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タイムネメシス~二度目の人生は二つの入れモノde~  作者: あすか良一
エグザイル編Ⅱ
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第106話 『追跡』

第106話


『追跡』



「こっち!!」


俺たちは早速エルザの先導の元、金を盗んだ犯人の仲間と思われる奴等を追いかける事にした。

流石に全員で追いかけるのは目立つので、俺とエルザとスーで追っている。

エンリは万が一そいつらが仲間じゃなかった場合や見つからなかった場合も想定して、別で聞き込みや情報収集をしている。

ミスティとリルル、そしてライトの三人は宿とその周辺で目撃者がいなかったかを探している。

スーを連れていったのは、上空からも探せるという利点や本鳥、いや当鳥?が珍しく責任を感じて付いてくる事を主張したからだ。


『ねえグレン』

『何だ?』

『町の外に出てたらどうするの?』

『そうだな、地の果てまで追いかけて逃げた事を後悔するまで叩き潰す』

『いやそうじゃなくて…』

『分かってるよ、幸いにして今は出入りのチェックが厳しいからそう簡単に逃げ出せないとは思うが、もしそうなったら厄介だな』


あれだけの金だ、確かにレンの指摘通りこの町を早々に出ようとしていてもおかしくはない。

それに幾らチェックが厳重だとしても、実際外に出る方法は幾らでもあるだろう。

その場合は町を出て追いかける事になったとしても、今すぐというのは現状では難しいかもしれない。

『俺達がそいつらを見ていれば空から探すのも吝かではないんだが…』


「んっ?どうした?」

先行していたエルザが路地の辺りで立ち止まって、周辺を見回している。


「むぅ…」

エルザは少し迷っている様だった。

つい先程まではかなりの勢いで走っていたのだが、ここに来て臭いが薄れたのか鼻をすんすんさせながら何処に行ったのか探している様子だった。


「臭いが消えたのか?」

俺がエルザに尋ねると、

「多分こっち…」

少し自信なさげにエルザが路地の奥を指差した。


手懸かりが無い今はエルザの嗅覚が頼りなので、俺は黙ってそちらへとついていく。

すると路地の奥は行き止まりだった。


『どういう事だ?』

宿からそれほど離れていないこの場所から突然姿を消したという事か?

『それとも何か…』


エルザは臭いを再度探りながら、奥に置いてあった木箱の前で立ち止まった。


「ここで臭いが消えてる…」

エルザはそれを指差した。


俺はその木箱を開けてみた…


しかし蓋を外した瞬間、中からもわっと生臭い異臭が放たれた。

思わず一緒に覗き込んだエルザは、鼻を押さえてしかめっ面を浮かべた。

その中身はゴミが入っており、とてもでは無いが中に誰かが入っている様には見えなかった。


『奥まで探してみるか?』

俺は一旦蓋を閉めてから考える。

『ねえグレン』

『何だ?今ちょっと考えてるから後にしてくれ』

『…いや、ちょっと聞きたいんだけど、その木箱の下も見てみない?』

『何だと!?』

木箱の下を見てみると、動かした後みたいな擦れた跡があった。


『まさか…』

俺は木箱をその跡に合わせて動かしてみた。


するとそのずらした下から木で出来た扉の様なものが顔を見せた。


『やるじゃないか…』

『えっへん』


「エルザ、お前は一旦宿に帰ってこの事を…」

言おうとした俺の服の裾を掴んでエルザはブンブンと首を左右に振り、

「エルザも一緒。」


「いや、しかしな…」

このままこの下に奴等のアジトみたいなものがあって、万が一にもエルザが危険な目に合ってしまったら…

しかも相手が何人いるかも分からないのだ。


「エルザなら相手の顔も知ってるし、お兄ちゃんの役にも立ってみせる。」

エルザは真剣な面持ちで俺を見た。


『子供だと思っていたが…』

「…分かった、スー、エルザを必ず守れよ、いいな。」

俺は肩に乗っているスーにそう告げた。


『仕方がないだわさねぇ』

スーはぼやきながらエルザの頭へと飛んでいく。


下にある扉を上へと持ち上げる。

どうやら鍵などは掛かっていなかった様ですんなりとそれは開いた。


「いいかエルザ、中では俺の言うことを必ず聞くんだぞ。」


「うん、分かった!」


扉の中には下へと降りる梯子の様なものが見える。

俺が先行して中へと入り、続いてエルザもそれを追って中へと入った。


中は薄暗い地下道の様な所だった。

通路の真ん中には地下水道程ではないにしろ、細目の1本の溝があり、その中を水が通っていた。

そして松明ではない、ランプの様な灯りが壁にあり、点々とその先にも続いている。


『どうゆう原理だ?』

灯りがあるのは有り難いが、正直こんな地下道にまで灯りがあるのは些か不自然な気もする。

『まあ、どちらにしても身を隠すのには最適ではあるか…』


「エルザ、臭いを辿れるか?」

俺は前後に続く地下道のどちらに行くか迷った挙げ句、エルザに聞いてみるが…


「ごめんなさい…ちょっと分からない…」

先程役に立ってみせると言ったからか、エルザが申し訳なさそうにして俯く。


「いや、気にするな。確かにこの臭いじゃ無理だよな…」

地下道は下水とまではいかないが、当然湿った臭いというかあまりいい臭いはしていない。

『汚水とまではいかないが飲む気にはなれないな…』

流れる水を見ながらそんな事を思う。


『レン、お前はどっちだと思う?』

『うーん…右!』

『念のため聞いておくが、何でだ?』

『勘!!』

『………』


「よし、こっちだ。」

俺は左へと向かった。

『何でだよ!!』

『いや、俺の勘だ』


そしてそのまま地下道を進んで行くと…


『薄気味悪い場所だね…』

『ああ、そうだな…』

流石にリアルにこういった地下道を進むとホラー映画の様な怖さを感じてしまう。

グロさ適性は上がっているが、こういった恐さはまた別物と言えよう。


エルザも怖いのか俺の服の袖を掴んで離さない。

『この辺はやっぱりまだ子供なんだな』

とは言っても子供じゃなくても怖いよな実際。


薄暗い地下道で流れる水の音だけが聞こえる中で灯りがあるとはいえ、逆にその灯りが照らす光景がより不気味さを醸し出している。


「キュイ!!」

スーが突然声を上げた。


思わずその声に反応して体がビクッと条件反射で動いてしまう。

それと同時にエルザも俺の服を掴んでいた手がビクッと動いた。


「おい!スー驚かすんじゃ…」

俺はスーを睨み付けようとしたが…


「うわあああ!!」

と言う大きな声が奥から響いてきた。


『なんだ!?』

俺は声の聞こえた方を見てどうするかと考えた。

「おい、スー何か感じたのか?」


『あっちから変な魔力を感じただわさ!』


「…エルザ、何があっても俺の傍を離れるなよ。」

『まさかこんな所で…』


エルザが大きく頷くのを確認してから、俺は声のした方向へと向かった。


通路を進んだ先はT字路になっていた。

しかし、どちらに行くか迷うまでもなく左手側から誰かが走ってくる音が聞こえた。


そこには物凄い勢いで走ってくる人影があり、こちらへと近付いてくる。


「お兄ちゃん!!あいつだよ!!」

エルザが俺の服を引っ張ってそう声を上げた。


『何かから逃げてきてるのか…』

「だが…好都合だな。」

俺は刀に手を掛け目の前に視線を移す。


「うわあああ!!」

俺たちの姿に一旦驚き、その男は立ち止まったが、すぐに後ろと前を見て、

「た、助けてくれ!!」

と大慌てでこちらへと駆け込んできた。


転がり込むようにして俺たちの前に姿を現したのは、布で顔を巻いた姿の男だ。

ただもはや顔を隠すとは言えず、口元を露にしていた。


「大変だ!!あっちから化け物が!!」

後ろを指差して男は言うと、そのまま走り去ろうと進もうとする。


「ぐえっ!!」

しかし男は俺に後ろの襟首部分を掴まれ、そのまま地面へと後ろ向きにして倒れた。


バシャンという水音がした直後、

「何すんだ!!」

男は急いで立ち上がろうとする。


俺は有無を言わさず男の喉元へと刀を突き出した。


「ひっ!?」

男は上体を起こしきれずに、悲鳴を上げてから視線だけを上げて俺を見た。


「よお、そのまま走り去ろうなんて虫が良すぎるだろ。ちょっと話を聞かせてもらえるか?」

俺は刀を突きつけたまま、

「なあ、エルザ。」


俺が視線を投げた方向を見た男は、

「あっ!!」


しかし、話を聞く前にバシャバシャとまた男がやって来た方向から何かがやって来る音が聞こえた。


「悪いが話はこっちを片付けてからだな…」

俺は視線をそちらへと向けて、

「エルザ、スー、こいつを見張っていてくれ。何か妙な真似をする様なら黙らせろ。」

俺は刀をエルザに預けてから、

「少しでも動いたら刺していいぞ。この辺りとかな。」

そう言って俺は手にした刀の切っ先を男の股間の辺りチョンチョンと軽く突いた。


「や、やめてくれ!!」

男は大きな汗を額に垂らしながら後退りしていた。


「分かった。」

刀を受け取ったエルザはコクンと頷く。


そして俺は正面に近付いて来る人影を見た。


そこには、手に少し短めの剣を握り、髪を振り乱した状態の、緑の魔物が来ていた。


『やはりな…』

俺はそう確信してから前へと走り出す。


魔物は血にまみれた剣を振り上げて迎撃しようとする。


この通路は高さはそこそこあるが、それほど幅があるわけではないので、長めの剣ではなく、ショートソードの方が有効ではあるが…


「遅い!!」

魔物の前方で振り下ろされた剣を、回転する様にかわしてからそのまま横を通り過ぎるタイミングで刀を胴へと振り払った。


「があああああ!!」

魔物は数瞬後に悲鳴を上げて前へと倒れた。

倒れた時には二つとなって…


俺は前方へと視線を向けるが、今の所はその後を追ってくる気配は無い。


俺は刀を一旦収め、倒れた緑の魔物へと目をやる。

魔物は腹から真っ二つにされて転がっている。

切られた胴体の部分は凍っており、出血は見られない。


『そういう事か…』

『どういう意味?』

『この魔物の事は分かるよな』

『うん、村を襲った魔物と似てるよね』

『ああ、そいつを操ってたのはローブの男、爆発事件を起こした犯人も恐らくはローブの男だ』

『…そうだね…』

『そして今まで見つからなかった…』

『ここにいるかもって事!?』

『あくまで可能性が極めて高いだけどな』

レンにはそう言ったが俺は半ばそう確信していた。

空から見ても分からないしな…


「さてと…」

俺はエルザたちの元に戻り、

「話を聞かせてもらおうか。」

目の前で倒れたままの男にそう告げるのだった。


この男はくしくもエルザに腕を噛まれた男だった。

男は最初、

『あ、あんたら一体何者だ!?』

『確かにそこの嬢ちゃんに絡みはしたが、その程度で俺があんたにここまでされる覚えは…』

とか言っていたが、


「おい、金はどこだ?」

俺は刀を再度喉元に突きつけて聞いた。


「な、なんの話だ!!俺は()()()()()は知らない!!」

男は首を左右に震える様にして小刻みに否定する。


「おい、エルザ、こいつの言ってる事は本当か?」


エルザは大きく首を横に振って、

「嘘。」


「いや、ちょっと待ってくれ!!なんでそんな事が…」

男はそれを尚も否定するが、


「お前、普通この状況で()()って聞かれたら手持ちの金を出すのが普通だよな?もしくは手持ちがなくても()()ないって答えるのが普通だと思うが、お前は何て答えた?」


「そ、そんな…あっ!!」

男は自分の失言に気付いたようで、顔を青くしていたが、

「ち、違うんだ!!化け物に襲われて気が動転してて答え間違えたんだ!!」


『往生際が悪いな』

「そうか…まあどっちでもいいんだが…」

俺は一度男の喉元から刀をひいてから、男がホッとした表情を浮かべた瞬間、

「お前には二つ選択肢がある、このまま逃げ出して俺に切られるか、このままここで話をして五体満足で地上に出るかだ。」


「なっ!?そんな脅し…」

男は上体を起こそうとするが…


「おっと、動くなよ、勝手に立ち上がったりされると、あそこの魔物みたいになっちまうかも知れないからな。」

俺は刀を向けたまま、顎で先程の魔物へと視線を促した。


結果、男は後者の選択をせざるを得なくなった。


『グレン…やり方が悪者すぎるよ…』

『いやあ、一度やってみたかったんだよコレ』

出来ればもう少し抵抗してくれれば、もう一度喉元に刀を突きつけてから『選べ』とか言って選択を迫りたかったんだけどな。

『………』


かくしてその男から聞いた話は、

仲間の数は他に3人いて、この先にある部屋をアジトにしていた。

そしてそこで集まって話をしていたら、さっきの魔物たちに襲われたそうだ。

一人が殺されて、その後はなんとか部屋を飛び出して逃げてきたそうだ。

因みに金や残りの仲間がどうなったかは分からないるしい。


『なるほどな…』

「それで魔物は何匹ぐらいいたんだ?」


「わ、分からねえ…」

男は観念して項垂れながら話している。

因みにエルザのポーチから出した紐を何重かに結んで手を縛ってある。

あと懐に短剣を持ってたのでそれも没収済みだ。


「少なくとも今の奴だけじゃないよな。」


「ああ、いきなり扉をぶち破って入ってきて、俺が見た時は二、三匹はいた様に見えたが…無我夢中で逃げ出したから…」


「そうか…」

『このままエルザを連れてそこに行くのは気が引けるが…』

『一旦戻る?』

『…いや』

このまま戻る前に、その部屋だけは一度確認しておいた方がいいだろうしな。


「おいスー、こっちに来い。」


「キュイ!!」

スーは名前を呼ばれて嬉しかったのか、素早い反応で振り返った。

『ごしゅじーん!!』

エルザの頭から俺の顔へとダイブ…


ガシッ!!

そして例の如く到達前にキャッチする俺。

『こいつ…速くなってやがる』

俺は顔面寸前の所でスーを掴まえた。


『惜しかっただわさぁ!!』

スーはどうやら狙っていた様だった。


『こいつ油断ならんな』

俺は片手で掴んだスーに魔力を流し込む。


「キュイ!」

スーは大人しくなり、気持ち良さそうにそれを吸収している。

やがて淡く体が光り始め、

「キュイ~」

とまるで温泉に浸かった時みたいな声を出した所で、俺は魔力を切った。


「おい、スー、いいか必ずエルザを無事に宿に送り届けるんだぞ!!何かあったら分かってるな!!」


それまで『ごくらくやぁ~』みたいな雰囲気を醸し出していたスーは、

『むぁかせぇるだわさぁ!!』

とシャキンと音が出そうな鋭さで片翼を頭につけて答えた。


俺はスーをエルザの頭の上へと戻してから、

「エルザ、スーと一緒に宿に戻ってからエンリやミスティたちに今の事を伝えてくれ。」


「お兄ちゃんは!?」

エルザが顔を上げて俺を見上げてくる。


「俺は今からその部屋に行って様子を見てくる。」

俺は出来るだけにこやかな表情でそれを伝えた。


「エルザも一緒に…」


「ダメだ。」

俺は即答でそれを止める。


「何で!!エルザお兄ちゃんと一緒にいたいもん!!」

泣きそうな表情を見せるエルザ。


「すぐに戻るから心配するな、それにエルザだから頼むんだぞ。俺はエルザの事を信じてるからな。」

頭にはほんのり光った鳥が乗っていたので、代わりにエルザの頬に手を当てて言った。


エルザはガバッと俺の腰に飛び付き顔を擦り付けながら、

「本当にすぐ帰ってくる?」


「ああ、すぐ戻るよ。」


「約束だよ!」

顔を上げてエルザは俺の顔を見る。


「ああ、大丈夫だ。」

俺はゆっくりとエルザを腰から離して目を見ながら言った。


本当は抱き締めてやりたいほど可愛かったのだが…

さっきから妙に視界に入ってくる鳥の姿が気になって出来なかった。

しかもちょいちょい念話で『エルザ』の部分を自分に置き換えて言ってきてたのがこの上なくイラついたのもある。

『あの鳥今度説教だな』

『まあまあグレン、愛されてるって事だよ』

『うるさいわ』


「おい、行くぞ!!」

俺はこっそりこの場を離れようとしていた男へと刀を向けて声をかけた。


「ひっ!!」

男は立ち上がった所でまたもその場に腰を落としてしゃがみこんだ。


「じゃあエルザ宜しくな。」


「うん、分かった…」


そうしてエルザとスーを見送ってから、俺は奴等のアジトへと向かう為、男を立ち上がらせたが…


「嫌だ!!もうあそこには戻りたくねえ!!」

首を振って拒否する。


「安心しろ、何かあったら守ってやるから。」


「そんな!!信じられねえよ!!」


「分かったよ。それじゃとりあえず部屋の前まで案内してくれ。そうしたら縄だけは解いてやるから。」


「………」


「どのみちお前が言ってる事が本当か確かめる為にも確認しなきゃいけないんだから、ついてくるのが通りだろ。それともさっきの選択肢を自ら不意にしたいのか?」


「…わ、分かったよ…」

言葉の意味を読み取った男は、渋々ながらにそれを承諾した。


男の先導の元、暫く通路を真っ直ぐ進んで行くとまたT字路があった。

『結構広いんだな…』

『迷ったりしないかな…』

『そうだな…』


そしてT字路にさしかかった辺りから急に辺りが暗くなった。

周りにあった灯りの数がほとんど無くなってきている。


「何でこんなに暗いんだ?」


「この辺は灯りが整備されてないんだ。」


男はT字路を右に曲がった。


「そう言えばこの地下道は何であるんだ?」


「…詳しくは知らないが、昔何かに使われてたって話だ…俺も仲間に聞くまで知らなかったし…」


「そうか…」

『何に使われてたのかは気になるが、こいつらしか知らないって事はないだろうしな…』


男が急に立ち止まった。

見ると少し先で倒れた人影が見える。


「ひぃやぁ!!」

男は悲鳴を上げてから俺にすがりつくようにして、

「早く逃げよう!!ここはヤバイ!!自首でもなんでもするから許してくれ!!」

パニックになりつつある男は嫌々と首を振って懇願している。


『参ったな…』

このままこの男に案内させるのは難しいな…

かといってこのまま置いていくのも…

『仕方がないか』


「縄を切ってやる、ただし暴れたり余計な事はするなよ。それと逃げ出したりしたらもっと怖い目や痛い目に遭うから気を付けろよ。」

俺は刀を抜いて、男の縄を切ってやった。


男は手が自由になった事で少し気が緩んだのか、

「なあ、あんた、ここで俺を見逃してくれたらもっと金を出すから…」


「余計な事は喋るな。逃げたいのなら好きにしろ、ただしその時は容赦はしない。」

俺はつとめて冷静に男に告げる。


「………分かった…」

男はようやく諦めたのかとぼとぼと先に進み始めた。


「こいつはお前の仲間か?」

倒れていた男の側で俺は尋ねた。


「ああ…多分そうだ…」

男は顔を逸らしながら答えた。


「そうか…」

男が多分と答えたのは倒れている男の顔が潰されて、既に原形をとどめていなかったからだろう。


「そこだ…」

男はそこから少し歩いた先で立ち止まり、指差した。


そこには灯りが薄っすらと中から漏れている箇所があった。


「なあ!!ここまで案内したんだからもういいだろ!!」

男はやはりそこに近付きたくないのか、後ろに下がる様にして尻込みしている。


「分かったよ、それじゃお前はここで待ってろ。ただしさっきも言ったが、逃げ出したりしたら最悪の結果になりかねないからな。」

『まあ仕方ない、ここに縛っていくのもありなんだが、仮にこいつを逃がしてもそれほど問題は無いだろう』

ぶっちゃけ俺は別に正義の味方では無い。

こいつらには結構ムカついたが、ローブたちとも関係ないみたいだし、こいつの心境も分からなくはないしな。

まあ逃げたら逃げたで次会った時には、容赦はしないだろうけどな。


「わ、分かった、約束する。」

男は何度も首を縦に振った。


俺は男を置いて灯りの漏れている場所へと向かった。


そこは扉をぶち破られており、中を覗くと机や椅子は壊されて、壁や床に血の流れた跡があった。

広さは10畳程度で地下室の様な空間だった。

無論コンクリでは無く、部屋の外と同様レンガの様なもので出来ており、いかにも何か出てきそうな雰囲気だ。


『何か出てきそうだね』

『ああ…』

『そう言えばお前意外とこういう所平気だよな』

『えっ!?充分怖いけど』

『そうか?』

俺もそうだがやはりレイも大概だなと思った。


俺が前いた世界でこんな所に入ったら、多分、いや間違いなく恐怖に駆られて逃げ出していただろう。

やはりこちらに来てから身体だけじゃなく精神も強化されているんだな。


『あっ!!グレンあれっ!!』


またもや少し感傷に浸っていた俺をレンが呼び戻す。


部屋の隅に見覚えのある袋が置いてあった。

幾つか荷物が置いてある中に置かれたそれは、村を出る時にも見たあの袋だ。


俺は一応周囲を警戒しつつ中へと入る。

一応中には天井部分にランプが吊るされており、部屋の外よりは若干だが明るくなっている。


袋の中を確認すると、中には金貨や銀貨等が入っている。

『金はスルーされたのか…それにしても…』

他の奴等はどうしたのだろうか?

さっき外で倒れていた男が仲間の一人として、あと二人の姿が見えないが…


「うああああああ!!」














作者はホラー系が苦手ですf(^ー^;

昔々、千葉県にある某ランドのホー○テッドマ○ショ○で大泣きしてしまった記憶があります。

病院跡地とか行ったら今でも余裕で泣ける自信があります(>_<)

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