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01-05 森のアリナ 5

 アリナが声が聞こえた方向、つまり怪獣の後を追う。


 「怪獣(アイツ)は意外と足が速いな」


 『レーダーで捕捉しました。更に移動しています』


 200メートルも進まずにローブの男の死体があった。


 『森の中を移動するには適さない服装ですしねぇ』

 ローブを見ながらミクルが品定めしていた。


 「これは厄介だぞ」

 アリナの足元にあったローブ男の死体、頭が上半分食い千切られていた。


 『情報の収集は不可能です。このままだと残る2人も同じ運命を辿る事となりますね』


 認識票(タグ)を回収しつつアリナが訪ねる。


 「怪獣(アイツ)と戦闘になった場合の勝率はどれほどか?もちろん【イチガタ】を装着している事を前提に話せ」


 レイとミクルの2人が返した答えは『完全勝利です』と告げられる。


 ”変身ポーズ”を始めようとした手前で動きが止まり、ポツリと聞き返した。


 「……では非装備、つまり現状で戦った場合はどうだ?」


 『……アリナお姉様』

 レイのみならずミクルも冷ややかな表情で見ている。


 「ふん!言ってみただけだ」


 アリナが”変身ポーズ”を決めると着ていた白衣を始め衣装が一瞬で分解され下着戦闘服(アンダースーツ)姿へと変わる。

 その後一瞬で【イチガタ】が装着。

 この間は実に1ミリ秒(千分の一秒)で完了する。

 

 人型機体(ヒューマン)一式

 通称名 【イチガタ】

 全身黒ずくめのレーシングスーツ。

 各関節の部分にラインが施され動くたびに光が走る。

 腕側面には太めのラインが施されている。 

 脇から腰、そして足まで屈折させたラインが複数施され時折輝いている。

 フルフェイスのヘルム。

 目部分ののヘッドセットが輝き装着完了を告げる。


 「これが【イチガタ】か。もうすこしゴワゴワした感じかと思ったら服と変わらんな」

 感想を口にしていると遠くで女の悲鳴。


 アリナがすぐさま走り出だした。


 『アリナお姉様いけません!!』レイの言葉を聞いた時に既に遅し。

 

 「なぁ!!」止まれず制御出来ず突き進むアリナ。


 その3秒後に凄まじい衝撃と共に止まる事が出来た。


 「……なんだ一体」前屈みで立っているアリナ。


 『いきなり全力で走られては慣性制御に慣れていない状態では振り回されるだけです。今の行為はロケットエンジンで走り出したようなモノです。もう少しゆっくりと……』

 レイが注意をするようにアリナに物申しているとミクルが割り込むように話しかけてきた。


 『アリナお姉様、あれどうしますぅ?』指さす方向に先ほどの怪獣が横たわっていた。


 「どういう事だ?」現状を理解できないアリナ。


 『アリナお姉様と衝突したのです』


 「レイ!【イチガタ】の破損状況は?」両手をグッパと動かし足を上げたりして調子を確認しつレイからの報告を聞く。

 破損状況次第では戦闘続行不可と見なし動けるうちに撤退を思案したアリナ。


 『問題ありません。アリナお姉様へのダメージは通っておりません。【イチガタ】はすでに外装面の傷を修復済みです』 


 「では……あの怪獣だけがダメージを受けていると言うのだな?」

 ようやく動き始める怪獣を指さし尋ねるアリナ。

 

 『はい。その【イチガタ】は今現在のアリナお姉様をお守りする最大兵器でございます。あの程度の衝撃では凹みません』


 「お、おぅ……そうか、安心したぞ、うん。そっかぁ強いな【イチガタ】」

 嬉しそうなアリナ。


 怪獣は起き上がると自分の前の小さな黒ずくめの存在を……アリナを襲い掛かった。

 前足が伸び地面を支えていた後ろ足も伸びだした。更に脇部分から足が現れ首が伸びる。

 虫ともカニとも思えぬ生き物へと変わり最初の原型から別の形へ変わっていた。


 「それがお前の正体か、それとも変身か……あ、そういうのは変態だったか?」

 右手の指さして笑いながらの余裕のアリナ。


 怪獣はガラスを爪で引っ掻いたような不快音を吐き散らしアリナへ歩み寄る。

 

 轟音と共に怪獣の頭に大穴が開いた。


 アリナの右手に握られた大銃(バスターガン)から放たれた運動エネルギー弾が頭を貫いたためだ。

 

 大銃(バスターガン)はアリナの腕程の大きさがある銃。

 

 「短銃(スマートガン)比べて破壊力が段違いだぞ」撃った本人のアリナが驚きの感想を述べつつ手にした大銃(バスターガン)が光となり右腕ののライン吸い込まれ収納される。

 

 『短銃(スマートガン)と基本原理は一緒ですが超電磁コイルと超電磁バレルの超電磁加速の大運動エネルギー弾は桁違いです。ただ【イチガタ】を装着しての使用のみ限定されます』

 

 「そうか……しかし音が少し大きいな」

 唯一の不満点を述べるアリナ。


 『射出時の慣性制御を用いれば調整範囲での改善が見込めます』


 「だったら、その改善ついでに”変身ポーズ”ももう少し穏やかな……」


 『無理です』レイに遮るように突っ込まれた。

 フルフェイス越しに舌打ちするアリナ。



 頭を破壊され尚、怪獣は手足をバタつかせて奇妙な動きを見せるも無脊椎動物の特有の完全なる死ではない。

 「まだ生きが良いなぁ……しばらくは回収は無理だな」


 『アリナお姉様ぁ』

 ミクルがアリナの傍の藪を指さしている。


 発砲時の衝撃で周辺の藪は半壊していてその中に人が居る事をミクルが教えてくれた。

 それは先ほどの魔法を唱えた金髪の女だった。

 女の首元へアリナの小さな手を当てる【イチガタ】からのデータだと外傷は切り傷が少しと両耳の鼓膜が破損している程度。

 近距離で大銃(バスターガン)を発射した事が原因だろうと分かった。


 藪から女を運び出し地面に寝かせる。

 アリナのフルフェイスが解かれヘッドギアと変わる。

 髪を手でさっと掬う仕草の後のアリナの顔がニヤリと微笑む。

 

 「1人確保できたな」

 レイへ視線を移すアリナ。


 『これはまさに僥倖と言えます』

 メガネが怪しく光るレイ。


 『さっそく頭切開いちゃいますかぁ』

 食材を見るような目のミクル。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 日が暮れ始めた頃に金髪の女が目を覚ます。

 女の目に映ったのは見下ろすアリナの逆さ向きの顏。

 アリナがそっと顔を反らすと女がアリナの膝枕で寝ていた事を知る。女は起き上がるとアリナに語り掛ける。

 

 「あ、……あなた誰?それに……」

 現状を理解できず困惑する女。


 「わたしはありな」

 アリナの拙い(・・)言葉で答える。


 「ありな……アリナで良いのね?あ、わたしはレミィ、名前はレミィよ」

 言い聞かせるようにアリナに語り掛ける。


 「よろしくれみぃ」


 レミィは改めてアリナを確認する。

 綺麗な白衣を纏ったアリナの姿は平民ではないだろうと判断できた。この近辺では珍しい黒髪も北方の出身者ならと判断。

 10才程度と思われる姿が唯一引っかかる、何故と疑問に感じたレミィが思い出した。


 「……あ」

 ここは魔獣が徘徊する森の中にこんな小さな子が居るわけが無い。


 周囲を見回し視界に入ったのソレ(・・)を見た瞬間にレミィが絶叫と共に再度気絶した。


 『やはり回収しておくべきだったな』


 『怪獣の死骸を置く事で周囲の獣を寄せ付けない効果はありました』


 『まぁ、仕方ない。もう1人を追うぞ。このレミィからはこれ以上の情報が抜きにくい』


 怪獣を回収した後に変身したアリナ。


 『アリナお姉様、”変身ポーズ”が様になってまいりましたね』

 うっとりとした顔で褒めるレイ。


 レミィを抱きかかえるアリナ。『……言うな』未だ慣れない、慣れたくないと言う言葉だった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 レミィを抱え森を疾走するアリナ。

 80キロ近い速度で木々の間を抜けて行く。


 『レミィは大丈夫か?大怪我をさせたら洒落にならんぞ』


 『前面にフィールドを展開してますので木や獣に接触しても問題ありません。風圧も感じる程度で呼吸に支障はありません』


 30分程度で森を抜け、辺りはすっかり夕暮れ木々の影が暗さを増し始めたレミィが再び目を覚ます。



 「……あれ、ここ何処?」

 周囲を見回し呟くレミィ。


 「もりのそと」

 アリナの拙い返事。


 「あ、……あれ?あなたさっきの……」

 レミィがアリナに気づく。


 アリナは変身を解いて白衣姿へと戻っていた。


 「あっち」アリナが指さす方向を見るレミィ。


 未だ困惑し現状を理解できない中で唯一判った事。

 遠くから此方へヨタヨタと力無く歩く人影はやがて疲れたかのように膝をついた。


 「あれ……ハンネ? あ、あぁ、ハンネだ!!ハンネぇ―――!!」

 レミィの叫び声が響き渡る。

 

 つづく

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