第99話 『それは秘密』
遂に99話です。
気が付けば50万字突破しました。
次話は番外編予定ですo(^o^)o
第99話
『それは秘密』
「ネクロノミコンね…」
エンリはロッドの話を聞いて考え込んでいる。
「そう、だから僕は騙されたんだよ‼そのローブの男に‼」
ロッドはこれまでの経緯を話し終えてから、俺たちにそう訴えかけていた。
ロッドはエラル山に行き、緑の魔物と遭遇して、仲間たちはやられ、それを人質にされて、仕方なく自分は従っていただけだと訴えていた。
そしてローブの男に指示されて、ボナーロ達と組んでその情報を集めてもらっていたが、奴らにも半ば脅されており、情報を知りたければ協力しろと言われて、嫌々協力させられていたのだと。
本当は誰も傷つけたくは無かったのに町や村の人たちを騙して、更に悪さをしようと企んでいたのに我慢出来ず、無理矢理にここへと連れてこられ、結果的に殺してしまったのだと。
『ネクロノミコンか…ここまで分かりやすい名称だと逆に疑っちまう位だな』
それが俺の考え通りのものならば、それがなにで、それを欲するという人物がどういう者であるのかというのはある程度想像がついた。しかもこれまでの経緯を考えればむしろそれ以外にないだろうとも考えられる。
「エルザ、奴の言ってる事は本当だと思うか?」
俺は確認の為にエルザに聞いてみた。
エンリは何かを考えている様なので邪魔をしたくなかったからだ。
「うーん、言ってる意味よく分からないけど…全部が嘘じゃない…」
流石にエルザにもその一つ一つが全て嘘なのかどうかは分からないみたいで戸惑っている様だ。
「…でも嘘も言ってる。」
『そうか、まあ当然だよな、俺たちがそれを知っていれば判断できるが知らなければ判断できないだろうし…』
そう言えばこの世界では真偽判定出来たりとか自白剤の様なものはあるのか?
俺はふと気になってしまい、考え込んでいるエンリにも聞いてみた。
「なあエンリ、そう言えば前にギルマスのおっさんが話を聞き出した時はどうやったんだ?」
少し小声で話し掛ける。
「…えっ⁉ああ、あの時はギルマスの使える手段を使ったのだけどアレはなるべく使わない方がいいわね。」
エンリは苦笑いを浮かべて答えた。
『一体どんな手段を使ったんだよ』
と思ったが今はそれを深く聞くと、余計な心配が増えそうな気がしたので敢えて言及せずにスルーした。
拷問の線も考えられたが、流石にギルドでそれをするのはどうかとも思ったので、きっとそんな魔法もあるのだろうと。
『やっぱファンタジー世界って怖い部分があるよな』
「それじゃもう一つ聞かせて頂戴、あなたはそれを手に入れたの?」
エンリはロッドに向き直り尋ねる。
「ああ、信じてくれるんだね‼」
ロッドは光明を見出した様にして顔を上げる。
『よし、ここをうまく切り抜けられれば何とかなるかもしれない…』
ロッドはまだ諦めていなかった。
正確には話始めてから少し落ち着いてきた事もあって徐々に確信を得てきたからだ。
当初は恐怖と共に本当に諦めかけたが、話をし始めてから所々に嘘をまぜていき、観念した様に見せながらも、如何にも仕方なく協力させられていたというのをアピールした。
今更下手に関与を隠すよりもさりげにそれを強調することにより嘘を隠したとも言える。
ロッドはうまくいったと一人ほくそえんでいた。
事前に仲間に話を聞かれていれば当然反論や突っ込みが入ったはずだし、話をしている最中にあのエルザとかいうガキも明確にそれを指摘してはこなかった。
それにわざわざ僕にあんな手を使ってまで聞いてきたって事は他の奴らはきっと死んだか逃げたかでもうここにはいないに違いない。
チラリと横目で鳥を見たが、クワアアアと大きな欠伸をしていた。
一瞬ビクッと体が条件反射で震えたが、何とかこみ上げる衝動を抑える事に成功した。
エンリは無言でロッドを見つめていた。
「ちゃんと正直に答えてくれれば考えるわ。」
「…ああ、それの情報は手に入れた…」
ロッドは目線をやや逸らしながら答える。
「どこにあるの?」
「そ、それは…」
ロッドは少し考え込む仕草を見せてから、
「それに答えれば僕を解放してくれるのか⁉」
「今更何を!」
『お前ここに来て取引できる立場だと思うなよ』
俺が舐めんなよと思い身を近付けようとするが、
「ちょっと待ってグレン!」
エンリにそれを片腕で制止された。
「そのまま逃がす事は出来ないけれど、刑を減軽してもらえるように頼んであげる事は出来るわ、それとも別の方法で聞き出されたいのならそれでもいいのだけれど、それは正直あまりお勧め出来ない方法だと思うけれどね。」
ロッドは視線を彷徨わせ、考える事数秒、
「ぐっ!…わ、分かった…」
ゴクリと唾を飲み込んでから、ロッドは再び口を開ける。
「それは…」
そう口にした瞬間、
「があああああああああああ‼」
突然ロッドは口を大きく開けて天井を仰ぎ見た。
『な、何だ⁉』
俺は目の前で血管を身体に浮き上がらせ始め、苦しそうにして白目を剥いた状態のロッドを見て驚く。
「マズいわ‼」
エンリが口に出してロッドを見る。
『くっ!』
また爆発するのかもしれない。
俺はその可能性を考えて、エンリとエルザの腰を引き寄せてから後方へと下がった。
次の瞬間ロッドは口から天井へと向けて盛大に血を吐き出してから、まるで糸の切れた人形の様にしてカクっと白目を剥いたまま首を横へと倒した。
俺はそれを見てホッとしていた。
奴がああなってしまった事よりも今はエンリとエルザが無事だった事に安堵していた。
もし爆発したとしてもこの二人だけは絶対に守って見せるつもりだった。
「グ、グレン、あの…守ってくれたのは嬉しいんだけど…」
『んっ⁉』俺は右の手にとても柔らかい感触を感じていた。
『あれっ⁉』握り込むとそれはとても重厚で張りのある弾力だった。
それに連動して、
「んっ…」
エンリが色っぽい声を漏らす。
見ると見事に俺はエンリの豊かなそれを鷲掴みにしていた。
腰を掴んだはずだったが、咄嗟の事で狙いを外していた様だ。
ある意味それはジャストフィットな場所でもあったが…
頬を少し染めたエンリの顔が艶めかしい。
しかしその直後反対側の手をエルザに噛みつかれたので、俺は止む無くそれを手離す事になった。
ロッドは死んでいた。
既に息はしていない。
エンリ曰くそれは呪術によるものではないかと言っていたが、本当の所は分からない。
恐らくそのローブの手によるものだろうという事だけは状況的に判断出来た。
多分そいつに何かされていてこうなったのだろうと。あるいは遠隔操作で殺された可能性もある。
事実これまで三度も目の前で爆発させられている事から明らかだ。今回は爆発しなかっただけでもまだマシなのかもしれない。
いずれにしてもロッドにはまだ色々と聞いておきたい事があった。
他に洞窟に捕らえられた者たちはいたのか、ローブの男について等、だが何が引き金になってこうなったのかが分からなければそれも聞き出せなかったかもしれないので言うだけ無駄か。
しかしその後エンリから、多分ロッドが言っていた内の半分は嘘だったと思うと聞かされた。
俺には分からなかったがエンリはロッドの嘘をつく際の癖の様なものを見つけたらしい。
目線の動きや表情の微妙な変化など、エンリはロッドが話してる最中ずっと黙って見つめていた。
ただ、嘘が混じっていても分かることはあったし、まずは知りたい情報を引き出した上でそれを暴くつもりだったらしいが間に合わなかったと悔やんでいた。
エンリの読みでは、
実際はボナーロたちを利用して情報を集めさせて、ローブの男に利用されているフリをして利用していたつもりが、結局は利用されていて、最後はボナーロたちを裏切って、ローブの男に殺されたのではないかと言うことだ。
『利用していたはずが利用されて、裏切った後に見限られるとか因果応報もいいところだな…』
哀しすぎる男だと俺は思った。
それにしても…
『エンリ…恐ろしい子』
エルザやエンリには嘘はつけないな。
俺は少し自分の素性もいずれ見破られるのではないかと焦ってしまった。
結局ネクロノミコンの所在については分からなかったが、エンリにそれについても聞いてみた。
『ネクロノミコン』
それは俺の予想通り、死者の魂を操り、死者の肉体すら蘇らせる事が可能とされている書物であると言われているらしい。ただエンリもそれほど詳しい訳では無く、それが本当に実在しているのかどうかすら定かではないと言うことだった。
一説では魔族のもたらした伝承の一つかもしれないとすら言われているそうだ。
ロッドが死んだ事によりこの村での一連の出来事はひとまず幕を閉じた。
しかし未だローブの男の脅威は残ったままだ。
ネクロノミコンを欲している、恐らくは死霊使いであろうと言う事と、それはエラル山の洞窟にいるのだろうという事。
だが何も分からないよりはマシで今後の指針の一つにはなる。
「それで…どうしますか?」
リルルがそう口にする。
今俺たちはまた一つの部屋に集まっている。
あの後ゲツとツーにも簡単に事情を説明してからロッドの死体を片付けて、俺たちは今後の話し合いの為、元の部屋で話をしている最中だ。
とりあえずここにいるのは当初のメンバーのみで、改めてミスティとリルルにも経緯を説明した。
終わったら皆にも伝えるからとゲツとツーにも言ってある。
「そうね、とりあえずルートは二つあるけどまずはエグザイルの町に向かいましょう。」
エンリが挙げた二つのルートとは、
一つはエラル山に向かう事。
そしてもう一つがエグザイルに向かう事だ。
「そうだな、正直もう会いたくは無いが、また会う事になるかもしれないとしても、先に町へ行ってから山に行くべきだろうな。」
俺は先手必勝で一人で洞窟に向かう手段も考えたが、情報が少ない上に、俺がいない時にエンリたちが襲われた場合の事を考えるとリスクが大きいと判断した。
だったら町で情報を仕入れて、エンリたちを少なくともこの村よりは安全な場所だと思える所で待たせてから行った方がいいだろうという事だ。
因みにその前に、
『いざとなったらこの鳥に俺の魔力を注ぎまくって洞窟に突撃させるのもアリかもしれんな』
と思ってそれを言おうとしたら、
『グレン!それは絶対言わない方がいいよ‼』
とレンに凄い勢いで否決されてしまった。
こうして俺たちはひとまずエグザイルの町へと向かうべく準備を進め、村長たちにも話をした。
他に残った処理として、
『ボナーロたちの持っていた金について』
村人たちが巻き上げられた分を差し引いて残った分はエグザイルの町まで持って行き、ギルドで他にも被害があった所を聞いてからエンリが処理すると決まった。
無論それに異論は無かった。
この村の分を差し引いても十二分にその金は残っていた。恐らく相当数の村か町からせしめた金があったのだろう。
『魔物の処理』
村の中にいた魔物は一体だけエグザイルの町へと運ぶ事にした。
スーが倒したというオーガに似た魔物だ。
他の魔物は村人によって集められ、俺が纏めて円月刀で燃やした。
門の外にいた魔物たちは俺が明日燃やしておくと伝えておいた。
因みに門の外へと様子を見に行ったフォアたち村人数人が血相を変えて帰ってきたのは言うまでもない。
『ボナーロたちのその後』
今回村に来たボナーロたちの仲間は捕らえられていた者は全員死亡してしまった。
俺たちが直接的に殺した者はいなかったが、結果的に言えば一人も生かせなかった。
守るつもりは無かったが、後味がいいものでも無い。
死体は纏めて燃やしてから村の門とは反対側の木の根本に埋めてあげたそうだ。
丁度そこには馬を食い散らかした様な跡があったらしく、その骨も一緒に埋めたと聞いた。
…結果的にこうして傭兵団『尖刃の斧』は壊滅した。
俺たちは明日の朝村を立つ予定だったが、最後の晩餐とばかりに用意された村の宴の最中、村長から、
『是非とも明日出発する前に村のはずれにある温泉に寄って行ってくだされ』と言われた。
エンリたちにも聞いてみたら、
『そうね、せっかくだから入ってから行きましょうか』
『うん、私も入ってみたい』
『そうですね、今日はもう遅いですから明日の朝ならいいんじゃないでしょうか』
ミスティとリルルも乗り気だった。
エルザとスーは食べるのに夢中だったので聞かなかったが…
まあ俺も結構疲れていたので、それを快諾した。
宴の最中、村人たちからはお礼を言われたり、またあの凄い芸を見せて欲しいと子供たちからせがまれたりもした。
『やっぱり芸だと思われてたか…』
あの門での出来事は門に避難していた村人たちが知っており、今や村人のほぼ全員が聞き知っていた。
魔物を倒すところは見ていないが、あの光景だけは認めてくれていたみたいだ。
『グレン、ちゃんと今度教えてよね』
『…機会があったらな…』
やれやれと思いながら俺はふとある事を思い出した。
『そう言えば折角だし聞いてみるか』
俺は村長に気になっていた事を聞いてみた。
「何でこの村の名前はエンタなんだ?」
ニヤリと笑ってから告げた村長の言葉は、
「それは秘密じゃ」
だった。
一応村長の名前の付け方なども聞いてみたが、答えは一緒だった。
『まあそうだろうな…』
無理に聞かなくてもいい事だったが聞いてみたくなるのが人情だ。
『ゲツとツーでも無理があるのにイーとルーとかこの村の歴代村長のしくみっぷりには脱帽するしかないな』
流石に今更、この世界の作られ方にまで言及するつもりは無いが、またもや俺以外にも誰か転生してきているのではないかという可能性を考えてしまう。
「グレン、ちょっといいかしら?」
エンリが隣に来て耳打ちする。
「ああ、どうしたんだ?」
俺は目の前にあったスープを平らげてからエンリへと向く。
「スーちゃんの事なんだけど…今度改めてじっくり教えてもらえるかしら。」
「んっ!?ああ、別にいいけど何でそんなにアイツの事が気になるんだ?」
「普通はあれだけの力を持っていたらそれなりに興味が湧くと思うのだけど…」
『それはまあそうか…』
でも考えたらスーって神殿に封じられていた存在だし、あまり大っぴらに力を使わせるのは不味かったりするのか?
今までそれなりに使える鳥だと思っていたが、一応もっと秘密にした方が良かったりするのかもしれないな。
エンリもそれを気にしてこの場では控えている様だしな。
俺はふと鳥を見る。
今は既に食べ終わってお腹一杯になったのかミスティの膝の上で寝ている様だ。
「ああ、それじゃ町に着くまでの間にでも話すよ。」
エンリにならばいいかと思い了承した。
すると、
「お兄ちゃん…」
エルザが俺の服の裾を引っ張っている。
『今度は何だ?』
「何だエルザ?」
「エルザのお願いも聞いてくれるよね!!」
上目遣いに俺を見てくる。
『ああ、そう言えば約束していたな…』
「分かったよ、俺に出来ることなら聞いてやるぞ。」
「約束だよ!!」
エルザがそう告げて走り出した。
「おい!」
エルザはそのままどこかへ走っていってしまった。
『結局何をお願いしたかったんだ?』
まあ明日にでも聞いてみるか。
リルルはゲツとツーに、
『『ありがとうございました!!』』
と深々とお辞儀をされて困っていた。
フォアにも酒をつがれたりして人気者の様だ。
村のために囮役を買って出て、名誉の負傷を負ったヒロインみたいなもんだもんな。
今日はあまり酒は飲んではいないようだったがほんのりと顔を赤くさせていた。
「兄貴!!」
「お兄ちゃん!」
ライト兄弟が小走りに駆けてきた。
「ちょっとあなたたち待ちなさい!!」
その後を追ってショートも来た。
「あっ、グレンさんお食事中に申し訳ありません!」
ペコリとお辞儀をするショート。
「大丈夫か?」
宴が始まった時も3人の姿は見えなかったので、少し心配していたのだ。
『暫く、そっとしておいた方がいいだろう』
と考えていたので、明日にでも様子を見に行こうかと思っていたのだが…
「はい!!本当にありがとうございました…父も私たちも、これでようやく前へと進めます!!」
ショートは目の下を少し赤く腫れさせていたが、何か踏ん切りがついた様にハッキリと顔を上げて言ってから、もう一度深くお辞儀をした。
「そうか…」
『強い子だな…』
俺が母を無くした時と比べたら本当に雲泥の差だ。
「兄貴!!明日村を出るって本当か!?」
「嫌だよ!!もっと村にいてよ!!」
ライト兄弟は両方から服を引っ張る様にして俺にすがりついた。
「こら!!あなたたちグレンさんにご迷惑かけるんじゃないの!!」
ショートが首根っこを掴むようにして引き剥がそうとする。
「だってお姉ちゃんだってお兄ちゃんが村にいてくれた方が嬉しいでしょ!!僕知ってるんだよ!!お姉ちゃんがグレンお兄ちゃんの事好きなんだって!!」
レフトが結構な爆弾を投げ込んだ。
「ちょっ!!な、何言ってるの!!」
ショートが顔を真っ赤にしてレフトの口を塞ごうとする。
「そうだ!!姉ちゃんが結婚すれば本当の兄貴になるんだ!!そうすれば一緒に暮らせるじゃん!!」
ライトがそれを誘爆させた。
その後宴はすぐにお開きになった。
理由はスタンド使いが3人ほど現れたからだ。
特に般若を背負ったミスティは…恐かった…
突然ですが次話から区切りとしてちょっとだけメインタイトルを変更するかもしれません。
詳細は次話あとがきにて三( ゜∀゜)