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第100話 『100話だよ、温泉集合!』

100話到達です。

番外編なので通常の倍ほどの長さです。


第100話【番外編】


『100話だよ、温泉集合!』



エステ村で傭兵集団や魔物たちを相手にしたその翌日、俺たちは出発前に村の近くにあるという温泉へと向かう事にした。


しかしその温泉は村長の許可なく入れない所らしく、村の者たちでも滅多に入れない場所らしい。

今回は特別に村長が頼んで入れてもらえるらしく、ライト兄弟も今までに入った事がないそうだ。


向かったメンバーは、男がゲツとツー、ライト兄弟の四人+俺とレン。

女性()はミスティとリルル、エンリとエルザ、そしてショートの5人。

あと紅い雌鳥(めんどり)が一匹。


朝食を食べた後、皆で合流し、ゲツとツーの案内の元、村の外れにある森からそのお目当ての温泉へと向かっていた。


「いやあ、それにしてもいい温泉日和ですね。」

「いやあ、ほんと晴れて良かったなあ。」

ゲツとツーがピクニック気分でウキウキと先導している。


「お前ら元気だな。」

俺は呆れ顔でゲツとツーを見る。

『温泉日和って何だよ』

『張り切ってるね二人とも』

俺は昨日の夜の出来事でほとんど眠れなかったってのに全く…


「そらもう元気に決まってますよ!!なあ兄弟!!」

「あたぼうよ!!なあ兄弟!!」

二人は俺よりも後ろを歩く女性陣をチラ見して、ガシッと腕を組んだ。


『分かりやすすぎだなオイ…しかもお前ら別に兄弟でも何でも無いだろ』


「私たちも付いてきて良かったんでしょうか…」

ショートは申し訳なさそうにして尋ねた。


「いいに決まってるわよ。」

横にいたエンリが答える。


「当たり前だろ、お前たちは十二分に活躍したんだからな。」


今回は村の為に役に立った者たち限定だそうだ。

村長やフォアは村の後処理やら何やらで来られなかったが、村にとってはかなり特別な場所みたいで頻繁に入る事は出来ないと言っていた。


「ところで一応聞いておくが、そこは露天風呂なのか?」


「「露天風呂?」」

『二人が何ですかそれ?』

みたいな顔で俺を見てくる。


『んっ!?レン、露天風呂って言葉はこの世界には無いのか?』

『うーん聞いたことないけど…』

『そうか()()()()世界には無いのか…』

『こっちのってどうゆう事?』

『いや、何でも無い、じゃあ…』


「男女一緒とかじゃないよな?」

俺がそう言った瞬間…

『ちょっ、グレン!!』


ゲツとツーは顔を見合わせてから、

「さ、流石にそれは…」

「い、いやそれはそれで…流石だぜ!」


そして…

「ぐぅれぇんぅ!!」

「グレン…どの、流石にそれは…わたしも…でも…グレンがそうゆうのなら…」

「あら、グレン、一緒に入りたいの?」

「グレンさん……」

「お兄ちゃんと一緒に入る!!」

『仕方がないだわさね』

女性陣は一人を除いて満更でもない反応だ。


ライト兄弟は二人とも顔を赤くしていた。


「いや、むしろ一緒じゃないかどうか事前に確めておきたかっただけだ!!」

『混浴とか知らなくてあの宿の再来になるのを防ごうこしただけなのに…』


『いや、グレン、だったら普通に行ってから確認すれば良かったじゃないか…』

『いや、確かにそうなんだが…』


『んっ!?』

『どうしたの?』

『いや、あれは…』


「あっ!!あそこです!!」

「おっ!!あそこです!!」

ほぼ同時に先行していたゲツとツーが声をあげた。


そこには巨大な石壁に囲まれた場所があった。

周りは木に囲まれているがポッカリとその場所だけが壁に覆われている。


「それにしても…」

俺はその壁を見て思った…

『何で村の柵より高いんだよ!!』


そう、そこに立てられている壁は村の入り口の門より高く、作りもしっかりしている。

『村の防護より強固にしてあるってどうなんだ…』

それよりも…


「なんであんなのがあるのに近付くまで分からなかったんだ?」

そう、何で今まで、そして村からも全く見えなかったんだ?

確かに木に囲まれてはいるが、あの大きさだったら村から見えてもおかしくない上にここまで来ないと分からなかったのに疑問がある。


「驚いたわ…」

エンリもそれに驚いていた。

「本当ですね…」

「不思議だね…」

ミスティとリルルも同様だ。

「私も最初は驚きました。」

ショートはその事を知っている様だ。

エルザは無言でそれを見ていた。

ライト兄弟は二人してポカンと口を開けている。


「なんか村長が言うには特殊な魔法がかけられてるらしいです。」

「そうそう、俺たちも最初は半信半疑で来たもんな。」

更にあの石壁には特殊な石が使われているらしく、外に音や臭いを通しづらくする性質もあるらしい。


「認識阻害の魔法ね。それにしても常時発動型なんて信じられないわね…」

エンリはまたしても驚かされている様だった。


『そんなもんあるなら村にも使えよ』

と思ったが、これは村が出来た頃には既に作られていたらしく、しかも村の者たち以外には秘密とされている所らしい。


『勿体無いな、こんな場所があったら普通に金が取れそうなのにな』


俺たちはそんなこんなでその秘湯と呼ばれる温泉の入り口に来た。

石壁に囲まれた場所の一角にある場所…


そこには石壁に穴がポッカリと空けられて、人が並んで二人ほど通り抜けられるほどの隙間があった。

そしてその穴の上に石で出来た看板がかかっていた。

『ようこそ秘湯 竜水の湯へ』と。


『いや、なんでだよ!!』

看板あんのかよ。

しかも丁寧にその穴の横には同じく石で出来た石碑みたいなものにこう書かれていた。


『効能:精力増大 魔力回復 滋養強壮 竜力促進』


「丁寧かよ!!」

『ここ何目的で作られたんだ?そもそも最後の()()()()って何だ?』


とりあえず疑問はさておき俺たちは中へと入る。

すると中には大きな門が立っていた。

しかもかなりの大きさだ。

それは入り口の穴の10倍くらいの大きさはあった。


「いや、普通にこの作りおかしいだろ!!」

『…確かにこれはビックリするよね』


「いやあ、前に一度見た俺らでも信じられないですよ。」

「あん時もこの門にはびびらされたよな。」

ゲツとツーがうんうんと頷いていた。


これには流石にエルザを含めた女性人とライト兄弟も一様に驚いていた。

ただ一匹だけあまり興味がなさそうに欠伸をしていたが…

『まあ鳥だしな…』


「んで、これどうやって中に入るんだ?」

『まさかぶち破れとかじゃないだろうしな?』

『いや、当たり前でしょ!そんなのグレンくらいしか考えないよ!!』


「ああ、任せてくださいよ!」

ゲツが走り出し、門の横にある石を押し込んだ。

するとその上にある石が横に動き出し、顔が入るくらいの小さなスペースが出来た。


暫くすると…

その穴の中から声が聞こえた。

「証を見せよ…」

女の声だ。


ツーが懐から紐の付いた鈴の様なものを取り出して穴の前にかざした。


「言葉を申せ…」

再びその女の声が聞こえた。


「「逆転満塁ホームラン!!」」

ゲツとツーが力強く答えた。


『なんでやねん!!』

いやその合言葉はダメだろ!!


すると…ゴゴゴゴゴゴと言う大きな音と共に門が開く。


そして門が開いて、中から現れたのは…

一人のちっこい老婆だった。


「お主らが例の者たちか…」

老婆はその見た目に反して若々しい声でそう俺たちを見渡して告げた。

その口調はともかく、先程穴の中から聞こえた声と同じだった。


「はい!!俺らがそうです!!」

「お世話になります!!」

ゲツとツーが前へと出て挨拶した。


女性人もペコリとお辞儀をした。


「そこの者たちも入るのか?」

老婆はエルザとそれに抱かれたスーを見ている。


「ダメなのか?」

俺がそう尋ねると、


「ほう、お主…」

声をかけた俺をその老婆はジロジロと見てきた。

更には俺の身体をペタペタと触り始めた。


「おい、ババア急に何しやがんだ!!」

俺は思わず捕まえようとするも、それを軽やかに身をかわして避ける老婆。

『何だと!?』

ちょこまかとかわしながら触る老婆を俺は捕まえられなかった。

『何もんだコイツ!?』

動きが尋常じゃなかった。


一通り触り終えた後、シュタっと降り立った老婆は、

「人外の者と獣人と神獣とはな…」

老婆は俺に微かに聞こえる程度の小声でそう呟いた。


『人外!?』

『人外って…どうゆう事?』

『………』

幸いレンには意味がよく分からず理解出来ていない様だった。


「まあ、ええじゃろ、ついて来い。」

老婆はそう言って門の中へと歩き出した。


俺たちはそのまま老婆の後をついて行く。

門の中には道があり、周りには屋敷の様な住居も見え、更には竹林まであったが目的地はそこではなく、更に奥へと進んだ場所にあった。


『どうやったら森の中にこんなもん作れるんだ?あのババア一人には大きすぎるだろ』


そこには二つの入り口があり、そこで老婆は止まり、俺たちを見て、

「右がおなごで左がおのこじゃ、無論成人しておらぬ者と()()()()()()はどちらでも構わぬがな。」

老婆は言葉の最後にエルザとスーを見てから、

「あと、中では自由にして構わぬが、無理はあまりせぬ様にな…」

何故か俺とゲツとツーを目線で見てからそう告げた。


「それじゃまた後でな。」

俺は入り口の横にある石で出来た腰掛けから立ち上がり、女性陣に告げる。


「ええ、終わったらここで待ってるわね。」

「入りすぎてのぼせないでねレン。」

「すみません、ライトたちの事お願いします。」

「お兄ちゃんもこっちに入ろうよ。」

『あちしはそっちがいいだわさ!!』


結局男と女はキッチリ分かれた形になった。

別にレフトはショートたちと一緒でも良かったのだが、本人が嫌がったのだ。

まあそういうお年頃なんだろうと思ったが、多分エルザの方をチラチラと見ていたのでそれが理由だろう。

エルザは俺以外の男とは入りたくなかったのか、しきりに俺を女湯へと引き込もうとしたが、ミスティによってそれは止められた。

スーは勿論俺の方に入ろうとちゃっかり肩に乗ってきたりしたが、エルザによって引き剥がされた。


中は簡易的な脱衣所があり、そこで服を脱いでから更に中へと入ると、そこは吹き抜けになっていて、湯けむりと共に目の前には岩に囲まれた温泉が広がっていた。


「これは凄いな。」

『うん、あの宿よりも全然大きいね』


「ひゃっほー」

「うっひゃー」

ゲツとツーが我慢出来ないと言った感じで飛び込んだ。


「行くぞレフト!!」

「う、うん兄ちゃん!」

ライト兄弟もそれを見て、意を決した様にして続く。


『あれっ!?グレンは行かないの?』

『俺は大人だからあんな風にはならない』

温泉はやっぱりゆっくり浸かるべきだよな。

それにしても…


大きな風呂場を眺めながら思う。

『こんだけの広さで貸切状態か…』

やっぱここ普通に金取れるよな。

下手したらここ使えばボナーロたちにも結構簡単に金を払えたんじゃないだろうか…


『ねえ、早く行こうよ!!』

レンは風呂の中で泳ぎ始めたライト兄弟を見て我慢出来ないようだ。

『分かった、分かった、でもまずはだな…』

俺はまずは体を洗ってから入ろうとしたが、

『ねえ、早く入ろうよ!!』

気が付けばゲツとツーまで泳いで競争を始めていた。

『子供か!』


【女湯】


「うわあひろーい!!」

「本当ですね!!」


「ここまで広いとは思わなかったわ。」

「私も二回目ですけど驚きました。」


「あーあ、お兄ちゃんと一緒に入りたかったなぁ…」

『全くだわさ!!』


「こらっ、エルザちゃんも女の子なんだからいい加減恥じらいを持たなきゃダメだよ!!」

ミスティはそんなエルザの言動に注意する。

恐らく昨日の事も影響しているのだろう。


「そうですよエルザ、グレンだってきっとその方が喜びます。」

リルルはうんうんと頷く。


「嘘!!本当はお姉ちゃんたちだって一緒に入りたいんでしょ!!」


「「そ、そんな事…」ないわよ!!」」

ミスティは否定したがリルルは赤くなったままうつむいてしまった。


「まあまあ、二人ともいつかグレンと一緒に入るまでにもっと女を磨いておかなくっちゃね。エルザちゃんももう少し女の子として魅力的になってから一緒に入った方がグレンもきっと喜ぶわよ。」

エンリは豊満な胸を寄せてウィンクをしてみせた。


「あはは…」

横でショートが苦笑いしている。


「うん!!分かった!!」

そしてエンリの言葉に大きくエルザは頷くのだった。


5人と一匹は体を洗い、湯船へと向かう。

一糸纏わぬその姿は5人共に美しい。


「いいお湯ねえ。」

エンリは豊満な胸と腰のくびれ、眼鏡も外し、後ろに髪を結っている。

その髪をかきあげながら見せるうなじもまた大人の色香をこれでもかと晒していた。


「そうですねえ。」

ミスティは同じく髪をかきあげながら、目を閉じて気持ち良さそうな表情でそれに同意する。

見た目はボーイッシュながら年齢の割に豊かな胸は、その谷間へと落ちる水滴が張りのある滑らかな肌とその曲線を更に強調している。


「たまにはこういうものもいいですねぇ。」

リルルは口元を弛め、同じく同意する。

その健康的なプロポーションはアスリートにも似た軽やかさながら、スレンダーと呼ぶにはいささか胸も出ており、何より水を弾くその肌が美しく、色気を持ったほんのりと赤くなったその肌とその容姿とも相まって、二人に勝るとも劣らない美を醸し出していた。


「ですねえ。」

ショートはふぅーと大きく息をはく。

容姿は前の3人に少しばかり劣るものの体は充分に大人であり、胸もそれなりにある。

大きさ自体はリルルと同じくらいだが、年の割に落ち着きと言うかしっとりとした趣があり、その割に未だ幼さも僅かに残すその顔立ちがいい意味でのアンバランス差を出している。

村一番の女性である事は間違いないだろう。


「動かないの!」

エルザは今は湯船から上がり、スーの体を洗っている。

エルザはまだ10歳とはいえ、その体は中々に女の子している。

顔や胸は勿論まだ幼いが、10歳という年の割に充分成長してきていると言える。

貧乳は正義かもしれないが、恐らくこのまま成長したらかなりの大きさになる事は間違いないだろう。

ただ獣人の成長は人のそれとは若干違う為、必ずしもではないが…


『もういいだわさ!!』

スーはバタバタと羽を羽ばたかせて喚いている。

正直スーはお風呂があまり好きではない。

体の方は…割愛させてもらおう。


【男湯】


「兄貴…」

ゲツが俺にスーっと近付いてきた。


「何だよ?」

目を閉じたままそれに答える。

俺は湯船の気持ちよさにうっとりとしていた。

正直それを邪魔されればいつもの俺なら怒ったかもしれないが、今はとても気分がいい。

やっぱり疲れを癒すのには風呂が一番だなと。


「隣には女湯があるのを知ってますか?」


「それが…」

俺がそう言いかけた時、


ボコンと水中から頭を出して横からツーが現れ、

「行かなきゃ失礼だと思いませんか…」


「ふむ…」

『行くって何処に?』

「お前たち…」

俺は二人の顔を交互に見る。


「男だな!!」

俺は大きく頷いた。


そして俺たち四人の勇者は今目の前にそびえ立つ境界線とも呼べる巨大な障害を前に立っている。


腕を組んだ俺とゲツとツー、そしてライトまでもが、今そのとても大きな石壁の前に腰布一丁で立っている。

『ライトもやっぱり男の子だな…』

レフトは流石に残って体を洗っていた。


『ねえ、グレン止めようよぉ』

『何言ってんだレン、男ならやらなきゃいけない時があるんだ!!』

『そんなかっこよく言われても…』

この後、レンにはかなり渋られたが、

『じゃあ飛んで見ればいいじゃないか!!』

とやけ気味に言われたので、

『馬鹿野郎!!苦難を乗り越えた先にこそ感動が待っているんだぞ!!』

と熱く熱弁したら、

『…分かったよ…もう…』

と快く了承してくれた。

全く最近の若者はすぐ、楽をしようとするんだからな、山を登るのに苦労せず登ったら意味が無いじゃないか。

険しい山を登ってこそだろ。

ようやく俺にも登山家の気持ちが理解出来た気がする。

『何故山に登るのか…』


俺は岩場に手をかけた。

『そうそこに山があるからだ!!』


しかしぐわし!!と石を掴んだ瞬間、

「待たれよ!!」

と岩場の上から声が聞こえた。


岩場の頂上にあのババアが立っていた。


『なにぃ!!』

ヤバイ!!バレたのか!?

俺たちはお互いに顔を見合わせて焦りの表情を浮かべた…


しかし、

「この先を拝みたければ妾を見事倒してから行くのじゃな!!」

老婆はそう言って俺たちを見下ろした。


何だかよく分からない俺たちに老婆は説明してくれた。

見事自分が出す障害を突破してここまで辿り着く事が出来れば思う存分拝ませてやろうと。

なんかもうノリノリで、

「今から妾と『振り向けばそこにヤツがいる』で勝負じゃ!!」


『『えっ!?』』


『振り向けばそこにヤツがいる』

掛け声と共に振り返り、振り返った時に動いたら負け。

まあ、所謂『だるまさんが転んだ』だった。


俺たち四人は円陣を組んだ。

「いいか、お前ら、俺たちはこれから戦場に出る、いわば男の意地をかけた闘いだ!!全員であの向こうにある楽園を目指して這い上がるんだ!!」


「「「分かったぜ兄貴!!」」」


「行くぞ!!辿り着こう!あの場所へ!!」


「「「おう!!」」」



「ああ、そうじゃ、初めに言っておくが、もしうぬらが負けたら罰としてその者の衣服やらは没収させてもらうからのぅ、覚悟して挑むのじゃぞ!!」


「「「「なにぃ!!」」」」

四人の戦士の声が木霊する。


しかし、

「なめるなよ!!」

「そんな事ぐらいで怖じ気づくと思うてか!!」

ゲツとツーが勢いよく声を上げた。

「お、俺だって!!兄貴みたいになるんだ!!」

ライトがそれに続く。

「よく言ったお前ら!!」

『いやグレン、刀とかも取られちゃうかもしれないじゃないか!!』

『レン、手は手でなければ洗えない。得ようと思ったらまず与えよだ!!』

『意味が分かんないよ!!』


かくして俺たちは試練に立ち向かった。


【女湯】


「なんか今あっちから聞こえてこなかったかしら?」

エンリが胸を洗いながらミスティに聞く、

「えっ!?私にはよく聞こえなかったですけど…」

頭を洗っていたミスティは首を傾げる。


「それにしてもリルルさん本当にお肌が綺麗ですね。」

ショートは自分の二の腕を洗いながら隣のリルルを見て感嘆している。

「い、いえそんな事ないですよ、私なんて全然…」

頬を染めて謙遜するリルル。


「あーそれ私も思った!」

ミスティがショートに同意する。


「そ、そんな事言ったらミスティ様のお肌の方が…」

リルルが恥ずかしさのあまり矛先をミスティに変え様とすると…

「そうですね…お肌もそうですけど…ミスティさんの場合、胸の方が気になります…」

ショートは自分の胸と比較する様にして見る。


「確かにそれはありますね…」

リルルも矛先がそれてホッとすると同時に、自分の胸とミスティの胸を比較してから同意する。


「ちょ、そんな事ないですよ!!ねえ、エンリさん!!」

ミスティは恥ずかしながらエンリに同意を求めるが…


「あら、みんな凄く魅力的よ、胸の大きさなんて大した問題じゃ無いわよ。」

ニコりとそう返すが…


3人は思った…『ズルい!!』と。


エルザはスーと一緒に湯船に浸かっていた。

向こうから僅かに聞こえた音にその頭の上にある耳をピクリと動かし反応する。

「お兄ちゃん!?」


スーもそれに反応して、

「キュイー!!」

『ご主人今行くだわさぁ!!』

と空へと羽ばたいた。


そして岩場の上を抜けて向こうへと飛ぼうとしたが…

バチッと何かに弾かれた様にして落ちてきた。


ボチャン!!

そしてエルザの目の前に着水した。


この岩場には何か魔法の様なものが掛けられているらしく、特殊な障壁の様なもので守られているらしかった。


【男湯】


「の~ぞ~き~するなら、こうゆうぐあいにしやしゃんせ、アウト!!セーフ!!よよいのヨイ!!」

老婆の声が響き渡る。


「ぐっ!!」

俺は岩場をつかんで堪える。

何故かこの岩場では魔力をうまく練られない。

元々魔法を使うつもりは無かったが魔力による強化も出来ない様だ。

腕や足に魔力を注ぐと吸収される仕組みにもなっているらしい。

『ほんとここは何なんだ?』


「のぉ~ぞぉ~きぃ~するなら…」


『この掛け声向こうに聞こえてるんじゃねえのか!?』


老婆は掛け声の途中でいきなり振り返った。


『あっ!!』

俺は慌てて動きを止めた。

片手で結構キツかったが何とか態勢を留める事に成功した。


しかし、俺の下で、

「ぐわっ!!」

と言って岩場の苔で手を滑らせたのか真っ逆さまに下へと落ちたゲツ、

「うおおお!!」

運悪くその真下にいたツーが仲良く巻き込まれ落ちて行く。


ボッチャーン!!

という大きな音と共に二人が脱落していった。


「お前らの死、無駄にはしないぞ!!」

『しかし…あんなのアリかよ』

レンに聞くと区切りの部分で止めるのも1回だけはアリなのだそうだ。

『だが1回だけならもう無いってことだよな』


下を見るとライトも何とか下の方で必死についてきているようだ。

ただあまり進んではおらず俺まではまだ大分距離が離れていた。


そこからも途中から凄い早さで言い終えて振り返ったり、緩急つけたフェイントまで織り混ぜながら、俺たちを揺さぶっては落とそうとしてきた。


何度か危ない所はあったが耐えた俺とライト。

ライトはまだ岩場の部分だったが、俺は既にほぼ直角に近い壁の様な所に張り付いている。


それから数回繰り返し、ようやく頂上が近付いてきた。

『ちくしょーあのババア、こんな高さから落ちたら普通のヤツなら大ケガするレベルじゃねえか…』

そう、この高さ普通に高い。

俺ならともかくライトならば例え下が水でも普通にヤバイ高さだ。

いやひょっとしたらいくら俺のこの体でもヤバイレベルだ。

この岩場には何がされてるのか分からないが、登って行く内に体の力が抜けて行くのだ。

頂上に近付くにつれて顕著にそれが表れてきている。

今の俺は実の所は結構ギリギリだ。

『確か漫画とかと違って高度から落ちるとコンクリ近い強度になるとか聞いた事あるぞ』

『ねえ、グレン、もう止めようよ!!』

レンは高い所が苦手だ。

さっきからしきりに俺に呼び掛けている。

『ここまで来て引き下がれるか!!』

今のままならあと二回くらいでイケるはずだ。


「カッカッカッカッ!!お主やはりただ者ではないのぅ、ここまで来たのは主が初めてじゃよ。」

嬉しそうにして老婆は笑った。


「おいババア!!ライトが落ちたら危ないだろ!!」

『こんな間抜けな高さの石壁作りやがって、しかも何回もこんな事やらせてる口ぶりじゃねえか』


『いや、だったら辞めればいいだけじゃ…』

『だが断る!!』


「うむ、主はともかくあやつには厳しいかもしれんのぅ、ならば次の一回でお主が登りきれたらあやつも合格と言う事にしてやろうかの。どうじゃ?」

ニヤリと口元を吊り上げた。


「上等だ!!やってやるぜ!!」

『ちょ、ちょと待ってよグレン!!』


「カカ!ではやるぞ!!」

老婆は振り返ってから、

「のぉ~ぞぉ~きぃ~すぅ~るぅなら、こぉ~ゆぅ…」


『ぐおおおおおおお!!』

俺はかけ上がった、多分今までで一番、ある意味これまでの戦闘でも見せたことの無いような勢いでかけ登った。

『負けるかぁ!!』


「具合に…し…ア…ヨイ!!」

老婆はほぼ一息にして言い切る程の凄い早さでそれを言い終わり振り返ろうとした…


しかし横目に何かが見えた瞬間、

その肩へと触れられた感触が襲う。

振り返った先には口元を吊り上げたグレンがいた。

老婆の右肩にはグレンの手が置かれていた。


「はぁはぁ、はぁはぁ…どうだババア…これで文句ないだろ…」

魔力操作なしの身体的には限界に近い状態だった。


「カッカッカッカッ!!見事じゃ!!」

老婆は大笑いしてから、

「お主のお陰で相当な魔力が得られた様じゃ、礼を言うぞ!!」


『何だと!?』

「どうゆう事だ!?」


「まあ、それはさておき見てみるがよい!!」

老婆の後ろ、頂上の向こう側にある岩壁が少しずつ開き始めた。


「おおっ!!」

俺は当初の目的を思い出し、目を輝かせた。


「存分に見るがよい!!」

老婆が高らかに告げる。


そこには…

絶景が広がっていた。

文字通り絶景だ…

ただし俺が見たかった絶景では無く、普通に高所から広がる山々に囲まれた絶景が…


「おいババア!!どうゆう事だ!?」


「んっ!?なんじゃ?これが見たかったんじゃろ?安心せい、ほらそこに温泉もあるぞい。ここは特別な湯じゃから格別じゃぞい。」


見ると横に個人サイズのこじんまりとした浴槽の様なものがあり、そのお湯は輝いている様にも見えた…


眼下に広がる素晴らしい景色の中で入るその温泉の中で俺は泣いた…


『考えたらこの高さから下を見ても無意味だったんじゃないか…』

『グレン…よく頑張ったよ』


こうして温泉を出た俺たち。

頂上からはすぐに降りられた。

エアムーヴを使って…


「いいお湯だったわね。」

「ほんと最高でした。」

「体もすっかり回復しましたし。」

「そうなんですよ、この温泉に入ると不思議と体が軽くなるんです。」

「うん、悪くなかった。」

『………』

女性人は皆ご満悦の様だった。


「気持ちよかったね兄ちゃん!!」

「俺は兄貴みたいになりたかったのに…」

ライト兄弟は明暗くっきりの顔をしていたが、双方共に身体的には問題なかった。


「「ぶえっくしょん!!」」

後から出てきたゲツとツーは腰布一丁で寒々しく、女性人から批難されて心身共に打ちのめされていた。


そして俺はと言うと…

体調は凄まじく良くはなっていたが、何故か哀しい気持ちで一杯だった。

それでもゲツとツーよりはマシかと自分を慰めていた。


『しかし本当にあの温泉には効果があるみたいだな』

『うん、僕たちだけじゃなくてみんなも体調が良くなったって言ってるしね』

エンリ曰く何か特別な効果があるみたいでこんな温泉は聞いた事がないらしい。


そして帰り際に門の所に現れたのは、

「カカッ!」

短い古風な笑い声を上げて、

「そなたらまた来られよ、特にそこのお主には世話になった。これでこの湯もあと100年はやっていけそうじゃ。」

一人の女性だった。

年の頃は見た目的には20台後半くらいで美しい顔と見事なプロポーション、なめらかな輝きを持つ黒い髪のその頭には小さく2本の角があり、片手に扇子を持っている。


「だれ!?」

ほぼ全員が見たことない人物が現れてキョトンとしていると、

「では、またのお越しをお待ちしておるぞ。」

門は再び大きな音をたてて閉まっていった。


入り口を出て森へと入った最中、

「あの方以外にも誰かいるのでしょうか?」

リルルがショートに尋ねた。

「いえ、私が前に来た時も最初の方しか見たことがありませんけど…」


「お、俺たちもあの婆さんしか見たことないぜ!!」

「ああ、あんなスゲー美人がいたら絶対忘れないもんな!!」

「「はくしょい!!」」


「結局最後に会ったあの人は誰だったんでしょうね?角が生えてた気がしますけど…」

ミスティがエンリに尋ねる。

「………」

エンリは考え込むようにしてから、

「エルザちゃんはどう思う?」


エルザが一言、

「さっきのお婆さん。」

と言った…


「「「「「『ええーーーーー!!』」」」」」


こうして最後に大きな衝撃を受けたまま俺たちは村へと戻るのだった。


後で村長から聞いた話によると、

むかしこの村が出来た頃に初代村長がある契約をしたらしい、『村の者以外には絶対に秘密にすること』『破られし時は村に災いがもたらされる』と。

かつてこの掟を破った際に森に魔物が現れた事もあったらしい。

実は『イー』の件もその一つであったのではないかと言われていたそうだ。

俺たちは大丈夫なのか?と聞いたら、

『入る事が出来るのは成人を迎えた村の者のみ』その代償に少しばかりの供物を必要とするとされているが、

『ただし竜の番人に認められし者のみそれを許す』とされていたらしい。

村長が聞きに来た際に、村を救った若者たちを歓迎したいのでどうかお願いしますと伝えた所、

『連れて来てみよ、無下には扱わぬと誓おう』

と言われたらしい。

因みに代償について聞いたら、その時々によってあちらから提示されるそうだ。

後でそれも聞きに行くらしいが、金を要求された事は無いらしい。

そして一番気になったあの婆さんについては、村長もよく知らなかった。

村長が幼い頃からずっと、あそこにはあの婆さんしかおらず、何年経ってもその姿は変わらなかったらしい。


『それにしても…見たかったぜちくしょー!!』

俺は天を仰いで、心の中でそう叫んだのだった。

『グレン…』










メインタイトル一部変更になります。

理由は友人からの『横文字が分かりづらい』の一言でした…

この辺にも作者の厨二感が現れてるつもりだったのですが…

とりあえず作者なりにアレンジしてみたつもりなんですが、相変わらず分かりづらかったらすみません(^ー^;A

何卒引き続き宜しくお願い致しますm(__)m

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