あい(た口)が止まらない
「ユウゴ、色々説明が抜けすぎ。それじゃ私と別れて立木君に告白してるようにしか聞こえないよ?」
「え?」
「え?じゃねーよ。どうやってもそういう風にしか聞こえんかったわ」
そういえばこいつ、変なところで説明を端折る癖があったな。
「ちゃんと説明すると、この世界はほとんどの国が重婚できるの。だから私と別れる必要はないんだ」
あーなるほど、法律的には問題ないのか。日本の、自分の常識で考えてたよ。
……いやちょっと待て。思わず納得しかけたけど、二人だって日本人だろうが。普通は俺と同じように考えないか?
「その、もりひろセンパイはよかったんですか?」
「止めたんだけどねー」
「軽い!なんで許可しちゃったんですか?」
「んー別に今と変わらないかなーって」
「いや変わるでしょう!?その、嫉妬とかしません?」
「多分大丈夫かなーって」
「その自信はどこからくるんですか?」
センパイってこんな人だったっけ?もっとしっかりしてたような。大丈夫か?
「いやさ、好きな人の願いは叶えてあげたくならない?それに立木君が嫁にきても、ユウゴは私を愛してくれるだろうし、私も好きでいてくれるように努力するだろうし」
なるほど、なんだかすごく惚気られてる気もしなくもないが、センパイはおぐのことを信じてるんだな。
「立木君ともうまくやっていけると思うんだよね。一緒に喋ったり、買い物したり、オシャレしたりできたら楽しいだろうなーって」
……あれ?
「センパイ?」
「他にもユウゴのことを愚痴ったり、遊んだりさ。あ、女の子なのに君付けはおかしいよね。これからタツキちゃんって呼んでいい?」
「ストップ、ストーップ!」
センパイノリノリじゃねーか!嫉妬どころかすっげぇ楽しんでるよ!つか本当に止めたのか怪しくなってきたぞ?
「ほら、ヒロもこう言ってるしさ、ここは男らしく潔く俺の嫁になっておけタツキちゃん」
「そうそう、ここまできて駄々こねるのって男らしくないよタツキちゃん」
「どっちを選択しても男らしくなくなってる!?あとおぐ、さりげなくちゃんづけしてんじゃねぇ!センパイもまだいいって言ってませんよ!?」
「いや、なんかすごくしっくりくるから」
「ねぇ?」
「これ絶対これからそう呼ばれるヤツやん、チクショウめぇぇぇぇ!」
俺は頭を抱えながらその場で崩れ落ちた。
頼むから誰か二人を止めてくれ。
「じゃあその話は解決したってことで」
「まだ何も解決してないんだけど?」
「次はこの世界で生きていくための実力をつけて貰わないとね」
「俺の心の叫びが華麗にスルーされた!?」
「いや、どうしたってしばらくはその姿で生活してもらうことになるし」
「理解はしてるけどまだ覚悟できてねぇのに」
「まあユウゴだけじゃなくて私もフォローするから。ね?」
うぅ、今の俺には覚悟を決める時間すらもないのか。センパイの優しさが心にしみる。おぐがすっげぇ悪そうな顔でニヤニヤしてるのは無視だ無視。絶対ろくなこと考えてないだろうからな。
とりあえず現状、この問題が解決できないのなら頭を切り替えていかないといけない。他にも考えないといけないことは多いし、特に今出た話題は命に関わる。
「センパイ、ありがとうございます。とりあえず頭は切り替えます。俺だって死にたくありませんので」
「その切り替えの速さはさすがユウゴの親友だね」
「おう。俺だってせっかく会えた親友が(自主規制)や(自主規制)された挙句に(自主規制)で殺されるなんて嫌だからな。何が何でも力をつけてもらうし、生き延びてもらうぞ」
「うぇぇ、お前なんつー想像してんだよ。ちょっと想像しただろうが」
「これが冗談じゃすまない世界だからねー」
「こいつは少し脅すぐらいしないと、なぜそこで!?っつー妙なとこでミスしたり巻き込まれたりするし、しっかりしてるようにみせて妙な所がノーガードだったりするしな」
「くそぅ、それに関しては否定できねぇ。悔しいが助言はありがたく受け取るよ」
「お?えらく素直だな。昔同じこと言った時はすげえ否定してキレたくせに」
「ふふん。俺だって成長するのだよ。もっと褒めていいんだぜ?」
ドヤァ!
「タツキちゃんタツキちゃん」
「うぅ、センパイ本当にその呼び方にするんですね。何ですか?」
「その格好はおムネを強調してるって気づいてる?」
「ぅわっほぅ、なんてこったい」
慌てて胸を抱えて座り込む。思いもがけず変な声が出たぞ。やべ、なんて言うかこれ結構ハズい。
「いやー眼福眼福」
この野郎、しっかり見てやがったな?
「このエロガッパ!」
「しょうがねぇよ。俺男だから」
「気持ちはわかるが今言われると腹がたつわ!うぅ、まさか見られる側の気持ちがわかる日がくるとは思わなかったぞ」
「それだけ魅力があるって事だから自信持っていいよ」
「あ、ありがとうございますセンパイ」
魅力があると言われるとまんざらでもない自分がいる。
「だから今のうちにユウゴで慣れておくといいよ。これからはそういうエロい見方をされることも増えるだろうしね」
「それは嫌だぁぁぁぁぁ!」
全身にトリハダがたつ。センパイのあげて落とす方法がエグい。
にしてもまた一つ覚悟が増えた。性別が変わるっていうのは想像してるよりも苦労が多そうだ。
「お前そんなんじゃこの先絶対苦労するぞ?」
「今ちょうどそう思って軽く絶望したところだ」
「しょうがねぇな。そっちもなんとかしてやるよ」
「大きく出たな。もし本当にそんなことができるなら助かる。が、どうやって?」
「特訓だな」
「特訓か」
特訓と聞いて少しテンションが上がる。実はこいつとは遊び半分でいろんな特訓をした。で、これが結構バカにできない。遊び半分だから楽しいうえに、これでできるようになったことは結構多い。変に説明を端折るから理解するのに苦労するが、できるようになった時に納得することもたくさんある。
で、総合すると割と楽しいうえに本当になんとかなる可能性が高いわけだ。やる気も出るってもんだ。
「生きてく力をつけるのと並行してやるから覚悟しろよ?」
「おう、やってやるぜ。んで、俺は何をすればいい?」
「よし、言質は取った!」
「は?」
途端、俺の第六感とでもいうのだろうか、嫌な予感がして胸騒がする。
おぐはたぶん道具袋であろう袋を漁る。そして
「まずはこいつを装備だ」
おぐが出した装備を見た瞬間に俺はその場から逃げ出した。
「どこに行くの?」
そんな俺の超反応速度を余裕で超えてもりひろセンパイに逃げ道を塞がれる。俺の脳内アナウンスが「しかし回り込まれてしまった!」と告げる。
「センパイそこどいてください!」
「今の状態で単独行動させられないよ。死にたいの?」
「このままじゃ俺の心が死にます!」
「そんな大げさな」
「大げさなんかじゃなヒィっ!」
話の途中に肩を掴まれた。俺はこの世の終わりがきたような心境で振り返れば、そこにはおぐがすげぇいい笑顔で例の装備を持っていた。
「おいおい、なにいきなり逃げ出してんだよ。さっきまでの勢いはどうした?」
「バカ野郎!そんなん見せられたら逃げるに決まってんだろうが!」
おぐが出した装備、それは世に言うビキニアーマーというやつだった。こんなん装備させられた日には俺の精神は間違いなく死ぬ。
「特訓なんだからこういうのに慣れなきゃ意味ねーだろ?それにこれ、すごく性能がいいんだぞ?」
ファンタジーで出てくる、守る場所が少ないはずのこの手の装備って、防御が高かったり性能が高いヤツが多いのはなぜだ!趣味か!?いや俺も好きだがそれは見る側であって着る側じゃない。
「防御が高かろうが性能が良かろうがそれはない!絶対にない!」
「ワガママ言うな。お前のためだ。特訓の意味でも安全の意味でもこいつがベストなんだよ」
「お前絶対楽しんでるだろ!?」
「ソンナコトナイヨ」
「カタコトじゃねぇか!ベストじゃなくていい!ベターでいいから頼む!それだけはやめてくれ!」
「きっと似合うよタツキちゃん」
「じゃあセンパイ着てくださいよ!」
「絶対嫌」
「全力で否定するものを俺に押しつけないでください!」
「俺も許さぬ。ヒロのそういう姿を見ていいのは俺だけだ」
「ユウゴ……」
何カッコつけてんだ!俺はいいのか俺は!だが二人が自分たちだけの世界を作っている今がチャンスだ。そーっとそーっと、って掴まれた肩が外れねぇ!
「逃がさん。お前だけは」
「どこのゲームのラスボスだお前は!HA☆NA☆SE」
もうやめて。俺の精神ライフはとっくにゼロよ。
「諦めろ」
「諦めて」
「諦めるものかぁ!それを着せていいのは着る覚悟のあるヤツだけだ!」
しかし俺の抵抗も虚しく、両方から掴まれた俺にもう逃げ場はない。
「いーやーだぁぁぁぁぁ!やめろショ◯カー!」
俺は盛大に後悔しながら、青空に悲鳴がこだました。