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01-07 森のアリナ 6

 ハンネとレミィが抱き合って10分くらいたった。

 ぺっぺっ、レミィの口から聞こえた。


 「レミィ何するのよ! 汚いじゃない」

 抱いていたレミィを押し離す。

 

 「ぺっ、ぺっ、だってハンネ泥だらけじゃないわたしの口に入ったよ」

 レミィが口を拭おうと手を見たら……身体も泥だらけだった。

 

 泥を擦りつけられたレミィの冷やかな目がハンネを見つめるそして一言「ぺっ、ばっちぃ」と言い放った。


 「なにがばっちぃ(・・・・)よ! こっちだって必死だったのよ!! それに……レミィ!! あなた漏らしてるじゃない。匂いが酷いわよ」

 ハンネが指摘する。


 「え?」

 自覚が無かったようにレミィは自らの下半身を見る。泥だらけだが匂いは十分に伝わった。泥が付いた表情が恥ずかしさの余り見る見る赤くなる。


 ハンネは「くっちゃい、くっちゃい」と自らの鼻を摘んでアピールする。


 「くっちゃい(・・・・・)って言わないでよ!! 怖い思いしたんだもん!!」

 赤面したレミィが吠える。


 そして睨みあう二人……。


 ------パン!パン!


 小さな手を叩いた音で事で二人はようやく馬鹿な事をしていたと我に戻った。


 「あ……レミィ、この子だれ?」

 ハンネが悲惨な状況からこの場に居合わせている子供の事を訪ねた。


 「こちら……えっと……誰だっけ?」

 忘れてしまっていたようだ。


 「わたしはありな」

 自己紹介するアリナ。


 「あ、そうそう。この子はアリナよ」


 「アリナちゃんね。あたしはハンネよ、よろしくね」

 愛想良くハンネが自己紹介する。


 「くらいもうよる」

 アリナが伝えると周りの景色は見る見ると暗くなる。


 「はやくキャンプの場所へ行かなきゃ」

 レミィの肩を借りて立ち上がるハンネ。


 「アリナも行こう。少し進んだところに取りあえずキャンプ出来る場所があるの」

 手を伸ばしてアリナを誘うもアリナは首を振って否定する。


 「ここでいい」

 アリナが暗い中でも目立つ白衣のポケットへ手を入れて何かを投げた。

 

 アリナが出したのはセーフハウスだった。

 見慣れぬ建物が現れた事をレミィとハンネの2人は何が起きたのか理解できない。


 扉のが開かれ昼間のような明るい照明がアリナを照らした。

 アリナは手招きして2人を呼び寄せセーフハウスへと迎え入れる。


 「ここ何処? なんでこんなに明るいの?」

 ハンネの思考は状況を理解できずのまま。


 「ハンネが解からない事を尋ねられても……わたしが知るわけないじゃん」

 レミィは考えるのを放棄したようだ。

 

 アリナ本人に聞いても「まほう」と返ってきた。


 「こっちこっち」

 入って直ぐ左手の扉をアリナが手招きしている。


 言われるがまま入った部屋は脱衣所だった。

 2人に大き目の箱をそれぞれ渡し「ぬいだふくいれる」と伝えアリナは服を脱ぎ始める。

 

 「アリナちゃん、ここ何処で何で服脱ぐの?」


 「ここおふろ」

 アリナは浴室へのスライド扉を開けて説明する。


 「からだあらう」

 と浴室の説明をする。


 「身体を洗う所らしいね」

 自分とハンネの状況を見て納得した。


 レミィとハンネの服装は冒険者をしているため普通の服で無い。動きやすさを重視した服装でレミィは複数の布を幾重にもした通気性を重視した物をそうびしている。

 ハンネも基本はレミィ同様だが外側に皮を張り合わせている為に少し重量が増えても丈夫さを重視した装備をしている。

 

 アリナは2人を観察している。

 2人はアリナの視線など気にする様子無くお互いの装備を外している。

 紐で括られた部分や一人で脱ぐのに苦労するところを手伝っている様子だ。

 アリナが目を引いたのは足に装備していたグリーヴと呼ばれる厚布のハイニーソックス。むしろ極めて長い布製ブーツと言える。

 膝上20センチ程でとめられたそれを見てアリナが自分が履いているオーバーニーソックスはもうちょい上まである。


 (あんなの履いていてトイレの際に一々脱ぐのか? 余程伸び縮み可能な素材を使っているのか……ショーツを見せろ)

 痴女のような視線で2人を見るアリナ。

  

 疑問はすぐに解けた。両サイトを止める紐パンツだった。素材は布製で収縮性は無い模様。

 (なるほどな……あれなら穿くより効率が良いな。着けると言った方が正しいか。なら男はフンドシという事か……納得した)


 「アリナちゃんちょっといい?」

 変な関心をしていたアリナにハンネが話しかけてきた。

 

 「なに」

 慌てて取り繕うアリナ。


 「脱いだ服なんだけど……なぜ消えちゃったの」

 手渡された箱に入れた服が消えたと聞いてきた。


 「まほう」


 「あ、うん。泥だらけだもんね……はは」

 その言葉にハンネは納得した表情をしていない。


 「さっさとはいる」


 2人を浴室へ誘い椅子に座るように指示する。


 目の前の鏡に映る自分を見て驚く。

 泥だらけで惨めさに驚いただけでなく、その綺麗な鏡を見た事が無かった為だ。 

 そんな2人に不意打ちをかますようにアリナの両手にもったシャワーノズルからの温水を頭から流される。

 レミィが気持ち良さげの態度で受け入れハンネはとっさに立ち上がる。


 「な、なんなのぉ? お、お湯が出てるじゃん」

 動揺するハンネ。


 「気持ち良いじゃん」

 レミィは気持ちよさそうにシャワーを受け入れている。


 手にしたノズルを2人に手渡し、ノズルの傍のボタンを押して使う事を説明。


 「すっごいねぇ、これ魔道具だよ」

 レミィがノズルをハンネに向けて感想を述べる。


 「驚いた……まさかぁ聞いていたけど、北のあの国だっけ?お湯が出て国民が皆で入れる場所があるって噂話」


 「そうだね。こうして自ら体験してみると凄いよね……」

 レミィはハンネにお湯を時折ノズルを向けている。

 

 「レミィなんでさっきからあたしにお湯を掛け続けてる訳?」

 ハンネもレミィに時折ノズルを向けている。


 「ハンネばっちぃくないように綺麗にしてあげているのよ。ハンネこそ何でわたしの身体から下へお湯を掛けてくれるの?」


 「レミィがくっちゃくないように綺麗にしてあげてるの」

 ハンネは下半身にお湯を重点的に掛けている。


 2人の表情が険しくなるも……すぐに笑った。アリナがそんな2人に石鹸とスポンジとタオルを手渡す。


 「これ石鹸?」

 驚き顔のレミィ。


 「凄い良い香りする」

 ハンネも驚いている。


 「すっごい高いわよコレ……」


 「でも……この香りは危険よ」

 ハンネの険しい表情。


 「どうして? 良い香りじゃない、まさか毒って言う訳じゃないでしょ?」


 「使っちゃダメ、これ危険よ! この香りは獣や魔獣が寄ってくるわ」

 表情が険しくなる2人の目がアリナを見つめる。




 アリナ表情が強張り固まっていた。

 『レェイ―――っ!! いまの言葉聞いたかぁ!! 今までの獣が異様に寄ってきたのは石鹸(コレ)が原因だぁ―っ!』


 『あ、アリナお姉様、申し訳ありません。すぐに無香料の石鹸を作ります。後に改良した石鹸の製造もおこないます』動揺するレイ。

 


 念話中で内面に意識している中、外のアリナの固まった表情を見た2人は言葉を選んで取り繕う。

 「でも明日は西街”ガ・ドル”へ戻るし……せっかくのご厚意無駄にしちゃ……ダメかなハンネ」

 チラリと石鹸の泡をハンネに付けて身体を洗う。


 「そうね。アリナちゃ……いえ、アリナさんのご厚意を無駄にしちゃいけないわよね。それにこの住居も魔道具なんでしょ? だったら大丈夫よね」

 ハンネがアリナの変わらない表情を伺いながら答える。


 「石鹸使って髪洗うの久しぶりぃ」

 レミィが自分の髪を鼻先までもっていき香りを楽しんでいる。


 「でも、よく洗い流すのよ」

 ハンネが小声で話す。


 浴槽へアリナが2人を呼ぶ。


 「これ浸かっていいの?」

 ハンネがアリナに尋ねる。

 すでにアリナは入り込んでいた。

 

 「からだあらえばいい」

 

 「これってアレのお湯じゃないんだ?」

 シャワーのお湯と勘違いしているレミィ。


 ゆっくりと浸かる3人。

 レミィとハンネが並び、向かい方向にアリナが2人の間に身を置いて肩まで使っている。

 2人はアリナに足が当たらないように膝を少し曲げ胸元まで湯につかる姿勢だ。

 目を瞑りゆっくり湯に浸かっているアリナを2人は観察した。

 どう見ても10才に達しているかの子供。

 下の毛も無くツルツル。

 子供のように見えて実は大人とだった言う事を酒場の噂話で聞いている。

 今日は色々あった上で更にこのような風呂なる噂話を実体験してしまった事で目にした事が全て事実であると信じてしまう2人も正直アリナの実態がつかめずにいる。


 ―――― ピピピっ!


 聞きなれない音で2人が驚くとアリナが立ち上がり。


 「もうでる」と言って浴槽から出る事を言ってきた。


 2人は従うと再び脱衣所へ。

 先ほどの箱に服らしきものが入っている。


 アリナがショーツをはいているのを見て、マネしてはく。


 「軽い……つけた感じが軽くてすっごい伸び縮みするよコレ」

 両サイドを引っ張ってみせるレミィ。


 「ホント……薄いけどしっかりしてる。脱げ落ちる心配も無さそうよ。それに穿き心地もすごくイイわコレ!」

 ハンネも驚きの表情をみせる。


 2人はブラを着けたアリナをみてマネして着けてみる。

 

 「すっごい! これすごくイイよ!」

 この中で唯一の大物持ちのレミィがブラを絶賛している。


 「おどろいた……これ位置ズレないし圧迫感も感じない。弓を引くときにイイ感じかも」

 ハンネも驚いている。


 ブラはスポーツブラに似たデザインのモノ。素材資源(マテリアル)で作成された複合形状記憶繊維を使っている初期サイズさえ記憶させれば多少のサイズ変更や等も装着者の体温や運動時の収縮からなるエネルギーを用いている。

 更に防刃加工済みと丈夫で経済的な下着と言える。ちなみに下のショーツも同じ繊維を用いて作成されている。


 アリナに尋ねても「まほう」と一言かえってきた。


 2人はアリナの視線を感じていた。

 視線の先は自分たちの胸元だとわかる下から目線。

 アリナの目線は自らの胸の同じデザインのブラだ……膨らみはない。これだとポッチがある所だけを隠す為の下着だ……しかしこれが無いと下着戦闘服(アンダースーツ)を着用する際に目立ってしまう……そう言い訳したいアリナだった。


 「あ、アリナさん可愛いらしいし、コレからドンドンと成長するわよ」


 「アリナさんだったらハンネ位をあっちぅ間に通り越してわたし位の大きさになっちゃうから」

 隣のハンネがレミィを睨みつける。


 「……うん」

 力無く答えるアリナ。

 

 部屋着となるのは一枚のTシャツだった下の裾をのばして膝丈にしたもの。

 

 「ちょっと涼しいかも……」

 2人がショーツをチラリと見せる同寸が足らぬようだった。

 アリナがチョイと摘んで伸ばすと膝上までの長さに調整される。

 驚く2人に「まほう」と呟くアリナ。

 

 

 続いて食事。


 アリナが心配なのは味覚が違う可能性がある場合と食文化の違いだ。

 

 前者なら諦めてもらうか、戦闘食(レーション)をご希望に副えるような後味付けで誤魔化す……後者だと下手すると抗争になりかねない可能性もある。

 とりあえず”おもてなし”を出来るほどのモノも無い。

 一日三食の給食メニューがアリナが出せる食事だ。

 

 アリナは2人をキッチンへと呼ぶ。

 キッチンと言っても調理器も無ければ調理する場も無い。

 唯一あるのはオーブンっぽい箱が置かれていてアリナが扉を下へスライドさせると金属トレーに乗せられた給食が入っている。

 

 ミクルから今日の献立を伺うと……コッペパンが2個、肉森のシチュー、山森ウィンナー2本とハンバーグ。森サラダ。飲み物はホットミルクである。

 2人の量に合わせたアリナは思った(わたしには量が多すぎる)

 ちなみにミルクやらパンを作る時に素材は全て森のからの恵み。分解して再錬成して代用品から作成する。

 人体影響全く無しの有害物質ゼロの安全宣言”ミクル印”が提供している産地明確、製造元明確、製作元明確の一括管理システム。

 不明な点はミクルに問い合わせれば完全回答で伏せる事なく教えてくれる……()が何であれ美味しければアリナは聞かない。

 

 2人は出された給食を手にしてテーブルへと進む。

 どうしやって用意したのか何故あの箱をの扉を開ける度に出てくる謎に困惑した表情が伺える。

 アリナに尋ねてみみると「まほう」と答えが返ってきた。

 

 困惑した表情をみたアリナは考えていた。 

 (ここは毒などない事をアピールするべきか……)


 「いただきます」

 アリナはパンを千切って口へ運び、続けてスプーンを使ってシチューを口にする。

 

 2人はアリナの言葉を使い食事を始める。

 「アリナさん、いただきます」

 ハンネがパンを口にした。


 「いただきますね、アリナさん」

 レミィがシチューを口にする。


 アリナは食べながら様子見……。


 「うまぁ! すごいわよ。このパンすっごい柔らかいわよ」 


 「このスープすっごい具が沢山はいっていてトロトロして美味しいわよ」


 「この腸詰め肉すっごい美味しいわ」


 「この肉の塊なんて柔らかいし掛かってるスープも美味しいわよ」


 お互い食べは似たような評価をしている。

 とりあえず好評のようだった事にアリナは安堵した。


 あっという間に食べつくす2人。


 アリナがまだ半分も食べ終わっていない。

 アリナは手付かずのパンにナイフを入れて残ったウィンナー一本に残りのハンバーグを(ほぐ)してサラダを挟みハンバーグのソースを垂らした。

 2人はそれを見て同時に思った。(絶対美味いよね)

 アリナは完成したウィンナーサンドを半分に切り分けると2人のトレーにそれぞれ乗せた。


 「たべて」


 「え、良いの?」尋ねる2人にアリナは「おなかいっぱい」と告げる。


 2人はアリナにお礼を言ってからゆっくりと味わって食べた。


 トイレで用を済ませた後に寝所へと向かう。


 シングルサイズのベッドが三つあったら入れないくらいの狭い部屋。

 ベッドが二つ用意されていて中央の扉から左右のベッドがあるだけの寝るための部屋。

 

 「ここつかって」


 アリナは別の隣の部屋へ入っていった。


 ベッドに腰かけ向かい合わせで話す2人。

 反省会をしているようだった。


 「レミィ……そのさぁ、あたし……今日色々あり過ぎて今も何が何だか収集つかないけど、今の状況に不安が無い」


 「うん……わたしも、あんな事あった後なのに変に落ち着いてる自分が変なのかなぁ」


 「あ、それあたしも感じた。なんだろう……不安を感じない、逆にすっごい安心感があるの」


 「多分……アリナさんのお陰だよね。わたし気絶して助けられて、また気絶して次に目が覚めたらハンネに出会ってた」

 

 「え、どういう事? 詳しく聞きたい所よそこ」


 「覚えているのは、あの魔獣が戻ってきて睨まれたところかな……目が覚めたらアリナさんのお膝で寝てた。そして……」


 「そして? それからどうなったのよ」


 「うん……そしたら覚めた傍で魔獣が居たような……今思うと動かなかったから見間違いかも」


 「魔獣が傍に居たの!」


 「わたしさぁ、また気絶しちゃって……無理でしょ。あんな怖い目にあってまた目の前に見間違いでも魔獣が居たらさ」


 「で……お漏らしかぁ……まてよ2回した可能性もあるわけね」


 「…………ハンネの意地悪ぅ」

 プイと顔を背ける。


 「でも、助かった……それはアリナさんのお陰だよね」

 レミィにそっと抱きよるハンネ。


 「うん……ハンネ一緒に寝ようか」

 レミィが不安そうな顔で告げる。


 「それは無理……嫌っ」

 とキッパリ突き放し自分のベッドへ座る。

 

 「なんでよぉ」

 プンっとした顔でハンネを見る。


 「だって、お漏らしって慣れちゃうと……寝起きの”くっちゃい”のは勘弁よ」


 「ブー! ”くっちゃい”言うな!おねしょ何てしないよ……さっき済ませたし……しないわよ……多分」

 

 そう言って2人は就寝した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 2人の寝所の扉が開く。


 『さて、2人の容態はどうだ?』

 ヘッドセットを着用した白衣姿のアリナが部屋に入る。

 

 『はい、精神安定状態を保つようにしております。先のレミィの状態は侵入は容易いのですが拾える情報が限られてしまうのが難点でした』

 

 『”情けは人の為ならず”とは良く言ったものだなレイ』

 ヘッドセットの光と同調するかの如く、ほくそ笑むアリナ。

 

 つづく

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