01-03 森のアリナ 3
セーフハウスで朝を迎える。
朝食を済ませると、レイとミクルとのミーティングを始める。
「昨日の件で魔法素粒子があると予想されたがどうだった?」
『アリナお姉様の仰る通り魔法素粒子の存在が確認されました』
「では分析を進め後々はエネルギーへの変換を考慮した開発をすべきだな」
『その件ですがミクルからのご報告があります』レイは隣に立つミクルへ目線を送る。
「ミクル」
『アリナお姉様、現状報告をさせていだきますぅ。エネルギーは施設内で使うには十分な量を確保できていますぅ』
アリナは昨日知った魔法素粒子が一日も経たずにエネルギー不足の問題を解決した事を驚き、そして喜んだ。
「早いな。まるで用意してあったような展開だぞ」
しかしミクルが困惑した表情で経緯を伝える。
『魔法素粒子情報を抽出したところでエネルギーへの変換が行われましたぁ』
??困惑するアリナ。
「まて、暗黒物質から魔法素粒子自体取り出せた訳でもなくエネルギーが変換できる訳なかろう?」
『はい。……ですが事実なのですぅ。そして今も尚、こちらの施設へエネルギーが送られてきていますぅ』
「……ミクルが施設で変換しているので無いのか?誰が施設へエネルギー送っている?訳が解らんぞ」
視線はレイへ向けられる。
『ミクルが申しあげた通りです。……送られている相手が……その……アリナお姉様です』
表情が強張るアリナ。
「つまりだ……私がこの世界で魔法素粒子をエネルギーへ変換し施設へ送っているという訳なのだな?」
『はい』
レイとミクルが頷く。
「……私は人間だよな?取り敢えず2度ほど臨死は体験しているが基本人間で再生されている……筈だよな?」
アリナは再生時に何らかの処置が施されている事を確認したかった。
この様な環境下で再生したのだから多少の改造は範疇にあった。
レイに尋ねる。
『アリナお姉様は人として再生されており、その際の境適応処置は施しております。しかし現状のこの現象を聞いて疑われても仕方ありません。ですが……事実なのです』
レイの言葉に合わせミクルも頷く。
「疑うべきは……この下級戦闘員服だな」
アリナは自らの下級戦闘員服を引っ張りながら疑いの目を向ける。
『今一度アリナお姉様の記憶情報へアクセスし過去のどの組織の技術であるのか探らせて頂きたく思います』
「そうだな……構わない流石に話が旨すぎる。やるなら徹底的に引き出しを開けてこい。まさかと思いたくないが誰かの策に嵌っている可能性もあるからな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
探索中にレイから報告が来た。
(すごいぞ!さすが四妹中で最も情報処理に長けているな)
アリナは心の中で長妹のレイの働きを褒めた。
『アリナお姉様。先の件ですが……よろしいでしょうか?』
レイの歯切れの悪い言葉にアリナは先ほどの言葉を無かったことにした。
「……で、どうだった?」
『アリナお姉様の記憶情報から下級戦闘員服の組織等の装備情報は得られませんでした』
「??……この装備は私の記憶情報から得た技術で作っている筈だよな?」
『その通りです。情報の出所はアリナお姉様の記憶情報である事は変わりません』
「だとすると……後付けされた情報だという線が出てきた訳だな」
『現時点で全てプラスへ働いている事を考えると情報元はエグザ様が有力です』
「だろうな……あのお節介め。……あの時に私に構う事なくさっさと逃げていれば助かったクセに」
ポツリと悲しげに呟くアリナ。
『エグザ様はアリナお姉様が助かる事を選びました。残された力で閉鎖空間を作成しアリナお姉様の記憶情報を我々に託して頂けました』
「本来消失する筈だった魂はナシナへと変わり、記憶を失う事なく復活できた」
『唯一残念なのは、ナシナお姉様がこの世界の何処へ居られるか……』
アリナが突然思い出したように声を上げる
「そういえば!!ヒマリとフウカはどうした?エネルギー問題は解決した事、そして魔法素粒子との関連でそのあたりも改善できるのでは無いか?」
『あ、失念でした。すぐ対応いたします』
「最優先で行え」
◇◆◇◆◇◆◇◆
セーフハウス内で昼食を取っているとレイが現れた。
『先ほどヒマリとフウカへ連絡が取れました』
いきなりの吉報を嬉しそうに告げるレイ。
飲み物で口の中のモノを流し込むアリナ。
「……ゴクン。でかしたぞ!」アリナもつい大声で応える。
ナシナは見つからず、未だ痕跡も見つからないとの報告であったが別の嬉しい情報が送られてきた。
上質な素材資源を幾つか見つけたとの事。
エネルギー消費を抑えつつ必要最小限で行動していた為に回収は行えず場所だけはマーキングをしておいたとの事だった。
レイはヒマリとフウカへエネルギーを補給、その後早急に素材資源を回収に向かわせた。
「引き続きナシナの捜索に向かわせる方が得策ではないのかレイ?」
優先事項を変えた事後報告にアリナの表情は良くない。
『先の記憶情報へアクセスした時に新たな装備データを得ており二人には作成に必要な素材資源の回収を命じました』
「新装備のデータ?!その件は聞いていないぞ!!」
少し声が高くなるアリナ。
『申し訳ありません。素材資源が無い状態で新たな装備データを申し上げても絵に描いた餅を差し出す事になります。それにナシナお姉様へお渡しする事も考慮しております』
ナシナの事を言い出されアリナは先の言葉を改める
「すまん、先々の事を考えると現状の装備改善や今後の準備も必要だったな」
『いえ、アリナお姉様が仰る通りです。ナシナお姉様の捜索も今後ともヒマリとフウカには頑張って頂きたく思います』
「新装備の説明は出来るか?」
『はい、現時点で手持ちの素材資源で出来る所までミクルが作成しております、後は二人が回収した素材資源で十分に足りるので近々お披露目出来ると思います。データ上での話で良ければご報告申し上げる事が可能です』
「頼む」
昼食を終えたテーブルの上にに展開される数々のモニターに映し出されるデータ。
それを一通り見たアリナ。
「強化服か?武装は銃のみのようだな」
『はい、半分正解です。強化服と見えますが実際の構造はもっと複雑です。むしろ着込んだ戦闘ロボットと呼ぶ方がより正解に近いと思います』
「??つまり装備者の身体能力に左右されないというのか?」
『その通りです』
「私のような身体でも扱える代物と言える兵器なのだな?」
『はい。今のアリナお姉様の可愛らしく小さなお身体でも性能は変わらず。運用次第で十全な兵器です』
「……小さいからな私は」言葉を吐くアリナ。
『……』
「……慰めろよ」
それから説明が続き。
『……と、いう事で初期起動後はデータが無いため動作が補正されない等の十全な行動が取れません。ですので接近戦闘や機動戦は避けたいと思います』
「馴染むには時間が掛かるという事だな」
『この【人型機体一式】は積み重ねた運用データがあればこそ現時点で最強の兵器となります』
「【人型機体一式】だと言いづらい以後【イチガタ】と通称名をつかえ」
『それと下級戦闘員服の本来の使用目的も判りました』
「単なる強化服じゃないのか?」
『実は下級戦闘員服はこの【イチガタ】を装備するために必要な装備だったのです』
「……これはつまり、下着なのか?」自らの下級戦闘員服を摘み指摘する。
『そう受けてもらうのが正しいかと』
「そうか、この薄さ納得した。僅か1ミリ程度でありながら信じられない強度と機能を持っている事を考えると【イチガタ】の性能も更に期待できそうだ」
『下級戦闘員服を下着戦闘服と認識と名称を変えるべきだと思います』
「そうだな、だが長年使っていた通称名を付けてしまった訳だ。時折下級戦闘員服と下着戦闘服を混同してしまうと思うがツッコミを入れず補間して話せよレイ」
『はい、アリナお姉様』
「ミクルは暫くは【イチガタ】作成で忙しいだろう。その間、私は近辺の探索を進めるべきか?」
『いえ、アリナお姉様にはすべき事があります』レイのメガネのアンダーリムのフレームがキラリと光る。
「必要と言うのならやろうではないか」アリナも力強く応える。
◇◆◇◆◇◆◇◆
セーフハウスの外にアリナが一人立っている。アリナの目にはレイが表示されているで二人と言った方が正しい。
アリナがブスったれた顔でレイに顔を背けている。
『アリナお姉様。我儘を仰らないでください』
レイは困り顔でアリナに話しかける。
「……」アリナは応えない。
腰を屈めアリナの目線へ合わせる真剣な顔なレイ。
『これは必須なのです。アリナお姉様がこの先、無事にナシナお姉様に出会う事を考えたら避けて通れぬ道なのです。御分り頂けませんか?』
ブスったれた顏で目を動かしレイに告げる。
「……出来る事、しては成らぬ事は別だ」ボソリと呟く。
『アリナお姉様。したく無い事をしては成らぬ事と言い換えて逃げてはダメです』
少々強めの口調で説得するレイ。
「……改良できぬのか?せめて声だけで何とか成らぬか?」
『ダメです、ナシナお姉様が残したデータを見させて頂きました。過去、既に行っております。自分が扱いやすいように手を施したところ性能が落ちました。つまるところ手を加える事が出来ないのです』
「なら多少性能を落としても……」
チラ見すると普段見せない強面のレイの目がダメと告げている。
『先ほどの動作をもう一度お見せます。アリナお姉様しっかり見ていてください』
レイがアリナの正面に立ち数歩下がる。
『まずは足を肩幅程度に広げます。その時の手は自然に腰の横へ卸した状態です。』
アリナは見たくないモノを見ている顔。
『続いて、手を左右同時に扇状の動きで頭上まで動かします。注意すべきは肘を曲げずに掌を正面に向ける事です。そして頭上へ移動させた時に手首を交差させます』
アリナは先ほどの顏を変わらず。
『交差させた腕を胸元の高さへ突き出した感じで下ろします。そしてココが肝心です、手首を交差した状態を維持したまま開いていた手を拳に握ってください』
アリナの表情がより酷いモノへ変わる。
『交差した状態の拳を肘を曲げて胸元へ押し付けるように持っていきます。この動作の最中に”変身”と叫ぶのです』
アリナが汚物を見るような顔へ変貌した。
『これが【イチガタ】を装着するための必須の”変身ポーズ”です』
「……英雄戦隊の真似事が出来るわけないだろう!!」
ブスったれ顔で吐き捨てるアリナ。
『こう言うのも酷だと思います、しかし今現在のアリナお姉様がどの組織にも属さずに居られます、少々目を瞑り必要な事と割り切る事が最善な選択だと思います』
「だが……ナシナがどう思う?助けてくれたエグザも浮かばれないと思うぞ?」
『ナシナお姉様はアリナお姉様がご無事を最優先と考えております。エグザ様もご同様に思われておりますでしょう』
「……だがなぁ」
言い訳が思いつかないアリナ。
『アリナお姉様が出来るまで私もお付き合い致します。そしてこの困難な試練を乗り越えましょう』
潤んだ瞳でレイがアリナに訴える。
「すまぬ……苦労を分かち合おうレイ」
アリナとレイの”変身ポーズ”の練習は日暮れまで行われた。
『アリナお姉様、素晴らしく綺麗で立派なポーズでしたよ』
「そ、そぅか?」
照れ顔なアリナ。
『明日も朝から体操代わりに組み込んで身体に覚えさせましょう』
「な!!……明日もするのか?」
『こういう事は肝心な時に自然に出来るようなるまでが大事です。それに今日のアリナお姉様が困難を乗り切れた事が大切なのです。継続こそ力です、世界征服も毎週各組織が日々の積み重ねの行為があればこそ続いておりました』
「……うん。大事は大事だ。……でもな、結局最後は私もエグザも死んでしまった」
『あ……申し訳ありません、過ぎた言葉でした』
夕飯を済ませた頃にミクルから【イチガタ】が完成したと報告があった。
つづく