ぢごく
「生きてるって素晴らしい」
「タツキちゃんが壊れた!」
「タツキちゃんしっかりして」
「もうツッコミ入れる元気もねぇよ」
あれから俺はぢごくを見た。結局ビキニアーマーは装備させられ、放心してる間にファンタジーの定番、オークの集落に放り込まれた。で、この状況で何が起こると思う?そりゃもう全力で逃げた。捕まりゃ間違いなく18禁のくっころ騎士さんだ。キングが登場した時はさすがにもうダメかと思ったぞ。あれは悪夢以外の何者でもない。想像してみろ?緑色のガチムチが股間膨らませてめちゃくちゃ追いかけてくるんだぞ?完全にトラウマだよ。
他にもスライムの群れに放り込まれたり、触手モンスターと戦わされたり、おぐにセクハラされたりと散々な目にあったが、今こうして生きてることを実感してることに本当に感謝だ。
そのおかげというのは少し、いや、かなり嫌なんだが、この世界での生活にも慣れ始めた。生き物を殺すっていう忌避感は薄くなったし、サバイバル術や、戦闘術、経験、あと本当に嫌だがこのビキニアーマーにも慣れ……いや、やっぱこれだけは慣れねぇ。
とにかくこの世界で生きていける最低限のことは学べたんじゃないだろうか?
「……やりすぎたかな?」
「かなー?」
俺が遠い目をしながらぼーっとしてるのを見た二人の会話が聞こえてくる。まったくもってその通りだ。異世界初心者なんだしもっとこう他にも方法があっただろう?
「そろそろいい時間だし、今日は町へ行って宿で休むか。外で教えたいことと身を守る最低限の力はついただろうし、そろそろ町のことも教えておかないとな」
「いいね。私もそろそろベッドが恋しくなってきたし」
「よっしゃ、決まりだ」
とりあえずこのぢごくの特訓は一段落らしい。正直助かったっていうか超嬉しい。
しかし異世界の町か。どんなところだろうな?それを考えると少しワクワクしてくる。
「たっつん、動けるか?」
「なんとかな。その町っていうのはここからどれくらいあるんだ?」
「聞こえてたのか。こっからそう遠くねぇよ。歩いて一時間ってとこか?」
「そんなものじゃない?」
「よっしゃ、もう一踏ん張りするか」
「そのいきだタツキちゃん」
「その呼び方はやめろっつってんのに。はぁ、まぁいい、正直諦めた。んで、町に行くならもうこの装備じゃなくていいよな?つかこれで人前に出るとか今度こそ俺は冗談抜きで精神的に死ぬ」
「似合うのに」
「じゃあお前が着」
「見たいか?」
「すまん」
勢いで言いだしたが、確かに男のビキニアーマーなんて正しい意味で目の毒だ。しかもこいつ、嫌なのにーとか言いながら本気で着かねない。この話題はここで切るのが吉だな。
「町イコール安全ってわけでもないからな。本当なら装備してたほうがいいんだが」
「それでも僕は守りたい世界があるんだ!」
「ブッ、懐かしいな。なんかのアニメの台詞だっけ?」
「そうそう。和んだところで頼むからこれ以外の格好にしてくれ。頼む」
そう言って俺は頭を下げた。
「面白げふんげふん。お前のためなのに」
「今面白いって言った!やっぱりそれが本音かこのやろう!」
「ユウゴ、本人もああ言ってるし私たちもいるし大丈夫でしょ?本人の意思を尊重しよう?」
「センパイ……」
センパイの優しさが身に染みる。今この劣悪な環境の中にある唯一オアシスみたいな人だ。
「ここで強引に嫌がることを強制したってさらに女の子であることを嫌っちゃうよ。それより本人も認めるような可愛い格好をさせて女の子であることの素晴らしさを教えるの。そうやって女の子も悪くないって思うように導かなきゃ」
「センパイぃぃぃぃぃ!」
うぉぉ、前言撤回、この人が一番油断ならねぇぇ!俺の感動を返してください!
「ヒロ、そういうのは本人の前で言っちゃダメだろ。バレないようにあとで詳しく」
「もう遅ぇよ!」
おぐ、お前もか!
絶対に男に戻ってやるからな!
「まーいっか。よし、ヒロ任せた!」
「任されました!」
「よくねぇ!俺不安しかないんだけど?俺に選択権ねぇの!?」
「ねぇよ!」
「力いっぱい否定すんなぁぁぁぁ!」
ぽん。
魂からツッコミを入れてたら肩を叩かれた。しまったと思ったがもう遅い。恐る恐る振り返れば、多分初めて見ると思う、すっげぇいい笑顔のセンパイがいた。
「はいはい、タツキちゃん、かわいい服もいっぱいあるから安心していいよ」
「今の台詞のどこに安心できる要素があるんですか!?ちょ、外せねぇ!なぜだ?!なんでセンパイこんなに握力あるんですか!?」
アリエナーイ。
「おぐ、たす」
「無理」
「最後まで聞けよ!嫌だ、たーすーけーてぇー」
ドップラー効果で消えていく俺の願いはもちろん叶うことはなかった。
「見て見てユウゴ、タツキちゃんかわいいでしょ」
「ナイスセンス。さすが俺の嫁」
「確かにビキニアーマーよりはいいけど!いいけれど!」
ミニスカは勘弁してほしかった!もちろんパン……下着も脱がされそうになったので履かないっていう選択肢を諦めて自分で履き変えた。これで自尊心だけは死守できたけど、恥ずかしさと足元のスースーする頼りなさで正直落ち着かない。
「清楚系女の子冒険者をイメージしました」
「ふむ。清楚系なのにミニスカというギャップがまたいい。生足最高」
「モウヤダ。普通の服が着たい」
「だーめ。せっかく元がいいんだからオシャレしなきゃもったいないよ」
「うぅ、せめて露出度の低い服を」
「そういや女のオシャレって露出度の高いの多いよな」
「そうやってまた俺の希望を砕くぅぅぅ」
「あ、悪ぃ今のは悪気なかった。まぁ似合ってるしいいじゃん」
「その言い方だとさっきまで悪意があったように聞こえるが?」
こいつ目をそらしやがった!
「冗談だよ冗談。似合ってるのは本当だけど」
「悪質にもほどがある。ったく」
「まあ、準備もできたし町へと向かうか」
「徒歩で行く?それとも転移?」
「ここで着替えたしタツキちゃんの疲れもあるし転移で行こう」
「タツキちゃん言うな」
「転移りょーかい」
俺の願いを華麗にスルーしながらもりひろセンパイは地面に魔法陣を描いていく。俺も半分以上諦めてるのでこれ以上のツッコミは入れずにセンパイの描く魔法陣を見つめる。
転移ってもしかして転移魔法?異世界もののチート能力としては定番だけど、普通にありえないからチートって言うんだよね。しかも転移とか超便利。俄然興味は湧く。
そうこうしてると魔法陣が書き上がる。センパイが杖をクルクル回して地面にトンってつくと、魔法陣は発光しだした。うぉぉ、マンガやゲームみたいだ!テンション上がる!
「行き先はミドリク〜」
「緑区!?」
異世界感台無しだ!テンション下がるやん。
そして俺の反応を見たおぐが笑い転げている。踏み潰してやろうか?スカートだからやらないけど。
「おかしいだろ?俺も最初知った時は同じような反応したもん」
「いや確かに異世界で聞くとは思ってなかった単語だけども!」
「安心しろ。名前だけで中身はちゃんと異世界やってるから」
「まーそれで中身も緑区だったら詐欺だよな」
「あっはっはっはっ。だよな?だよな?」
「はいはーい、お喋りもいいけど早く入っちゃってね。これ割と大変なんだから」
「悪ぃ。行こうぜたっつん」
「おう」
俺はこの先に待っているものにワクワクしつつ、おぐに手を引かれながら魔法陣へと入っていった。