01-02 森のアリナ 2
アリナは夢を見ていた。
それはアリナが死を迎える直前の映像……悪夢。
巨大な人型兵器がアリナが所属する組織の基地施設を蹂躙し破壊する。
一機だけでない、総勢50を超える数の兵器だ。50メートルを超える機体から150メートルに届く機体までの破壊兵器が闊歩し、そして過剰過ぎる攻撃を行いアリナの居た基地施設を破壊する。
全てが破壊され、そして空間が無となりアリナが死ぬ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
何もない空間。
一人の少女と思しき影がアリナの前に現れる。
「おはよう」少女が挨拶してきた。
アリナが返事をしようにも声が出ない。
アリナは理解した。この少女は自分だと。そして理解した。自分が死んだという事を。そして再生された事を。
過去に一度あった。
また記憶から自分の一部が消える。
再生に伴う魂の欠損。
この少女の影はアリナの魂の欠片なのだと。
「ごめんね。予定より目覚ましが早くて」
ナシナの傍から4つの影が現れる。
「妹が居るの4人……素直な四妹達。これから貴方の身の回りを面倒みてくれるように頼んであるから大丈夫よ」
ナシナの妹達ならアリナの妹達。
空間が闇に染まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『アリナお姉様。ご気分如何でしょうか?』
レイがアリナの傍らで覗き込むような姿勢で尋ねる。
「ああ、おはようレイ。夢を見ていたようだ」
再生処置が終わり浴槽には再生溶液の代わりに湯が満たされていた。
『夢ですか?』
「そうだな……夢と言うより思い出と言った方が正しいかもな」
左腕の調子を伺いながら湯舟から立ち上がるアリナ。
『アリナお姉様、お身体の具合はどうでしょう?』
脱衣所から出たアリナの後ろから気遣うようにレイが問いかける。
「大丈夫だ。しかし、あれ程のダメージを短時間で再生するとは驚きだな」
左手をグッパと動かし答えるアリナ。
椅子に腰かけるアリナのテーブルに暖かそうな飲み物を運ぶレイ。
「今日の探索は終わりだ」
アリナが差し出された飲み物を口にしつつ窓を見る。外の景色は夕暮れ。
食事を済ませ就寝。
◇◆◇◆◇◆◇◆
朝、朝食を終えてセーフハウスを出て探索を開始するアリナ。
「昨日の今日だ、用心に用心だ」
『アリナお姉様、その通りでございます』
一時間後……。
「……すっかり囲まれたなレイ」
『数だけですアリナお姉様。近づくヤツだけご用心ください』
狼と思われる20匹超えている群れに囲まれるアリナ。
体長は3メートル、体高はアリナ目線程の大きさ。体重は150キロあると思われる。
「今までの遭遇した獣と比較してもコイツ等の事を素直に小さいと呼んで良いレベルじゃないな」
前方の狼の一匹が威嚇し、別の狼が音も立てず素早く背後からアリナを襲う。
しかしアリナへの奇襲は失敗。
切断された頭と胴体がアリナの背後に転がる。
それを目の当たりにした他の狼たちは尻込みし後退を始める。
「単純な馬鹿では無いらしいな」アリナが後ろを見る事なく呟く。
アリナの左手に握られた短刀。
10センチ程度の短い刀身が消え光の糸を放つ、先ほど威嚇していた狼の首が地に落ちる。
短刀は指先を振るような仕草だけで刀身をアリナの周囲数十メートルの距離で自在に飛ばす事が出来る。
斬糸をまとい目標を捉える。巻き付けて斬る、また拘束する事もできる。
瞬く間に2匹を瞬殺され距離を取り始める狼達。
『先日の不細工猫と似た攻撃手段が無いと限りません』
「そうだな。……余裕と油断は違うからな」
右手の短銃を構え目標を捉える。
軽い銃声の後、群れの後方に居た2匹の狼が倒れる。アリナの射程内に全ての狼がアリナの手の内にある事が知れた瞬間だ。
「距離を取って様子見か?これでも理解できぬか犬どもが」
悪そうな笑みを浮かべるアリナ。
『流石ですアリナお姉様』
同じような笑みを浮かべアリナを称賛するレイ。
「来るなら殲滅だ!」
アリナが大声で狼に叫ぶ。
狼の群れはアリナから去った。それは蜘蛛の子を散らすかの如く散り散りにそして素早い行動だった。
「ふぅ、これで良し」アリナは短銃と短刀を体に押し付ける。
2つの武器は下級戦闘員服のボディペイントへアイコン化され収納される。
『アリナお姉様はお優しいです』
「無駄に殺生するつもりは無いからな。それにウインナーやハンバーグは十分にある」
『食料は十分……』
討ち取った狼を回収し探索を再開しアリナはレイに問いかける。
「やはりエネルギーの問題が改善されないか?」
『はい、エネルギーが不足気味と言える苦しい現状です』
不安気な表情のレイ。
アクノ粒子。アリナが所属していた組織が主に使っている暗黒物質より抽出しているエネルギーである。
アリナが居るこの世界にはアクノ粒子が無く。暗黒物質より他の素粒子を抽出し変換を行っている。
「改善策は?」
『はい、不足分をアリナお姉様の居るこの世界の暗黒物質を用いてエネルギーを変換しようとミクルが試行錯誤をしておりますが変換率が思わしくありません』
「問題や課題が山盛りだな」
討ち取った獣の回収やセーフハウスや武器もエネルギーを消費して行われる。
無駄な浪費を避けるためにも戦闘も減らすべきだと考えるアリナ。
考え込んでいたアリナの耳に聞きなれない声が入る。
「獣ではないな?」
『はい、複数の会話と思われます』
「以外に近いな。レイ頼むぞ」
アリナがヘッドセットを装着し探知機が機能する。
レイにより誘導ラインが表示されアリナが走る。
百メートル程度を移動した場所で熊と向かい合う集団を見る事が出来た。
少し小高い場所から見下ろすように身を隠し伺うアリナ。
「4人……他に居ないかレイ?」目線は4人へと向けられたままレイに問う。
『はい、他には見受けられません』
「会話の内容が理解できんな」
『現時点では翻訳も不可能です』
「情報と言語収集を欠かすなレイ」
4人はそれぞれ大声で指示しているのだろうアリナのうっかり小声も聞こえいない模様。
◇◆◇◆◇◆◇◆
4人は熊と戦闘を開始した。
鎧姿に盾と短槍を備えた1人が熊の前に出る。
やや後ろを同じ鎧姿で刃長1メートルを超える長剣を持った1人が剣を身構えている。
その10メートル後方に白色ローブの1人と黒色ローブの1人が杖を掲げている。
兜やフードを被っている為に顔は確認できない。
『性別もわからんな、外見は私と変わらないようだが……どう思う?』
念話に切り替えてアリナがレイに尋ねる。
『声からして多分ですが男でしょう。目視では人間と見て間違いないかと』
白色ローブの杖が輝くと熊と睨みあう盾持ちに光を与えた。
その数秒後に熊が前足を振り下ろす。
質量差からみて圧倒的な攻撃を盾持ちが受け止められるとは考えられない光景。
しかし盾役はややすり足で後退するも受け切った。
『……あれは魔法か?』アリナが呟く。
『アリナお姉様、間違いありません。強化系の魔法のようです』
盾持ちの脇をすり抜け長剣持ちが鋭く突きを入れる。
剣は腹部を刺すも剣先が刺さった程度。
引き続き盾持ちが短槍を突き刺す。
黒色ローブの杖が輝き直径50センチほどの火の玉が杖先から放たれる。
火の玉は熊の顔面を直撃し消える事なく燃え続ける。
『あれは堪らんだろうな』
アリナの予想通りに熊はもだえ苦しむ。
『あのサイズの獣だと気道が焼ける前に熱気で肺が焼かれます。そして気道が焼け最後に窒息死でしょう』
レイの言葉通りに熊は数分後に死んだ。
勝ち鬨と思える言葉を張り上げる4人。
アリナはその場を存在を悟られぬように立ち去る。
笑みを浮かべ呟く。
◇◆◇◆◇◆◇◆
距離を取り安全と思わしき所で先の戦闘を検証するアリナ達。
「奴等の装備を見たか?」
『はい、それぞれに金の輪のような模様が描かれておりました』
手にしていた盾や剣、着ていた鎧やローブ、そして杖に至っては先に大きく飾り立てられていた。
「私たちはどうやら英雄戦隊がいる敵地に来ていたという事か、今まで遭遇した獣の戦闘補正を考慮しても訓練地程度だった事が幸いだったな」
『アリナお姉様、まだ相手の施設も規模も確認できません。それに敵と判断する情報も少ないかと』
「……あ、すまん。今の私たちは世界征服を目的にしてはいないのだったな。まぁ、現状は企む程の余裕が無さすぎる惨めな小娘だ」
苦笑いのアリナ。
『悲観する事はありません、アリナお姉様』
「ふふ、その通りだな。魔法……つまりこの世界は(聖剣戦隊)や(魔法少女戦隊)が関係する可能性もありえる世界だ。奴等はクリスタルやオーブから力を得ていた。先の4人はそのようなモノを装備している様子は無かったな?」
『はい、大気中から得ていたと先の観測情報で得ています。この世界の暗黒物質に含まれている可能性も大きいでしょう。その事を考えるとアリナお姉様がおっしゃった先の英雄戦隊に加え(原始戦隊)や(竜撃戦隊)も考慮した方がよろしいかと』
「そうだな。つまり魔法素粒子がこの世界にあるワケだ」
アリナがほくそ笑む。
つづく