り出してくる。


「えっ!?流石にそれは…」

ミスティが思わず声を発してライトを見る。


「ええ、まあ一応は可能ですが…」

女性職員は困った様な笑顔を浮かべている。


「まだ間に合うんですか?」

リルルがそう聞くと、


「ええ、あともう少しで受付を終了しますが…」


「リルルさん、出るつもりなの!?」

ミスティはリルルのその発言に少し戸惑いながら確認する。


「…そうですね、自分の今の実力を知っておきたいと思っています…」


「俺も出たい!!」

ライトが手を上げて声を上げた。


「おい、おい!!さっきから長いんだよ!!さっさとそこをあけろ!!」

後ろから大きな男がライトを押し退けてカウンターへと割り込んできた。


「何だよ!!」


「うるせえ、ここはガキの遊び場じゃねえんだ!」

男はそのまま女性職員に詰め寄り、

「エントリー用紙をくれ」


「ちょっと待てよ!!俺たちが先だぞ!!」

ライトがその物言いに反発して男の前へと入ろうとする。


「止めなさい!!」

リルルがそれを止めて、ライトを制する様に抑えると、

「ああん、まさかお前らも大会に出るとか言うんじゃないだろうな?」

男はニヤリと口元を吊り上げてからライトやリルルたちを見ている。


「そうだよ!文句あるのか!!」

ライトは後ろから押さえられながらも、男を睨み付けた。


「がはははは!!馬鹿言ってんじゃねえよ、この大会にお子様の部なんかねえんだよ、お前なんか出てもボコられるだけだぞ」

男はそう言ってライトを一度見下す様にして見てから、カウンターの職員に向き直る。


「てめえ!!」

ライトは前に出ようとするもリルルに加えてミスティにも止められ前に出られずにいる。


職員は仕方なく、

「あまり騒がれるようですと大会に出場出来なくなりますのでお控え下さい」

と男に告げてから紙を渡す。


「ああ、分かってるよ」

男は職員から奪い取るようにして紙を受け取ると、そのまま去って行った。


「すみません、説明の途中で…」

女性職員は申し訳なさそうにリルルたちにそう告げる。


「いえ、別に貴方が悪い訳じゃないですから…」

ミスティがホッとした様な表情でそれに答えると、

「そうだよ!!悪いのはあいつだよ!!」

ライトが押さえられながらそれに同意する。


「すみません、それではご利用は明日からと言う事で宜しいでしょうか」

改めて職員はそう確認すると、


「いえ、今日からで構いません。それで出場するにはどうすればいいんでしょうか?」

リルルはライトを抑えたまま、職員に聞き返す。


「えっ!?リルルさん?」


「よっしゃー流石リルル姉ちゃんだぜ!!」


「はあ、ですが宜しいのですか?今大会の参加は自由となりますが、年齢制限は特にありませんし、体重別ともなっておりませんが…」

職員の女性は再度確認する。


「ルール等確認しても?」

リルルは念のためにと聞いてみる。


「あっ、はい、一応簡単なものですが…」


女性職員の説明によると、

今大会は入会者であれば基本は参加自由となっており、エントリー料金も必要はない。

各部門別に分かれてエントリーしてもらい、人数が多い場合には予選を行い、本選へと進む。

今回の部門は戦士系、魔法系、格闘系の三種類ある。

優秀者には修練場の施設無料券や優先受講権、冒険者になる時の登録無料及び待遇面での考慮等も行われるそうだ。

尚、大会中の怪我や事故に関しては自己責任となるが、大会で用意した回復魔法を使える者による治療は無料で受けられるとの事。


「ルールは開催前に各部門毎にご説明させて頂きます。本選は模擬戦となる予定ですが、武器等はこちらで用意した物を使って頂くことになると思います」


「分かりました、エントリーする場合にはどうすればいいんでしょうか?」


「…こちらの紙にご記入頂いてから、あちらの選手控え口の入り口から入って提出して頂ければ結構ですが…」

女性職員は紙を何枚渡すか躊躇っている様子だ。


結局、一応はと言う事で四枚紙を貰ってから、リルルたちはカウンターを離れた。

ここでは特に会員証などは無く、次回から施設利用の際はここで名前と年齢を伝えて利用する事を聞いた。


「それで…どうしますか?」

リルルはミスティたちにそれを確認する様に見回して伝える。


「俺は参加する!!」

ライトがいの一番に手を上げて答える。


「私は…」

ミスティが言い淀んでいる途中で、

「私も出る…」

とエルザが一歩前に出てリルルを見つめた。


リルルは自分も出るのは決めているので、あとはミスティだけとなったが、

「ミスティ様、強くなる方法は人それぞれです。私はミスティ様は戦闘ではなく、違う形で、それこそ私やライト、エルザでは出来ない方法で皆を助けられる方だと思っています」


「リルルさん…」

ミスティはその言葉の意味を理解している。


正直ミスティは攻撃魔法はあまり得意ではない、それに今回はその性格も大きく影響している。

戦いや争い事は好まず、魔物ですら殺すことを忌避していた。

役に立ちたい、もっと自分にも出来る事がと思ってはいるが、誰かを倒したり、誰かと競ったりするのとは違う形で役に立ちたいと思っていた。


「ミスティ様には()()()()私は助けられました。ですからミスティ様はミスティ様のやり方でそれを伸ばす為に学べばいいのだと思います…差し出がましい物言いをお許し下さい」

リルルはそう言ってミスティに頭を下げた。


「ううん、そんな事ないよ!!ありがとうリルルさん、私は私のやり方でみんなを助けられるように頑張るよ!!」

ミスティはリルルに一度大きく首を左右に振ってから、今度は大きく縦に首を振ってそれを示した。


そして三人は用紙に記入を終えた後、

「それではミスティ様、行って参ります」

「姉ちゃん見ててくれよ!!」

「行ってくる」


「うん、ちゃんと見てるからみんな頑張ってね」

ミスティは三人を見送った。


三人は『選手』と上に書かれた入り口へと入って行った。


一人残されたミスティはスーを抱えて、カウンターへと向かった。


「すみません、回復魔法を少し使えるんですがお役に立てませんか?」

先程の女性職員へと話し掛けると、


「えっ!?ああ、あなたは先程の…」


「はい、私は大会には参加しないので…何かお役に立てないかと思いまして…」


「それは助かりますが…特に報酬などはご用意出来ませんが…」


「いえ!報酬なんて結構です!!…みんなが頑張っているのに私だけ何もしないなんて…その…お願いします!!」

ミスティは頭を下げて懇願する。


女性職員はそれならばと、

「そうですか…でしたら丁度本日はギルドからお願いして来て頂いた方がいらっしゃいますので、そちらにご案内致しますので…」


それからミスティは別の職員に案内されて、

「いやぁ、助かりますよ。本日の大会で来られるはずだった治癒魔法師が急に来られなくなってしまい、困っていたんですわ」


「お役に立てるか分かりませんが、頑張ります!」


「いやぁ、あなたみたいに可愛いお嬢さんに治療してもらえるなら、魔法なんかなくても大丈夫ですよ。なんなら僕も怪我したいくらいだ」

あっはっはと大きな笑い声を上げている。


胸元にいたスーがつまらなさそうに欠伸をしていた。


「あはは…」

ミスティは少し困りながらも別室へと案内されるのだった。


こうして四人は各々、初めての大会へと挑む事になった。





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