第102話 『流石…』
第102話
『流石…』
エグザイルの町に着いた俺たちは、エステル同様にして町に入るべく門へと並んでいた。
しかし…
「それにしても凄い並んでるなぁ。」
俺は馬車の荷台から御者台へと出て、門に並ぶ人たちを見て感嘆のため息を漏らした。
「そうですね、私が前に来た時はここまで並んではいなかったのですが…」
リルルが困惑気味に首を少し傾げている。
「何かあるのかなあ?」
ミスティも今まで見た事が無かった様な光景に疑問符を浮かべている。
『あっ!お祭りか何かあるんじゃないのかな?』
レンが思いついた様に俺に話かけてくるが、
『そうか?とてもそんな感じはしないんだが…』
確かに何かしらのイベントがあれば、これだけの人たちがいてもおかしくは無いのだが、とても祭りの様な雰囲気というか活気じみたものは感じられない…
「ちょっと聞いてみるか。」
俺は一度馬車の荷台から降りて馬に乗るエンリに聞いてみる事にした。
「なあエンリ、これってこの町では普通なのか?」
「いえ、私も大分前にこの町に来た事はあるけれど、ここまでの人たちはいなかったわ。」
エンリは馬上で軽く首を横に振った。
『やっぱりか…』
「それにしても何だか並んでる人数に比べて進むのが妙に遅い気がするんだが、大体こんなもんか?」
ここについてまだそれほど時間は経っていないのだが、町に近付くまでに見えた所からそのほとんどが動いていない様に思われる。
「そうね、もっと早いはずなんだけど…特に馬車の方は進みが遅いわね、それに…」
エンリは少し眉根を寄せてから、辺りを見回して、
「一般の人の出入りが少ない気がするわ…」
そう言われれば、確かに並んでいるのはそのほとんどが商人か冒険者の者たちばかりで普通の旅人や住人らしき者の姿はあまり見えない。
今は丁度昼辺りと言った所で、この様子ならもっと多くの人たちの出入りがあってもおかしくはないはずだ。
その実、町から出て行く者の姿が全くと言っていいほど見えないのだ。
何台かの馬車とはすれ違ってはいたが、それは中から出て来たのではなくここから引き返す馬車だった。
因みに町の大半は町に入る場合は、門の横にある扉から入り、手続きをしてそのまま小部屋を抜けて町の中に入るか、馬車などの場合は手続きを終えてから門を開けてもらい中へと入る。
出入りの多い日中は大抵は片方の門だけは開けてあるのだが、この町は今も門を閉じている。
更に出て行く場合にもそれは同様のはずなのだが、門は未だ開いていないのだ。
ここはエステルの町と比べても大きさ的には大差無い。
しいて挙げれば城壁の高さが少し高く感じるが、その所々がひび割れした個所が補修された様な跡が目立っている。
「魔物の襲来に備えてるって事か?」
俺はふと気になった事を口にした。
「そうね、多分復旧作業の物資調達やこの町の状況から冒険者が集まるのも分かるのだけれど…」
「他にも何かあるって事か?」
またも考え込む様な仕草を見てとれたエンリに、そう聞いてみた。
「グレン、ちょっと馬をお願いするわ。」
そう言ってエンリは馬を降りてから、
「少し話を聞いてくるわね。」
「あっ、おい待ってくれ、俺も行く。」
馬の手綱を持ったまま、
「悪い、ライト、ちょっと様子を見てくるから馬を任せてもいいか?」
丁度荷台から降りてきていたライトが見えたので手綱を預けて俺もエンリの後を追った。
「じゃあ、あなたたちはここでずっと待たされてるの?」
「ああ、全く冗談じゃない、この町がピンチだって言うから急いで馬車で駆け付けてみれば、この有り様で、全然中に入れないんだからな。」
エンリは列の丁度中間辺りにいた戦士風の男に話し掛けていた。
「ありがとう。この町のギルドの代わりにお礼を言わせてもらうわ。」
「えっ!?あんたギルドの人なのかい?」
「ええ、と言ってもここではなくエステルから来たのだけどね。あなたたちみたいな人がいてくれて嬉しいわ。」
エンリはニッコリと微笑んだ。
「い、いやなに、冒険者として当然だよ!!ははっ!!」
男は手を頭の後ろに置いて照れ隠しの様に笑った。
「おいキリト、おだてられたからってまた惚れるんじゃねえぞ!!」
御者台にいたスキンヘッドの男に声を掛けられた。
「そうよ、全く、あんた見境なく惚れて、ふられてるんだからいい加減学習しなさいよね。」
その隣にいた女にまでも突っ込まれている。
「うるせえ!!そんなんじゃねえよ!!」
「ふふっ、それじゃあ、頑張ってね。」
エンリはそう告げてその場を離れる。
「やっぱり何かあるみたいね…」
後ろで見ていた俺に近付いてきて、エンリはそう俺に告げた。
「このまま待ってても埒があかないようなら、最悪俺が飛んで中を見てくるってのはダメなのか?」
俺が飛べることはエンリにも教えてあるので、一応聞いてみた。
ただしエンリには風の魔法を使って飛べると伝えてあるので『俺魔法』の事は話していない。
「それは最終手段ね、まずは情報を集めましょ。」
そう言ってからエンリは、列の前の方に進んで行くと…
「おい!!あんたらちゃんと列に並べ!!」
と横合いから声が掛かった。
「あらっ、ごめんなさい。別に横から入ろうとしている訳じゃないの、ただ何でこうなっているのか知りたくて…」
「ああ、それなら…」
馬車の横で並んでいた荷物を背負った男が答えようとしたら…
「ふざけんな!!」
突然大声が列の前方から聞こえてきた。
『何だ!?』
俺とエンリがそちらを見ると前の方で何かトラブルがあったみたいだ。
「ごめんなさい!」
その場を一旦離れて、二人で走ってそこに行ってみてみると、厳つい感じの大きな男に鎖帷子を着た男が後ろ手にして背後から腕を取られていた。
「どうしたの!?」
エンリが慌てて走り寄って行く。
「こいつが俺たちの荷物は後だとか抜かしやがって、他の奴等を先に行かせやがったんだ!!」
男は周りに聞こえる様に大声で叫んでいる。
「し、仕方がないだろうが!!そう決められているんだから!!っていたたたっ!!離せ!!」
恐らくはこの町の門番であろう男は、同じく大声でそう叫んだ。
「ちょっと待って!!」
エンリが仲介して話を聞くことになった。
後ろ手にとった方の男は不満そうにしながらも、エンリから、これ以上何かする様なら捕まる事になると言われて少し冷静になったのか、門番を離してから、
「こんな町二度と来るかボケが!!」
と言って馬車を走らせ、門から離れて行った。
その後、騒ぎを聞きつけた別の門番もやって来てこの状況を説明してくれる事になった。
門番曰く、
町で昨日事件が起きて、荷物のチェックが今まで以上に厳しくなった事、特に奴隷や身分の不明瞭な者は入れられない状況なのだと言う。
そして今の男は奴隷商であったらしく、荷台には何人かの奴隷も載せていた為、後回しにしたのだと言った。
「理由は教えてくれないのかしら?」
「悪いが事情は教えられん、領主殿からの命令でな。」
後から来た門番はそう言ってから立ち去ろうとしたが、
「ちょっと待って、私はエステルの町のギルドのエンリと言いますが、ここの領主は昔のままかしら?」
「あん!?何を言ってるんだ?ギルド?、ここの領主はずっとピスケル様だが…」
先程腕を取られていた門番がエンリに振り返って言った。
「そう、それはフランドル家のご子息という事よね。」
「だったら何なんだ!?」
「良かったわ、だったらその領主様とお話ししたいのだけれど…」
「何を言っている!!そう簡単に領主様がお会いになるわけないだろうが!!」
「あら、残念ね、一応彼とは面識があるのだけれど…」
「何!?そんなわけ…」
「いや、ちょっと待て。」
男を一旦手で止めてから、もう一人の門番が間に入る。
「エンリさんと言ったね、幾ら領主様と面識があると言ってもそれだけで通すわけにはいかないんだ。」
「分かってるわ、ただ、一つだけ伝えて欲しいことがあるの。」
「何だ?」
「鎌鼬の夜のエンリが来たって伝えてくれるだけでいいわ。それでもダメなら諦めるから。」
「かまいたち…」
門番は呟くようにして考え込んだ。
「スクラッチさん、そんな事いちいち聞いてないで早く仕事に戻らないと…」
もう一人の門番が急かす様にして声を掛ける。
「分かった、一応伝えてはみるが…あまり期待しないでくれ、この状況を見てもらえば分かるが私たちも忙しい状況でね。」
「スクラッチさん!!」
もう一人の門番は不服そうに声を上げた。
「分かってるわ、期待しないで待ってるわ。」
エンリはそう告げてから踵を返して、列の後方、俺たちの馬車の方向へと戻ろうとした。
「おい、エンリ、鎌鼬の夜ってなんだ?」
俺は同じく踵を返して去っていく門番を後に、エンリの横に並ぶようにして聞いた。
「私が昔いたパーティの名前よ。」
「ここの領主とも知り合いなのか?」
「ええ、前に一度来たことがあるのだけどその時にちょっとね、本当はこの手はあまり使いたくなかったのだけど今回はこの方が手っ取り早くすむと思って。」
お得意のウィンクを入れて俺に告げる。
もっと詳しく教えてもらおうと思ったが、例の如く『女の子の秘密よ』とお決まりの文句で黙らされてしまった。
『鎌鼬の夜か…』
『エンリさんってホント謎だよね…』
その後馬車へと戻り、待つこと暫く、その間俺たちはリルルたちにも一応説明し、のんびりと待っていた。
相変わらず列の進みは遅く、俺は荷台に横たわりながら、このままだとまだ時間がかかりそうだなと思っていた時…
「すみません!!」
と大きな声が俺のいる馬車の荷台にも届いた。
俺は荷台から出てみると、先程の門番の男が息を切らせながらエンリの所へと走ってきていた。
「さ、先程は失礼致しました!!領主様がお会いになるそうなので、どうかご一緒にお越しいただけないでしょうか!!」
こうして俺たちは無事町の中へと入る事が出来た。
尚、領主の知り合いと言う事で荷台のチェックとエルザの事も不問とされた。
しかし一応金はエンリが人数分払ってくれた。
勿論領主様のお知り合いの方からは戴けませんと言われたが、
『それはそれ、これはこれよ。』
とエンリは言っていた。
村の時もそうだったがこの辺はエンリはしっかりとしているなと感心させられた。
『しかしホント良かったな』
『ほんとだね、エンリさんのお陰ですんなり入れたもんね、でも僕たちが先に入る時、周りの人たちの視線が痛かったけどね…』
『まあそれは仕方がないだろうな』
仮に俺が逆の立場だったら汚ねえとか思っただろうし…
それに実際の所、この状況だとエルザの事もそうだがあの荷台の魔物の説明とかもかなり難しかっただろうしな。
今は布で隠されてはいるが、奴隷を入れられないのにこんな如何にも怪しいですみたいな物体、入れてくれそうになさそうだもんな。
因みにエルザも一応は例の帽子で耳などは隠しているが、今回の件が無ければ、また奴隷とかどうとか突っ込まれていた可能性は高い。
そう考えると流石はエンリと言わざるを得なかった。
そんなこんなで俺たちは今町の中を進んでいる。
「何か思っていたより活気が無いですね…」
ミスティが残念そうに呟く。
「そうですね、確かにもっと賑やかなイメージに思っていたのですが…」
リルルもそれに同意している。
町の中は基本的にはエステルの町とそれほど作りは変わっていないが、大きく違う点が一つ。
それは普通の人通りが少ないと言うことだ。
「それにやけにものものしく見えるな…」
『そうだね…』
大きな通りに並ぶ露店が少ないのは勿論、呼び込みなども無く、そういった活気が見られないだけでなく、その代わりに鎧を来た冒険者や門番と似たような格好をした者たちがチラホラ見受けられるのだ。
「町ってもっと華やかなイメージだと思ってたのにこんなもんなのか…」
ライトはそれを見て少しガッカリしている。
「そんな事ない、前の町はもっと賑やかだった。」
エルザがそれを慰めているのかそう語りかけるが、
「でも町危険、変な奴にいじめられたり、変な服着せられたり、変な奴とかに拐われたりする。」
『慰めてねーな…』
『あはは、エルザちゃんは特にね…』
「な、何だよそれこえーよ!?」
それを聞いたライトは少し町を怖がってしまった様だ。
大通りを暫く進むと大きな建物が見えてきた。
「あちらです。」
今はさっきの俺たちを呼びに来た門番ではなく、別の門番が案内をしてくれている。
「ちょっと待って頂戴。」
エンリは馬から降りて、馬車へと近付いてくる。
「それじゃ、グレン行くわよ。」
「ああ、分かった。」
「では私たちは先に宿で待っていますので、お気をつけて下さいね。」
「グレンもレンも粗相しない様にしなさいよ!」
「分かってるよ。」
『僕も!?』
既に門でおすすめの宿を聞いており、リルルとミスティたちは馬車と共に先にその宿へと行くことにしていた。
俺とエンリは領主の所へ向かうことになっていたのだが…
「エルザも一緒に行きたい!!」
「俺も兄貴と一緒に行きたい!!」
「キュイー!!」
「お前らさっき決めただろ!!」
そう、エルザとライトだけでなく更に一匹の面倒なヤツも加わっていた。
「エルザ、お前は可愛いんだから領主に会ったりしたら、また拐われちゃうかもしれないだろ。お兄ちゃんはエルザを危険な目に会わせたくないんだ、分かってくれ。」
「………」
エルザは赤くなって俯いた。
「ライト、お前も言う事聞かないなら連れていかないってさっきも言っただろ。それに俺のいない時に男はお前だけなんだから…見張りは任せたぞ。」
「わ、分かったよ兄貴!!俺に任せてくれ!!」
ライトは大きく頷いた。
さて二人も無事納得してくれたみたいだし行くか。
そのまま俺が馬車から降りようとすると、
「キュイー!!」
『ごっしゅじーん!!』
と言う鳴き声と共にスーが俺の肩へ向かって飛んで来たが…
俺は片手で着地寸前だった鳥の足を掴んでから、顔の前に持ってきて、
「鳥は…トリあえず宿で迷惑かけるなよ。」
そう言ってからエルザへとスッと引き渡した。
『相変わらずの扱いだわさぁああ!!』
エルザの胸でスーは鳴いていた。
『流石に今のはちょっとかわいそうじゃないかな…』
『んっ!?何がだ?』
『グレン…相変わらず酷いね…』
そして、ミスティたちと別れて俺とエンリは、領主の館へと向かった。
長く書いて投稿が遅くなるか、短くても早めに投稿するか悩み所です(>_<)
今の所は切りのいい所で投稿する形にしてますが、ご了承下さい┏〇))
因みに作者はスーの事が大好きです(*´ω`*)




